にゃ~ん♪
今日も猫のアポロは、SSG長官の私室で新たなる任務に挑んでいた。
きっかけは、飼い主リヒャルトの
「少し高いところから獲物を狙う方法を学んでみないか?」
という言葉。
トントンと軽快に本棚をジャンプして上っていく。
下を見下げると、ちょうどいいところに獲物がいた。
・・・・・・・・・・・・・・
「ぎゃぁぁぁーーー!!」
いきなり顔の上に何者かが乗ってきて、頬に爪を立てたので、RQは悲鳴を上げた。
パッとアポロはRQの顔から飛び降り、戦闘態勢にうつる。
「なんなんだ!」
リヒャルトの部屋のソファで寝ていたら、この様だ。
この頃、アポロは成長して攻撃方法がたくみになってきている。
もちろん、拾ってきた当初のようにかすりもしない爪ではない。
うっすらと血がにじんだ頬を押さえて、RQは四つんばいになった。
「いい態度じゃねぇか!」
・・・・・・・・・・・・・
「フミャーー!!」
四つんばいのまま、RQはアポロを追い回していた。
アポロも負けてはいない。壁を三角とびして、RQの背中をとった。
「やるな!」
くるりと振り向いたRQ。
しかし、眼前に迫ってきたのはアポロではなく、黒いブーツの足。
ぱぁーーーと鮮やかに赤い液体が飛び散った。
「え?血??」
そこから・・数秒間記憶がない。
「私の部屋で何をやっている?駄犬が」
その低音の声でやっと意識が戻ったRQは、アポロが飼い主の腕におさまっているのを知った。
どろりと鼻から血が出ているのがわかる。
「アポロとオレの勝負を邪魔するなよ」
「残念だが、それは途中からおまえVSアポロと私のタッグに変わっていたのだ」
「えーーー!!それって卑怯じゃないか!」
「実戦ではなにが起こるかわからんからな。予想外についても考慮にいれるべきだ」
そう言って、リヒャルトはアポロを寝床に連れて行った。
「そろそろ昼寝の時間だろう」
「ニャ・・・ニャ~」
嫌々というふうに、アポロは首をふる。
「もっと活動していたいのか?」
「ニャン」
「そうか・・おまえももう小さくはないものな。でも、この建物から出てはいけないぞ」
「ニャ」
返事をするなり、さっとリヒャルトの腕から飛び降りると、アポロはドアの外へ出て行った。
「おい、捨てられた猫みたいな顔をするなよ」
「私が?馬鹿な」
いつの間にか、RQの鼻血は止まっている。傷がたちどころに治る特異体質なのだ。
「アポロだって、もう子猫じゃない。好きに遊びたいだろ」
「わかっている。・・・私はただ、親としてアポロが心配なだけなんだ」
リヒャルトは小さなため息をついた。
思えば、黒猫アポロがこのSSGにきたのはずいぶん前のことだった。
元の飼い主に虐待されて酷い火傷を負った子猫を見つけて、ここに運んだのはRQだ。
初めはリヒャルト以外に心を開かなかったために、リヒャルトが飼い主になった。
その後、アポロは順調に回復して、今ではあまり人を怖がらなくなった。
しかし、命の恩人RQだけは別らしく、見ればいつでも攻撃をしかけている。
(そこらへんが、アポロが今の飼い主と同じくツンデレと言われる所以になっている)
「アポロにも同じ年頃の友達が必要なのか」
ポツリとリヒャルトは呟いた。
ここなしか寂しそうな表情で。
SSG(スペース・セイフティー・ガード)は、宇宙人と地球のゴタゴタを秘密裏に処理する国際的秘密機関である。
通常、隊員および関係者はSSGの敷地内にいることが多いのだが、ふらりと外出するものもいる。
「ありがとう」
町外れの怪しげな骨董品屋から出てきたのは、黒髪眼鏡のスラリとした男だ。
「イヒヒ・・いつもどおりさぁ。スッパリ切れるように磨いておいたぜ!」
「う~~んvあいかわらず素晴らしい☆」
うっとりした瞳が、磨き上げられた刃物に映る。
骸骨のようにガリガリに痩せた店主は、ヒヒヒ・・と笑いながら、
「試し切りをしてみるかい?」
と聞いた。
「生きてる奴?死んでる奴?」
「残念ながら、死んでる」
「OH!」
眼鏡に手をあてて残念がりながらも、男は店主に案内された店の奥へ入った。
扉をあけると、地下室への階段が続いている。
そこで彼を待っていたのは・・・
「まだ新鮮だね」
死体がベッドの上に乗っていた。
「病院から買い取ったもんなんだ。まぁあんただから特別サービスだよ。これは」
「死因は?」
「原因不明だってさ」
「へぇ・・・」
男の眼鏡の奥がキラリと輝いた。
・・・・・・・・・・・・・
「ねぇねぇ!聞いている?病院から運ばれた死体だけど、死因が不明だったんだ。
それで、早速解剖して調べたんだけどさ。これがなんとAA星の微生物がクランケの脳を食い散らかしていたんだよ!」
興奮しながら、SSG本部に電話をかけるDr.コッペリウス。
鼻息も荒く、手にしたシャーレを落としそうになる。
「おっと!これがこぼれたら私も冒されて死んでしまうかな?ああ、それで新しく磨いてもらったメスの切れ味が素晴らしすぎて、言葉にはならないくらいさっ!!聞いてる?聞きたまえよ!
リヒャルト長官!!」
「あ、電話切られちゃった」
「こっちにも聞こえてたぜ~、あんた早く帰ったほうがいいんじゃないのかい」
さすがに店主の耳にも
『危険物質を持っているのなら、すみやかに帰還しろ!!』
というリヒャルトの怒鳴り声が聞こえていたらしい。
そんなわけで、コッペリウスがSSGへ帰ろうと車のドアを開けた時だった。
「お、おい!おまえ、そいつを寄こせ!」
「?」
明るい髪の不良っぽい少年が、堂々と手をこちらに伸ばしている。
「そいつって、なにを??」
「その~~~?その秘密のお宝らしきもんだ。あんたのポケットに入っている」
「・・・これ?やめたほうがいいと思うよ」
「つべこべ言わずに寄こしな!」
いきなり、少年は銃をぶっ放した。
だが、銃から飛び出したのは銃弾ではなく、ロープのついた吸盤だ。
さっと避けたコッペリウスだったが、もう片方のポケットに入っていたものを奪われてしまった。
「あ、きみ!扱いには気をつけたまえ!!」
あわてて声をかけるが、一歩遅かった。
ケースから飛び出したメスが少年の顔めがけて飛んでいく。
「う、うあわぁぁぁ!!助けて湊!!」
どうやら、相棒の名前らしい。
すると、どこからともなく入れ歯が飛んできて、メスが少年の顔面に突き刺さる前に、弾き飛ばした。
「まったく、何やってんだよ。JB」
「お、おまえ、またオレのことどっかで見てて笑ってただろ!」
「見守っていたと言ってほしいな。もういくぞ。あれはお宝じゃない」
ふいに現れた幽霊のような人影を追いかけるように、JBと呼ばれた少年は逃げていってしまった。
「はぁ、最近では変な暴漢も増えてるもんだ」
ほぉと息を吐いて、コッペリウスは大変なことを思い出した。
「私のメスは???」
「キャーー!!」
女性の悲鳴があがる。
「え、ええ??」
血の匂いが鼻をついた。
「誰か、お医者さんを!早く!」
「まさか!!」
弾き飛ばされたメスの行方を想像したくなかった・・・。
「これは素晴らしい」
状況とはまったく違う、嬉しそうな声。
「うふふ・・これ、きみのだろう」
血にまみれた手でメスを差し出す手。
「きみは・・・」
「それで・・・状況を詳しく説明しろ」
SSGの医務室。
Dr.コッペリウスと長官のリヒャルト。
なぜかRQも同席している。
そして、もう一人。ベッドに寝かされている人物。
彼は全身血まみれで、輸血を受けている。
「しかし、これは大げさすぎる」
不満そうな声。
「まさか、きみが近くに来ているなんて知らなかったよ。しかも、全身血だるまのまま、街を歩いていたなんて!ハロウィンは過ぎているんだよ!」
「そんなにうるさくいう必要はないだろう。べつにきみのメスで怪我をしたわけじゃないわけだし」
たしかに、そうなのだが血まみれの手でメスを返されたときは、なにか起こったのではないかと冷や冷やしたものだ。
「SSGの人間が一般人をトラブルに巻き込んだときは、いろいろとめんどくさいんだ」
「私なら、かまわないさ。それに一度・・・」
「おっと・・・」
あわてて、コッペリウスは相手の口を塞いだ。
以前、事件に巻き込まれたとき、一般人である彼の記憶は消したことになっている。もし、あれが聞かなかったなどバレたら、ただではすまない。
「ところで、コーネリアス氏。もう一度、お話を伺いたいのだが」
リヒャルトが、ベッドに近づいた。
コンネット・コーネリアス。
彼はDr.コッペリウスの旧知であり、天才的な化学者でもあり、奇妙な性癖を持っている男だった。
「事件は、私がある猫を助けたところから始まる」
コンネットは、路地裏で怪我をした猫を拾った。
すると、その夜から彼の屋敷の周りを何者かが探っている様子が感じられたという。
「なにやら、怪しい予感に心が躍って、意味もなく街を歩くことにしたんだ。そうしたら、案の定、カラスみたいなやつらに襲われたのさ」
「しかし、そうとう手ごわそうな奴らだ。きみをこんなふうにするなんて」
傷だらけの身体を見下ろして、コッペリウスは瞳を伏せた。
「別に・・・手ごわそうではなかったよ。面白かったから襲われるままにしておいたんだけどね」
「・・・」
そういえば、この知り合いは昔からこうだった・・・。マゾヒズムというか、常に強烈な痛みを求めているのだった。
「らしいよ。リヒャルト。どうも、鍵はその猫ちゃんが握っているらしい」
「名前は、リナっていうんだ」
コンネットが目で呼ぶと、リナが近づいてきた。
怪我はすっかりよくなっていると見えて、足取りはしっかりとしている。
顔の半分と腹部にかけてが白い、黒い猫だ。
黄色い瞳が大きく心配そうに見開かれていた。
「女性・・・なのか」
リヒャルトがキュッと頬を引き締めた。
「我がSSGは女性の隊員は一人もいない。彼女は緊張しないだろうか」
「いや・・・べつに緊張も警戒もしねぇだろ」
おいでおいでとRQが手を近づけると、リナはびくりと怯えたように一瞬動きを止めた。
「ほら、おまえなぞが気安く話しかけるからだ」
リヒャルトがRQに肘鉄を食らわせてから、コホンとひとつ咳払いして、リナに話しかけた。
「失礼。できれば事情を詳しく聞かせてほしいのだが・・・」
そうして、しばらくリナに話しかけていたリヒャルトだが、ふいに顔色をかけた。
「なんだって!」
「彼は、猫と話ができるのかい?」
と、コンネット。
「うちの長官をなめちゃいけない。何しろ、剃毛してるって噂も・・・」
コッペリウスは、どこからか飛んできたスリッパに叩き潰された。
「くだらない話は・・・いや、大変なことがわかった。情報部のマックスと第一部隊長を私の部屋へ呼べ」