-セーラー服のあいつ-
ゴボゴボ…
ああ、ここはとても落ち着く。
まるでお母さんの胎内みたいで。
ガキン!
突然、耳をつんざくような金属音で、オレは目覚めた。
「智恵!オレを見ろ!オレから目を離すな!」
春人の声。
なんでこんなところで、愛の告白なんて受けてんの?オレ…。
「?」
意味がわからない。
春人は戦っていた。
セーラー凍牙と。
ただでさえ、回転の遅い頭がグラグラする。
状況把握!状況を把握しろ。
オレは今、どうなっている?
たしか学校でセーラー凍牙に呼び出されて、なんかムカつく事言われて、オレは後輩いじめを??
頭を抱えて考えてみる。
春人が来て。
巨大ヒトデが動き出して。
触手につかまれて。
凍牙が…シュミレーションゲームは大事で…。
つまり凍牙は味方で、オレを狙う宇宙人が敵で…。
すると、春人の怒鳴り声が聞こえた。
「オレたちは宇宙人に拉致られて、おまえは捕らわれて、凍牙の馬鹿が洗脳されて、現在、戦闘中だ!」
「OK!春人!数学の先生よりもわかりやすい説明ありがとう!・・・・え??」
ひょっとして、この状況って前の時より悪くねぇ??
以前、オレが初めて宇宙人だと発覚した時、同じくオレは捕らわれて春人が戦ったけど…。
凍牙の背後に巨大ヒトデ宇宙人が佇んで二人の戦闘を見ている。
「どうだ?SSGの春人、再び味方と戦う気持ちは?」
「自分が弱っちいからって、ナメた真似事は変わらないな!てめぇらは!」
まるで、春人はこの宇宙人を知っているようだった。
軽口を言っている春人の額に汗が光っている。
凍牙に押されているというより・・・前にわざとやられた傷がまだ治りきっていないのだ…。
「は、春人!!!」
オレは、毎度の如く捕らわれている水槽から出ようとした。
上に出口があるんだ!もう間違わないぞ!
「智恵、そこにいろ!そして、オレだけを見ていろ!」
「そ、そんな・・・いくらなんでも、ここでそんな情熱的な台詞を言っている場合じゃない!春人!!」
戸惑うオレに春人は
「あいつを目を合わせるな!心を食われるぞ!」
と怒鳴った。
昔、アニメで見たことがある。洗脳光線を目から発射するエイリアンの姿。
あいつはそういうタイプなのだ。きっと!
渡辺智恵にしては、飲み込みが早かった。
アニメに救われたのだ。
万歳!頭いいぞ!オレ!
水槽の中で、ガッツポーズをとるオレを無視して、二人の戦闘は続いていた。
「くそっ!おまえもSSG隊員なら、こんな奴に騙されてんじゃなねぇ!」
「・・・」
「リヒャルトが残念がるだろうな!おまえがそんなアホで!」
「…!ちょ・・かん」
凍牙の瞳が動いた。
しかし、凍牙が動きを止めたのはほんの一瞬だった。
次に、鋭い突きを春人に向かって放った。
「チッ!」
春人が脇腹を押さえる。
「まだ…」
「は…春人!」
オレは、こっそり水槽から脱出…しようとして
「う、うわーーーー!!!」
水槽は高さが3メートルくらいあった。
渡辺智恵…落下。
「ぐほっ!」
床に身体前面を強く打ち付けて、呻く。
すべての視線がオレに集まった。
「い、いてぇ・・・」
ふと、上を見上げるとヒトデ宇宙人と目があった。
「や、やべぇ!智恵!目そらせ!」
春人の声と、そいつの光線と、オレの動作・・あえて、どれが一番速かったかといえば、驚くべき事に、オレの手が近くに落ちていたビール瓶を拾い上げたのが、最初だった。
「ハァーーー!!」
ついつい意味もない叫び声をあげて、オレはビール瓶を顔の前に曝した。
宇宙人の洗脳光線は、ビール瓶の光沢に弾かれ四散。
「シュミレーションゲームは苦手だが、バトルアニメは見ていたテレビっ子!」
またも、そこにいる3人(?)の視線がオレに集まる。
今度は呆れかえるような視線だった・・。
ただ、洗脳されている凍牙はいち早く我に返ったようだ。
春人にむかって拳を振り上げた。
「あ、危ない春人!」
オレは、衝動的に・・・ガツンと。
凍牙の後頭部をビール瓶でぶん殴ってしまった。
凍牙は白目を剥いて、沈んだ。
「ぎゃーー!ど、ど、ど、どうしよう!!!」
「大丈夫だ!殺しちゃいないさ」
そういうと春人は、ヒトデ宇宙人に向かった。
「今、ここで決着つけてやる!おまえのお仲間の分もこめてな!」
ヒトデ宇宙人が一歩後ろに下がる。
すると、突然、ヒトデ宇宙人の背後から、鋭いものが飛んできた。
「ぐぉぉぉ!!!」
無数の長針に身体を貫かれ、ヒトデの顔が苦痛に喘ぐ。
「これまでだ!」
春人のナイフが、ヒトデの顔の真正面を貫いた。
顔からそいつの身体は崩れていく。緑色の体液を飛ばしながら。
「おぉ・・・スキュラ族・・・我が同胞が必ず・・・」
そいつは、その言葉を最後に崩れ落ちていった。
春人は、今まで見たこともない神妙な顔でそれを見守っていたが、はと気づいたように針の飛んできた方向を見た。
そこには、目を凝らしてよく観察しなければわからないほど、気配を消した人物が佇んでいた。
不揃いの黒髪。
白いシャツ、黒いズボン。
どこにもいそうなぱっとしない見かけの中年男だ。
特徴をあげるならば、痩せ型で意外と背が高そうだった。
「来てみれば、こんなモノを相手にしていたので驚いたよ」
恐ろしく静かな声。
しかし、そのバリトンの声はどこか人を落ち着ける雰囲気があった。
「コウさん、ありがとうございます」
春人が深々と頭を下げた。
こんな春人を見るのは初めてだ。
この“コウさん”という人物もSSGの隊員なのだろうか。
「では、そろそろ私も坊のお出向かえに行かなければ…」
そう言うとコウさんは、ふわりと姿を消した。
まるで、そこから霞のように・・。
「さてと」
春人の足元で凍牙が倒れている。
「死んでないよ・・・ね・・」
ビール瓶の一撃は、無意識的だった。
どれくらいの力で殴ったのかもさだかではない。
「ほら、起きろ!」
春人は無情にも凍牙の頭を蹴り上げた。
「う、うわ!何してんだよ!本当に死んじゃうかもしれないだろ?!」
「う・・・」
オレの制止の声にかぶるように、凍牙の口からうめき声がもれた。
「ほれ、生きてる」
「そりゃ、生きているかもしれないけど、この扱いはあんまり・・・」
一言でいうと”ひどい!”
春人は、さらに凍牙を足蹴にした。
「う・・ぐふっ」
「ちょっと・・・やりすぎじゃ・・・」
「さっきの仕返しだ。智恵、おまえはこいつの味方をしているが、こいつの事が好きなのか?」
「いや!」
むしろ、嫌いではあるが。
それにしても可哀想だ。
「これだけやっても気がつかないんじゃ、めんどくさいけど連れて帰るか」
そう言って、春人は凍牙を抱えた。
「海とかに落とすなよ」
「そりゃ、いい考えだ!」
いかにも、という調子で春人は笑った。
「やめろ!」
「有言実行の智恵に言われたくないな。こいつを気絶するまでぶん殴ったくせに!」
「あ、あれはっ!」
わざとじゃなかった。
っていうか、本当にゴメン!
意識が朦朧としているらしい凍牙に、オレは心の中で詫びた。
オレたちは、学校からそう遠くないガラス工場に拉致られていたみたいだ。
だから、ビール瓶なんかが落ちていたんだろう。
帰りの道路はいつもと変わらない。
少し前まで危険な宇宙人と戦闘していたとは思えないくらい、無防備な星空がそこにはあった。
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