-ピンク色の旋風4-


今日は、普通に学校へ行く。
あの海に行った日から数日たつけど、もう妙なことばかりで、逆にこの妙な日常が普通かと思ってしまうほどだ。
いや、いや、違う。
オレにとっての日常とは、春人と一緒にいることだ。

このRQ(うちの廊下を裸でくねくねと練り歩く&冷奴にマーマイトをたっぷりと乗せる&就寝中のオレをバーベル代わりに片手で上げ下げする&それでもなぜか笑顔は爽やかだ)じゃない!

RQはといえば、さっきから一定の距離をとって、オレをガードしている。

昨日、ちょっと言い過ぎたかな?

でも、勝手に全裸で添い寝されてたら、誰だって蹴りだすだろう。
春人とだって、こんな・・・したことないのに!!

「なんだ、智恵は寝るときに服を着るのか」
しかし、RQはすべてを露にしたまま、こう言ったのだった。
「ちょっ…、アメリカではパジャマって着ないのか?!」
「着ている奴もいるけど、SSGの占い師のように”身体を縛り付けるものは嫌いだね”って言ってる奴もいるし」
「裸族同士しか通じない会話はやめてーー!!」

そんなわけで、RQには「オレの2m以内にはしばらく近づくな」と言ったのだった。

「なぁ智恵!」
「なんだよ」
「学校ってのはSSGみたいなもんか?」
「・・・どういう意味で?」
「皆が集まって、訓練されてんだろ?」
「訓練っていうか・・・おまえ、学校行ったことないのか?」
「・・・行ったかもしれないが、忘れたね」

今度は、”秘密”じゃないらしい。
しかし、学校に通った記憶を忘れるなんてあるだろうか?

うーんと考えているといつの間にか、学校に着いていた。

「鞭振りまわす魅力的な男はいそうにないな」
「そんな先生いたら、怖すぎるから!」

校舎を見上げるRQがいつの間にか、オレの隣に立っていた。

「おはよう」
ふと振り返ると、そこには校長先生の姿があった。
「あ、おはようございます!」

校長先生はニコッとして立ち去った。

「なんだあいつ?」
「校長先生だよ!この学校で一番偉い人!」
「SSGで一番偉い奴のほうがエロさでは遥かに勝っている」
「校長先生にはそんなもの求めないよ・・・」

うちの高校の校長は、歳はまだ若い30代中頃といったところだろうか。
前校長の孫に当たる人で、世襲でこの高校を継いだわけだけど、評判もわりかしいいほうだ。
見かけはまぁ普通、エロくない(当然か)。

「ところで、SSGの偉い人ってそんなに…」
男でそんなにエロい人をオレはまだ見たことがない。
春人は綺麗だけど、エロとは違うし・・・。

RQが口を開きかけたとき、チャイムが鳴った。

「あ、やばっ!!RQはこの辺うろついてて!学校の周りで全裸とかやめてくれよ!!」
「ああ。しっかり見張っておくからな智恵坊!」

RQは軽く手を上げた。





「次は、数学かぁ~あ~あ、春人助けて~~」

苦手な数学が2時間ぶっ続けなんて、悪夢すぎる。
かといって、オレが苦手じゃない科目というものはほとんどない。
家庭科と音楽はそれなりにましだったとしても。

「それじゃ、皆授業を始めるぞ」
数学教師が入ってきた。
これから2時間・・・頭をフル回転させなければっ!!
RQどうしてるかな??



校長室にて。

「なんだこれは?」
「校長先生への届け物だそうです」

彼は、自分の机に乗っている包みを手に取った。
それは、白い布で包まれている石のようなものだった。

「・・・なにかの原石か?」

黒い溶岩のような・・・
しかし、中から赤い光が漏れている。

「!?」

当初、彼はそれを色石の類かと思っていた。
まるでルビーのような濃い紅が石の中で燃えている!

「うわぁぁーーー!!」

驚き、机の上にそれを投げたものの、赤い光は彼を取り込むように強さを増した。
部屋が火でもついたように、一瞬凄まじい光に包まれて・・・、すぐに静寂を取り戻した。




「これは・・!!まさか」
校庭の片隅にいたRQは、ただならぬ気配に顔を上げる。
瞬間、その表情は驚愕から強い決意を込めたものに変わった。

「早すぎる。しかし、奴らだとしたら・・・」

だが、前へ進もうとするRQの前に壁が立ちはだかった。
それは、さながら炎の壁だ。

「進入させないつもりか、しかたねぇ・・・」

炎にゆっくりと手をかざす。

「目覚めよ」

その口調は、普段の彼のものとはずいぶん違っていたが、誰もそれに気づくものなどいない。





「あーあ、もう死にそう~~!!」
ようやく休み時間がやってきた。
10分だけ数学から解放される。

「風見懐かしさに死にそうーになってんじゃねぇよぉ」
「そんなんじゃない!」
からかってくる隣の奴をあしらいながら、オレはもう一度ノートを見直した。
春人だったら、こんなのすぐに解いちゃうんだろう。
どうして、オレの半分流れているスキュラ族の血はうまく覚醒しないんだ?
うーん。

「スキュラ族のくせに覚醒がうまくいっていないと見える」
突然、頭の中で考えていたことを声に出されて、驚いて顔を上げると、そこには

「校長先生じゃないか、あれ?」
「どうして、校長が教室に来るんだ?」

校長先生は、オレのほうをビシッと指差した。

「すみません、まだ解けてません!」

大慌てで、返答を返す。
まだ・・・5分しかたってないよ。休み中に問題やっとけって言われても早すぎるよっ!
大体、なんで校長先生なんだ?
数学の先生はどこいったんだ?

「愚かな・・・・」

校長先生は呟いた。
馬鹿とは言われ慣れているけど、いくらなんでも愚かとは言い過ぎた。
これでもちゃんと予習と復習はかかさないのに。

「この愚かなスキュラ族以外のものには退場してもらおう!」

そう言うなり、校長先生は両腕を高々と上げた。
その掌に赤い光が集まっていく。

オレの体を熱風が襲った。

「なに?!」

オレ以外のクラスメイトが風に巻き込まれて、次々に気を失っていく。

「校長・・・・」

校長先生は、いつになく邪悪な笑みを浮かべていた。
この状況・・・あの時と似てないか?
そうだ!凍牙がなんとか星人に洗脳された時と瓜二つ。
でも、凍牙はこんなにミラクルな真似はしなかった。

掌からエネルギー弾を放つなんて!

「なんの目的があってこんな・・・!」
「目的は・・・」
「また、オレ狙いか!」
「違う」

即効で返された。
洗脳されているのでなければ、校長先生を嫌いになってしまいそうだ。

「わが目的はSSGにある。愚かな地球人のくせにスキュラ族をガードしているだと・・・、
思い上がるのもいい加減にしろ!」
「そんなこと言われたって」
「奴らに己の部をわからせてやるのさ。この星は人のものではないと」

SSGへの怨恨による犯罪だということはわかった。
オレだって、サスペンスを観ることもあるのだ。

「オレには、強い味方がいるんだ!おまえなんかに攫われるものか!」
すぐにでも、SSG最強の男が現れるはず・・・。
しかし、校長先生はまたニタリと笑みを浮かべて言い放った。

「この校舎のまわりには結界をはってある。どのような人間も決して入ることはかなわない。
たとえ、それがSSG隊員であったとしても」
「くっ!!」

思わず身構えた。
それでも、絶対にRQはやってくる!
あいつにかなわないことなんて、あるもんか!
絶対に悪い事なんか起こるわけがないって、信じられる笑顔だったから。

「オレは、てこでもここを動かないからな!」
「・・・では、死なない程度に痛めつけてやろう」
「えっ!?目的オレじゃないって言ったじゃん!」
「気が変わった。SSGにはいい見世物になるだろう」
「そんな~~~」

校長先生の掌がこちらに向けてゆっくりと開かれる。

「!!」

極めて動物的勘!
校長先生の掌から放たれた火の玉をぎりぎりのところで、避けた。

これは、渡辺智恵がスキュラ族だからとかいう理由ではない。
単純に「こんなところで死んでたまるか!」という図太さに違いない。
校長先生の放ったエネルギー弾は隣の机にあたり、四散した。
・・・エネルギー弾も消えたが、同時に机も四散したのだった。

「は、春人ーー!!」

オレは叫んだ。
RQではなく、春人の名を。
ずっと身近にいた存在を。

その時だった。

まわりの大気が震えたのは。

「空気が鳴いてる」

何が起こったのか、まったくわからなかった。
オレの視界を横なぎに走る光の波。

それはちょうど、電波が目に見えたらこんな感じ・・・というイメージだった。
稲妻の針がシャワーのように空気を伝って空間を飲み込み消えた。

「馬鹿な!何が起こっている!答えろ、スキュラ族!」
「知らないよ!」

この現象に驚いているということは、校長先生、いわば敵が起こしたわけではないらしい。

「智恵!無事か!」
声とともに、ドアが開かれた。同時に、どっと桜の花びらが部屋に流れ込む。
これは、校庭に咲いていた桜に違いない。
この不思議現象に巻き込まれて、散ったのだろう。
一陣の桜吹雪の中にいたのは、ピンクを背負った男。

なぜか、黒いタンクトップが破れている半裸のRQは、まるで時代劇の遊び人みたいだった。
そして、校長先生を睨み付けて、
「やはり、奴がらみか・・・」
と呟く。

「キサマはどうやって・・・」
校長先生の言葉が終わるか終わらないうちに、RQの腕が伸びた。

本当に見えるか見えないか一瞬だったけど、間違いなく、オレは、見た。

RQの掌が校長先生と同じように光り輝くさまを。
その光は、校長先生の掌みたいに禍々しい炎ではなく、先ほどこの部屋に降り注いでいた稲妻と
同じ、まさに光の塊だった。

稲妻が校長先生の胸を貫いた。

校長先生の身体がぐらりと倒れこむ。

「RQ!校長先生!!」

RQが・・・校長先生を殺した?!

すっかり桜吹雪はやんでいた。
RQがこちらを向く。
手に禍々しい赤い光を放つ石を持っている。
オレには、それが校長先生の命に思えた。

「RQーーー!!やめろーー!!!」
「智恵っ!!」

こちらに駆け寄るRQの身体がふわりと浮いた。
まわりのものも、安定をなくして空中に浮かびはじめる。
違う、空中に浮いているんじゃない!

オレ自身はその場所に留まっていた。
すべては、ここから始まっていた。

止め処なくあふれる水の波。

明らかにオレを囲む空間から発している。

「どうなって・・・え」

水に触れている身体の一部が透明になっていく。

「うわぁぁぁ!!!」

まだ人間やめたくありません!!

「春人っーー!!」
「智恵、落ち着け!」

「とまらない!とまらないんだ!!」

これだから、パニくるな!って春人にいつも言われてるんだ。
でも、一体どうしたら、冷静になれる?
オレ、半透明になっちゃっているし!

「スキュラ族の力が放出しているだけだ。おまえの意思で止められる」
気が付くと、RQがオレの額に手を当てていた。
「無理だよ!どうやって止めたらいいかわからない!」

教室は、水で満たされていた。
校長先生も、机も、ノートも、 クラスの皆も、水の中を漂っている。

「皆が・・・しんじゃう!」
「目を閉じてろ」

RQの言葉に従い、瞼を閉じると、額にビリッと痛みを感じた・・・。






また
あの夢・・・・。

どこまでも続く深海。
そこへ降りていく。

いつもはとても安心できる空間なのに、負の感情が胸にわきあがっている。

言いたい事があるのに、何を言っても通じない。
留まってほしいのに、行ってしまう。

私を一人にするのか!


なんて、孤独な感情。


目の前に浮かんでいる気持ちをそっと抱きしめた。

すると、深海が開けた。

前にも一度見た、空の上。

「ここは・・・」

とつぜん、背後から肩を掴まれた。
オレは、その人物を見た。
胸に懐かしさがあふれてくる。

それは、少年の面影を残している赤毛の男だった。
春人のような赤茶けた髪ではなく、紅に近い。
黄金色の大きな瞳が悪戯っぽくこちらを見ている。
人懐っこい上に、恐ろしく知的で、目が合った相手が思わず笑みを浮かべて返してしまいそうな、そんな表情の男だった。

そいつは、嬉しそうにオレのほうを向いて言った。


「ソフィア」





「おい!渡辺!」
「智恵!」

「うーん」
目を開けると、クラスの奴らがオレの顔を覗き込んでいる。

「やっと目覚ました。あ~よかった。休み時間中に倒れたんだぜ、おまえ」
「え・・・どして」

さっきまで、ここは水の中で・・・RQが校長先生倒して・・・。

「そうだ!RQ!RQは!?」
「オレは、ここにいるぜ」

いきなり頭の上で声がした。
やっぱり半裸のRQだった。ピンク色の髪に桜の花びらが絡んでいる。

「RQ!校長先生は?」

すると、

「まぁ、どうしたんですか?校長先生」

と数学の教師の声がした。

「う、うーん??」

教壇の上で尻餅をついていた校長先生は、何度か首を振る。

「私にも何がなにやら・・・すみません」
「今の時間は自習にします」

数学の先生は、釈然としない様子の校長先生に手を貸しながら、教室から去っていった。

「殺してなかっただろ?」
RQが耳元で呟く。
「う、うん。でも・・・あの時」

たしかに、RQの放った光が校長先生を貫いたように見えたんだけどな。

「オレが思うに、あの二人はデキてる!」
「は??」
「自習だってさ、あれは一時間以上姿を見せないに賭けるね」
「ちょ、ちょっと。数学の先生と校長先生だろ、そんなのあるわけない!」
「うーん、オレがあの立場だったら、間違いなくそうしてる!」

「・・・」

ところで、こんな得体の知れない半裸の外人がここにいて、皆おかしいと思わないのか?

「渡辺、おまえにアメリカ人の従兄弟がいたなんて、初耳だぞ」
「なにそれ?」

RQがクラスの連中に余計な嘘を吹き込んだらしい。

「アメリカ人の従兄弟がいるのに、英語しゃべれないのって不思議だよな~」
「う、うるさいっ~~」

それ言ったら、アメリカ育ちの親友がいるのに、英語の成績が赤点スレスレっていうのを先に突っ込んでほしかった。

ふとドアをみると、RQがヒラヒラと手を振っている。
どうやら、授業参観まではする気はないらしい。

オレは、今日やっと胸をなでおろしたのだった。