-PINK-

鳥の鳴き声が聞こえる。


昨日、見た夢は最悪だった。
どうして、私があんな事を…。
悔しいのは、今でもこの耳に残っているあいつの声がいやにリアルだった事だ。

「綺麗だ」

くり返し、あいつは言った。

右顔と胸の傷痕に口をつけて

「オレは夜空を抱いている」

と言った。


おかげで身体が重くてたまらない。
全部全部あいつのせいだ!

今日こそは、無理やりにでも勝負をして叩きのめしてやろう。

そう思ってベッドから出ようとした。

…身体が動かない…。

何者かの腕が身体の上に乗っていた。

「・・・」






「ぎゃーーー!!」

リヒャルトは、ベッドにいる男の姿をよくよく目を見開いて確認した。
どう考えてもRQだ。
昨日の夢で血まみれにしたはずの。

彼は傷一つない顔と身体で、すやすやと寝ている。

カーテンもシーツも壁も床も…血液の跡などない。

やはり、夢だったのだ。

だが、どうしてこいつがここにいる?


「おい!おい…キサマ起きろ!起きんかー!!」
「う、うん??」

目をこすりながら、RQは「ふぁ~」と大あくびをして
「なんだ?」
とお気楽な声を出した。

「どうして、キサマがここで寝ている」
「…そりゃ…あの後だからなぁ…部屋に戻るってのもなんだし」
「あの後とは?」
「リヒャルトとSEXした後」
「・・・・嘘だ」
「嘘なもんか」

「ああ、ほら身体見てみろよ」

RQが指差す部分を見てみると、赤く鬱血した痕が。

「そこと…そこと…あ、もっと下にも」
「だ、黙れー!」
居た堪れなくなって、リヒャルトはベッドから出ようとした。

「おい、いきなり立ち上がったりしたら…」
「っ!!!」

下肢の一部に鋭い痛みを感じ、同時に膝が力を失っている事を知る。

「あーあ、大丈夫か?」

しかも、何も着ていなかった。下半身も含め。

「ふーん、そうなってたんだ。昨日は暗くてよく見えなかったからな。
へぇ~どうりでちょっと変な感じがしてたんだ。そこ薄いのな~これじゃ兎兎もがっかりだ。
だが!オレは気にいった。ほぼ丸見えってのも可愛いじゃ…」
「うるさいっ!!!/////」

ちょっとコンプレックスに思っていたことを口に出されて、リヒャルトはRQを思う様殴った。

「何すんだ!」
「さっさと出て行け!私の前から消えろ!」
「初めての朝にしちゃムードがなさすぎるだろ」
「…!」

夢だと…思いたい。

だが…頭が冴えてくると同時に昨夜の記憶が蘇ってきた。





ずっと、その部分をくすぐるように擦っている指。
「んぁ……や…」
そうしながら、全身をくまなく愛撫していく唇、舌。
たまにくちゅっと音をさせて指先だけを入れるのに、何かが足りない。
「も・・もう」
「じゃあ、もういいか?」
そう言って、あいつは背中のほうから何かを取り出した。
「背中側に入れてよかったな。無事だ」
チューブのようなものから透明のジェルを出して、指につけた。
「これで、痛みは軽減されるはずだ。おまけに気持ちよさは倍になる」
「・・え?」
何をされようとしているのかもわからず、ただ眺めていた。

ぐにゅ…

「あ!ああっ!」

指が奥深くまで入っていく。

「やめっ…」

これは夢だ。悪い夢。

クチュクチュと音をさせながら、何かを探るように身体の中で蠢く。

「あ、ダメ…だ。あっん!そこ…!」

背筋を突き抜けるような快感が全身を襲った。

「そうか、ここがいいんだ」

嬉しそうなあいつの声。

・・・・・・


夢だ。じゃなかったら、こんな事…。

十分に慣らされた後、暗闇の中で湿った音がした。

「ちょっと力抜いてろ。痛くしないから」
「?」

指よりも熱い、もっと硬いものが濡れている部分に当たる。

「ふ・・っあっ…やめっ…ダメだ!そん…」

ぬるりとした感触、無理やりねじ込まれていく圧迫感が下肢を襲う。
「あ、あああ…」
指とは比べ物にならない容量に身体中が満たされていく。
しかし…
「いたいっ!」
少し身体を動かすと、切り裂くような痛みに襲われた。
「しがみついてろ」
あいつがゆっくりと身体を倒す。

髪も肩も血まみれのはずなのに、なぜか甘い香りが充満している。
もっと味わいたくて、肩口に口をつけて歯を立てた。
「リヒャルト…綺麗だ」
耳に囁かれる声。
この声に弱いと、その時初めて知った。
「好きだ」
初めて口をきいた時から、何度となく言われてきた言葉。
「好きだ」

身体が痺れる。
先ほど感じた鋭い痛みが消えていく。
あのジェルのせいなのか、それとも…。
そのかわりに、身体のずっと奥から得も知れない衝動が湧き上がってきた。

「い、いやだ…」
「大丈夫…」

湿った音に身体を揺らされるほど…。

「頭がおかしくなる…こんなの知らないっ!」

逃れる手は一つしかなかった。

「まだ夜は早いのに、そんなに急くなよ」
「あ・・・」

前に回した手を押さえられる。

「いつもこんなふうに乱暴に扱っているのか。もっと丁寧に扱わないとな」
「ん…///」

自身を握る手を上から押さえ込まれて、ゆったりと大きく扱かれた。

「ひぅ…ううっ」
「このほうがずっといいだろう?戦い方では教わる事のほうが多いが、こっちはオレが教えてやるよ」



…絶えない喘ぎと、吐息、甘い嬌声。

「ひぃ!!イィ…!!」
「悦い?」
「ちがっ…あ、イクっ!ああっ…イクっイクっ!!」






「まさか、あんたがあんな言葉を知っているとは思わなかったけどな」
「・・・・!!」

目の前がぐらつく。
RQはあいかわらず幸せそうな顔で微笑んでいる。

「私の前に現れるな!今すぐに消えろ!」
「オレの事嫌いなんだ?」
「当たり前だ!大嫌いだ!早く消えろ!」
「そうか、じゃあ嫌いな奴に抱かれたんだ?」
「…え…」
「そういう奴だとは思わなかったが」


RQはふいっと窓の外を見つめながら、心なしか寂しそうに呟いた。

「オレ、やっと受け入れられたと思ってたのにな…。ずっと想い続けて、やっと幸せになれるって嬉しかったんだ。ここにリヒャルトがいてくれるって。いつもそばに…」

そうして、顔を覆った。

「お、おい…泣くな」
「泣いてなんていないさ。絶望しているだけだ。想い踏みにじられたって…」
「・・・・」
「・・・」
「わ、私は人を好きになった事がない」
「・・・」
「だ、だから、人を好きになるという感情がどのようなものかわからない」
「・・・うん」
「つ、つまり…今、私がおまえに対して持っている感情も…その…好きというものかどうか、はっきりした事は言えない」
「うんうん」
「だから、この気持ちが好きだというものだと私自身が認識できるまで、しばらく返事を待ってくれないか」

「これで決まりだな!」
突然、RQがさっきの落ち込みようもどこへやら高らかと宣言した。
「オレは、リヒャルトに好きになるとはどういう事かを、これからじっくり時間をかけて教えてやる。そのかわり…」
「…そのかわり、私がはっきり認識できたなら、その時は…私を好きにしてもいい…」
「え、その…」
今度はRQが驚く番だった。

「嫌いな奴になど、抱かれはしない」
「・・好きだ!リヒャルト!!」
「まてっ!だから、まだっ!!」

いきなりベッドに押し倒そうとしてきたRQの巨体を押しのけながら
「わかるまで、私には触れるな!わかったな!!」
リヒャルトは犬でも躾けるかのような口調でRQを諭した。


まったく、この男はどこまでも・・・・。


「ところで、おまえの言った事が全て真実なら…」

血まみれのベッドやカーテンはどこに?

「あれ、汚れたんで朝一で捨てといたぜ。壁も床も拭いたんだ。感謝しろ」

なら、なんでこいつは無傷なんだ??

「あ、ひょっとしてオレの身体を見てる?この前、銃で打たれた時は言いそびれたが、オレの身体はちょっと特殊でな。大概どんな傷でも眠れば元通りになっちまう」

「キサマは何者だ?!」

「さぁ?オレはRQ。ただあんたに惚れている男さ」








数年後…



「それで、勝負はどうなったんですか?」
機械部に所属したばかりの潤一は、兄の兎兎に聞いた。
「ああ、今だって続いているみたいだよ。でも、お互いに賭けの内容なんてどうでもよくなっちゃったみたいだけどね」
「あのお二人にそんな過去が・・」
潤一が知っている限り、リヒャルトとRQがそんなに仲がいいようには見えない。
「ジュージュは来たばかりだから、わからないのかもしれないけれど、あれはあれでラブラブなんだよ。私たちみたいにね!」
兎兎は潤一はいつもの呼び名で言いながら、そっと頬を寄せた。
「ほう…私たちのほうが優っている気がしますがね」
潤一も小柄な兄の肩を抱く。
「愛の形なんて、人によって違うからね。そうそうコッペリウスもコッペリアと一線を越えてしまったらしいんだよ。あちらも幸せそうで何よりだ…」

満足そうに、兎兎は潤一の胸に身体を摺り寄せた。








「次の報告は」

リヒャルトは長官室で、部下のもたらす報告を聞いていた。



しばらくして、隣接したシャワー室から男が出てきた。

「何か面白そうな事件があるじゃねぇか」
「いたのか」

どれどれ・・と言いながら、RQは書類を手にとって見る。

「ふーん、これ。オレが行くぜ」
「それは、難易度Bの任務だ。おまえはC以上でなければやらないのではなかったか」
フン!とリヒャルトは顔を反らした。

ところが、RQは笑って、
「これが、難易度B?ふふん、本気で言っているなら、あんたももうろくしたもんだ」
「なんだとっ!」
「わざと見せ付けるような殺し方をしている。しかも声をあげさせないようにして…だ。
こんな真似のできる奴はそうそういない。だから、オレが行く。止めたって無駄だぜ」
「・・・」
「ところで、同一犯の犯行と思われるものは何件ぐらいだ?」
「まだ5件」
「早めに片付けないと取り返しがつかなくなる。こいつは恨みだ」
「では、さっさと片付けろ」

「そう言われるのを待ってたぜ」
さっと身を翻し、ドアのほうへ歩いていくRQ。

「ああ、この殺宇宙人鬼はなかなかいい腕してると思うぜ。もし、可愛ければ連れてきていいか?可愛くなければ仕留めるが」
「勝手にしろ。ところでおまえ…」

「…?」

「服を着ろ!!!」

長官室にリヒャルトの怒声が響き渡った。



私は…どうしてこうなったのか…今でもわからない。



あとがき~
そうして、「RED」に続きます(^^)
  END