-RED-

闇の殺し屋

また夜がくる。
あの男がやってくる。
血に染まった黒いコートをたなびかせながら。


暗闇に光る刃を、袖の奥に隠して。
男は路地裏に入った。

-ここは、あいつらの匂いがする-


コツコツとドアを叩く音に、家主はドア越しに声をかけた。
「なんだ、こんな時間に」
音もなく黒い闇に包まれたかと思うと、家主の身体は崩れ落ちるように倒れた。
「こんな脆いドアで」
男は、ドアノブを投げ捨てた。
「オレを止められると思うな」

「あなた、一体…?」
家の奥から女性が走り出てくる。
「!!」
彼女の目に映ったのは、倒れている夫の姿。
そばで佇む黒ずくめのマスク姿の男。
やがて、倒れた家主の口から人間のモノとは違う緑色の体液が流れ、小さな手が覗いた。
「グゥゥゥ」
家主の身体から這い出る寸前に、生物は力尽きた。
「----!」
女性は、この星の言葉ではない悲鳴をあげ、家主…いや、生物にしがみつく。
男はその様子を涼しげなブラウンの瞳で見つめた後、無言のまま大振りのナイフを振り上げ…
「---!!」
女性は悲鳴をあげようとするが、男の手がそれより早く彼女の口を塞いだ。

「殺されたくないのか?」
男は呟いた。
女性は恐怖のあまり目を見開いたままだ。
「オレがここでキサマらを殺さなければ、おまえらはあと何人殺すつもりだった?
勝手に人のシマに入り込んで、人間を何人食らった?」
「んん…」
口を塞がれたまま、女性は首を振る。

その時。
部屋の奥から、小さな子供が飛び出してきた。
「ママ?」
「逃げなさい!」
「チッ!」
男の瞳が新たなターゲットを捕らえた。
「うまく化けてやがるようだが、オレの目は誤魔化せねぇ!親子ともども死にな!」
男のナイフが光る。
彼女は身動き出来ないまま、最悪の瞬間を待った。

だが、その瞬間はいつまでたっても訪れなかった。
ドォンとあたりをつんざくような轟音。
舞い散る砂煙。
衝撃で、彼女の身体は部屋の奥に吹き飛んだ。

「なんだと!?」
「わぁーおうちが壊れちゃったよ!」
子供の声に、薄目を開いた女性が見たものは、砂煙の中から浮かび上がる巨体。
たなびくピンク色の長髪。


「始めましてかな、殺人鬼の坊や!」

RQは不敵に微笑んだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・


家中のありとあらゆるものが壊された。
子供は、それでも目をそらさずに二人の戦いの行方を見守っている。
黒づくめの男は、切れるような動きで攻撃を繰り返した。
だが、RQには当たらない。
「下手くそ~もっと楽しませてくれよ!」
その巨体には似合わない柔らかい動きで、男の攻撃をすべて流すようにかわしていく。
「くっ!」

男の顔に焦りと怒りが浮かんだ。
-なんで突然こんな奴が現れたんだ?-
ピンクの髪を振り乱している巨大な男は、日本で言うふんどし一丁だった。
-ここいらが犯罪が多い地域だと知っちゃいたが…まさかな-

目の前の男は間違いなく通りすがりの変質者だった。
だが、妙に動きがいい。
薬をやっているのかもしれない。

男の攻撃が鋭さを増す。
握り締めたナイフがRQの肩口に届き、一文字の赤い痕を作った。
続いて、振り下ろした一撃がふんどしに当たった。
「ヒュー!やるじゃないか!悪いが脱がされる趣味はないぜ。オレは脱がす専門なんだ」
「ふざけるな!変態がっ!」
男の息が上がっている。

攻撃が当たらない!

その焦りが薄い色素の瞳からも伺えるようだ。
「おまえ、ストリートでは強い方かもしれないがな。オレから言わせれば、子供のケンカ程度だ!」
「ぬかせっ!」
男のナイフがRQの首元に迫った。
RQはするりと身体を翻し、男の腕を掴んだ。
「おとなしくしろよ、じゃじゃ馬」

ボキッ!

鈍い音がして、男がナイフを落とす。
「ぐぁ!」
「折っちゃいねぇよ、外しただけだ」
次に男の鳩尾に拳を当てる。
「がはっがはっ!!」
激しく咳き込む男の顔を覆っていたマスクを引き剥がすと、白い絹のような肌が現れた。
「へぇ、ジャパニーズ美人ってやつぅ?意外だな」
男は繊細な顔をしていた。
細い眉に鋭く切れ長の瞳、小さく薄い唇は壊れそうな儚ささえ感じさせた。



「君、名前は?」
「う、うるせぇ!」
RQに首を掴まれて壁に押し付けられても、男は戦闘意欲を失ってはいなかった。
外れた腕を無理やり上げようとしている。

「無理はよせよ。いろいろ理由ありだと思うが」
「ぶっ殺してやる」
鋭い視線で睨みつけた。
「不可能だな。それより、自分の身を考えろ。2つに1つだ。
ここでオレに殺されるか、それとも…」
「殺せっ!」
血反吐を吐くような叫び。

「死ぬ事なんか、恐れちゃいないってか」
男の態度にRQはしばらく考えた。

「本来ならおまえを殺している。なにしろ、おまえは世界中の秘密に触れた挙句、裏の条約までも犯した。オレがここで手を下さなくても闇に葬られるだろう」
「勝手にしろ…オレはあいつらが許せないだけだ…」

…やはり、恨みか…

RQは、おもむろに男の顔にそっと唇を近づけた。
「おまえ、可愛いから生かしてやらないでもない。どうだ?オレのペットにならないか?」
「さ、触るな!変態!」
動揺を隠し切れない男の態度を笑いながら、
「冗談さ、チェリーボーイ☆
だが、今度は本気だ。おまえには素質がある。オレと一緒に来い!」
「・・・」
「命を無駄にするなよ。せっかくの美人が」