- 宇宙人1/2-

学校帰りは、いつも公園の前で別れる。

「じゃあな」
「ああ・・・あれ?」
公園に屋台が出ている。

「珍しいな。ちょっと待ってろ、綿菓子買ってきてやるから!」
「え、ええ!いいって!」
思いの外、慌てふためく春人を置いて、オレは綿菓子を2つ買ってきてやった。

「おまえ、これ好きだろ!」
「い、いや、べつに」
「誤魔化さなくたっていいって!そこのブランコで食べよう」

春人の手を無理やりひっぱって、ブランコに座った。

「これ、様にならないだろ…」
とか言いながらも、綿菓子を手でちぎって食べているところは、やはり食べたかったのだ。
「今度さ、オレんち来いよ。夜遅くまでおまえ一人じゃいろいろ大変だろ!」
「え、ああ…」

どこかぎこちなく答える春人に、オレは「気にするなよ!」と言った。

「ところで、おまえの母親は、おまえに何か言っていないか?」
「え?別に…最近少し心配しすぎだけどさ」
「・・・そうか」

いつの間にか、公園からは子供の姿は見えなくなり、屋台も引き払ってしまっていた。
ぼぉっとランプがついて、その周りを虫が飛んでいる。

「もしさ」
突然、春人が口を開いた。
「オレがおまえを騙している凶悪な宇宙人だったらどうする?」
「…そんなわけないだろ」
「どうして、そう思える?」
「だって、おまえは風見春人じゃないか。おまえがオレを騙すわけないよ」
「・・・・そんなに信用するなよ」

綿菓子はもう食べ終わってしまった。
割り箸が手に余る感じだ。

「どうして、そんな事…」
「・・・智恵」
「はは、たとえおまえがオレを騙してても…オレはいいよ。きっとおまえの事だ。
なにか理由があるんだろう」
「どうして、それを最初に言ってくれなかったんだよ…」
「へ?」

しばらく春人は両手で額を抱えていた。
また、オレの発言に呆れかえっているのだろう。
その割には表情に苦渋が滲んでいた。

「…どこまで馬鹿なんだ」

呟いた言葉が呆れている証拠だ。



ザクザクっと砂場の上を歩いて来る足音が聞こえる。
通りすがりのおじさんらしい。

「!」
突然、春人が顔を上げたので、オレも驚いてそちらを見た。

砂場におじさんが一人立っていた。
否!
深くかぶった帽子から覗く顔は人間のものじゃなかった。
真っ赤な皮膚に、黄色い瞳。

そいつは、ジャリジャリと音をたてながらこちらに歩いてきた。

恐い・・恐怖で身がすくむとはこういう事を言うのか…。

まるで特撮の怪人が本当に目の前に現れたみたいで。
いや、本当に目の前にいるのだ!

「油断大敵だな、SSG…」
なんと、そいつは日本語を話した。

「・・・!!」
春人が割り箸を頬リ投げて、変わりに大型のナイフを目にも留まらぬスピードで構えた。
「この前は、わが子をよくも…」
「うるせぇよ、黄昏の一族にわが子もないだろう!」
「言わせておけば…」

グフフフ…
だが、突然その怪物は笑い出した。
「だが、そこにいるスキュラ族の者の脳髄を食せば、我が一族はより強力に復活を遂げるのだ!!」
「こいつは渡せないな、SSGの名にかけて!」

「?」

二人が何の会話をしているのかわからない。
たぶん宇宙関係の事なんだろう。

すると、オレの隣に黒ずくめの二人組みが現れた。
音もなく…スッとオレの横に立つ。

「この者は我々が保護します」
「おまえたちは出てくるなといったはずだ!」

鋭い声。
そこにいるのは、オレの知っている高校生風見春人ではなく、何か別の人物のようだった。

「しかしっ…」
「SSGが3人とは…こちらの分が悪い…。いったん引く事にするか」
そういうと、奴は素早く姿を消した。

「追え!」
「はっ!」

黒ずくめの男達も素早く消え去った。




「なんだよ…」
オレは割り箸を持ったまま、呆然と立ち尽くしていた。
宇宙人同士の抗争は、組織だっているものなのか。
それとも、オレの知らない何かが起きようとしているのか。

「春人…あんなに恐そうなのと戦っているのか?」
「…」
「オレは、おまえが何者でもそばにいるからな!」
「…」
「何とか言えよ!」
「おまえがオレのそばにいるのは、友人だからだろう。
だが、オレがおまえのそばにいるのは…それがオレの仕事だからだ」
「な、なんだよ。それ?」
「オレは、もう、おまえのそばにはいられない」
「え?!」
「この事をおまえも早く忘れろ。普通に生活したいんだったら…」

大型ナイフを鞄にしまって、春人はしばらく黙っていた。

「じゃあな」
「よくわからない!説明しろよ!ちゃんと」

さっきの奴らみたいに、春人が消えた。
綿菓子の割り箸だけが残っている。


「どうなっているんだよー!!」


叫び声は星空に消え去った。




オレの前から、風見春人が消えて1週間がたつ。
学校には休学届けが出されていたらしい。

人を小馬鹿にしているような笑い声。
生意気な口調。

一週間も聞いていないと、おかしくなりそうだ。

あいつと、夕食を食べるつもりだったのに…。

あいつが宇宙人だと発言してから、何もかも変わってしまった。

それに、あいつが言った言葉。
「おまえがオレといるのは、友人だから。オレがおまえといるのは仕事だから」
が焼きついて離れない。

出会ってから数日後に、オレたちは形ばかりの友人関係になった。
だが、一緒にいるうちに本当の友達になれたものだと思っていた。

あいつの中では、オレは形ばかりの友人だったのだろうか。

それにしても…今どこで何をしているんだろう。
あの恐い宇宙人に追われて…。
たとえ、あいつがオレを形ばかりの友人だと思っていたとしても、かまわない。
あいつの無事が知りたい。


ところが、学校の帰り道。

誰もいない道の途中から、以前見た黒ずくめの男が現われた。
苦しそうに息をしている。

「ガハッ!ガハッ!」
「おい、どうしたんだ!」
「に、にげ…」
「春人は?風見春人は?!」

「ぐへっ」
突如、血反吐をはき、そいつはこちらに倒れてきた。
「お、おい…」

そして、後ろから例の怪物が現れた。

「あ、ああ・・・」
「フフフ・・これはこれは、うまく餌がかかったようだ。スキュラ族の坊や」
「?!」

そいつのマントに包まれた途端、オレは気を失った。


・・・


ここはどこだ?
とても懐かしい感じがする。

いうならば、母の胎内のような…。
目の前が歪んで見える。
ここは水の中か?


「不思議な力をもつというスキュラ族の脳髄を食せば、オレの力は増し、一族を蘇らせる事もできる…」
水の下のほうで、あの怪物が包丁を研いでいるのがぼぉっと見える。

そうか、今のオレは水槽に入れられて水中を漂っている状態なのだ。
なのに、まったく苦しくない。

「スキュラ族の生き残り…見つけ出すのが大変だったぜ。覚醒するまでの17年間はまったく気配をださねぇからな」

…覚醒?

「そうさ、だからオレも苦労したってわけだ」
「…貴様、SSG。どうやってここを探り当てた」

…春人…。

「なめてもらったちゃ困る。SSGの隊員は自分の仕事だけは全うするもんなんだよ!
しかし、まったくこんな馬鹿を助けなきゃならないのは、一苦労だぜ」
「フン、スキュラ族の坊や。SSGの隊員が救出にしに来てくれたとさ。だが、望みは捨てな!
こいつがオレに殺されるところを見ているがいい」

SSGってなんだ?
春人がその隊員なのか?
それとスキュラ族って?

「しかし、やはりなりは地球人でも、純水に住まうスキュラ族の末裔よ。純度の高い水の中で意識を持ってやがる」

スキュラ族って水生生物なのか?
それって、春人の親父さんだよな?
あれ?でも水槽入れられてるのオレだし・・。

「そうさな、高い知能を持つと言われているスキュラ族。おまえらも喉から手が出るほどほしいだろうが」
怪物がそう言うと、春人はフッと笑った。
「は!初めはオレも期待したけれどな。そいつはただの馬鹿だぜ。そんな奴の脳髄食ったら、こっちまで馬鹿が移っちまう!」
「なんだと!!!」
叫んだら、水中なのにも関わらず声が出た。

「なんだ、参ったのかと思ってたら、元気そうじゃねぇか。まぁ、なんとかは風邪ひかないって言うからな」
余裕そうにそう言いながら、春人は大型ナイフを取り出した。

「さぁ、怪物野郎。智恵を返してもらうぞ!」
「生意気な人間め!」

怪物がいよいよ本性を表す。

服が引き千切れ、中から現れたのは蟹に似た甲羅の身体。

「蟹おとこだ…」

春人がナイフで切りかかるも、蟹おとこはその硬い甲羅で攻撃を全て防いでいる。

「くそ!このガラス割れろよ!」
オレも助太刀に行きたい!
こんな間抜けな格好で、水槽に閉じ込められているなんてまっぴらだ。
ところが、何度内側から蹴り飛ばしても、拳を当ててもガラス面はびくともしない。

そのうちにも戦闘は進行していた。

蟹おとこの鋏の一撃が、春人にHITする。
「ぐっ!」
バキッ!
同時にナイフが音をたてて折れた。

「ぐあっ!!」

春人がぶっ飛ばされて、壁に身体を強打した。

「春人!!」
助けに行かないと!

「SSG、大口叩くわりに大した事ないな・・」
「ケッ、こう見えても新人なんでね。おまえみたいな最弱の敵があてがわれたわけだ」
「なにをぉ!!」
蟹おとこが鋏を振り上げた。

「危ない!」

春人の両手が奴の鋏を受け止めた。
そして、両手に力をこめた。
「が・・・だぁぁぁあ!!」
グシャ!!
「ぎゃーーー!!」

春人の両手が蟹おとこの硬い鋏の手を握りつぶした。

「や、やった・・・」

そう思ったが、春人の手が血まみれだった。
鋏についていた棘棘で手を傷つけたらしい。

「は…!!難易度Aの任務か…嘘っぱちこきやがって…これじゃ難易度C+だ」
そう言いながら、春人は折れたナイフをもう一度握りなおした。

「グフフ・・・そうだろう。そうだろう・・」
苦しそうに泡を吹きながら、蟹おとこが残ったもう片方の鋏を構える。
「SSGの若造には重すぎたか?」

すると、春人が怒鳴った。
「バカヤロウ!貴様なんぞ、難易度Aにも入るわけないだろう!難易度C+はあいつだ!!」

え、オレ?

同時に、春人は叫んだ。

「出口は上だ!」

え?
よく見ると水槽の上部にフタがある。
あ、ここから出ればいいんだ…。

「よかった。これでおまえを助けられるぞ!」

ところがオレが水槽から出て、見た光景は…。

折れたナイフで力任せに蟹おとこの首を掻っ切っている春人と
その春人に鋏を突き立てている蟹おとこの姿。

「春人!」

オレは水槽から飛び降り、春人のもとへ駆け寄った。

蟹おとこは、すでに事切れていた。

「春人!!いますぐ誰か…呼ぶから…」
「待てよ…こんないいシーンに余計な奴を巻き込みたくない」
「何言ってんだ…」

春人を支えるオレの手の中が血でいっぱいになって、溢れる。
「こ・・こんな馬鹿な宇宙人ハーフ助けなくっても、優秀な地球人が生き残った方がいいじゃないか!」

オレは、もうわかっていた。
昔、湖で水生宇宙人と恋に落ちたのはオレの母親で、オレは宇宙人ハーフだって。
たぶん、春人はSSGという宇宙人を保護する組織の一員で、だからオレと一緒にいたって。

「おまえのいう事はもっともだが、しっかしこれがオレの仕事なんでね。何が何でもおまえを助けないと地球存亡の危機になるとこだったんだ」

そこまで言うと春人は苦しそうに息を吐いた。

「なら、はじめっからオレをどこかに閉じ込めておけばよかっただろう。それに、こういう事を言っておけば」
「…おまえ本当に馬鹿だなぁ。…おまえみたいな馬鹿がそんな事突然聞いたら、パニくるにきまってる。最初は言おうと思ったさ。だから、オレは宇宙人だって言ったじゃないか…」
「え?おまえの言ってることよくわからない」
「その時に、どうしてそんな事いうのかって理由聞いてくれれば、一息置いてからでも答えられたのに・・」
「ああ!オレは…オレは本当に馬鹿だ!馬鹿だ!そうしとけば、おまえをこんな目に・・・」

「…まぁそれは言い訳だ。今となっては。今までこの手の誘導尋問で外した事なかったのに。
おまえが馬鹿すぎたんだ…いや…」

春人の手が冷たくなっていく。

「日常を捨ててほしくなかった。普通の人間として暮らしているおまえに…」
「し、死んじゃダメだ!春人!!今、救急車呼んでやるから!」

ところが、春人は静かに首を横にふった。

「あきらめるな!おまえは、オレの日常を守ってくれたつもりだろうが、オレの日常とはおまえと一緒にいる事だったんだ!つまらない事で喧嘩したり、海行ったり、綿菓子食べたり…。
頼むからオレの日常をぶっ壊さないでくれよ!」
「おまえ…本当に馬鹿だなぁ…間が悪すぎるぞ…何もこんな時に…、そんな事言うことないだろ…」

もう声が聞こえない・・・耳の奥が嫌な音をたてている、まるで現実を拒否するように。
ただ、涙だけがリアルな質感とともに頬を伝った。

「春人…今度はオレが聞くよ、オレが何者でもたとえ宇宙人でも、ずっとそばにいてくれるか?」
「おまえのした答えと同じ…いや…」
「・・・・え」
「たとえ、おまえがただの馬鹿な地球人であっても…オレはおまえを守ってやるよ」
「そんな、そんな…おまえこそ間が悪いぞ…こんな時まで馬鹿って…」

「今回の仕事…引き受けてよかったよ…楽しかった…」


最後の一息が・・静かに消えた。




「春人・・・春人・・・」

頭が痛い…痛い…。

目の前が真っ暗になった。

…一緒にいてくれるか?…
そう聞いたのは、オレを守るためだけの理由。
狙われてたのは、あいつじゃなくてオレなのだから。
おまえこそ…馬鹿だろ…。


「あああー!!!」

頭が痛い、割れそうだ!

”チエ…チエ…”
誰かの声が聞こえる。
脳に直接響くように。

”誰?”
”おまえの脳に直接話しかけている…。我がスキュラ族の力を覚醒させるために”
”カク・・せい?”
”そうだ。なぜ我らスキュラ族が、高い知能を持つと言われているか…
それは世代を超えた膨大な記憶をとどめておく能力を持っているため…”
”…春人を助けたい!!”
”我らの祖先の中には、優れた医術を持った者もいた。 そして、蘇生術も…。
それを今のおまえに授けよう”

手に不思議な感覚が生まれてきた。
いや、身体全体に…。

自分でも驚くくらい、無意識的に春人を治癒していった。
春人の途絶えかけた呼吸が、また戻ってきた。

「春人…はる…と」
”まだ意識は戻っていないが、もうじき彼は目をさますだろう。…よかったな、チエ…”
”さっきから誰なんだ?”
”私は、つねにおまえの記憶の一部として生きている”

意識下に透明の透き通った身体の男が漂っている。

”…とうさ・・”






「まったく、おまえのせいで不名誉になることが多すぎる!」

学校に休学届けを出した春人だが、2週間休んだだけで、結局は戻ってきた。
だが、その間の宿題とかテストとかでしばらく追われていたらしい。

「素行の悪さも手伝ってダブりそうだったんだろ!それは自業自得だろうが」

あれ以来、オレの不思議な能力は消えてしまった。
どうも危機的状況がないと発動しないらしい。

「それはおまえも同じだろ。おまえの場合は素行じゃなくて成績でだが…」

あの蟹おとこは、いわゆる絶滅寸前の一族の宇宙人で、不思議な力を持つスキュラ族の脳髄を食べれば、自分ひとりでも子孫を増やして、一族を再興できると考えてたらしい。
(雌雄同体なので可能だそうだ)

ちなみに、スキュラ族ってのは宇宙人の中でも特に有名な高い知能の一族だという。
たまにこういう例外もいるわけだが…。

春人曰く
「初め、おまえのガードを依頼された時は、頭のいい奴だと聞いていたから、警戒した」
との事だ。
だから、入学式の日に冗談を言ったら…ああいう結果になったそうで。
「なめられてたまるかと思っていたら、案の定、おまえは本当の馬鹿だったわけだ」

そして、SSGとは某国にある国際的秘密機関で地球に来ている宇宙人同士の抗争を止めたり、狙われている宇宙人を保護する機関らしい。
…だから、春人も英語の成績がよかったわけだ。
それと、春人のお母さんなる人物は架空らしく、本当は一人暮らしらしい。
春人はそれ以上、自分の事は話してくれなかった。
話したくない事だってあるのだろう。
オレもそれ以上は聞く気もなかった。
ただ、春人がそばいてくれれば、それ以上は望まない。

ところで、当面状の危機は去ったわけだが、SSGはまだ春人にオレのガードをさせるつもりらしい。

「そういえば、今度うち来るって言ってたよな。綿菓子作れるおもちゃ買って待ってるからさ」
「ちっ…」
そうやって春人が気まずい顔をするのを見るのが好きだ。

「そろそろ、本部はオレを召集しないのか?こんな馬鹿の子守はもうこりごりだぜ」
「何言ってんだ。約束しただろ。たとえオレが馬鹿な地球人でも守ってくれるって」
「あ、あれは言い間違えだ!こんな馬鹿は付き合いきれないと言おうとして…」

あの夏の日も、海岸に映った影を見てこいつがツンデレに見えるって思ったんだっけ。

あの日よりも、もっと身近になった手を引っ張ってオレは叫んだ。

「さぁ!綿菓子を食べに行くぞ!!」

  END