-セーラー服のあいつ-

「ひさしぶり!」

突然現れたセーラー服のそいつは、天使のような笑みを浮かべ、こちらに向かって歩いてきた。

こんな奴、知ってたか?
どう考えても小学校高学年か中学生にしか見えない。
近所に住んでたっけ??

オレが一生懸命頭を働かせている間、春人は
「どうして、おまえが?」
と鋭い口調で詰問した。

「有名なスキュラ族を見に来たんだよ。春人がガードしてるっていうからさ」
彼は答えた。

“スキュラ族”って言葉を知っているなら、SSG関係者だ。
よかった、頭が悪い上に健忘症でなくて…。
オレがほっとしている間にも、二人の会話は続いていた。

「おまえ、確か第6部隊に所属しているはずだろ?こんなところにいていいのか?」
「どうにも今は仕事がなくてさ、暇なんだよ」
「嘘だな。あのクソ真面目なおっさんが隊員たちに“暇”を認めるとは思えない」
「きみ、また長官に対して失礼な事を言うじゃないか…」

天使のような笑みが消えうせて、小さな口元が冷酷に歪んだ。

「ああ、確かに僕は第6部隊所属だよ。でも、それじゃ大多数の中の一人にすぎないってわかったんだ。 僕の実力をあの方に認めてもらうためには、多少目立った事もしておかないといけないみたいだし~」
「この仕事が欲しいのか?単刀直入に言えよ。実力で奪いたいって!」
「言いたい事がよくわかるね、さすがだよ春人!」

そう言うと、いきなりそいつは春人の頭上に飛んだ。

「凍牙、あいかわらずワンパターンだな!」

春人が腕を伸ばしたかと思うと、セーラーの胸倉を掴んで、ほおリ投げた。
軽く…まるでスーパーの袋を投げるみたいに。
あのセーラーだって小さいとはいえ、普通に体重はありそうなのに。

「はっ!」

落ちたところが砂浜だったから、ダメージは少ないかも…なんて、オレが見ているとそいつは音もなく、すっと立ち上がった。

「大体、どうしておまえ、そんなにあのブリーフ野郎に惚れてんだ?オレには理解できねぇ」
「僕の気持ちなんて、変態野郎に振られた君なんかにはわからないさ!」
「は?」

“変態野郎に振られた?”
春人の過去って一体…。
二人の会話からオレがそんな疑問を持った時、ドン!と衝撃音が走った。

「春人、君は昔から技の後の隙が大きいんだよ」
「ぐっ!」

セーラーの手刀が春人の脇腹に当たっていた。
さすがに突き飛ばすところまでいかなかったようだが、それでも春人は脇腹を押さえて後退した。

「急所狙うって戦いの基本でしょ?」
「…」
「まぁ、君も今日はそんな気分じゃないみたいだし~、本当の勝負はもう少し後にとっておいてあげるよ。 でも、今の君じゃ僕には勝てない」
「るせぇよ…」

春人がセーラーを睨みつける。
セーラーは身体を翻した。

「違う手段を使うまでもなさそうだね。次回が楽しみだよ、春人。…それと、長官をあんまり下品な言い方で呼ばないでくれないか。 最近では違う種類のパンツも履いているみたいなんだから!」
「おまえこそ、変態だろが…」

「じゃあね!それと君が渡辺智恵君?」
「あ・・・ああ」

セーラーがこちらを振り向き、突然ペコリとお辞儀をしたので、オレも思わず反射的にお辞儀をする。

「さすが、日本育ちのスキュラ族ですね。礼儀正しい人だ。今度から僕が守ってあげます」
「え?」

さっきの会話からすると、こいつは春人の仲間みたいだけれど、春人から仕事を奪いにきたらしい…という事は、オレは…春人は…。

「そういう事。でも、春人が簡単には認めてくれないだろうから、もう少し先になると思うけどね」
「そんな勝手に!」

オレが何か言おうとすると、春人が止めた。

「凍牙!てめぇ次にあったら、ぜってぇ泣かすからな!覚悟固めとけ!」
「新しい恋人の前で負け姿さらしちゃ、そりゃ君も都合悪いでしょ。せいぜいがんばってよね」

せせら笑う声とともにそいつはふわりと姿を消した。



「大丈夫か?!」
「触んじゃねぇ!」

不機嫌極まりない声で、春人が怒鳴った。

「強がっている場合じゃないだろ?歩けるか?」
春人の肩を支えて歩き出すと、突然春人は咳き込んだ。
「が、がはっ…」
白い砂浜に数滴、赤い跡がつく。
「な・・・血??」
「平気だ」
「平気じゃないだろ!救急車!!」
「余計な事するな!」
「でも…」
「身内の事で、他人に助けられたくない」
「…」

春人はオレの手を払いのけて、ヨロヨロと一人で歩いていく。

「内臓にもろ当ててきた…クソっ!」
「おまえんち一緒に行くよ。薬とか必要だろうし」
「付いてくんじゃねぇよ!!」

春人の我が侭な言いっぷりに、さすがのオレもキレた。

「うるせぇ!この強がり野郎!悔しいんだったら悔しいって言えよ!」

すると、春人はこちらを振り返り…

「どうしておまえは、そう人の勘に触る事ばっかり言って、されたくない事までしようとすんだよ!」
「そ、そんな…」

そんなふうに思われていたんだ。オレって…。
なんか頭に隕石が落ちてきたくらいのショック。
自分が今まで良かれと思ってしてきた事が、全て否定されるのって、悲しいっていうかキツイ。

「別に、オレは・・だから…」

春人が次の言葉を発しようとしているのはわかっていた。

でも、なんかもう話す気にならない。

こんなのは初めてだ。
いつもケンカばかりしてるけど、今の言葉が一番聞きたくない言葉だった。

「じゃあ、勝手にしろよ!!」

そう言って、春人に背を向けて逃げるように帰った。
べそかいてる顔を見せたくなかった。






次の日、春人は学校に来ていなかった。

なんか変な感じ。
一人で学校まで行って、春人以外の人間と過ごすのが。

「あのさ、聞いてる?渡辺?」
他の奴らは、皆、オレのことを“渡辺”と呼ぶ。
そういえば、春人は最初から“智恵”って呼んでたっけ…。

「渡辺、最近何のゲームしてる?」
「ああ・・・格ゲー」
「どんなの?なんてやつ?」
「タイトルわかんないけど、セーラー着た男が出てきて、そいつ味方なんだけど攻撃してくる」
「は?」
クラスメイトは不思議そうな顔をしている。

「主人公守る役目の…勇者とセーラーがケンカしてる。そこから先に進めないんだ」
「うわぁ、クソゲーだな。そのセーラー説得して仲間にできないのか?」
「ああ、向こうやる気満々なんだよ」
すると、そいつは溜息をついた。
「せめて、それがシュミレーションゲームだったら、適当に痛めつけてHP削ってから説得だな。味方の単独能力優先させる格ゲーだったら、そういうわけにはいけないんだろうけどさ」

そういえば、こいつは前からシュミレーションゲームが好きだと言っていた。
オレは戦略というものが立てられない性格なので、シュミレーションは苦手なのだ。
そいつはゲームオタクよろしくペラペラと話しだした。
「シュミレーションゲームは全体を見渡して、とにかくこちらの有利になる戦略をとるんだ。
だから、敵でも説得できるようなら仲間にする。味方の頭数は多いに越した事はないからな」
「…」

そういえば、春人。
あの時、あきらかに手加減していた。
セーラー投げただけで、次の攻撃しなかったもんな…。

「さっきから、ぼーとしてどうしたんだよ。そのゲームそんなに面白いのか??」
「あのさ、春人ってシュミレーションゲーム得意かな?」
「あ?風見…しらねぇよ。何だよ、突然?」
驚いたふうのそいつを尻目に、オレは荷物をまとめた。

「いや、あいつ頭いいからさ、戦略立てるのとか得意なんじゃないのか…って、どうした?」
「悪りぃ、オレ帰るわ!」
「ちょ・・次の授業は?!」
「早退って伝えといてくれよ。急用ができた!」
「お、おいっ!!」

そのまま、教室を飛び出した。
また、邪険に扱われるかもしれないけど、まぁいいや。
それより、春人が心配だ。



春人が住んでいるマンションの前まで来た。
…のは、いいが。

「うそっ!オートロック?!」
薬局によっていろいろ買ったのに、入れねーじゃん!!
「ど、ど・・・しよ」
入り口にあるインターホンで、春人の部屋番号を押そうとして躊躇する。

-ここで、追い返されても間抜けかも…-

せめて、奴とドアごしにでも話したい。
そう思っていたら、運よく買い物帰りのおばさんがこちらに歩いてきた。
その人がエントランスに入ったと同時に身を滑り込ませて、侵入成功。
あとは、5階までエレベーターで昇るだけだ。

一度、入り口まで付いていったことがある。中には入ったことないけど。

512号室の前で、オレはたたずんでいた。
勢いだけでここまで来てしまったが、留守だったりしたら、どうなるんだろう…。
あの怪我じゃ、病院に行っていてもおかしくない。
恐る恐る部屋のチャイムを鳴らすが、返事がない。

「やっぱ留守かぁ」

しかたなく帰ろうと背を向けたら、突然ドアが開いた。
背中にかけられる声。

「おまえ、なにやってんだよ」