-セーラー服のあいつ-

しばらくして…

「不純に交流している相手が、正直、バカで鈍すぎてムカついてんだよ」
春人は言った。

「そんなこというなよ!可哀想だろ」
すると、春人はしばらくあんぐりと口をあけて、額に手を当てた。
「何?おまえ、これ以上の事がされたいってサイン?」
「え、おまえの言ってることわからね…」

これ以上って??
今、春人はオレに何をした??

「う、うわーーー!!」
本日、渡辺智恵二度目の発狂。

「智恵、しっかりしろっ!!」
「春人、オレ…オレ…発狂した」
「まてよ、発狂ってのは、昔から頭のいい奴がなるもんだ。頭が悪いおまえはならねぇよ」
「でも、でも、この衝撃は一体…」
「そんなの、おまえがオレの事好きだって事だろ」
「へ…」

爆発寸前の頭に直撃してきたのは、柔らかい感触。
額に押し当てられた春人の唇。
次に、口元に。

「ァ・・・」
「智恵、なんでそんなにバカなんだよ」
「し、しょーがないだろ!」
「しかもなんで泣いてんだよ。オレが泣かせたみたいだろ」
「オレが泣いてる?」

知らないうちに涙がこぼれた。
たぶん、パニック状態が長かったせいだろう。
急いで涙を拭った。かっこわりぃ。

「発狂って、頭のいい奴がなるもんなのか。だとしたら、春人って発狂してんのか?」
「…」

ガッっと音がして、いきなり春人に押し倒された。

「何すんだ、バカ!!」
「バカにバカと言われたくないね、クソッタレ!」
「ふ、ふざけんな!」

二人して、砂浜で暴れまくったせいで、全身砂まみれになった。

「海ぃー入るぞ」
「うわー頭までじゃりじゃりだ!」
海に入ると思ったより冷たくなかった。
「少し泳ぐ」
プカプカと泳いでいるうちに、先ほどの行為を思い出した。
あまりに自然で気がつかなかったけど、あれって…。

「ぐわっぷ!」
「智恵!」

急に海水を飲み込んで、浅瀬にもかかわらず溺れかけるオレの腕を、春人が引っ張りあげた。

「ぐはっ!覚醒後のスキュラ族って、水の中でも息ができるんじゃなかったっけ?」
「あれは極めて純度の高い水の中に限られてんだよ。自分の体質くらい知っておけ!」
引っ張りあげられたオレの眼前に背の高い春人の胸がある。
「あ、何脱いでんだよ!」
「海パンは履いてるぞ」

そうだ、ここは海だったんだ。

「智恵、本当に頭…」
「わぁーー!!」
思わず、春人を突き飛ばすオレ。
「なんだよ、あれ。どういうつもりなんだ!オレに、き…キス…するなんて」
「慌てるなよ。あんなの挨拶みたいなもんだろ。オレ、日本人だけどアメリカ生まれで、ラテン系なんだ」
「??ちょっとまて…。ますます頭が混乱するような事言わないでくれ」
「どっちにしたって、大したことじゃないって」
サラリと言う春人。
どこ吹く風という感じだ。

「おまえにとってはたいした事なくても、オレにとってはたいした事なんだよ!
オレ、その…初めてだったし…」

ファーストキスの相手が男、しかも春人。
春人にとっては挨拶程度かもしれないが、オレにとっては貞操を奪われたくらいショックだ。
しばらく下を向いていると、春人の不機嫌そうな声が返ってきた。

「初めての相手が、オレで悪かったな!」
「ああ、…もういいよ…」
ガーン!頭の中で鈍い音が響いている。

なにやら、無表情で佇んでいる春人にオレは言った。
「春人、もう一度してみてくれないか。さっきよくわからなかったもんで」
「はぁ??」
驚いた顔をしている春人。
「い、いや、もう一度って…おま…」
「初めての経験なら、ちゃんと覚えていたいじゃん。どうせ何を言っても、オレの初めては、おまえに奪われちまったわけだし」

どんなものだか、意識的に覚えていないというのは、どうにも虚しい。
もしかして、最初で最後になるかもしれないこの行為を、心のどこかでもっと深く知りたいと思っている。

「さぁ、やってみてくれ!覚悟はできている!」
オレは、海に浸かりながら全身を引き締めた。
気分的には切腹前の武士のようだ。

「おまえにとっては挨拶程度なんだろ」
「お・・・おぅ!」

なぜか春人も緊張しているようだ。
「あ、あの智恵、どうしてそんなに眼見開いてんだ?」
「その瞬間を見届けたくてな!」
「目・・閉じてくれないか。やりにくい…」
「いいだろう?オレにとっては一生に一度かもしれないんだからさっ!」
「チッ!」
春人が舌打ちした。

「さぁ、やれ!やってくれ!」
「おまえ、本当はSだろう?」

呆れたような声。
突然、視界が遮られた。

「はにゃ?」

真っ暗な中で口に押し当てられた柔らかい感触。
一瞬、軽い息が耳元にかかった。
「…智恵」


物凄くリアルだった・・・・・・・・。


やがて、春人は手を目元から離し、「大丈夫か?」と聞いた。

「わ、わうっ!」
背筋がゾクゾクっとして、立っていられない。
ザブンと尻餅をついて頭まで海水に浸かったオレを、春人がまた引き上げてくれた。

「面白かったか?」
「ど、ドキドキした!」
「そうか、そりゃよかったな」

複雑な表情をしている春人をよそにオレは思った。


“グッバイ、オレの夏!オレのファースト…”



二人で着替えて、海岸をもう一度歩いた。

「もう、海終わりだなぁ」
「今年は2回も来れたから、よかったじゃないか」
「まぁね」

そんな事を言いながら、歩いていた時だった。


「いいね!お二人さん。熱い夏ってのも!」


見上げると、海の家の屋根に誰かいる。

-あんなところにいて、日焼けしないのか?!-

そう思ったのもつかの間、その疑問を打ち消すような白い肌の少年が、屋根から飛び降りてきた。
ジャーン!という言葉が似合いそうなポーズで、少年はオレたちの前に立ちはだかった。

「うぉう!セーラーだ!!」

今どきこんな格好の奴いるか?!というような、昔のアイドルばりの水兵服を着たそいつは、春人を見上げて言った。

「Hello!ひさしぶり、春人!」