-南国-

そうして、南の島での特訓に戻るのである。

会議は初日だけで、それも情報交換に終わった。
これから1週間は、南の島ヴァカンスを楽しまないといけないのだ。
考えただけでもリヒャルトは気が滅入った。
普段、有給さえまともにとっていないリヒャルトにとって、遊ぶという行為は無駄に等しかったのだ。今夜の余興が終わったら、どうすればよいのだろう。
基本、自由行動と言われている。
スケジュールが決まっていればよいものを・・・。

そばに座ってクルージングのパンフレットを片手に、口笛を吹いているRQが心底羨ましく感じる。

「おまえ、明日の予定は?」
「いいや、決まってないが。クルージングもいいかな」

RQの頬の傷はすっかり塞がってしまっている。
たちどころに傷が治る特異体質なのだ。

「私は、この先どのように過ごしたらいいのかがわからない」
「いっそのこと、オレと一週間篭りっきりで過ごしてみるとか」
そう言って、RQはニヤリと笑った。
「それだけは嫌だ!」
「なら、外に出るしかないだろ。いいじゃん、たまにはさ」

「うむむ・・・その前にもう一度特訓だ!」
「だんだん一人前の的らしくなってきただろ、褒めてくれよ」



その夜、数々の余興が催された。

招待客の腕に自信のある方々は・・・たとえば元秘密警察の長官などは、部下の首筋ギリギリでナイフを振るって、観客を沸かせていた。

「あの男については、よく知っている。本来なら余興など楽しまないタイプの人間だが・・・」
「こういう場においちゃ、どこの誰でもあんなもん・・・ってわけか」

醒めた視線をスリリングな舞台にやりつつ、RQはおどけるように肩をすくめてみせる。
そうして、二人の番になった。

正装の二人が舞台に上がると、観客から歓声が上がった。
こんな時でも、リヒャルトの無表情と、まわりに愛想を振りまくRQの対比は目立っていた。

そうして、リヒャルトがダーツの矢を取り出し、RQが手足を広げると観客からは悲鳴に近い叫びが発せられた。

「いくぞ」
「OK!いつでもどうぞ」

ビュッ!

空気を切る音がして、矢が壁に突き刺さる。
RQの身体から1ミリほどの隙間だけを残して、すべての矢が刺さるまで観客は固唾を呑んで見守っていた。

「ふぅ・・・」
「Yoooo!」

肩で一息つくリヒャルトの前で、RQは大げさに両手を広げて観客に拍手を促している。
一瞬固まっていた観客たちが拍手喝采で二人を称えた。

「おい・・・いい加減にしろ」
「まぁいいじゃねぇか」
「・・・ム」

挨拶もそこそこに、リヒャルトはその場を後にした。
もともと、こうした場は得意ではないのだ。

RQは少しばかり名残惜しそうだったが、リヒャルトの後を追った。





「こっち来てみろよ」

シャワーの後、RQが呼ぶので窓の外に出た。
リヒャルトの目の前には、信じられないほどの満天の星空が広がっていた。
思わず息を飲む。

「ああ、都会だとこんな星空は見られないから」
「・・・」

黙ったままでいると、肩を抱かれた。

「おまえは・・・」
言いかけて、リヒャルトが頭をそっと寄せると鼓動が聞こえてきた。
静かな風景の中で、こうしてお互いの鼓動を聞きあった事が思い出される。
あれは、いつかの冬だったか。
たしか新年の頃だったと思う。

「おまえはすぐに調子に乗るから、嫌いだ」
「オレがお調子者なのは生まれつきなんだ。この性格のおかげで何度も・・・」
「少し慎重になったほうがいい」
リヒャルトはため息をついた。
RQの性格は現実的ではない気がする。きっと苦労をしてきたのだろう。
リヒャルトは、RQに少し同情し・・・保護者欲のようなものがムクムクと沸いた。

ところが、
「何度もピンチを乗り越えてきた・・・というつもりだったんだが」
今にも笑い出しそうな顔で、RQは答えた。

「ふん!」
なんでこんな奴を心配したのだろう。
お互いを知った時から、この性格が変わったことも反省したこともない。
憎らしくて憎らしくてたまらない。
いつも、掌に乗せられて遊ばれているような感じすら覚える。

「もっと肩の力を抜けよ。ダーツの時もそうだった」
「あれは・・・」

思い当たるところがあって、リヒャルトは黙り込む。
耳のピアスを一つ外して、RQはリヒャルトに手渡した。
少しばかり擦れた跡がある。ダーツの矢が掠めた跡だ。

「どうせなら、頭に1本くらい刺さったほうがウケを狙えたのに~。ガチガチのあんたを目の前にしたらオレは生贄の気分だ。笑っているのが一苦労だった!」
「・・・すまない」

真剣に落ち込んでいる様子のリヒャルトを見て、RQは掌でその頬を覆ってみせた。

「誰も見てない。ここはSSGじゃない。だから、笑ってほしかったんだけどな!」
「う。いきなりそう言われても・・・」
「失敗したほうが、余裕見せられたりって、ものは考えようさ。何も100%ばかりが正解じゃない」

思いがけない言葉に、また深く考え込んでしまうリヒャルトだったが、なぜか下手な笑顔を見せた。

「100%でなくともよいなら、こんな顔しかできない」
「・・・」

はにかんだような頬に唇を這わせて、少し怯えている瞼にたどり着く。

「わ、私は…おまえとこんなことをするためにここに来たのでは・・・」

身じろぎしながら、リヒャルトは言う。

「オレだって。ダーツの的になる目的でここに来た。だけど、こんなことさせたのは、リヒャルトだ」

RQの手が背に回るのを感じながら、リヒャルトは遥か遠くの星空が潤んでいくのを見ていた。