-セーラー服のあいつ-

はじめて入る春人の部屋は…

予想と違って、かなり汚れていた。
てっきり生活観のない部屋に住んでいるとばかり思っていたから、そのギャップは意外だ。
でも、よく見ると床及びキッチンはピカピカ。

変なの。

「好きなもん飲んでいいから」と、冷蔵庫を開けて見せられたが、中には麦茶とゼリー、得体の知れないピンク色の液体しかなかった。

「これ何?」
「グァバ」
「オレンジジュースも牛乳もないのに、なぜグァバジュース?マニアックすぎ」
「そーかー」
「しかもちゃんと食べてるのか?ダイエット中の女子じゃあるまいし、ゼリーだけなんて」
「いつもはちゃんと食べてるさ。今は内臓が普通に機能してないから」
「あ・・」

そういえば、あの時、春人は「内臓にダメージ受けた」って言ってたじゃないか。

「病院行ったのかよ?」
「似たようなものは利用した。クソッ!あいつのせいで100$近くも取られちまった」
利用料金の単位が$と言う事は、SSG関係の医療機関なのだろう。
「手加減なんかするからだよ」
オレの言葉に、春人は超不機嫌ムキ出しの顔になって、近くのゴミ箱を蹴り飛ばした。
「わぁ!散らかすなって!」
「別にいいだろ!オレの部屋なんだし」

こういう状態は我慢できないんだ。
渡辺智恵はきれい好き!
あわてて、散らばったゴミをかき集めると、床に落ちている写真が目に入った。

「これ、ゴミじゃないよな」
「あ?それはゴミだ」
その写真を見ると、やたらデカイ男(?)が一人映っている。
帽子を深くかぶり、サングラス、マスクを着用した見るからに怪しげな男(?)だ。
「誰これ?」
「知り合いだ」
そう言うと、春人はオレの手からそれを奪い、ゴミ箱に入れた。
「友達の写真捨てちゃまずいだろう」
「こんな姿でも?」
「うっ…」
「一応、SSGの規則で写真は送ってはいけない事になっている。素顔がバレたら、やばい仕事もあるからな」

しかし、この人物はそれでも春人に写真を送りたかったと見える。

「わざわざこんな格好で映らなくてもさぁ」
「変態なんだ、そいつ」
そう言って、春人はプイッと横を向いた。
「でも、せっかくだからとっておけよ。遊びに来た時、聞かれたら気まずいだろ」
「遊び?あんな奴が来たら、家に上げる前に日本から叩き出す!」
春人の口調からすると、この人物は相当なくせ者らしい。

「そういえば、あのセーラー何者?仲間…だよな」
「第6部隊所属の…名前は凍牙。オレにとっては同期みたいなもんだ。一応、暗殺拳の使い手」
「あ、暗殺拳??」
物騒な言葉を聞いてしまった気がする。
あの可愛らしいアイドルみたいな顔の“凍牙”という少年にはふさわしくない言葉だ。
「その技は一撃必殺の威力を持つっていうんで、組織内でついた渾名が“セーラー・アサシン”」
「う、うわぁ…絶対にいてほしくないキャラクターなんだけどさ、それ」

想像したくない。
セーラー服の暗殺者。

「オレもそう思う…」

脇腹を押さえながら、春人は顔を歪ませた。
「ともかく!あの流行おくれ、次会ったら絶対泣かす!!」
流行おくれ…やっぱり春人もそう思ってたんだ。
今時、あんなセーラー野郎はいないもんなぁ。

「ケガ、見せてみろよ」
「平気だ」
逃げようとする春人に半ばしがみつきながら、オレはシャツを捲りあげた。
「うわっ、ひどっ…」
脇腹の皮膚がどす黒く変色している。
「全然平気じゃないだろ、これ!!」
「中は治っているから。見た目酷いだけだ」
「見た目だけだって、酷いものは酷いんだよ!」

この時のオレの行動はスピーディだった。
居合いの達人が刀を抜くよりも早くシップの箱から中身を取り出し、百人一首の優勝者よりも機敏な動作で、それを春人の脇腹に貼り付けた。

「!」
「これで大丈夫!」

胸を張るオレに春人が何か言いたそうに口を開けた。

「智恵、その・・・」
「なんだ?」
「いや…なんでもない」

そのままじっと脇腹を押さえている。

「やっぱ痛いんだろ?」
「そうじゃない。冷たいけど」
「そりゃ、シップなんだ・・・・から」
言った瞬間、ドキリと心臓がなった。

春人の横顔があまりに綺麗だったから。
あまり見た事ない穏やかな表情。

そういえば、少し前もこんな顔を見たことがある。
オレが「一緒にいる」と言った時だ。
あの時は、春人は嘘をついて「自分が狙われている宇宙人」だと言っていた。
本当に狙われていたのはオレなんだけど。

オレを守るために、傷ついていた春人。
その時は、まだ何も知らなくて。
「こんなオレでも一緒にいてくれるか」と聞かれたので「一緒にいる」と約束した。
よく考えたら、あれは全てオレをガードするための方便だったのだ。


なんか胸がジンとして、目の前が潤んできた…。

-春人…。


しばらく見とれていると、春人は言った。

「オレの代わりにガードを2人付けている。でも、おまえに何かありそうだったら、すぐに行く」
「う、うん…」

なるべくなら何もあって欲しくないし、こんな状態の春人を動かしたくない。

「もし、オレのいないところでおまえに何かありそうになったら、あのセーラー野郎を殺してやる!」
「殺すのはやばい!気絶するほどぶん殴る程度に留めておけ!!」
オレは慌てて言った。春人を殺人犯にしたくはない。
「わかった。おまえがそう望むのなら、あいつを気絶するほどぶん殴る事にしよう」
「ゲ…」

しまった!余計な事を言ってしまったらしい。
春人のニヤリとした笑みに、オレは自分の発言を後悔した。
春人はやる気だ。
オレも春人にデコピンで気絶させられた事がある。

「今度は手加減しないからな~~」

指の関節とか鳴らしてるしー!!
オレは心の中で、セーラーの無事を願った。