学校帰りは、いつも公園の前で別れる。
「じゃあな」
「ああ・・・あれ?」
公園に屋台が出ている。
「珍しいな。ちょっと待ってろ、綿菓子買ってきてやるから!」
「え、ええ!いいって!」
思いの外、慌てふためく春人を置いて、オレは綿菓子を2つ買ってきてやった。
「おまえ、これ好きだろ!」
「い、いや、べつに」
「誤魔化さなくたっていいって!そこのブランコで食べよう」
春人の手を無理やりひっぱって、ブランコに座った。
「これ、様にならないだろ…」
とか言いながらも、綿菓子を手でちぎって食べているところは、やはり食べたかったのだ。
「今度さ、オレんち来いよ。夜遅くまでおまえ一人じゃいろいろ大変だろ!」
「え、ああ…」
どこかぎこちなく答える春人に、オレは「気にするなよ!」と言った。
「ところで、おまえの母親は、おまえに何か言っていないか?」
「え?別に…最近少し心配しすぎだけどさ」
「・・・そうか」
いつの間にか、公園からは子供の姿は見えなくなり、屋台も引き払ってしまっていた。
ぼぉっとランプがついて、その周りを虫が飛んでいる。
「もしさ」
突然、春人が口を開いた。
「オレがおまえを騙している凶悪な宇宙人だったらどうする?」
「…そんなわけないだろ」
「どうして、そう思える?」
「だって、おまえは風見春人じゃないか。おまえがオレを騙すわけないよ」
「・・・・そんなに信用するなよ」
綿菓子はもう食べ終わってしまった。
割り箸が手に余る感じだ。
「どうして、そんな事…」
「・・・智恵」
「はは、たとえおまえがオレを騙してても…オレはいいよ。きっとおまえの事だ。
なにか理由があるんだろう」
「どうして、それを最初に言ってくれなかったんだよ…」
「へ?」
しばらく春人は両手で額を抱えていた。
また、オレの発言に呆れかえっているのだろう。
その割には表情に苦渋が滲んでいた。
「…どこまで馬鹿なんだ」
呟いた言葉が呆れている証拠だ。
ザクザクっと砂場の上を歩いて来る足音が聞こえる。
通りすがりのおじさんらしい。
「!」
突然、春人が顔を上げたので、オレも驚いてそちらを見た。
砂場におじさんが一人立っていた。
否!
深くかぶった帽子から覗く顔は人間のものじゃなかった。
真っ赤な皮膚に、黄色い瞳。
そいつは、ジャリジャリと音をたてながらこちらに歩いてきた。
恐い・・恐怖で身がすくむとはこういう事を言うのか…。
まるで特撮の怪人が本当に目の前に現れたみたいで。
いや、本当に目の前にいるのだ!
「油断大敵だな、SSG…」
なんと、そいつは日本語を話した。
「・・・!!」
春人が割り箸を頬リ投げて、変わりに大型のナイフを目にも留まらぬスピードで構えた。
「この前は、わが子をよくも…」
「うるせぇよ、黄昏の一族にわが子もないだろう!」
「言わせておけば…」
グフフフ…
だが、突然その怪物は笑い出した。
「だが、そこにいるスキュラ族の者の脳髄を食せば、我が一族はより強力に復活を遂げるのだ!!」
「こいつは渡せないな、SSGの名にかけて!」
「?」
二人が何の会話をしているのかわからない。
たぶん宇宙関係の事なんだろう。
すると、オレの隣に黒ずくめの二人組みが現れた。
音もなく…スッとオレの横に立つ。
「この者は我々が保護します」
「おまえたちは出てくるなといったはずだ!」
鋭い声。
そこにいるのは、オレの知っている高校生風見春人ではなく、何か別の人物のようだった。
「しかしっ…」
「SSGが3人とは…こちらの分が悪い…。いったん引く事にするか」
そういうと、奴は素早く姿を消した。
「追え!」
「はっ!」
黒ずくめの男達も素早く消え去った。
「なんだよ…」
オレは割り箸を持ったまま、呆然と立ち尽くしていた。
宇宙人同士の抗争は、組織だっているものなのか。
それとも、オレの知らない何かが起きようとしているのか。
「春人…あんなに恐そうなのと戦っているのか?」
「…」
「オレは、おまえが何者でもそばにいるからな!」
「…」
「何とか言えよ!」
「おまえがオレのそばにいるのは、友人だからだろう。
だが、オレがおまえのそばにいるのは…それがオレの仕事だからだ」
「な、なんだよ。それ?」
「オレは、もう、おまえのそばにはいられない」
「え?!」
「この事をおまえも早く忘れろ。普通に生活したいんだったら…」
大型ナイフを鞄にしまって、春人はしばらく黙っていた。
「じゃあな」
「よくわからない!説明しろよ!ちゃんと」
さっきの奴らみたいに、春人が消えた。
綿菓子の割り箸だけが残っている。
「どうなっているんだよー!!」
叫び声は星空に消え去った。
「まったく、おまえのせいで不名誉になることが多すぎる!」
学校に休学届けを出した春人だが、2週間休んだだけで、結局は戻ってきた。
だが、その間の宿題とかテストとかでしばらく追われていたらしい。
「素行の悪さも手伝ってダブりそうだったんだろ!それは自業自得だろうが」
あれ以来、オレの不思議な能力は消えてしまった。
どうも危機的状況がないと発動しないらしい。
「それはおまえも同じだろ。おまえの場合は素行じゃなくて成績でだが…」
あの蟹おとこは、いわゆる絶滅寸前の一族の宇宙人で、不思議な力を持つスキュラ族の脳髄を食べれば、自分ひとりでも子孫を増やして、一族を再興できると考えてたらしい。
(雌雄同体なので可能だそうだ)
ちなみに、スキュラ族ってのは宇宙人の中でも特に有名な高い知能の一族だという。
たまにこういう例外もいるわけだが…。
春人曰く
「初め、おまえのガードを依頼された時は、頭のいい奴だと聞いていたから、警戒した」
との事だ。
だから、入学式の日に冗談を言ったら…ああいう結果になったそうで。
「なめられてたまるかと思っていたら、案の定、おまえは本当の馬鹿だったわけだ」
そして、SSGとは某国にある国際的秘密機関で地球に来ている宇宙人同士の抗争を止めたり、狙われている宇宙人を保護する機関らしい。
…だから、春人も英語の成績がよかったわけだ。
それと、春人のお母さんなる人物は架空らしく、本当は一人暮らしらしい。
春人はそれ以上、自分の事は話してくれなかった。
話したくない事だってあるのだろう。
オレもそれ以上は聞く気もなかった。
ただ、春人がそばいてくれれば、それ以上は望まない。
ところで、当面状の危機は去ったわけだが、SSGはまだ春人にオレのガードをさせるつもりらしい。
「そういえば、今度うち来るって言ってたよな。綿菓子作れるおもちゃ買って待ってるからさ」
「ちっ…」
そうやって春人が気まずい顔をするのを見るのが好きだ。
「そろそろ、本部はオレを召集しないのか?こんな馬鹿の子守はもうこりごりだぜ」
「何言ってんだ。約束しただろ。たとえオレが馬鹿な地球人でも守ってくれるって」
「あ、あれは言い間違えだ!こんな馬鹿は付き合いきれないと言おうとして…」
あの夏の日も、海岸に映った影を見てこいつがツンデレに見えるって思ったんだっけ。
あの日よりも、もっと身近になった手を引っ張ってオレは叫んだ。
「さぁ!綿菓子を食べに行くぞ!!」
| END |
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