ところかわり。
ここは日本の、とある高校。
オレ渡辺智恵は、今日も友人の風見春人の教室を訪ねていた。
「智恵、おまえ…まさか、あそこまでやるとは…」
珍しく、春人が机で頭を抱え弱弱しく呻いている。
「だってさ、嬉しかっただろ!」
「・・・」
実は、昨夜、春人を家に呼んだのだ。あらかじめ母さんには言っておいた。
「明日、綿菓子好きな友人が来るんだ!…で、夕食後、綿菓子大会やるからっ!!」
すると、母は不思議な顔をして言った。
「どこの子供と友達になったの?」
その後、オレはおもちゃ屋に行き、子供向けの綿菓子マシーンを買って帰った。
やがて…約束の時間になり。
玄関に立つデカい高校生を見て、母は目を丸くした。
「綿菓子の好きな子は??」
その後は…それなりに楽しかった。
春人が母さんを褒めちぎるので(少々わざとらしかったが)、母さんもご機嫌だったし。
綿菓子も可愛いサイズのものを数個作って分けたり、大きいのを作って二人で分けたりもした。
夕食後、丁寧にお礼を言って出て行った春人の頬がヒクついていたのは、気のせいだろうと思っていたのだが…。
「何が気に食わなかったんだよ!」
「食事はうまかった。おまえの母さんもいい人だと思った…だがな…」
春人は、そこで一端言葉を区切った。
「おまえは、オレが綿菓子さえ食べてれば、幸せだと思っているだろう!」
「違うのか?!」
思わず、大きな声を出したオレの横で知らない奴が
「夫婦喧嘩してんじゃねぇよー」
と野次を投げる。
「うるせぇ消えろ!」
春人の怒声を聞いて、「おお、こわっ」と言いながら、そいつはいなくなった。
「本当に何が気に食わないんだ?おまえが綿菓子好きだから、綿菓子マシーンまでバイト代はたいて買ったんだぞ!!」
「おまえのする事は、いちいちムカつくんだよ!」
「なんだとーー!!」
キーンコーンカーン…
ちょうど胸倉を掴みかけた時、チャイムが鳴った。
「早く自分のクラスに帰りな、落ちこぼれ!」
「帰りたくなくても帰ってやる!後で覚えてろ!」
そうして放課後…
「よぉ」
「なんだ、智恵か」
いつも通り、二人で帰る。
「春人」
「なんだー」
「綿菓子嫌いになったのか?」
「んなわけじゃねぇーよ」
夕陽が春人の赤茶けた髪に当たる。
「また、家くるか?」
「ああ」
「そうか」
さっきまでケンカしてたのに、もうどうでもいい。
こんな日常が当たり前になっている。
「また、タコ襲ってこないかなぁ?」
「大丈夫だろ、沖まで行かなきゃ」
オレたちはまた海に来ていた。
夏は海に限る。
とはいえ、前に来た時みたいに宇宙生物に襲われたくはない。
「だからって、なんで男二人でビーチバレー…」
「これもなかなか楽しいじゃないか」
春人の提案で、ビーチバレーを楽しむオレたち。
有事の際は、陸のほうが戦いやすいとの意見だが、まわりの女の子たちの視線が気になる。
こちらを見て、何かコソコソと言っているようだ。
春人を見ているんだ。
と、オレは思った。
そりゃ、背も高いし、かっこいいし、なんていうか綺麗だし…。
オレもぼぉっとして春人を見ていたら、顔面にボールが…。
「うわっ!!」
「呆けてんじゃじゃねーぞ」
ビニールボールなので痛くはないが、口の中に砂が入った。
「ひぃー!じょりじょりするー!!」
「うがい、うがい。ほれ!」
春人がペットボトルの水を手渡してきた。
「やだーーー!!かわいいぃぃーーー!!」
あたりに聞こえる黄色い叫び声。女の子たちがこちらを指差して騒いでいる。
「あ??」
「おまえの事だよ、智恵ちゃん!」
春人にがしっと肩を掴まれて、なぜか後ろから抱き寄せられた。
「は、春人?!」
「でも、智恵はオレのもんだからな!ひぃひぃ嘆くがいいさ、愚民ども!!」
すると、女の子たちはひぃひぃどころかきゃーきゃー言い始めた。
「美形同士だし許せる~♪」
「萌え~!!」
「…」
―お父さん…故郷の星ではどうなんですか―
―オレ、地球人の女の子がわかりません…―
衝撃のあまり、真っ白に燃え尽きたオレを引きずりながら、春人は言った。
「さぁ、いこうか。二人きりの世界へ」
背中にかけられる「がんばってー!」「優しくしてあげて~」という声援。
―まちがっている、こんなの…―
「やっと静かになったな」
人のいない方にやってきたオレたち。
「お、ぉぉ・・春人!!」
「どした?」
挙動不審になり始めたオレを春人が揺さぶる。
「大丈夫か?!」
ついでに頭をつかまれ、左右にブンブン振られる。
「う、うわーーー!!」
春人が顔を覗き込んできた。そして、目の前で指をユラユラ。
「智恵、オレが誰に見える。これは何本だ?」
「春人。2本」
差し出された指をじっと見つめると、正気と現実が戻ってきた。
「春人!!おまえ、ふざけた事言いやがって!!」
「ふざけてなんていねーよ。もし、あの中におまえを狙う敵がいたらどうする」
「う・・・」
春人の言う事はもっともだ。
不思議な力を持つというスキュラ族の脳髄を狙っている奴が、この前の「蟹人間」だけとは限らない。
春人は、地球人の母とスキュラ族の父との間に生まれた宇宙人ハーフたるオレを守るために、秘密機関SSGから派遣されているガードなのだから、まわりに気を配って当然なのだった。
もっとも、オレがそれを知ったのは、数週間前の話なのだが。
オレを守るために命を落としかけた春人を再び危険な目に会わせたくはない。
その思いは変わらないんだけれど…。
「だからって、ああいう理由つけなくても…」
「まぁ、別の意味でも狙われたくないしな…」
「は?」
「そういえば、前もこうやって夕陽見たっけ」
オレを無視した様子で、春人は海を見つめた。
「…」
「…」
春人がそれっきり何も言わないので、オレも海に落ちる夕陽を見つめた。
「うーん、青春だ!!」
「もっとかっこいいセリフの一つでも浮かばないのか?ばーか!」
「しょーがないだろ」
振り向くと春人の笑顔が見えた。
いつか見た時と同じ、綺麗な横顔だ。
こいつの恋人は羨ましいな…毎日、こんな綺麗な顔近くで見れるんだ。
…って、オレ何考えてんだろう。
「と、ところで、不純異性交遊の相手とはうまくいってんのかよ?」
「あ?いや、あんまり」
「や、優しくしてやれよ。おまえ、けっこう強がりでプライド高くて、いじわるなんだから」
「言ってくれるじゃないか、智恵」
春人がムッとした顔でこちらを見ている。
かつて気絶させれた”デコピン”の恐怖がよみがえる。
「で、でも結構いいとこもたくさんある…頭いいとか、顔いいとか、体格いいとか…」
「なんだよそれ、性格は入らないのか?」
「意外と、器用だし…守ってくれるし、それに…けっこうやさし…」
言いかけたところで、口が自由に動かなくなった。
「う、うぐっ」
「ばーか」
春人の声がすごく近くで聞こえる。
何?これは何ぃ~?!