-7.後日談 ~SSGにて~-

 

 

「あの二人が帰ってから何日くらいたつ?」
「まだ2日だ」
リヒャルトの名残惜しそうな口調を聞いて、RQは数日前を思い返していた。


バーの一件があって、翌日、未来から迎えが来た。
待ち合わせ場所に行く前に二人を見送ろうと、リヒャルトとRQ、コッペリウス、潤一、珍しく早起きした兎兎が集まった。
「またな!おまえはいいライバルだったよ」
爽やかにRQとアレクが肩を叩き合う。
お互いに頭部に包帯を巻いている状態だが、そんなことは関係ない。
二人にとっては「愛の傷」だからだ。
ついでにRQが爽やかな笑顔で
「夜這いは命がけで行け!殺されかけた時が狙い目だ…オレはそれでっ!」
言いかけた時、勢いづいた鉄扇に横面を叩かれて…
「沈黙したか」
リヒャルトの怒りに満ちた声がした。

それでも、されげなく上げたRQの親指をアレクは「成功したんだ!」という意味で受け取った。
「へぇ、そうか…」
この二人、実は微妙な仲に見えて微熱な仲らしい。

コッペリウスも悲しそうにアレクの肩(骨)に触れる。
「とうとう抜き取る暇がなかったよ」と呟きながら。
ついでに
「今度は薬品を使おう」
と冷静な面持ちで言いい
「いつかこの人を解剖しようね!」と、アレクを指差し微笑んだ。アイスが黙って頷く。
「冗談じゃねぇ!」
瞬間、コッペリウスの頭はパコーンといい音をたてた。

兎兎はアイスに「約束のものは受け取ったよ!」と箱を手渡した。
「これは、きみにとって価値のあるものだと思う」
とニヤリと笑った。
潤一は、ひやひやしながらその様子を見守っていたが、二人に薔薇の花束となぜか脱毛クリームを手渡した。
「アレクさん…金髪は狙われやすいんですよ…胸をね」
意味深な発言に、アレクはかつらエイリアンに襲われかけた胸に思わず手を当てた。
「これからも貴方に幸多きよう。パートナーが毛フェチでないことを祈ります」
兎兎がまるで「自分は無関係だ・・」とでもいいたげな顔をしているのが気になった。

最後に、リヒャルトが「気をつけて帰るように」と命令した。
手には昨晩飲んだ「ブラッティ・リヒャルト」のビンが握られている。
「傷を負った時に飲むといい」
「礼を言う」
珍しくアイスが他人に礼を言った。
SSGでの体験は彼にも新たな境地を開いたらしい。

皆が手を振っているのを背に二人は去っていった。



「あいつがあと数日でもここにいたら…私の鞭を伝授することができたのに」
リヒャルトは悔しそうだ。
2日間、彼にしては珍しく毎日あのアイスという男の事ばかり口にしていた。
「あれには見込みがあった」
「ひさびさに共に仕事をしてみたい相手だった」
「ゆくゆくは私の地位を任せられるとも…」
などとも口走っていた。(ただし、これはRQと兎兎の前でしか言わなかったが)
よほどショックだったようだ。
「またいつか来るさ」
RQはさして悲しそうでもなかったが、「あいつにマゾの真髄を教えてもらいたい」とぼやいていた。
実のところ、それは誰もがRQ本人に対して聞きたい事であったが・・。

今夜も、リヒャルトは何回目かの溜息をつきながら「ブラッディ・リヒャルト」を口にした。
アイス…コードネーム:チョコミント、呼び名:猫耳天使。
あんなにたくさんの名をもっているのだ。きっと向こうの組織でも信頼が厚い人物なのだろう。
腕は確かだったし、仕事に対する姿勢も真摯だった。
不正を許さない厳しさも信頼に値するものが合った。
それに、朝からビタミンCを摂取しようとするなど正しい知識も持っていたようだ。
パートナーに対しても一線を置いて接しているところなどは、自分にも尊敬の念を与えた。
RQにももっと厳しくあたらなければ・・私はまだまだ甘いのだ。
それに・・・
「私の弟が生きていたら…とそんな事を考えたりもした」
前から知っているような親近感を覚えていたのだ。

「たしかにあの猫耳天使は魅力的だったな!」
だが、RQの発言にリヒャルトは眉を吊り上げた。
「私の弟には手を出させんぞ!変態め!」
「いつから弟・・おっと!」
また鞭がこちらを標的にしている。
「ほら、アレクも鞭で打たれたり、殴られたり、切られたりするのが好きだって言ってただろ?オレだって同じさ!」
「黙れ!あれは母性本能が出ているだけだと真祐という人物も言っていた。おまえとは違う!」
「惚れてる相手には誰だってかまって欲しいんだ!ほら、オレも猫だから」
「そんなデカイ猫がいてたまるか!ボンレスハムめ!切り刻んでやる!」
「ひでぇ!アレク~今頃、おまえは一体どういう目にあってるんだ~」

二人のSMな夜は始まったばかり・・。


同じ夜。
兎兎はコッペリウスの研究室を訪れていた。
「私、いいものもらったんだよ・・ケケケ」
「なんだい?なんだい?クビになりそうなものかい?楽しみだなぁ?」
二人は研究室の隅に座り込んで、こっそり小さな箱を開けた。
中身は…。
金色の毛。
例のカツラ星人の毛だ。
アイスが密かに2本ほど採取していたらしい。
智恵の毛が手に入らなかった時の最悪の押さえだったのだろう。
「私はこれを待っていたのだよ!!!」
喜びにうち震える兎兎。
「で、これを私にどうしようと??」
コッペリウスの顔にもじわりと邪悪な表情が浮かぶ。
「きみにしかできない事なんだけどね…これを培養してほしいんだよ。とはいえ、侵略型宇宙人だからね。侵略ができないような形で、楽しみ程度に毛を増殖させるくらいの無害な生き物として生まれ変わらせてほしいのさ」
「難しいけど、やってみようかな?ただしコッペリアには手を出させないよ」
「もちろん生きている人間だけを標的にしてもらいたいんだよ」
「じゃあ、挑戦してみますか!」
「ケケケケ~~~!!」
「ボーン!ボーン!」

二人の間に悪巧みが生じているとは誰も知らなかった。

また、こちらはSSG内のバー。
カウンターに座る潤一を前に、マスターが溜息をついていた。
「これで何回目だよ~店壊されるの~~修理代が足りないっての!」
毎日のように店のどこかが破壊された上に、ごくたまにだが、恐ろしく音痴なリヒャルト長官の歌を聞かなくてはいけない…心労のあまりに倒れそうだ。
「任されている限り、おまえの責任でどうにかしろ」
このマスターに対して潤一はいつも冷たい。
「ん~、機械部って儲けてるんだろ?それだったら少しくらいこっちに回したっていいじゃない」
「情報部もハッカー行為で儲けていると聞いたが…」
我が機械部の情報も盗もうとしたらしいな…と付け加える。
「そんな…情報部はもうキツキツさ!だから部長たる僕がこうしてバーで小遣い稼ぎしてるってのに」
「それにしても、ここはおまえの管轄だ。機械部にはここに回す余裕などない。自腹で立て直すというのなら利子つきで貸してやるが…どうするマックス?」
「よくいうよ、毎日呑みに来ているくせに…」
情報部部長マクシミリアンは「フン」と鼻を鳴らした。
「情報部が機械部にハッキングを仕掛けてこなくなれば、考えてやってもいい。もっとも、おまえ如きに負けるつもりもないが」
「いいよ、いいよ!どうせ、そうやっていつも脅すんだ」
がっくりしながら、潤一のグラスにウォッカを注ぐマスター。
明日もツンデレップルに店を壊されるのだろう。
今夜も溜息が止まらない。