-南国-

「覚悟はいいな!」
「あ、ああ!」

いつになく苦笑を浮かべて、RQはリヒャルトの真剣な面持ちを見つめていた。

大きな窓からはさんさんと陽の光が降り注いでいる。
リヒャルトの持つダーツの矢が、光に反射してキラリと光った。

「・・・っ!!」

ダーツの矢は、的に立つRQの頬をギリギリ掠めて突き刺さった。

「ふぅ」

一息ついてから、再度姿勢を正したリヒャルトは次々と矢を放った。
見事にRQの周りを射抜いていく。

「さすが!」
「いや、まだだ・・・」

残念そうな表情でリヒャルトは矢を抜いた。
RQの頬から一筋の血が流れている。

「今夜までに仕上げなければ」

硬い面持ちのリヒャルトの肩に手を置いて、RQは言った。

「あんたなら可能だろ?」
「ん・・・」

リヒャルトは小さく頷いて、手を伸ばした。

「何?」
「おまえの血だ、ほら」

RQのピンク色の髪を乱暴に引っ張り、頬を向けさせると自らも顔を上げる。

「リ・・・」

頬に柔らかい感触を覚えて、RQは目を閉じた。

「こうすれば・・・すぐに止まるだろう」
「どうしたんだ、リヒャルト!」

キスされた箇所を手で押さえ、RQはらしくなくうろたえている。
リヒャルトがこんな事を自分からしたのは、初めてだったから。

「それは私のミスだ。・・・だから・・・」

段々と声が小さくなっていく。
一方のRQは感動に打ち震えた様子で叫んだ。

「南の島バンザイ!俺たちにもとうとう夏が来た!」
「そうではない!おまえがダラダラと血を流しているのは不潔だからだ!黴菌でも入ったら・・・」

真っ赤になって否定するリヒャルト。
そうして、汗の玉が浮いた額を拭った。

「それにしてもここは暑い・・・」

大きな窓の向こうは、突き抜けるような青い空。
地球そのものを映し出したかのような透き通る紺碧の海が広がっている。

もちろん、ここはSSG本部ではない。
海に浮かぶ水上コテージ。
南国を感じさせるようにパイン材でできている木造の建物。
大きな窓の外は日光浴や水泳が楽しめるように、広いステージが設けられている。
隣のコテージまでは数百メートル。
プライベートな面も重視し、安全性も兼ね備えた宿泊地だ。

二人はある国際的な催しのためにこの南の島を訪れているのだった。



それは、数日前のこと。

「1週間ほど出かける。それまで第6部隊の凍牙、おまえに任せる」

トレーニング終了後。
リヒャルトは、第6部隊の凍牙を自分の代役として指名した。

「はっ!お任せください。この凍牙一命に代えましても!」

いきなり、大役を仰せつかった凍牙は背筋をピッと伸ばして、誇らしげに返事をした。
それもそのはず、凍牙はリヒャルト長官非公認の親衛隊長として、誰よりも長官の役に立っている自負があったし、SSGの隊員をまとめられるという自信もあったのだ。(それに、凍牙は裏でとても恐れられていたので、逆らう隊員はまずいなかった)

・・・が。
凍牙は鋭い目で後方を見た。
いた!
自分が唯一いう事を聞かせられないかもしれない奴がっ!
そいつは、呑気に長いピンクの髪を指に巻きつけたりして、いじっていた。

「RQ!僕が長官の代役になったからにはっ!!」
凍牙が言い出したと同時に、リヒャルトが口を開いた。
「RQ、おまえは私に同行しろ。いいな」
「ん、ああ」
「なにっ!」
凍牙が叫ぶ。
「リヒャルト長官。何もあいつを同行させなくても、僕が・・・!」
「凍牙、おまえには組織を任せる。今回はRQを同行させる」
「でも・・・」

”なんで、あいつが長官と24時間×7日もベトベトと同じ部屋で過ごして、夜は長官の寝顔を眺められたり、朝は長官に「はい、あーん」とか、夜は「いい眺めだね、ハニー」とかっ!!”

凍牙の逞しすぎる想像力は今にも 噴火しそうだったが、その横をRQは通り過ぎながら、
「そう・・・毎朝、リヒャルトの寝顔を見ながら起きて、寝顔を見ながら眠りに落ちる一週間ってのもいいかもな!」
と火に油を注ぐような発言をする。
「きさまぁ!!我が長官殿を愚弄するかっ!!」

「静かにっ!!」
リヒャルトの一括で、凍牙はしゅんと黙り、RQは得意げにニヤリと笑った。



その後、リヒャルトの私室に移った二人だったが・・・。

「さっそくで悪いが、そこに立ってくれ」
「?」

RQが壁に背を向けて立つと、リヒャルトはおもむろにダーツの矢を取り出して、何の前触れもなく投げつけたではないか!

「おっ・・!!なにしやがる!!」
「見てわからないか、ダーツだ」

涼しげな面持ちで、次々と矢を投げつけるリヒャルト。
RQが慌てて避けようと動くと
「身動ぎするな!」
リヒャルトの声が飛ぶ。
顔はいつになく真剣。

「・・・オレ、鞭のほうが好み」
「そういう問題ではない」

1本、ピンク色の頭に刺さった後、リヒャルトはため息をついた。

「どうも勘が鈍っているようだ・・・」
「サクッと気軽に刺さったんだが・・・」

頭から矢を抜いて、RQがそれをリヒャルトに返す。

「なんだ、今度の国際会議は曲芸付きなのかよ?」
RQとしては冗談のつもりだった。
だが、リヒャルトはいつもにも増して渋々しい顔で、コクリと頷く。
「しかも手持ちの部下を使ってスリリングなものを・・・との注文だ」
「お偉いさんはどこまで退屈してんのかね、自分たちで火でも吹けばいいじゃねぇか」
悪態をつくRQを目の前にして、リヒャルトは息を吐いた。
「私とて、部下を危険な目にあわせたくはない。ところが、大層な肩書きを持つ方々がそれはそれは乗り気だそうだ・・・実に馬鹿らしいが、「きさまらは馬鹿か!」と一蹴するというわけにもいかん」
RQはプッと噴き出す。
リヒャルトは真面目そうに見えて、いや、心底真面目だからこそ強烈な毒を吐くことがある。

「こんな役目を頼めるのは、おまえだけだ。他の者では・・・」
「おまえだけだ。と、そこで終わらせてくれよ」
「・・・明日出発する。髪の色を」
「このままがいい。行くのは南の島で、オレは曲芸の見世物だろ」
”元に戻せ”と言われる前にRQは言った。

「そう・・・言いたくはないが、今回だけはそのままでいいだろう。会議は1日だけで、あとはすべて交流と余興のためだからな」

まったく何のための国際会議なんだか・・・と呟きながら、リヒャルトは身支度を整え始めた。