-南国-
翌朝。
SSGの本部とはまったく違う南国の空気、爽やか過ぎる風と太陽の世界。
朝からリヒャルトは怒っていた。
なんということはない。RQの質問が悪かったのだ。
「もしかして、あのDVD見た?」
次の瞬間、RQは顔面に枕を投げつけられたのだった。
「なんか変な質問したかな?」
何もまとわぬ姿のまま、RQは投げられた枕を抱きかかえて、首をかしげた。
「見たから、何だというのだ!」
「ああ、見てくれたのか!で、どうだった?」
「ど、どうとは・・・」
「ためになっただろ?何しろ、昨晩、実践しちまうくらいだから、むぐっ!!」
もう一つの枕を投げつけられても、RQはニコニコと嬉しそうだ。
「オレもさ、あれを見て、最初はつまらないと思っていたんだけど、意外と深いところまで知ると興味深い。ああいうふうに人間の身体を見たことなかったし、実践する価値ありと見た」
「・・・」
それを・・・実践したと言われると、Yesとしか答えようがない。
リヒャルトは、今日はもうRQと口を利かないと決めた。
数日前、RQが持ってきたDVDは、表紙からしてとんでもない品物だった。
-人はアナルセックスでどのように感じるか-
ご丁寧に真っ最中の男の写真付きだ。
手渡された途端、問答無用で投げ返した。
「これはふざけた内容じゃない。人間の生態を医学的に導き出した真面目な映像だ!!」
意外にも、大真面目な顔でRQが言うものだから、一度・・・試し・・・試し・・・と見てしまったのだった。
いかがわしい内容のDVDだったら、すぐに消そうと思っていたが、RQの言うとおり真面目な内容だった。
性医学者が人間はどこで快楽を感じるのか、特に男性の身体の仕組みから神経、見えない部分の生殖器の説明までしていて、いかがわしいどころか立派に医学専門DVDとして見られる内容なので、ついつい最後まで見てしまった。
数時間前・・・
そのDVDの「スローセックスは人生を充実させる」の章で、勧められていた方法を試したばかりに!
実は昨夜、リヒャルトはゆっくりと動いた。
もちろんRQの上で。
いつもRQに「そんなに急くなよ」と言われている。
最中は、とても恥ずかしくて、できることなら早く終わらせたくて・・・。
これ以上、快楽に揺らされると自分を見失ってしまいそうで・・・。
いつも、急かす様に身体が勝手に動いてしまう。
でも、あのDVDの言う通りなら、ゆっくり動くことでリラックスできるのかもしれない。
それで試したわけだが。
「リヒャルト、すごくいい・・・」
快楽に喘ぐRQを見ると、途端に羞恥心が湧き上がって、どうしようもなくなって…上に乗って繋がったまま、その胸に顔を埋めて
「早くっ!」
と急かせてしまった。
「・・・・」
そのことを思い出し、リヒャルトは紅潮したまま
「今日は、おまえと顔を合わせていたくない!」
ソファにあったクッションをRQに投げつけた。
「それで、朝食はどうする?もう9時だ」
リヒャルトの言葉も気にしないふうにRQは言い、「たしか市場が近くにあったっけ」と簡単に服を羽織り「一緒に行こう!」と手招きをする。
「う、」
私はおまえと顔を合わせる気もないし、話す気もない!とのたまわるリヒャルトに、RQはポツリと言った。
「オレ、金銭感覚0だから、何買ってきてもいいっていうならいいけど。ああ、それに、メロンときゅうりの区別もつかなかったんだ」
「なにっ!!」
リヒャルトの顔色が変わり、あわててRQから財布を奪い取った。
「ここでの買い物は私が仕切る。おまえは荷物を持て、いいな!」
「うんうん!」
そうして二人で繰り出した先は、歩いて15分ほどのところにある市場だった。
新鮮な野菜や果物、魚介類などが売られている。
色とりどりの鮮やかな野菜を見て、リヒャルトが瞳を輝かせている。
野菜食が大好きなのだ。
もっとも、本人はベジタリアンであることを否定している。
何でも食べられると公言しているものの、彼が野菜果物と穀類以外を食べている姿を見たものは非常に少ない。
「見たことのない果物だ」
リヒャルトがそういうと、店主が大きめのブンタンに似た果物を手に取り、ナイフで分厚い皮を剥いて、中の果実を手渡してくれた。
礼を言い、口に入れると新鮮な果汁がほとばしった。
「ん!なかなかいい」
手渡された果実の欠片を、そばに立つRQの口にも放り込む。
「グレープフルーツの甘くないバージョン・・・」
「これをサラダに使おう」
ジュルックという名前の果物らしい。
大き目のを一つ買って、ついでに野菜をいくつか。
その後、
「魚とか食べない?」
とRQが言うので、魚介類を見に行くことに。
「イカが売ってる」
半透明の新鮮なイカを発見したRQ。
だが、リヒャルトは首を横に振った。
「イカはあまり好きではないんだ」
「え、初耳だ!」
「昔、当たったことがある」
「じゃあ、海老と鯛を買っていこう」
「そう・・・だな。フライパンでソテーして・・・」
RQがすかさず店主に料理の方法を聞いている。
「ただ焼くのもあり、スパイスをまぶして揚げてもいいってさ」
「スパイスは手に入れるのが大変だから、オイルで焼こう」
料理長リヒャルトの意見に従い、いろいろと買い物をして戻ってきたら、朝食どころか昼食の時間になっていた。
二人が宿泊しているコテージにはキッチンがついており、料理ができる。
さらには食器棚に食器も並んでいたので、不自由はしなかった。
「ん~何か手伝うことは?」
RQが買ってきたばかりのミニトマトを口に放り込みながら聞くと、
「まず、つまみ食いをやめろ。次に食器を洗え、飲み物をクーラーで冷やしておくように」
リヒャルトは的確に指示を飛ばし、自らは魚を捌きにかかった。
鯛の内臓を取り出し鱗を取ったら、オイルを引いたフライパンでソテーする。
塩胡椒、パセリを振りかけたらできあがり。
同じように海老も焼いて、皿に盛り付けた。
サラダは、レタスと胡瓜とトマトを盛り付けて、例のジュルックを上に盛った。
オニオンドレッシングを横に添える。
「すばらしい!」
大絶賛を贈るRQ。
しかし、キョロキョロと周りを見回し、「主食は・・サラダだよな」と呟いた。
「いや、魚だ。たんぱく質だろう」
とリヒャルト。
ところで、RQは食器洗いと飲み物をクーラーで冷やす以外のこともしていた。
「サングリア?」
「に似て非なるもの・・・だった。ジュルックじゃいまいち甘さが足りない」
自分の作ったものに渋い顔を見せる。
サングリアとは冷やしたワインに果物を切っていれるドリンク。
ジュルック入り即席サングリアをグラスに口をつけると、リヒャルトは頷いた。
「私は、たぶん普通のサングリアよりこれのほうが好きだ。おまえの作ったものにしては、私の舌に合う」
「もちろん、リヒャルト様の好みは熟知しています。それはそれは予想以上に!」
RQもグラスを上げて・・・。
お互いに笑いあった。
「そういえば、猫ってイカを食べさせてはいけないとか言うよな」
サラダを食べながら、RQが言う。
「"猫の気持ち"と言う本にもそう書いてあったので、アポロをイカと接触させないように気をつけている。アポロにもイカについては注意するようにと、言い聞かせているんだ」
アポロとはリヒャルトの飼い猫でまだ小さな子猫である。
「う、うーん。そう考えるとあんたの部屋にはイカは持ち込めないということか」
大真面目にRQが答えた。
自分でもどこかおかしいような気がするが、リヒャルトも大真面目に
「私の部屋にイカを持ち込んだら、貴様は勘当だ!」
と言うので、ともかくリヒャルトの眼前にイカをちらつけるのだけはやめようと思った。
その時、ふとリヒャルトが携帯を手にした。
「そういえば、アポロは元気だろうか。私のことを育児放棄したひどい親だと思ってはいないだろうか・・・」
「コッペリウスに連絡を取ってみれば」
「そうする」
たった1日とはいえ、リヒャルトは非常に子煩悩な親なので心配らしい。
もちろん、子供とはアポロのことである。
留守をする時は、猫好きの医者コッペリウスに預けている。
「コッペリウスか、何か変わったことは?・・・特にない。それならいい。
ところでアポロは無事か。なにっ!姿が見えない?!まさか、部屋の片隅で泣いているのではっ!!・・・あ、ああ足元にいた?・・それはよかった。こほん。
ちゃんと食べているか?昨日は蛙の唐揚げを・・・?え?!おまえの話ではない。
ああ、そうか。では、また連絡する」
必死に笑いを堪えているRQに不機嫌そうな眼差しを向けて、リヒャルトは電話を切った。
「アポロは変わらず無事だそうだ」
「そりゃ、よかった。アポロにとっても、たまには違う環境で暮らすってのも新鮮かもしれないぞ」
「まぁ・・・それはわかっているが、どうしても親なら子供を心配してしまうものだ」
やがて、リヒャルトの携帯に写真が送られてきた。コッペリウスからだ。
元気にボールで遊ぶアポロ、食事をとっているアポロなどが数枚。
「よかった」
ほっと一息つくリヒャルトにRQがカメラを向ける。
「こっちからもアポロに送ってやろうぜ。そのほうが安心するだろ」
「あ、ああ・・」
送られてきた写真を見たコッペリウスは、思わず顔を引き攣らせた。
リヒャルトが意味不明なポーズを取っている。きっとMYブームのヨガだろう。
軟体動物のような姿。
続けて、RQがこれまた不思議なほどシリアス顔で写っている。
なぜか大きいサラダボールを抱えて。
続いて、リヒャルトが大笑いしている写真。
こんな顔をコッペリウスは見たことがなかった。
下のほうでRQがくすぐっているのが見える。
さらに続いて・・・。
「きみの両親は新婚旅行に行っているんだ。二人で仲良く待ってようね・・・」
コッペリウスは、苦笑をしながらアポロを膝の上に乗せて、写真を見た。
そこには、目を見開いているリヒャルトと、その頬にキスをしてVサインをするRQが写っていた。
当然、現地ではRQが床に打ち倒されていたのだが・・・。
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