「話はわかったな」
第一部隊長イワンと情報部長のマックスに指示を与えた後、リヒャルトは隣にちょこんと座っている猫のリナを、
「こちらへ」
とソファに導いた。
「しばらくはここで我慢してくれ。食べ物はあるのだが、ベッドの数が足りないんだ」
それでも、リヒャルトは気を使って毛布を丸めてソファに置いていた。
リナは、その中にすっぽりと入り込んで、うっとりと目を閉じた。
そこへ、
「にゃーー?!」
アポロが部屋に帰ってきたらしい。
「アポロ、紹介しよう。こちらはリナ・・・さん。しばらく我々が保護することになった」
アポロは好奇心旺盛な瞳で、きょろきょろとリナの様子を伺っている。
一方、リナは落ち着いた様子で首をかしげながらアポロを見つめている。
「二人とも仲良くするんだぞ」
アポロがソファにひょいと上げってきても、リナは動かなかった。
それどころか、手招きしてアポロを隣に座らせた。
「まるで、兄妹のようだ」
久々にニコニコとして二匹を交互に撫でていると、
「いい表情だ~」
ソファの下から、ピンクの髪をした大男が現れた。
「な、なんだ貴様はっ!!」
リヒャルトは、とっさにRQの顔を踏み潰し、事態に気づいたアポロは迎撃体制をとった。
「なんだよなんだよ!皆してオレを嫌いやがって・・・なーんて。ツンデレが二匹・・・」
「気持ち悪いっ!!」
「リナだっけ?これはオレの家族のリヒャルトとアポロ。ついでにRQもよろしくぅ~!」
「リナ、こんな怪しい男に近づいてはいけない!」
リヒャルトの言葉もどこへやら、リナはRQの足元にやってくると匂いをクンクンとかいで、じゃれるようにそのまわりをぐるぐると回り始めた。
「ふーん、ずいぶんとお育ちのよさそうなお嬢様だ」
「だから、おまえには会わせたくなかったんだ」
リナの喉を指で撫でながら、RQはリヒャルトをチラ見する。
「たまには、きみのような素直な子が恋しくなるよ。なにしろ、オレのハニーは照れ屋がすぎてついつい爪とか足とかが出ちまうんだ」
「・・・なにを愚痴っている」
その後、リナはアポロに誘われて食事にいってしまった。
(部屋の片隅に食事が用意されていた)
「ところで、あの話は本当なのか?」
ソファにだらしのない姿勢に座って、水を飲みながら、RQはリヒャルトに聞いた。
「今、情報部に調べさせている。しかし、Drの話と合わせても信憑性は高い」
その時、電話が鳴った。
「私だ。ああ、やはりな」
電話を切って、リヒャルトは機械部に連絡を取った。
「潤一、No.45地域にバリアを張れ。今から第一部隊を送る」
「今回は、オレの出番はないのか?」
台詞のわりに今にも出てそうな風情で、RQは両手の指を鳴らした。
「相手が人間ならば・・な」
そして、再び電話が鳴った後、リヒャルトは言った。
「おまえの出番だ」
「敵は?」
「敵はヘア、あの凶悪で有名な通称ヘアだ」
「ヘアーーー!!!??」
どこからともなく、声がしたと思うと、長官室の壁をシャカシャカと走ってくるおかっぱ頭の小さな人影。
「毛といえば、私。私といえば毛!占い師兎兎ちゃま参上っ!!とぉーー!!」
「あ、兄上っーー!!!」
SSG公認占い師、毛フェチの憧れ兎兎ちゃまとその弟、機械部長の潤一。
「ダメですよ!今回の敵は、毛というより、毛状の細菌を操る敵です。それを培養して人類撲滅を狙っている奴で、宇宙刑務所から脱獄した凶悪犯ですよ!しかも、正体を見た奴は誰であろうと容赦はしない。そう、あの猫のリナでさえも!それで、そいつに襲われたリナを助けたのがコーネリアス氏だったということだったのです。兄上をこんな危ない話に登場させるわけにいかない!」
「潤一・・・言いたい事を全部ありがとう」
思わず、頭を下げてしまうRQだった。
「解説は、私の数多い特技のうちの一つなのです。ともかく危険な事態だ」
飛び出していこうとする兎兎を捕まえて、潤一はきっぱりと言い切った。
「RQ、頼みます。私はあなたの脳みそがアフロになろうと気にしませんので!」
「あいかわらず、おまえ一言多いよな」
次の瞬間、RQは姿を消していた。
そして、もう一人・・・。
「あ、またコンネットが消えちゃったんだけど!」
「なに?!すぐに連れ戻せっ!!」
「わかったよ~」
Dr.コッペリウスはしぶしぶと言った様子で、出撃していった。
コンネットは以前も勝手に事件現場に行ってしまったことがあるのだ。
リヒャルトは頭を抱えた。
今だけでも非常事態なのに、やっかいごとがなんと多いのか。
「いっそ、私が現場に直行したほうがいいようだ」
「やぁ!そんなあなたの願いをかなえませう~~」
「?!」
リヒャルトは、顔を上げたときそこに意外な味方の姿を見て、
「協力してくれるか」
と半ば、命令口調で言ったのである。
敵は、No.45地域の中にいるらしい。
今は対宇宙人バリアが効いていて、敵はその中からは出られない状況だ。
第一部隊は、まずその地域に住んでいる住民を、軍の訓練という名目で避難させた。
「よし、あとは距離をつめるぞ」
全員がその地域を取り囲み、敵を追い詰める。
バサバサっ!!と大きな羽音が聞こえた。
「なんだ!なんだ!」
一斉にカラスに似た鳥が、隊員たちに襲い掛かる。
「総員、あれを迎撃せよ!」
特製の銃から火花が飛び、カラスたちは一瞬四散しかに見えたが、再び数を増やして襲い掛かってきた。
「チッ!数が多すぎる。援軍を要請しろ」
叫ぶ部隊長の背後からピンク色の影が一瞬現れたかと思うと、カラスの一群を風圧で飛ばした。
「RQ!」
「もうじき、面白い奴らが現れるぜ。それまで持ちこたえてくれ」
「あ、ああ」
そういえば、今、SSG内には第6部隊が待機しているはずだ。
よっほどのことがない限り、本部を守る第6部隊を動かすわけにはいかない。
「オレは、この騒ぎを眺めて楽しんでいる奴に止めを刺しにいく」
RQがそう言って消えた後、コッペリウスが現れた。
「この辺でハロウィンみたいな格好した怪我人見なかった?」
・・・・・・・・・・・・・・・
「なんだこいつ・・・」
RQは、「チッ」と舌打ちをした。
そこはビルの地下だった。
大きな胎盤のようなものがドクンドクンと脈打っている。
その中に、巨大な鳥が今にも生まれそうになっているのが見えた。
「こいつがヘア??」
「違うね」
小さな緑色の蛙に似た男がニヤリと笑っていた。
「おまえが・・・あ!」
そいつはひょいと胎盤の上に乗ったかと思うと、その中に吸い込まれていった。
「こいつはワシのペットじゃ・・・こいつにAA星の微生物をばら撒いてもらうのさ。今のこの星の文明ではこいつを止めることはできんじゃろって・・・ケケケ」
「っ・・・!」
巨鳥の瞳が赤く輝いたかと思うと、凄まじい風がRQを襲った。
「ぐぅ」
「ケケケーー!!飛べ飛べ!!この星の生物など滅ぼしてしまえ!!」
「なんだあれ!」
突然、現れた数十メートルはあるかという鳥に目を奪われた隊員たちは、一瞬戦うことを忘れた。
「部隊長!あんなの相手にできませんよ!本部に連絡して、軍をこちらに回してもらってください!」
「バカヤロー!SSGの誇りはどうした!ああいう奴らを相手にするのがオレたちだろうがっ!!」
だが、それぞれが戦意を失ってしまったかに見えたその時、
「何をやっている!」
聞き慣れた厳しい声が聞こえた。
だが、その声の主の姿を見た時、全員の顔が引きつった。
「な、なにあれ・・・」
少し離れたところで、コンネットを探していたコッペリウスは、絶句した。
そこに浮かんでいたのは、巨大なリヒャルトの3Dホログラム。
あの巨鳥と同じくらいの大きさだ。
「おまえたちは、このくらいで怯むのか。私も今そこへ向かっている。最善をつくせ」
言っていることはまともなのだが、格好が異常だった。
リヒャルトは猫耳をつけて、短パンを履いて半分のTシャツを着ていた。太もももへそも出し放題といった感じだ。
「うぉぉ!!!ハニーー!!なんて格好してんだよ!戦う前に燃え尽きちまうだろ?!」
ビルの屋上で吼えているのは、RQである。
一方・・・
「な、なんだあれはっ?!」
それを見たリヒャルト自身が、真っ青になっていた。
「だって、あ、あれ兄さんの趣味だよ!」
「違うだろ!ミラー!オレはあんな趣味はねぇ!」
宇宙船にもなる小型のジェット機を操縦しているのは、双子のトレジャーハンターJ&M。
兄ジャンと弟ミラーのコンビだ。SSGの仕事も何回か依頼を受けているが、今回のような任務は初めてだった・・・というより、ミラーの提案でSSGに遊びにいったら、こんなことに巻き込まれたのだ。
リヒャルトに現場に連れて行ってほしいと頼まれ、ついでにあんな怪獣みたいなやつと戦うはめになるとは。
ジャンは、自分の運の悪さにため息をついた。
「兄さん!兄さん!見てよ!本物の怪獣だ!僕、こんなときのためにちょうどいい兵器を搭載しているんだよ!」
「聞いてないぞ、ミラー??」
大体、3Dホログラムのことだって知らなかったのだ。
もう、何が出てきてもおかしくない。
ミラーの変人ぶりには、兄のジャンでさえついていけないのだ。
「この3Dホログラムに少しばかりのお豆腐と、毛を投入します・・・」
リヒャルトのホログラムはそのままに、その先、1キロくらいのところに新たなホログラムが一体現れた。
「しゃああーーー!!毟らせろ!!け、ケッ毛毛エーーー!!」
なんと、実物の何倍だかわからないが、巨大な占い師兎兎ちゃまが出現したではないか!
兎兎は聞く者を身震いさせるようなおぞましい叫び声をあげながら、巨鳥に向かっていった。
さすがにこれには巨鳥も怯えて、動きを止めてしまった。
「よっしゃー!チャンス!」
RQが思いっきりジャンプをすると、そのまま渾身の力をこめた拳を巨鳥の顎下に食らわせた。
「きぃぃぃ!!」
高い悲鳴をあげながら、鳥は堕ちた。
SSGの隊員たちが見守る中、地上に落ちた鳥から、人影が現れた。
「あいつがヘアか?!」
皆が一斉に銃口を向ける中、「やめろ!」と声。
「きみは、なにをやってるんだい!!」
「ごめん、こいつを拷問していたんだよ。あの鳥の中でね」
コンネットは、つぶれた蛙のようになっているヘアをどさりと落とした。
「まったく、私がまた怒られるんだから!」
「はぁ、すまないね。でも、愉快犯は私の獲物さ」
そういい終わると、コンネットは倒れこんだ。
「また、きみのお世話になりそうだね・・・」