-ピンク色の恋物語2-
「ところでさ、あんたの趣味ってなに?」
「は?」
目的の場所までやってきたのはいいものの…。
RQときたら、緊張感を1%も感じさせない表情で、話しかけてきた。
「こっちは潜伏中だぞ、声を出すな」
「なんだ~せっかく親しくなろうと思ったのに。硬いこと言うなよ」
「任務最優先」
「リヒャルトみたいだなぁ」
ため息をつきつつ、RQもレンズを覗き込む。
目的の場所は近い。
工場の近くに古びた鉄塔があり、その上から工場の様子を伺っている。
深夜のために工場には人影もなく、何も始動していないようだ。
そうして、何時間たったころだろうか。
「なぁ、あんたってスパイ映画の俳優に似てるって言われない?」
「・・・」
なんてうるさい男なんだ。
こちらが黙っていると、立て続けに
「ほら、その鼻筋なんかそっくりだ!オレもあいつはいい男だと思ってた」
「黙れ…黙って任務を続けろ」
「今度から、あんたをトムって呼ばせてもらうぜ!よろしくトム!」
「RQ・・・おまえは一秒も黙って仕事ができないのか!これからオレに話しかけてみろ、サイレンサー付きの銃でぶち抜いてやる」
警告すると、RQはわざとらしく肩をすぼめて
「冗談の通じない奴って実はタイプなんだ。それに一言言わせてもらえば、さっきまでオレは黙っていた」
などと、ますますふざけたことを抜かした。
大体、こいつはなんだ?
オレの補佐だと。
本来なら、補佐などいらない。
加えて、この無能ぶり。
「おまえ、前職は?警官か、諜報員か、傭兵・・・」
「さぁな。そんな昔のこと忘れちまったさ」
「ムッ…では、まったくの素人と自白しているのだな」
「まぁそんなとこだろう。特に諜報に関しては間違いなくトムのほうがプロさ!」
「オレはトムではない。ジョンだ」
「・・・」
RQがその瞳をあらぬ方向に向けた。
「聞いているのか」
「あんたがジョンと呼ばれたいなら、そうしよう。だが、それどころじゃなさそうだぜ」
「なに?」
RQがくいっとその方向を指すと、ちょうど工場に車がついたところだった。
「工場の作業員ってもっと男臭い連中だと思っていたが、意外と胡散臭い感じで・・・まぁまぁ」
ニヤニヤしながら、RQはカメラを懐にしまいこんで、勝手に移動を始めた。
「まて、まだ動くな。見つかる!」
「やだね!」
そのまま、するすると塔から降りて、なんと車の男たちに近づいていく。
「あのバカ!もう知らんぞ!」
銃を握り締めながら降りようとすると、RQが手で合図して止めた。
「?」
しかたなく、物陰に身を潜めた。
「hello!」
突然、ピンク髪の男が現れたので、車の男たちはギョっとした顔で振り返った。
懐に手を入れたものもいる。
RQが撃たれるのは時間の問題だ。
「あんたたち、工場主だろ?すげえりっぱな車だよなぁ~」
RQは、素手でポンポンとボンネットを叩く。
男たちは露骨に嫌そうな顔をした。
「オレ、パフォーマーなんだけど、今月食う金なくなっちまって、働くところ探してんだ」
「とっとと失せろ」
男のうちの若いのが声を発した。
「頼むよ。金持ちの人助けって、世の中で奨励されているじゃないか。一応、仲間の楽器とか運ぶ仕事もしてたことあるから、肉体労働には自信がある」
「なるほど…」
年配の男が頷いた。
見ているジョンも頷いた。
たしかに…言葉どおりに見えるのだから不思議だ。
だが、相手も諜報員の訓練を受けたものなら、この不自然な登場に疑惑をもつだろう。
そして、それは事実となった。
「おまえが貧しいパフォーマーだというなら、その懐に入れているものはなんだ?」
「ああ、これね」
カメラを取り上げられて、RQはニヤッとして見せた。
「さっき、観光客からスッたとか言っても、信じてくれないだろうな」
「おまえは何者だ!」
「だから、ただのパフォーマーだって」
男たちが一斉に銃を向ける。
「おいおい!打つ前にすることがあるだろ。オレが何者かとかさ。もちろん、ただのパフォーマーということ以外は答えないけど」
「その男を拘束しろ」
RQは手をあげたまま、工場内に連れて行かれた。
ところが、指がこちらを呼んでいる。
まさか、真っ直ぐこちらへ来いとでもいうのか?!
男たちは銃を構えたまま、周囲をうかがっている。
「まだ、仲間がいるかもしれん。探せ!」
「チッ!」
・・・すると・・・
面白い現象が起こった。
RQに銃を突きつけている男、その傍らにいる年配の男。
その他の3人の男たちは見えない。
「?」
ともかく、このチャンスを逃す気はない。
一目散にRQが消えたドアに向かって走った。
様子を伺いながら、ドアを少し開ける。
すると、RQが手を頭の後ろに回され、跪かされているところだった。
「おまえはどこの何者だ」
こめかみに銃を突きつけられたRQは、ドアの隙間から覗くジョンを見て、
「やぁ!」
と微笑みかけた。
「!!」
男たちが一斉にこちらを振り向く。
一瞬。
RQがくるりと回転し、男たちの頭に踵落としを食らわせた。
「ぐ!」と呻き、二人の男は倒れた。
「ジョン、まったくナイスタイミングだ。さすがは元諜報員!今度からはジェームズだな」
「あ、」
親指をたて、Goodと言っているRQ。
「おまえ、ここまで計算に入れて・・・」
「まさか!本当は囮作戦だったのに、あえなく拘束されちまったんで、あんたに協力をお願いしたってわけさ」
「・・・」
「さぁ、早く撮影しよう。あいつらが帰ってきたら大変だろ」
「ああ」
第5惑星のステルス物質はすぐに見つかった。
まだ取引で仕入れたばかりだったのだろう。
非合法な宇宙からの輸入品は、倉庫に積まれていた。
「任務終了だな」
カメラをしまうとRQが
「なんで?終わりじゃないだろ」
と畳み掛けた。
「今回の任務は偵察のみと・・・」
言った先から、工具のようなものを投げつけられた。
「ジョン、ここからどうやって逃げるか考えてる?」
「なんだと」
「オレたちは無事に敵地に侵入した。敵のど真ん中に。敵が周りを囲んでいる中に。どうやって帰るんだよ」
「・・・」
あまりにうまく行き過ぎていて、考えていなかった。
任務のことばかりに捕らわれていたからだ。
「そういうことで。ジョンは武器を自動発射させる技くらい持ってるだろ?」
「ああ、一度訓練で習ったことが」
「じゃあ、それに頼るとしよう」
そう言われても一度しかやってみたことはない。
しかも実戦では初めてだ。
うまくいくかどうか。
戸惑いながら黙っていると、RQがそこらへんから押収してきた武器を持って現れた。
「さすが軍事工場だけあって、嫌というほど武器がある」
「短時間でこれだけの武器を制御するというのか・・・オレには・・・」
「やったことあんだろ。なら大丈夫だ」
「むむ・・・」
武器を一つ一つ手にとりながら、仕組みを瞬時に把握し巧妙に罠を仕掛けていく。
時間との勝負。
囲まれたら後はない。
知らず知らずのうちに冷や汗が出てきて、手が震えてきた。
「・・・できるのか、でもやらなければ」
「できるさ」
傍らでピンク髪の男がこちらを覗きこんでいた。
「大丈夫。うまくいくさ。オレにできないことでも、あんたならできる」
そうだ。
こいつは素人で…今、オレがやらずしてどうする!
なんのための経験だ。
絶対に生き残って、映像をSSGに届けるのだ。
新入りなのに、このような重要な任務を与えられて、信頼された恩を仇で返すような真似はできない。
一つまた一つと武器に仕掛けを施しては、手渡す。
どういうわけか嬉しそうな顔のRQは、それをあちらこちらに置いていく。
「ま、あんたには後で話すけど、オレにいい考えがある」
その時のRQの横顔をオレは忘れることはないだろう。
生まれて初めて・・・こんな表情を戦場で見た。
まさしく、何かが始まる予感の顔。
それを心待ちにしている少年のような瞳。
台詞にしていうならば、
「さぁ、パーティの始まりだ!」
とんでもなく魅力的な表情とはこういうものをいうのだろう。
・・・男だと知っていても一瞬、見惚れてしまった。
その表情のまま、RQはロケット弾を手にした。
「まさか!やめろ!」
「ぶっ放すぞ!」
凄まじい爆音とともに、工場の一部から火の手があがる。
すぐに先ほどの男たちが駆けつけた。
「ずらかるぞ、ジョン」
「だ、だが・・・」
「だがもクソもねぇ!生き残りたかったら走ることだ!」
猛スピードで走り去る我々の背後で、爆音と仕掛けた銃の乱発する音が聞こえる。
「敵は思ったより多い!援軍を援軍を!」
「くそっ!何十人入り込んでいたんだ!」
「倉庫に水を!煙で何も見えん」
「やめろ、水をかけるな!ブツがっ・・・!それより火の手をどうにかしてくれ!!」
叫び声を遠く聞きながら、カメラを握り締め、脱出した。
迎えに来ていたヘリに乗り込み、安全な場所に降り立つ。
ここからは、ごく普通の旅行者を装って飛行機に乗り込むわけだが・・・。
「こいつさぁ、トムに似てねぇ?ほら、スパイ映画のさ」
RQがこちらを向き、キャビンアテンダントに話しかけていた。
「まったくどこまで緊張感のない奴なんだ」
座席につくと、隣ですぐに目を瞑って寝てしまったRQの傍らで、オレは眠れずにいた。
どういうわけか・・・今回、RQに言われた台詞の数々が耳に残っていて。
素人のくせに・・・最初はそう思っていた。
しかし・・・
心を突くような発言が何度となく、耳で、頭の中でリピートされる。
こいつの手段を見ていると、素人であるのは間違いない。
たとえ、戦闘のプロであったとしても。(あの踵落としはそういう意味では玄人だった)
飛行機は雲の上を飛んでいる。
小さな窓から入ってくる月明かりがRQの横顔を照らした。
初めて・・・オレは、こいつがまれに見るほど整った顔をしていることに気づいた。
彫りの深い彫像のような容姿だ。
あまりに整いすぎているため、人工物のような気すら覚えた。
この男が、あんな人間らしい台詞を吐くのだ。
そう思うと、急に変な心地になってきた。
「うまくいったよな・・・」
一人心地つぶやいてみる。
「オレたち」
妙に気恥ずかしいような気持ちになった。
こんなのは初めてだ。
「できれば、もう一度・・・」
組みたい。
切なさすら湧き上がってきて・・・本当にどうしたらいいものかわからない。
SSGの隊員は戦闘部隊ごとに分けられている。
オレは、実は戦闘部隊ではなく、情報部に所属している身の上だ。
RQは、どこかの部隊に所属しているのだろうか?
SSGの施設内で再び会うこともできるだろうか?
この仕事が無事に終わったら、一度飲み交わしたい。
・・・それだけだ。
・・・・絶対にそれだけだ。
たった1日しか行動をともにしていないのに、こんなことを考えるとはどうしたのだろう。
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