一方、ここはSSG本部。
普段は暇をもてあましている占い師の兎兎が、珍しく忙しない感じで動いている。
「兄上、どうしたんですか?」
機械部長の潤一が尋ねるも、兎兎はバタバタと動き回っているだけだ。
「私は荷物をまとめて出て行く!」
大きなかばんに荷物をまとめ始める兎兎。
「そ、そんな!もうやり直すことは不可能なのでしょうか?何かあったのなら、言ってください!」
「ジュージュのことじゃないよ!なぜか、私はここにいてはいけない気がするんだ!
」
ああ、どうしよう!!
と叫びながら、兎兎はかばんを持った。
「私、2、3泊してくるよ。どういうわけか山が見たくなった」
「おっしゃっている意味が全然わかりませんが、そういうわけなら、私も同行しましょう」
兄の不思議な行動は毎回のことだ。
潤一は自分を納得させた。
大体にして、兎兎がこのような行動をとる時は、後で考えてみると理由があることも多いのだが、そこは考えない潤一だった。自らも、かばんに宿泊分の衣類を詰め込んで出発したのである。
後々、大変なことが起こるとも知らずに。
もう陽は高く上っている。
「・・あと2時間くらいで着く」
「・・・」
ベッドの上で何もまとわずに、二人は抱き合っていた。
あれから、何度繋がりあっただろう。
今はただ、窓から空を見上げて、お互いの温もりを感じあっていた。
「シャワーを浴びにいくか?」
「・・・もう少しだけ・・・ここで」
「・・・ああ」
返事をして、RQは眼下に見える細く白い肩を抱く。
この肩に世界のすべてがかかっている。
「あんたは強いな・・・」
「急にどうした?」
「恋人としてのオレは・・・かっこ悪かっただろ」
リヒャルトはしばらく考えてから
「・・・そうだな」
と答えた。見ると、口元に笑みが浮かんでいる。
「でも、安心した」
「なんで?」
「私には、いつもおまえがどこにいるのかわからなかった。本当のおまえを掴もうとしても、この掌から飛んでいってしまう。ああ、こいつはいつも私をからかっているんだと・・思っていた」
「・・・」
「私が見つめればおまえは目をそらし、私が問いかければはぐらかしてばかりだ。おまえが私を真っ直ぐに見つめるのは、勝負しているときと抱き合っている時だけだった」
「・・・リヒャルト」
リヒャルトはRQの指に自分の指を絡ませながら、ため息をついた。
「だから、いつも思っていた。どうして私は・・・こんな男に惹きつけられてやまないのかと」
「それは・・・」
「でも、今回よくわかった。やはりおまえはかっこ悪い男で、こんな私は馬鹿なのだ」
「あ?あ~それはないぜぇ~」
絡ませた指で、RQの手の甲をきゅっと抓りあげて、リヒャルトは
「おまえ自身が認めたことだ。認めろ!」
とニヤリと笑った。その紅潮した頬のままで。
「その台詞、そのまま返してやるよ!それに・・・こうなったら、好きにしてもいいって言ったよな?だいぶ前に」
二人が初めて身体を重ねた日の朝。
リヒャルトは言ったのだ。
「好きという感情がわかったら、私を好きにしてもいい」
と・・。
「・・・おまえはあんなに好きにしておいて・・まだ言うのか!」
今度こそ、真っ赤に染まった頬で怒鳴るリヒャルトを見て、RQは頭をかいた。
「そりゃ、まぁそうだ」
そのせいで、さすがのRQでも今朝は身体が重い。
「私はシャワーを浴びにいく」
気まずくなったと見えて、リヒャルトがベッドから立ち上がった後・・・ズルリと崩れた。
「ほら、また急に立ち上がるから!」
「う、うるさいっ!!」
RQはしゃがみこむリヒャルトを両腕で持ち上げた。
そして、シャワールームまで連れて行った。
・・・・・・・・・・・・・・・
「また、素直になれなくなっちゃたなぁ~」
引っかかれた頬を擦りながら、RQは呟く。
「だ、だって!!おまえが・・」
バスローブでくるまれ抱きかかえられているこの状態では、どうにも格好がつかない…。
リヒャルトは、身じろぎながら言った。
「いきなり、あそこで・・」
シャワーを浴びにいったはずなのに、どういうわけか、空のジャグジーに放り込まれて上に乗られたのだ。
「あんな嬉しいことを言われた後に、抱かないでいられるもんか!」
「・・ばかっ!!」
あと、1時間で船から降りなくてはいけないのに、リヒャルトは一人で歩くのもままならない状態だ。
「大丈夫だ。もし、あんたが1時間で回復しなかったら、オレがこのまま抱きかかえてコテージまで帰ってやるから」
「絶対にいやだ!!1時間で回復してやる!!」
「その意気だ!がんばれ~」
「誰のせいだと思っている!!」
次の瞬間、RQの横っ面にリヒャルトの平手が飛んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・
「もうじき着く・・・」
あいも変わらず、一糸まとわぬ姿で、二人はベッドの上にいた。
単にRQは着るのがめんどくさいとばかりにだらけていて、リヒャルトは服を着る気力がないようだ。
「空が綺麗だ」
「ああ、ここに来てからずっとそう思っていた・・・。SSGや都会の空気ではこういう空はあまり見ることができないからな」
「オレさ・・」
ふと、RQが口を開いた。
「たとえ、この地球が汚いもんで満ちてても、それでもこの星を守りたいんだ。そこに生きていたいものがいる限り、誰にも邪魔はさせねぇ。たとえ、今よりもっと正しい世界を作ろうという連中が現れても、そいつらがこの星を支配するっていうんなら、オレは戦う。誰かに支配され続けた者たちは生きることを忘れちまう。自分の命がどんなもんかも見えなくなっちまう。
だから、オレは一人でも戦う。たとえ、この醜い世界のためであっても・・」
「おまえが言っていることはよくわからないが、おまえは一人ではないだろう」
リヒャルトがRQの顔を覗き込んだ。
「もし、地球を外から支配しようとする者が現れたら、それは我々の敵だ。たとえ、それが神であったとしても」
「将来的には、そいつらのほうが正しいと言われたとしてもか?」
RQの質問に、リヒャルトは瞳を閉じ、そのまま「ああ」と答えた。
「我々の目的は、人類を将来の滅亡から救うことではない。現時点での地球の危機を回避することだ。100年1000年後の世界をも守ってみせるとは言えない。そこまで傲慢にはなれない」
「リヒャルト・・・オレは・・・」
RQが再び口を開きかけたとき、汽笛がなり、船が港についたことを知らせるアナウンスが流れた。
「やめろ、一人で歩ける!」
「さっきからふらついてるじゃないか~。どうせなら抱かれちまえばいいのに」
軽口を叩き続けるRQの足をぎゅっと踏みつけて、リヒャルトがコテージへの道を歩き出したところで、背後から
「リヒャルト!」
と声をかけられた。
「え?」
声はあきらかにRQのものではない。
誰か知り合いでもいるのかと振り返ってみると、大柄のアフリカ系の男性が手を振っているのが見えた。
顔を確認するが、どう考えても知り合いではない。
人違いか・・・。
そう思って歩き始めたところで、再び「リヒャルト!」という声が聞こえた。
今度はもっと近くで。
先ほどの男性が走ってきたのだ。
そして・・・
RQに向かって言った。
「やっぱり、リヒャルトじゃない!ひさしぶり!」