「オレ、宇宙人なんだ」
…と、突然あいつに告白された。
「・・・」
こういう時にどういう反応をしたらいいんだろう?
「は…?」
「まぁ、そういう事なんだ」
風見春人。
いろいろと素行に問題があったりするが、成績は学年TOPでおまけに運動神経は抜群ときていて、当然ながら女子に人気がある。いつの時代も、女の子はこういう奴に弱いらしい。
オレは、といえばモテないわけじゃない。
…が、奴と比べると女子の反応が違う。
「守ってあげたい男」の上位に入っていると、「守ってほしい男」上位の春人から聞いた。
だからか、廊下を歩いていると上の学年の女子に頭を撫でられたりするのは。
「生真面目さと危なかっしさが同居したキャラ」
として扱われているらしい。
オレとしては大変不服だが、少なくとも嫌われているのでないだけマシなのかもしれないと考えている。
ところで、オレとキャラのまったく違う春人が友達になった理由は、高校入学の時にさかのぼる。
合格発表時に張り出された表は五十音順ではなかった。
「渡辺智恵」
オレの名前は一番最初にあった。
もしかして、ひょっとして…オレは一番の成績で入ったのか?!
あんなに自信がなかったのにっ!
「おたく~頭いいんだねぇ」
思わずガッツポーズをとったオレの背後からひょっこり顔を出した奴は、赤茶けた髪をした見るからに不良学生だった。
「君もここの生徒になったのか?」
「そうだ。これからよろしく」
「君はなんて名前?」
「ああ、オレは…」
彼は指でツッーとビリのところの名前を指し示した。
「風見春人」
「あ、ああ。よろしく」
そうか、こいつ見かけどおり馬鹿なのか。
そう思っていた。
真剣に。
だが、初めてクラスに入ったら、クラスメイトの目はオレに同情的だった。
「おまえ運いいんだな!」
「よかったなぁ~入れて」
「?」
オレは一番だったんじゃないのか?
すると、気のよさそうな奴が話しかけてきた。
「合格発表の名前順。補欠から並んでたんだよなぁ。オレもおまえの下に載ってたんだよ!」
「え、え??」
「知らなかったのおまえ?あの表の横にちゃんと書いてあったじゃないか」
ガタン!
オレが急に立ち上がったので、そいつは驚いて飛びのいた。
「そ、それって皆知ってるのか?!」
「そ、そりゃ知ってるだろう。あんなにデカデカと書いてあったんだもんなぁ」
あいつ、まさか知ってて…。
あんな事いって…。
「それを風見って奴は、知らないんだよな?」
「知ってるだろうよ。だって、あいつ、おまえの事「運のいい補欠」だって言ってたぜ」
「・・・」
「それにしてもさ、あいつ風見春人ってすごいよな、全教科満点だったらしいぜ。
どこでも、ああいう奴いるんだよなぁ。世の中間違ってる!」
そいつの言葉を聞き終わる前に、オレは教室を飛び出していた。
「風見っ!」
「・・・」
奴は机に足を乗せ、無作法なスタイルで座っていた。
隣のクラスの連中が何事かとこちらを見る。
「おまえ、オレを馬鹿にしてたのか!」
「…ああ~??」
風見がゆったりとオレの方を向いた。
「おまえ知ってたのか!合格発表の…だから…だからあんな事!」
「…いまさら何言ってんの、おまえ?」
「!!」
「気づかねぇほうが馬鹿なんだろ」
「なんだと、もう一度いってみろ!」
ふぅ…。
と一息つき、風見は窓の外を指差した。
「ここだと五月蝿いから外にでて話そう」
それが、喧嘩の誘いだとわかったのは、奴がブレザーを脱ぎ捨てた時だった。
シャツの上からでも鍛え上げた筋肉がわかる。
「文句があんだったら、乗ってやってもいいぜ」
軽薄そうな笑みを浮かべて、奴が誘う。
「ふざけんな!オレはオレは!この学校に入るために3年間テレビを見ないで勉強してたんだ。
友達にも暗い奴だと思われて、仲間はずれにされた事もある。
それでも、りっぱな大人になるためにこの学校を選んだんだ!そんな苦労がおまえにわかってたまるか!」
すると、しばらく奴は呆然としていた。
そして、急に大笑いし始めた。
「お、おまえって…」
「…」
「本当に馬鹿だ!」
そう言って腹を抱え、馬鹿笑いする風見。
「お、おまえに笑われるような存在じゃねぇよ!」
オレは迷うことなく、自分より大きい奴に立ち向かっていった。
こう見えても、少々喧嘩早いのだ。
ところが、オレのパンチが届く前に、奴はオレの顔を手のひらで掴んだ。
し、しまったー!奴のほうが腕が長いんだ。
「ちくしょー!!」
バタつくオレを嗜めるように奴は言った。
「智恵って名前の割には知恵がないな。それとも、おまえの両親はそれを見込んでつけたのか?」
「うるせぇ!」
「チエちゃん、もう少し知恵つけな」
そう言って、奴はオレの額に指をつけた。
パチッ!
デ、デコピン!!
しかも…むちゃくちゃ痛い。
オレはその場に倒れた。
それからしばらく記憶がない。
・・・・
それで、風見が入学早々停学処分になったと聞いたのは、目が覚めてからだった。
オレを病院まで運んできたのは、風見その人だったらしいが。
風見の停学期間が終わって、奴が通学を始めた日の放課後。
オレは隣のクラスに向かった。
「風見…」
「ん?」
「まさか、オレのせいでおまえがこんな風に…ごめん」
「は?」
オレが頭を下げると奴は不思議そうに首をかしげ、その次にひどく絶望的な顔でこう言った。
「おまえ…やっぱり絶望的馬鹿…」
「…ば、馬鹿なのはわかってる。でも、今回はオレが短気を起こさなければあんな事には…」
「それよか、まさかデコピンで倒れられるとはね…」
「本当に痛かったぞ、あれ」
「…めん」
「は?」
ぱっと顔を上げた風見はオレのほうをビシッと指差した。
「それにしても、オレにとって停学とは不名誉な事この上ない。この際は…」
「…ゴクン」
デコピンだけでもあれだけ痛いのだ。
どんなふうにされるのか?!
「しばらく二人でつるんでみるか」
風見はニヤリとして言った。
「…ええ?!」
「教師たちにも目をつけられてるし、仲良くやってますって見せたほうがいいだろう」
「ああ、そういう事か」
そんなわけでオレたちは形ばかりの友達になった。
でも…時がたつにつれて本当の友達になった。
・・・・
「おい、おい大丈夫か?」
春人が目の前で手をヒラヒラさせている。
「は!」
「お、おい」
「ショックのあまり、おまえとの出会いのシーンに頭がトラップしてしまった!」
「本当に大丈夫なのか?!」
それにしても、こいつが宇宙人…。
よく人をからかって遊ぶ事はあるが、アホみたいな冗談を言う奴じゃない。
「詳しく話してくれないか」
オレがそう言うと、春人は頷いた。
「おまえ。オレの家、母子家庭だって知ってるだろ」
「うん、オレの家と同じだよな」
オレの親父はオレが生まれる前に事故で死んだが、こいつの場合は父親が行方不明との事だった。
「ところが親父がいたんだよ。しかも」
「宇宙人」
「その通り」
「単刀直入に言うが、親父のふるさとは木星の衛星なんだ。そこは水で満ち溢れてて…。
つまり、親父は水生生物なんだ」
「水生生物?!イカとかクラゲとかそういうのなのか?!」
宇宙人でその手のものといえば、真っ先に本で読んだタコのような火星人の姿が浮かぶ。
オレは春人を見た。
長めの赤茶の髪。
射る様な鋭い瞳、少々皮肉めいている薄い唇。
高身長で均整の取れた身体。
あまりにもオレがジロジロと見るので、真意に気づいたらしく春人は答えた。
「オレは人間の母親似なんだ。外見上は」
そして、話した。
お母さんが湖に遊びに行った時に、お父さん(?)と出会い恋に落ちたが、お父さんのほうは地球での禁断症状が出て宇宙に帰ってしまったという。
それが、最近になって連絡がきたらしいのだ。
「べつに、ただそれだけの話なんだけどよ。それでも、おまえオレと一緒にいてくれるか?」
「あ、ああ」
今まで見たことがないくらい深刻な表情を浮かべた春人の姿をみて、オレはそう答えた。
友達をそんな事で差別してはいけない。
「それにしてもよかったな!親父さんと連絡がとれて」
オレが、そう言うと春人がなぜか困ったような顔で呟いた。
「…んん」