-セーラー服のあいつ-

「おい、渡辺!また、あのアイドルみたいな奴がおまえを呼んでるぜ」

クラスメイトの声に、教室の窓から外を見ると凍牙が立っていた。

「すいません、5分ほど時間をください」
凍牙の頭に巻いた白い包帯が痛ましい。

「あの時は、ごめっ!」
「すみませんでした!」

向き合ったオレたちは、お互いに頭を下げた。
「へ?」
「まず、お詫びをしなければならないのは、こちらのほうです」
と凍牙。
「ガードすべき人を危険にさらしてしまった」

「でも、あれはさ・・・ほら、予想外だったし。あいつの洗脳光線とかもあったし…」
そう言うと、凍牙はますます気まずそうな顔をして俯いてしまった。
「だから、僕は大変はミスを犯してしまった…。もう一度、本部に帰ってトレーニングに励むつもりです」
「はぁ・・。こっちこそ、悪かった。おまえをぶん殴って・・・」
「あ?あれは智恵さんが??」
己の後頭部に手を回しながら、凍牙は目を丸くした。
そりゃ・・・負傷の原因は敵の攻撃だと思うだろうな。

「あ、うん」
「ああ、どうりで。身体中が痛いわけだ」
「それは・・」
春人が気絶しているキミを蹴り上げたからです!
…なんて、言えっこない。

「今回、最後にお会いしたかったのは謝りたかったのと、春人の事で」

凍牙は、ゆっくりと話しはじめた。
「昨日、パサルト星人に洗脳された僕ですが」
そこで一端気まずそうに言葉を切ってから、凍牙は続けた。
「春人が以前にガードしていた相手・・・その人もパサルト星人に洗脳されたそうです。
今回、智恵さんは幸いにも気を失っていたので、洗脳を免れたようですが・・・」

うん、それに洗脳光線はビール瓶で弾き返したから。
しかし、ヒトデ野郎が「パサルト星人」というのも初めて知ったが、春人の以前のパートナーの事も・・・。

「それで、もしかして・・・おまえと同じように春人を攻撃して・・・」

凍牙は頷いた。
考えたくない事だが、その後の展開については…。

まさか。

オレの考えを読むように、凍牙は答えた。

「春人が殺したってわけじゃない。その人は、自ら命を絶った…と、データには残っています。
前に春人がガードしきれなかったと言いましたが、それは嘘です」
「・・・」

その人がひょっとして「ロラン」という名前だったのか。
拉致られたあの時、春人が呟いた名前。

「ずいぶんと、精神力が強い人だったらしい。僕は…春人の声が聞こえているのに、どうする事もできなかった。奪われた意識の中で自分を制御するなんて」

こんなのじゃ、まだまだ長官には認めてもらえません。
凍牙は苦笑した。

そうか。
春人・・・。
オレの心の中に感想はわかなかった。
どう説明したらいいかわからない言葉ばかりが脳裏を駆け巡る。

「でも、あなたは強そうだから大丈夫ですよね。なにしろ、SSG隊員の僕をここまで痣だらけにできる」
「だから・・・」

それは、春人の仕業だって!

「それでも、念のため一つ忠告しておきます。春人からも聞くかもしれませんが、あの「パサルト星人」は春人と以前戦闘した同じ個体ではないらしい。奴らは分裂繁殖するタイプで、別の個体の記憶をも共有している。また、きみを狙ってくるかもしれない」

「でも春人が守ってくれる。オレはそう信じている」

オレの発言に、凍牙ははっとしたような顔をしたが、笑顔に変わった。
しかし、オレの心の中には、どこか痛いものがある。
春人を信じているのは確かだが。
また、あいつがやってきたら、春人は嫌な記憶を思い出す。
オレに力があったら、今度はオレが春人を守ってやりたい。

「それを聞いて安心しました。最後に、お願いなんですが」
「なに?」
「春人をよろしくお願いします。あいつは嫌味だから、友達少ないんですよ」

内心、おまえが言えた事かと思いながらも、オレは凍牙に言った。

「おまえも春人の友達なんだろ?」

すると、凍牙は顔を真っ赤にさせて
「誰が、あんな奴と友達なもんかっ!あいつ、前に僕のジャムを食べて!・・・なんでもありません」

なんだ、仲いいんじゃん。
春人をライバル視しているだけで、いやに春人の事を知ってるし・・・。
ようは、SSGはツンデレが多いのだ。

「おまえも早く長官さんに認めてもらえるといいな!」
オレがそう言うと、凍牙はますます顔を赤くさせて、黙って頷いた。

…よく見ると本当に可愛い顔をしている・・・
これで、口と性格が悪くなければ。

「ところで、その長官さんってどんな人なんだ?気になるんだけど?」


・・・

「ねぇねぇ!SSG長官って、黒髪できりっとした感じの年上美人なんだって!」
「ぶッ!」
学校帰りの道で、春人が吹いた。

「それ、凍牙が言ったんだろ」
「う、うん」
「実際に春人も会ったことあるんだよな!どうどう?凍牙があんなに夢中になるんだ、すんごい
美女なんだろう?」

そんな綺麗な人ならオレも会ってみたい。
黒髪はロングだろうか?軍服っぽいスーツを着こなしたりしてるんだろうな。
口調は厳しいけど、その中にも色気があるに違いない。

いろいろと妄想を膨らますオレを、春人は呆れかえった眼差しで見つめ、ポツリと言った。

「あれは、年がら年中鞭を振り回しているサディストだ」
「え?サド?」
オレの中で、美人長官殿は“女王様”に変わった。

「ついでに言えば、陰険な目付きで極度の仕事中毒で…私服のセンスは最悪の一言だ!」

頭を抱えるオレの横で、春人は“あのブリーフ野郎!”と毒づいた。

「え?ブリーフ?」
「凍牙の言葉の中で、同意できるものがあるとすれば「黒髪のおっさん」だけしかない!」
「おっさん?!」
オレの中で、美人長官は“ブリーフを履いたおっさん”に変化した。

「・・・春人。オレ、SSG自体に疑問を抱きそうだ」
「変な奴もたまにはいるが、まともな奴もけっこういる」
「じゃあ、春人は変なほうなのか?」
「てめぇ!何が言いたい!」

眼前にデコピンの構え。
「うわっあ!ちょっとやめ!」
これを食らったら、間違いなく気絶だ!

「と、ところで、コウさんって・・・?」
“コウさん”の名前を出したところで、春人は手を引っ込めた。
「オレの親父の知り合いだ。SSGの隊員でもある」
「ああ、春人の父さん…?」

凍牙の話だと、たしか春人の家族は皆殺しになったって・・・。
そのお父さんの知り合いなのか。
春人は親父さんについては触れたくないようだった。

「あの人も、ガードだ。オレよりも難易度が高い任務についているが、今回“もしもの時”に備えて連絡だけは、とっておいた」

凍牙に怪我を負わされた時、オレのまわりにガードをつけたばかりか、そんな強力な味方に連絡をとっておいてくれたらしい。

「ちっ、それにしても。凍牙の馬鹿が!今度会ったら、絶対に泣かす!」
春人はそばにある空き缶を蹴り上げる。


頬に、一陣の冷たい風が吹いた。
今回、いろいろ知りたい事が増えた。
でも、オレは何も変えたくないと思っている。

「もうじき秋になる」

今年の夏。
あまりにもいろんな事がありすぎて・・・。

「はぁ~。今年の夏って一生忘れられないかも」
「おまえにとっちゃそうだろうな」
春人が頷く。
「でもさ、一番思い出に残りそうな事って・・・」

海のさざなみ、夕陽と春人と、・・・・唇に残る感触・・

「おまえとのファーストかも・・・」
「はぁ?!」
口を押さえたオレを、春人が驚いた顔で見ている。
「あれは衝撃的過ぎた!もう一度してみたら、衝撃は薄れるかもしれないけど・・・」

なんとなく。

すると、春人は馬鹿みたいに慌てて、手をふりふりしながら後ずさった。
「こんな所で、できるわけないだろ!」
「え、いいじゃん!「また明日♪」の挨拶だと思えば」
「そんなの挨拶のわけないだろ!!」
挨拶みたいなもんって言ってたのに、春人は思い切り仰け反り、怒鳴った。

「え?」
じゃあ、何さ?
オレがそれを聞く前に、春人は背中を向けて歩き出していた。

「なんだよ、あいつ」

まぁいいか、明日も会うし。
それでも、なぜか心に引っかかるものがあって、オレは自分の口にもう一度手を当てた。

どうしたんだろう、オレ?

  END