-ピンク色の旋風1-

春うららのこんな日。

満開の桜を眺めながら、オレはしみじみ日本に生まれてよかったと思った。

オレは、渡辺智恵。
一般的な高校生だ。
だけど、実は宇宙人1/2。
知能レベルが恐ろしく高い宇宙人スキュラ族と地球人のハーフ。
しかし、オレ自身が優秀かというとまったく違う。
今日も春人に勉強を教えてもらいにいくのだ。

春人は成績優秀な高校生…なだけじゃなく、国際的秘密機関SSGの隊員で、宇宙人ハーフのオレを守るために派遣されたガード。
けど、今では仲のよい友達。

おっと。
春人のマンションの前についた。

ええと、部屋番号なんだっけ…。


・・・・・・・・・・・

「智恵。オレのうちに毎日来てるくせに、部屋忘れるなよ…」

呆れ顔で春人は赤茶けた髪をかきあげた。
鋭い切れ長の瞳が、仕方ないという風に閉じられている。
普段、オレの頭は優秀とはいえない(春人の部屋番号も忘れてしまうほどだ)。
しかし、スキュラ族の能力が過去に一瞬だけ覚醒したことがあるので、密かに期待していてくれるのかもしれない…。が、しかし、悪い頭が急によくなるわけない!

「ちょっと考え事してたら度忘れしたんだよ!」
「おまえの度忘れは、度を超えてんだよ!で、昨日教えたところやってきたか?」
「ああ、うん…」

あわててバッグからテキストを取り出すと、春人はそれを取り上げて、さっと目を通した。

「おまえにしては、がんばったじゃないか」
「えへへ!そりゃもちろん、教える人がいいからさ」
「あ、まぁ…そうかもしれないな」

春人は、ポリポリと頭をかきながら、ため息を一つついた。

「なんか変なこと言った?」
「そうじゃなくて…。オレはしばらく留守にするから…テスト追試になるなよ」
「どうして??」
「急に呼び戻された。代わりのガードが来るらしいから、そいつに…」

春人がそう言いかけたところで、オレは思わず春人に抱きついてしまった!

「そんな!突然!なんでだよ!めちゃくちゃじゃないか!オレたちこんなに仲良くなったのに!神様のバカっ!!SSGの長官さんのバカぁーーー!!!」

「???っ…勘違いするな!」
「おまえがいくらツンデレでも離すもんか!オレの春人っ!!」
「ちょっ…!智恵!」

春人の声が上ずって聞こえたせいで、思わず手を離す。

「ここにいてくれよぉ~」

…だが、泣いているのはオレのほうだった。

「人の話をちゃんと最後まで聞け!オレがSSG本部に行ってくる期間は、1週間だ!」
「ああ??100年??」
「7日間…」
「…ひっく…なんだ」

気が付くと、春人に鼻を抓まれていた。

「鼻水拭けよ」
「ぶ。ぶん」

オレが鼻をかんだ後、春人はゆっくりと話した。

ー春人は用事があって、1週間SSGの本部に帰る。
しかし、その間はSSGから別のガードがやってくる。
代わりのガードには信頼できる人物を推薦しているそうだー

「春人、気をつけて行って来いよ!」
「…急に態度変えやがって。もう一度言うが、おまえは最後まで人の話をよーーく聞けよ!」
「うんうん。それで、アメリカ土産なにがいいかなぁ?」
「別にたいしたもんないから」
春人は、急にプイッとした。

でも、これからも一緒にいられるんだ!

それが嬉しくて、不貞腐れたような顔をしている春人に飛びついたのだった。







それから、3日後。

「は?これは何かの間違いだろうな!」

オレが部屋に入った時、春人は携帯電話に向かって怒鳴り散らしていた。
しばらく言い合いをした後、叩きつけるようにして電話を切った。

「誰から?」
聞くと、ムッとした表情でこちらを睨みつけてくる。
「何だよ…」
「悪い知らせだ」
春人は、さらに「最悪だ!」と吐き捨てるように言い、手にした書類を握りつぶして、そこらへんにほおり投げた。

「ゴミはちゃんとゴミ箱へ!」
「こんなもの窓から投げ捨てるか、燃やしてやりたいぜ」
「ダメだ、春人!地球に優しく!」

もう一度、書類をつかんだ春人は、それをオレの目の前にバン!と広げて見せる。

「そんなの見せられてもわかるもんか。オレの英語の成績…」
知ってるよね…という前に、
「ああ、中間で23点だったな」
と諦めたような返事が返ってきた。

「う、うるさいな!」
「オレの代わりのガードについて書いてある」
「ああ、この前言っていた人だろ。春人が頼りにしている人って…」
「いいや!」

途端に目の色を変えて、ずいっと書類を押し付けてきた。

…だから、そんなことされたって、わけわかんないって…。

それより、春人はこうして近くて見ると、本当に美人だ。

「いいか、よく聞け!ぼんやりしているんじゃない、智恵!」
「え、ああ。春人ってかっこいいから、アメリカ行っても、全然だいじょうぶ…」
「…」
一瞬、春人の顔がきょとんとした。
それが、先ほどより険しくなるまで、あまり時間はかからなかったが。

「智恵!前にも言ったが、人の話を聞け。特にオレの話をちゃんと聞け!これはおまえの危機なんだぞ!」
「へ!危機っ!?」
「おまえのガードだが、オレが最初に指名した人じゃなくて、違う奴になった。で、そいつは…組織の中でも最強の奴だ。…だが、まさか奴をよこすとは!何考えてんだ、あのおっさん!」

やっぱり、春人は書類を丸めて床に叩きつけた。

春人がおっさんと呼ぶ人物は、SSGの長官さんだ。
以前やってきた凍牙の心を虜にしている人物らしいが、一体どんな人なのか?
気になる。

それ以上に…

「最強のガードなら、頼りになるじゃん。どこが問題なんだよ?」

負けず嫌いの春人が”最強”を認める相手なのだ。
強さは本物に違いない。

すると、春人は頭を抱えた。


「そいつ…最強の変態野郎なんだ…」







「おまえは、すぐに抱きついたりするのやめろ!」
「は、春人にしかやらないけど」
「…なら、まぁ…いい。しかし、奴が勘違いしたら困るからな、あいつには一定の距離を保って接するようにしろ。いいか、奴のペースに乗せられるんじゃないぞ」

明日、春人はSSG本部に旅立つ。
そして、入れ替わりに代わりのガードがやってくるという。
先ほどから、いやにピリピリとしている春人。
どんな奴がやってくるのか…正直不安でたまらない。


「身近に気をつけろ!気を抜くな!おまえを狙っている中でも、最も危険なのがあの男だ!」
そういい残し、春人は空港行きのタクシーに乗り込んだ。


まるでガードじゃなくて敵性宇宙人でも送り込まれる気分だ…。


あー!春人、早く帰ってきてくれよーーー!!!


・・・・・・・・


次の日。

春人は今頃、空の上だろう。
SSG本部があるというアメリカまでは10数時間かかると聞いた。
時差ってのも当然あるはずだから、春人が着くのは何時だろう。

…何時になるんだろう?何日、何曜日??

今日は土曜日だから…。

??

ダメだ、朝から頭をつかわないほうがよさそうだ。



ところで、オレは休日の朝にジョギングをするようにしている。

いつまでも春人に守られてばかりではいけない。
体力をつけるんだ!
がんばれ!智恵!
そう自分に言い聞かせて、家の前から走り出したオレの前に、やたらデカイ外国人が現れた。

「Yoooooo!朝から元気だな、少年!」
そいつは流暢な日本語で手を振ってくる。

「ご近所の方ですか?」
こんな外人見たことない。
2mを超える身長のわりに全体のバランスが取れている。
モデルのような容姿。
美麗というよりワイルドな雰囲気だが、がさつではない。
TVでも、なかなかこんなに整った人を見ることはないだろう。
だが、そいつの郡を抜いた美形ぶりは、ショッキングピンクの頭髪によって、全てぶち壊されていた。

「さぁ、走ろうぜ!智恵坊!」
「あ、なんでオレの名前…」
そいつは、いきなりオレの手を引き、信じられないスピードで走り始めていた。



ああ、まるで景色が走馬灯のようだ…。

いつの間にか、オレの足は地を離れて…。

オレは遠くなる意識の中で、ふと考えていた。


「ところで、こいつは誰なんだ?!」



・・・・・・・・・・・・・・・・



「おい!起きろって!早朝だからって、走りながら寝るなよぉ!」


気が付くと、そいつがこちらをのぞき込んでいた。
空色の瞳が爽やかに笑っている。

「ほぉ、こうして見るとなかなか可愛いな。春人の好みはこういうのか…」

ー春人?ー

ガバッと起きあがって、あらためて、この美形超人を見る。
ひょっとすると、こいつが春人のいっていた代わりのガードなのか?
日本語が通じそうだし、ひとまず聞いてみよう。

「長官とかいう人に命じられた人?」
「魅惑の鞭使いに調教された人だ」

「…」

返事しようがないんですが…。
ーオレ、なんか質問を間違えたか??ー
混乱してくる。
きっと、この程度の知能レベルで解析できる問題じゃないんだ。
ますます、SSGが怪しげな集団に思えてきた。

「たしか…ブリーフを履いた彼…」
オレが、”SSGの長官”といって覚えている特徴は、このくらいである。
すると、ピンク男は至極まじめな顔になり、叫んだ。

「いや、今度からはTバックを履く予定の彼ェェェェーーー!」

ビシッとポーズを決めて、なぜかオレのほうを指差している。

「!!!」

ダメだ!
こいつとは会話が通じない!

朝のジョギングコースには老人も多い。
その人たちが目を丸くして、こちらを見ている。
もはや、「この人は日本語がわかっていないんです」とは言えないだろう。
こんなにべらべらしゃべった後では。

まわりをきょろきょろと見回しているオレの肩を抱いて、そいつは親指を立てて見せた。

「んあ、まぁ仲良くやろうぜ!智恵坊。オレの名はRQ。SSGから来たRQ!おっと、それ以外は秘密だぜ!」

…RQに合わせるように、ニィッと白い歯を見せて抜群のスマイルを返してみた。
それ以上、発すべき言葉が思い浮かばなかった。





家に帰る。
一番いい選択肢はそれだ。