-セーラー服のあいつ-

「なんか、おまえを呼んでこいって奴がいるんだけど」
クラスメイトが声をかけてきた。
「誰?」
「おまえの知り合いらしいぜ」
「春人?」

放課後の学校。
春人は今日も休んでいる。
明日からは普通に動けそうだと言っていたけれど…。

「いや、風見じゃないよ。ハーフの芸能人みたいな格好の奴」

あ、セーラーだ!

オレは、直感した。
しかし、あいつがオレに何の用があるんだろう。
オレには、あいつに言いたい事があるけど。

まず春人に謝る事と、シュミレーションゲームで頭を鍛えるようにいう事だ。
そして、早めに謝っておけば春人にボコボコにされなくても済むとも伝えておこう。
一応、あいつもSSGだし危険はないだろう。
セーラーが待っている学校の裏まで行く事にした。

セーラー凍牙は、あいかわらずセーラー服で、木にもたれかかりながら立っていた。
あの時は、服装に気をとられて気づかなかったが、結構可愛い顔をしていた。
アイドル養成所にいそう。
色素の薄いブラウンの髪と瞳は日本人離れしている。
春人にしろ、こいつにしろ、SSG隊員は顔で選ばれるらしい。


「智恵君でしたっけ、今日僕がここに来た理由はわかりますね」
「さぁ??」
そんなの知るわけない。
「それよりも春人にボコられる前に謝っといたほうがいいと思う。あいつ、すごく強いんだぜ!!」
すると、凍牙はせせら笑いながら
「あいつが強いだって?僕にやられてあんなに酷い傷を負った春人が?本部から離れてすっかり弱っちくなってさ…キミにもわかったでしょ?あいつより僕のほうが、ガードに相応しい事くらい」
凍牙は、ピンク色の小さな唇に綺麗な曲線を描き、微笑んでいる。
「ああ?何言ってんだ!春人は手加減してたんだよ!…その…頭数の問題で…??
ともかくおまえ、シュミレーションゲームやれよ!」

やばい、言いたい事がわからなくなってきた…。
それにしても、こいつとは気が合わないと思う。

凍牙は少し不思議そうな表情を浮かべた後、不快そうな声で言った。
「あんな奴に守られてキミは満足なんですか?今現在、ここにも来られないような男に」
「そうなったのは誰のせいだよ!」
本当に、こいつとは気が合わない。
「オレと春人の事もよく知らないくせに!勝手な事言うじゃねぇ!」
「そういう智恵さんこそ、春人の事をどこまで知っているんですか?」
「え・・」

オレが知っている春人は、同じ高校生として…、友達として…。
春人は自分の過去とかを話したがらないから。

フッ…
凍牙の口から笑みがこぼれた。
「ほら、キミだって知らないくせに」
「おまえ…本当にムカつくんだけど」
睨みつけるオレを無視した様子で、凍牙は話しはじめた。

「そりゃ話さないはずだよね。春人は、昔まったく逆の立場にいたんだから」
「?」
「キミのような存在を無差別に消してた。地球外生命体を抹殺するためだけに生きていた」
「なんで?!」

信じられない。
どうして春人が…?

「可哀想に、家族を地球外生命体に皆殺しにされちゃったみたいで。復讐のつもりだったんでしょうね。それはそれは、容赦ないやり方で殺りまくってたみたいですよ。キミの事だって本心ではどう思っているか…」

バチッ!
自分でも何をしたのかわからなかった。
凍牙が片頬を押さえている。
平手打ちを食らわしたのが、手のひらの痛みでわかった。

「黙れ!」
「まったく…よくもそうあいつを信用しているものだ。以前、春人がガードを任されていた時に失敗していたと知っていても、なお信用するんですか?」
「なに…」
「キミの事だって守りきれないかもしれないじゃないか」
「…」
「それでも?」

春人の過去。
よくわからないけれど、オレは…

「別にオレは春人にどんな過去があったとしても、今の春人しか知らないし、それでいいと思っている。ただ、本人も話したがらない事をベラベラ話すおまえは嫌いだし、信用できない。
たとえ、おまえのほうが春人より強かったとしても、オレは春人にガードしてもらいたい!」

「そんな…」
初めて凍牙の顔に驚愕の表情が浮かんだ。


「だからさっさと帰れってさ」
突然、横から聞きなれた声。
「春人?!」

今の発言聞かれてたら、かなり恥ずかしいんですが…。

ところが春人は涼しい顔で、凍牙に言った。
「智恵は難しい理論を理解できない。おまえの話は通じないさ」

それは、オレがバカって事ですか…。

かなりブルー入っているオレを指差し、凍牙は叫んだ。
「このスキュラ族は例外的にバカなのか!!」

カチン!
「人をチンパンジーみたいに言うな!オレをバカと言っていいのは春人だけだー!」
信じがたい事にオレの繰り出した拳は凍牙の左頬にヒットし、奴を3mくらい飛ばした。
「くっ!」
また頬を押さえ呻く凍牙。
可愛い顔を歪めているところを見ると、後輩いじめをしたような気分。
「その…ごめん」
謝るオレを春人が止めた。
「こんな奴に謝る必要などない。むしろ運がよかったというべきだな。オレの拳ならこいつの頬骨は砕けていた」

「クク…やっぱりRQの頬骨砕いたって話、本当だったんだ・・」
冷笑しながら、凍牙は立ち上がった。
「何?春人おまえそんな事していたのか!仲間=頭数=シュミレーションゲームだろ!」
「うるせぇ!意味不明!」
春人はオレから目を反らした。
どうも触れられたくない話題らしい。

「智恵の拳を受けるようじゃ、おまえもまだまだ素人だ。とっとと陰険長官の元に帰りやがれ」
「キサマぁ~!我が長官殿を愚弄するかっ!!」
凍牙が豹変した。
全身から殺気が漲る。

SSG長官とは、そんなに魅惑的な人なのだろうか?
美人なのかなぁ…。
オレがぼぉっとしている間にも、二人の間には火花が飛び散っていた。

「ああ、なんとでも言ってやるさ。音痴、サディスト、怪獣スリッパの変態野郎…」
「なんだと~~!!」
完全に頭に血がのぼってしまったと見える凍牙は、春人の怪我をした脇腹を狙って攻撃をしかけた。
「あいかわらず甘ちゃんだな、凍牙!」
春人がさらりと身をかわしただけに見えたが、次の瞬間、凍牙は木に全身を打ち付けていた。
「ぐぐぐ…」
立ち上がるのも辛そうだ。

「春人、春人!シュミレーションゲーム!」
思わずオレは叫んだ。
「こんな奴、頭数にも入らないさ。ほっとけ」
そう言いながら、凍牙に背を向ける春人。
「でも…」

木を支えに起き上がろうとしている凍牙を見て、気の毒になってきた。

「こんなところでは負けない、春人。僕はあの方に認めてもらいたい…!」
「出直して来い」
「くそっー!!」

凍牙が春人に飛びかかったその時だった。

グラグラ…。

「地震?」

はっと何かに気づいた春人が、叫んだ。
「智恵!離れろ!」
「え、え?」

突然、地面が盛り上がり木の根が姿を現した。
それは生き物のようにくねくねと足元でうねる。

「なんだよ、これー?!」
「逃げろ!智恵!」
春人の必死な声。今まで聞いた事がないくらいに。

メリメリと音を立てて、一本の木が真っ二つに割れた。
巨大なヒトデみたいな奴がその中から出てきた。
ヒトデの口にあたる部分に、能面のような顔が逆さに張り付いている。

「スキュラ族、見つけた…」

うわっ!間違いなくオレ狙いだ。

「くっ!」
春人が服の中から愛用のナイフを取り出し構えた。

すると、そいつが口を聞いた。
「ハルト…我の同胞を傷つけた奴…」
「!!」

春人の顔が驚愕に凍りついた。

「今度はスキュラ族を手に入れる。今度こそ。…シリウス族は取り逃がしたが…」
「黙れ!!」
振り絞るような叫び。

「キサマに智恵を渡すものか!」
「フフフどうかな?」
そいつの触手が伸びた。

「っ~~!」
先に絡め取られているのは・・・

「凍牙!」
春人の表情が歪む。
「ぐぐぐ…」
凍牙は全身を締め付けられて苦痛の表情をしている。
「お仲間を解放してほしければ、そこのスキュラ族をよこせ」
「…くっ」
「春人、僕の事は気にするな!僕だってSSGの一員。こいつを攻撃しろ!智恵をこいつに渡すな!」
「当たり前だろ!」
そう言いながらも、春人は攻撃を躊躇っている。
「春人攻撃しろ!今、こいつを逃がすな!ぐぐっ」
凍牙が身体を締め付けられたまま叫ぶ。

「よく考えておくんだな。SSGの風見春人」
そいつの身体が地中に消えていく。
「凍牙!!」
オレはたまらず駆け出した。
「智恵!バカこっちに来るな!」

「凍牙ー!」
オレはそいつが消えていった地中に手を伸ばした。
「智恵さん?!」
捕らわれの凍牙が目を見開く。
「これはこれは自ら飛び込んでくるとは…」
ニヤリとした能面が下方に見えた。奴の触手がオレの身体にも回り、オレは暗闇の中へ・・。
「う、うわーーー!!」
だが、落下はすぐに止まった。
何者かがそいつの触手の先をきつく持って、地上から落下を食い止めていた。
「逃がさねぇ!」
「春人!」

すると、地中から心地のよい声が聞こえてきた。
高く優しい少年の声。

「ハルト…」
「ロ…ラン…?」
「春人?!」
「え?」

気を抜いた隙に春人の腕に触手が絡みつき、その身体ごと地中に引きずりこんだ。

「!!!」

オレたちは暗い世界に飲み込まれていった。