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宇宙人1/2-
「やっと海だー!!」
二人で海に着いた。
男二人で海に行くなんて…まるでナンパにでも行くようだが、オレの目的はちょっと違う。
「よし!あのブイの所まで競争だ!」
「本気か?」
「本気だとも!勉強では負けたが、こっちでは負けないぞ!」
負けず嫌いに火がついたらしい。
二人で、腰のあたりまで海水につかったところで
「スタート!!」
無我夢中で手足を動かし波を切る。
こう見えても、多少泳ぎには自信があるんだ。
ところが、隣を泳ぐ春人は、ゆったり力を抜いて泳いでいるように見える。
まだ余裕がありそうだ。
そして、ぐんぐん追い越されていく。
広い背中が前を行く。
「くそ!負けるか!」
手足を動かそうとした。
だが、動かない。
「へ?」
足に何かが…。
先に泳いでいた春人が、こちらに向かって泳いできている。
「春人?!」
目の前から突然、春人が消えた。
…のではなくて、オレが海中に引きずり込まれたのだ。
グハッ!グハッ!
自分の息が泡になって舞い散っている。
く、苦しい。
一体、何が起こったのか?!
とっさに海中の奥を見ると、光るものが2つ。
自分の目を信じたくなかったが…間違いなくそれは巨大タコだった。
タコの足がオレの足に絡み付いているのだ。
どうして?!
ズォォォォ!
突然タコが苦しそうにもがいた。
よく見ると、春人がタコを両腕で締め上げているのが見えた。
タコの足が離れた。
オレは海上へ逃れた。
プハッ!海の上で大きく息を吸って、鼻をつまんで海中に顔をつけると、春人がタコを海中に沈めている様が見て取れた。
どうも絞め殺したらしい。
さすが、水生生物宇宙人ハーフだ。
・・・
あれは、どう考えても地球の生物ではなかった。
「・・・」
春人がプイッと横を向く。
夕陽が海を赤く染めている。
オレたちは二人で砂浜に座り、海を眺めていた。
さしずめ男女だったら、ツンデレと激鈍のカップルのような影を作りながら。
「おまえが宇宙人で誰かに狙われてても、オレはかまわないよ。一緒にいるって約束したもん」
「・・・・すまない」
「春人」
思いがけない言葉に振り向くと、妙に嬉しそうな顔をしている春人がいた。
突然、春人が頭を掴んで乱暴に揺すったので、
「な、なにすんだ!」と叫ぶと「なんでもねぇよ!」と奴が笑った。
あの…出会った日。
オレの顔面を掴んだ手が、今では妙に心地よく感じるのはなんでだろう。
「ただいま」
オレが帰宅すると母さんが出迎えた。
「智恵、大丈夫だった?」
「何が?」
「遠出してたみたいだから」
「オレもう16だし。ちょっとくらい遠くにいったって」
「ごめんなさい。でも父さんが事故で死んでから不安なのよ」
「…大丈夫だよ」
どういうわけか青い顔色をした母親をたしなめて、オレは風呂に入った。
そういえば、春人のお父さんはどんな形をしているんだろう?
聞いていなかった。今度聞こう。
・・・
翌朝、学校に行こうとすると途中の道で春人にあった。
「おまえの家、こっちじゃないだろう」
「どこから学校に行こうと、オレの勝手だろ」
「…不純異性交遊はいけないと思う」
続いて、春人の笑い声が聞こえた。
「まさか、可愛い智恵ちゃんを置いて、そんな事はしませんよ!」
「ま、またそんな事言って!名前の事でからかうなって言っただろ!」
女みたいな名前で、しかも頭が悪いのに智恵だなんて…。
オレが春人を睨みつけると、こともあろうに春人はまったく別の方向を見て、こう言った。
「頭が悪くて、可愛くて、本当にお似合いだよな。智恵ちゃん」
「な、なんだと~!」
「ほらほら、早く行かないと、追試の上に遅刻までしちゃ進級にかかわるだろ!」
「むぅ~、おまえなんかもう知らないからな!」
不純異性交遊の上に、人の名前までまた馬鹿にして…。
オレは、一人で学校への道を急いだ。
・・・
「どこまでも世話かけんじゃねぇよ・・・」
電信柱の影から奇妙な生物が現れた。手足が8本。
透明に透き通って光を放っている様は、まるで深海の生物のようだ。
「ググゲゲ……」
生き物が唸る。
春人の背後で小さな爆発が起こった。
「おーい、渡辺。風見春人を知らないか?」
1時限目の終わりに隣のクラスの担任が尋ねてきた。
「どうしてですか?」
「あいつまだ登校してきてないんだ。たしかに風見は行動に問題はあるが…。
だからこそ、何かあったんじゃないかと。おまえら友達だろ?なら知ってるんじゃないか?」
「知りませんよ。あいつの事なんか」
友達になってからも素行と性格の悪さは変わらない。
どうしてオレが春人の事、しかも不純異性交遊について、こんなにイライラしないといけないんだろう。
海岸で見たあいつの笑顔が綺麗だったのを思い出し、急に顔が熱くなった。
「おい、どうした渡辺、熱でもあるのか??」
「な、なんでもありません!!」
「大方、不純異性交遊の相手でも思い浮かべているんじゃないんですか~」
「風見!」
「春人!」
春人が廊下に立っていた。
…が、ブレザーの片腕が引きちぎられて、腕を押さえていた。
「どうしたんだ!まさか、女の恨みでも買ったのか?…それとも、宇宙…」
そこで、春人の手がオレの口を塞いだ。
「先生悪いけど、保健室借りますよ」
「あ、ああ・・」
呆然とする担任を置き去りにし、風見は保健室に歩いていった。
オレも付いて行く。
保健の先生は、今日たしか休みだ。
「おまえ進級危ないんだろう。こっちくるな」
「大丈夫だ。ちゃんと理由は言うから。おまえほど素行に問題がない分、信用してもらえるさ」
「何言ってんだ。馬鹿が・・」
悪態をつきながらも、腕をきつく押さえているところ…かなり深手を負っているらしい。
「大丈夫か?見せてみろよ」
「・・・・っ」
春人が傷口から手を離すと、血が噴出した。
「酷い!病院行かないとダメだ」
「いや、大丈夫だ」
そう言うと、春人は鞄の中からチューブ状の接着剤のようなものを取り出すと、傷口に塗り付けた。
「なんだよ、それ?宇宙人用の傷薬か?」
「ま、まぁそんなもんだ」
それを塗った後で、傷口をきつく押さえると瞬く間に傷口が塞がった。
「すごいな…」
「フン…」
よく見ると、春人の腕には他にも無数の傷痕があった。
「昔から狙われてたのか?」
「まぁ…荒れた生活してたからな」
「・・・」
「よく考えると、オレっておまえの友達なのに、おまえの事あんまり知らない」
「友達でもあまり深く踏み込まれたくないところもあるだろ」
「ああ、まぁそうだけれど…でも、おまえが宇宙人だって教えてくれたの嬉しかったよ」
「そ、そうか…」
こころなしか春人の身体が熱を持っている気がする。
「大変だ、傷口からばい菌が入ったのかもしれない。消毒しないとっ!」
「…おまえ・・・・やっぱり馬鹿だろう」
頭を抱える春人の腕を取り、オレは消毒をはじめた。
「見た目は塞がっているように見えるけどな、地球には恐ろしい菌がたくさんいるから、消毒しないとダメだ」
「…」
「それと、もうオレの名前を馬鹿にするなよ」
「わかった」
「なぁ、智恵」
「ん?」
腕に包帯を巻いてやりながら見上げると、春人が困ったような複雑な表情をしていた。
「なんだよ」
「…たとえ、オレが狙われてても一緒にいてくれるか?」
「ふふ・・・前にもそう言ったじゃないか。オレはおまえが何者だろうとそばにいるよ」
頭上で、春人が一息ついているのを感じた。
・・・
その日、不思議な夢を見た。
水の中だ。
春人のお父さんは、きっとこういう所に棲んでいるに違いない。
もっと奥に行きたい。
あの奥にきっと大切なものがあるから…。
どうしてこんなふうに感じるのかわからない。
あそこまで一歩で手が届く…。
「!」
何者かがオレを後ろに引っ張る。
振り返ると、そこには春人がいた。
「おまえのお父さんって、どんな姿してんだ?」
「知らねぇな」
「気にならないのか?」
「・・・別に」
春人の“宇宙人父”に対する反応はクールなものだ。
もしかしたら、どういうふうに対応していいものかわからないだけかもしれない。
ここところ毎朝、春人に出会う。
そして、放課後も共に過ごしている。
別に嫌ではないが、どことなく不思議な気持ちだ。
春人も不安なのだ。
彼の母親は遅くまで帰ってこないらしいし。
その上、狙われているとくれば心細くなるのも当然だ。
「オレは、おまえとずっと一緒にいるからな」
そう言うと、春人は安心したような顔をする。
「ただいま」
いつも通りに帰宅すると、母さんがまた駆け寄ってきた。
「遅いけど何かあったの?」
「別に…友達と一緒にいただけだよ」
「そう・・」
「べ、別に隠し事なんてしてないよ。母さん」
「わかっているわよ」
そして、母はぽつりと呟いた。
「もうじき、おまえが生まれて17年がたつのね…早いものだわ」
「ねぇ、オレの父さんって、どんな人だった?」
「え?」
母は驚いたような声をあげた。
そういえば、オレは父さんの話をあまり聞いた事がない。
「そ、そうねぇ、とても理知的な印象だった。…北海道の湖に行った時に出会ったのよ」
「かっこよかった?」
「そうね。素敵だったわ…」
どうやら、オレは頭のほうは父に似なかったらしい。
そして、春人の事を考えた。
あいつのお父さん、姿はイカかタコみたいだろうけど、きっと頭はいいに違いない。
あいつの頭が父親似ならば。
それにしても、あいつ一人で大丈夫だろうか。
一人、部屋で何やってるんだろう。
いくら運動神経がいいとはいえ、ああ年中狙われてちゃ神経が参ってしまうだろうに。
今度、うちに呼んで一緒に食事でもしよう。
あいつ、好きなものなんだっけ?そういえば、学祭の時に綿菓子食べて感動してたな…。
「コットンキャンディー」とか言って。
その時、初めて綿菓子を意味する英語を知ったんだった。
あいつ英語の成績もよかった…。
でも、うちじゃ綿菓子作れないな…。
なんだか、春人の事ばかり考えてる。
もし、あいつが今度危ない目に会いそうになったら、オレも助太刀しよう。
足手まといかもしれないが、いないよりはましだろう…。
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