-9.後日談 ~日本にて~

 

 

「真祐!マイダーリン!会いたかったです!!」

ドアを開いたとたんアイオンが飛びついてきたので、とりあえず投げ飛ばしてみた。
飛行機の中で頭の中でアイスの技をシミュレーションした甲斐があった。
思っていたほど上手く決まらなかったけど、顔に膝がめり込んだら大人しくなった。
「あ、悪い。首絞めるつもりだったんだけど」
アイオンの上からどくと、無邪気な笑顔があった。
本当に懲りないやつだ。
「お義兄さんとお義母さんは元気でしたか?」
「まあな。それより、向こうで誰に会ったと思う?」
「マイケル・ジャクソンとか」
「いや、冗談抜きで。お前も知ってるやつだから」
「オバマ大統領ですか?」
「……俺さあ、友達の智恵に会いに行くって言ったよな?」
相変わらず人の話を聞いていない。
アイオンが単にボケているのか本気で訊いてるのか分からなくなる。
「アイスとアレクが仕事で来てたみたいなんだ」
「なにかされませんでしたか?!」
アイオンがいきなり飛び起きたので、勢いあまって頭と頭がぶつかった。
「いってー…」
「アレクはともかく、アイスは危ないですから近づかないほうがいいです!誘拐されたあげく解剖なんて
マニアックなことも!」
「テメエが一番危ないんだよっ!!」
腹いせに頭をごついてやった。
あの一番まともそうな人を捕まえてマニアックとは、一体どういう神経してるんだ。
「周りは人がいたんですか?ちゃんと911しました?」
警察呼んでどうするんだよ…俺は長いため息をはいた。
「他にもたくさんいたよ。智恵と春人だろ、それから浴衣着たピンクの外人と短パンのおっかない鞭使いと……そうだ!MIBとかで見る記憶ピカッと消し、実際に体験してきたんだ!」
「ということは、エイリアンが!?」
アイオンが目を輝かせた。
「ああ。金色の毛玉で、アレクが胸毛を生やされそうになって泣いてた」
「胸毛!!ああっ、なんて羨ま…いえ、痛ましいのでしょう!可哀想なアレク!」
あの兎兎とかいう毛星人を思い出して背筋が冷たくなった。
ケーケケケという笑い声が耳にこびりついてしまっている。
毛フェチに傾きつつある同居人のワザとらしいコメントは無視することにした。
「なあアイオン、今晩の献立なに?」
「けけ毛…け?なにか言いましたか?」
駄目だ。毛の世界から抜け出せていない。
今夜あたりに例の毛妖怪が壁を伝ってシャカシャカとやってくるような気がした。
そんな怪談は怖すぎる。眠れなくなりそうだ。
俺は恐ろしい考えを頭から追い払おうと必死になった。
「そうだ。小包が届いてるんだけど、これお前の?」
ドアの前においてあったものだ。
「本当だ。確かに僕宛ですね…」
アイオンは不思議そうに首をかしげてから、包装紙をやぶいた。
出てきたのは小さな四角い箱で、厳重にガードされている。
アイオンが表面に指をぺたりとあてると自動的に開いた。指紋認証ということか。
シューッと白い煙がふきだす。ドライアイスで何か凍らせているらしい。
アイオンが身に覚えがないとなると、これは怪しい。
「爆弾とかだったらどうするんだ?」
「日本が吹っ飛んでも真祐は守ります」
「……どうせなら国ごと守ってくれよ」
箱の中からは、髪の毛のようなものが入ったテストチューブと白いカードが出てきた。
カードには英語でこう書かれている。

『アイオンさんへ
これがあなたの好奇心を満たすものでありますように
K.W.』

「K.W.って誰だ?」
「アイスの幼なじみですよ」
「はあ?」
なんでそんな奴がアイオン宛てに小包を送るんだ?
だいたい、未来にいるんだからわざわざ郵便局を通さなくたって…
テストチューブの中身を見ているうちに、アイオンの表情が険しくなった。
「すみません真祐。僕はこれから10時間ほど部屋にこもらなくていけません。夕食はテーブルの上です。目玉麻婆豆腐はレンジで1分45秒暖めてください。お鍋の中にはフカヒレとタニシのお肌ブルブルスープが入っていますお好みのハーブをかけてどうぞ。珍味チャーハンはカエルとイモリの足が入っていますので骨を喉に詰まらせないように気をつけて味わってください」
早口でそう言うと、箱をしっかりと胸に抱えて二階に駆け上がってしまった。
「……」
あれには何かとんでもないものが入っていたんだろう。
俺は口出ししないほうがよさそうだ。
「あ、真祐!冷蔵庫にはチョコミントアイスケーキがありますのでスプラッタ映画と一緒にどうぞー!」
「中華なのになんでチョコミント!?」
そのレシピはどこから来たんだろう。
非常に不味そうな夕飯だけど、空腹だった俺は選んでいる場合じゃなかった。
爬虫類の足が飛び出ているチャーハンに目玉豆腐をぶっかけてかきこみ、ブルブルしているスープを
飲んだ。
スプラッタを見ながらデザートに取り掛かるころにはだいぶ落ち着いてきた。

――それにしてもあの髪、どこかで見たことのある色だったな…

一瞬友人の顔が浮かんだけど、そんな馬鹿なことがあるわけがない。
自分の考えに笑いながら、俺は血の味がするチョコミントケーキをもう一口ほおばった。

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~同時刻、同じ町内にて~
「結局、何も見れなかったじゃないか!!」
とのオレの文句に春人は
「あれ以上のものを見なくて正解だったと言えよ!」
その口調はかなり本気が入っていた。
ついでに
「これだからSSGに帰るのは嫌なんだ!」
と吐き捨てた。
「RQの奴はあいかわらず変態だし、あのおっさんはイカれた格好をまともだと勘違いしてやがる。
兎兎は毛まみれだし、潤一の毛コンプレックスとブラコンは治ってねぇし、ドクターは人間を実験体としてしか扱わねぇ…どいつもこいつも変な奴ばっかで…」
「でもさ、それが春人の仲間なんだよね」
「う…」
オレの言葉に春人は声を詰まらせた。

アメリカに行って…いや、SSGに行って感じたのは
ここがたとえどういう組織であっても、春人が帰れる場所だって事だ。
日本の高校でもアウトローな感じの春人が、妙に溶け込んでいた。
それに、オレも間違いなくあそこの関係者なのだ。
秘密組織のわりにどこか懐かしいような雰囲気があった。
それは、一時的にSSGに入っていたとかいうメスを持った黒い服の人と、胸毛を生やされかけた背の高い男の人も感じていたんじゃないだろうか。

「オレ、SSGが好きになったよ!」
「そりゃ智恵…」
複雑な表情をしている春人に、オレはもう一言いった。

「また行きたいな!」
「やめとけ!変態に毒される!!」
なんだか必死に止めてくる春人の手を振り切って、オレは遠い空にあの人達の事を思い浮かべた。