-ピンク色の旋風2-
「ただいまー!」
まだ7時だし、母さんは寝ているのかも…。
そう思って、そっと玄関で靴を脱ぐ。
朝ごはんを用意して…。
目玉焼きとサラダくらいは作っておこう。
ずっと母さんと二人暮らしだから、このくらいはすぐにできる。
「ピーナッツバターをダブルで、ああ、フルーツも乗せてくれ」
「…えっと」
こいつ誰だっけ?
ごく当然という風に椅子に座って、トーストを頬張っている男が一人。
「なんだ~ここにはマーマイトもないのか、しょうがない。これなんだ?」
イカの塩辛をトーストに乗せて、パルメザンチーズを振りかけているそいつ。
「なぁ。その…外人28号さん」
「ああ?オレはRQだ」
「どうして!」
つい怒鳴ってしまった。
RQは、ぎょっとしてこちらを見ている。
「どうした、智恵」
「どうして」
トーストに塩辛乗せてんだよ。
チーズって余計だろ。
それより、なんでオレ家のもの食ってんだよ。
なんで、勝手に入ってきてんだ。
いいたい事が多すぎる。
せめて、最重要事項のみを伝えよう。
「靴、脱げよ」
「おおっ!オレとしたことが!これはすまない」
大げさにお辞儀をして、RQはキッチンから姿を消した。
「ほっ…」
あれが、春人のかわりにSSGからやってきたガード。
まさに謎の男だ。
前に来たセーラー服の凍牙といい、外見に特徴がある奴が多いのか?
それにしても、あのピンクの髪はないだろう。
そんなことを考えていたら、「きゃーーー!!」と母さんの悲鳴が聞こえた。
「母さん!」
いやな予感的中!
キッチンを飛び出して玄関に駆け出してみると、口に手を当てて驚いている母さんの姿と、なぜかその前で土下座をしているRQが。
「智恵、このお友達は誰なの?!」
「と、友達じゃない!!」
こいつが(まじめな高校生活を送るオレの)友達に見えるというのだろうか。
どう考えても不法侵入者にしか見えないぞ!
不法侵入者は、至極まじめな表情で「お母様」と口を開き
「息子さんを私にください」
と白々しく述べた。
「…まあ。いつから、この人とそんな関係だったの、智恵?」
「え!?」
「プッ!」
「ウフフ」
唐突に笑い出す二人を目の前にして、オレは…オレの頭は真っ白だった。
「なーんて。まさか、オレがそんなこと言うはずないだろ!」
「智恵ったら、顔が引きつっているわよ」
「母さん…RQ…」
「いやはや、千春さんと出会った途端に意気投合したんだよ!こう…運命っやつぅ~?」
「またまた、RQさんはお上手だこと!」
母さんの名前を初対面で呼ぶのもおかしいが、いつの間にこの二人は意気投合したんだ??
にこやかに話す二人には、オレの拳が震えているのは見えまい。
「そういうわけで、これから1週間。よろしくお願いしますー!千春ママ!」
「OK!RQ!」
ハイタッチする二人は見ないふり。
そこへ上機嫌のRQが肩を抱いてきた。
顔を寄せて、
「さすがは智恵のお母様だ」
と…。
そうか。改めて思い出してみれば、オレは宇宙人1/2。
母さんは宇宙人と恋に落ちて、オレを生んだのだ。ピンク男くらいでは驚くまい。
この中でオレ一人が宇宙人なんだよな(RQが宇宙人でない限り)。
てっきり、自分一人が地球人だと思うところだった。
「朝ごはん作っておいたからさ、ちょっとシャワー浴びるよ」
「ありがとう、智恵。さっそくいただくわ。RQさんは、もう?」
「ああ、大丈夫。塩辛とチーズのサンドをいただいた」
RQがわかったように頷く。
「智恵、まさか私もそれじゃないでしょうね?!」
母さんの声がまた悲鳴に近くなった。
「んなわけないだろ!塩辛チーズサンドはRQだけだよ」
あーあ、さっさとシャワーを浴びてしまおう。
春人…今頃なにやってんだろう?
アメリカって遠いよな。
毎回、飛行機って怖くないのかな?
向こうは今、どんな空なんだろう?
シャワーが顔にかかるたびに目を閉じると、春人が思い浮かぶ。
綺麗で意地悪なあの笑顔が。
ガタン!
物音とゴホンという咳払い。
ドアの向こうに誰かいるーー!!
「だ、誰だ!!」
「OK…OK!もちろん、オレだ!
」
声の主は、RQ。
「なにやってんだよーー!!」
「ガードしてるつもりだが」
「こ、こんなところまで付いてこなくていいよっ!」
「HAHAHA!ジャパニーズはシャイだなぁ!!」
「そういう問題じゃないだろ!」
アメリカ育ちの春人でもこんな真似はしないぞ!?
「まぁ、オレのことは気にするな」
「気になるよ!」
今まで湯気のせいで見えてなかったが、シャワーを止めた途端に、奴の馬鹿でかい姿がドアに張り付いているのが確認できた。
こ、このままでは、BLの受役のような運命がオレを待っていそうな気がする。
「おまえなんて受けないぞ!」
渡辺智恵、必死の口攻撃!…のつもりが少々危ない内容になっていた。
「…」
すると、RQは黙っていた。
どうも固まっているらしい。
意外だ。
「智恵坊…おまえってすごいな。春人にも見習わせたいもんだ」
「別に、春人をどうしたいってわけじゃない!」
「…」
再度、RQは沈黙した。
今度はどうやら笑いを押し殺しているようだ。
そして、脱衣室から出て行く気配がした。
服を着て出て行くと、RQが台所の椅子に座っていた。
「春人がこのガードの任務をC+って評価したの知ってるか?」
「…?どういう意味?」
そういえば、前にそんなことを聞いたような気がする。
RQはリズムを刻むように、人差し指を振りながら話し始めた。
「SSGの任務レベルは簡単なほうからA、B、C…と並んでいる。この任務はレベルAだった。しかし、あいつがSSGに帰ってきた時に、この任務をレベルC+に変えろと申請したのさ。」
「…まぁ一度は危ない目にあったわけだし、それで」
春人はオレを助けようとして、敵性宇宙人に殺されかけた過去があった。
その時を思い出し、しゅんとなったオレに、RQはチッチッ!と指を振る。
「あの負けず嫌いが、たとえ危ない目に1,2度遭遇しても自主的にレベルを上げさせるなんて考えられない。だが、今ならオレにもわかる。この任務はレベルOくらいの難易度ではある」
「レベルOってどのくらい??」
「世界で一番魅力的でくそ真面目な男に、Oバックを履いてもらうくらいの難易度さ!」
RQの指で作られた○が、オレに狙いを定めていた。
「お、オレは履かないよ!長官さんに履いてもらえばいいじゃないか!」
おぼつかないオレの記憶によれば、SSGの長官さんはブリーフだかTバックだかを履いている人だったはずだ。Oバックくらいお手の物だろう。
RQはきょとんとして、オレを見つめると、次の瞬間、腹を抱え大笑いを始めた。
そりゃ、涙がでちゃうくらいに。
「ははは!!本当にこの任務はレベルOだぜ!だがな、オレがちゃんと守ってやるから安心しろ」
さっきまで大笑いをしていたはずなのに、ふと見るとRQは真顔に戻っている。
「ところで、おまえ。スキュラ族だっけ?」
唐突に投げかけられた質問に、オレはうんうんと頷いた。
「そうか…そうだったな」
そう言うと、RQはふいに視線を流した。
まるで何かを懐かしむように…。
どうしてそんなふうに見えたのか、オレにもわからない。
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