摩天楼が紅に染まる頃
夜の魔物が目を覚ます。
ここのところ、街では妙な噂が広まっていた。
「突然、隣の住人が消える。何者かに攫われたみたいに」
「殺されたのかもしれない」
「でも、死体が出てこない」
今日も子供たちが広場で、噂の続きを話していた。
「モンスターじゃないのか、そういうのオレTVで見たよ」
笑い転げている子も、本気で怯えている子もいる。
だが、騒ぎは留まるところをしらない。
その中で、一人の子供だけが神妙な表情で俯いていた。
「おい、こいつビビッてやがる!」
誰かが笑った。
「ちがうよ!」
「弱虫!本当はこわいくせにっ!」
「ちがう!僕は…僕、見たんだよ!」
「何を?」
皆が急に息を潜め、その子の中心に集まった。
「一昨日、僕が住んでいるアパートの隣から小さな悲鳴が聞こえたんだ。
前に殺人事件が起きてたのもあって、ママが警察に通報して、パパは隣に駆け込んでいった。
…しばらくして、パパと警察に呼ばれたママが戻ってきた。
でも、二人とも、何も覚えてなくって…何も。
こっそり隣の家を覗いたら、黒い服の男達が小さな何かをタンカーに乗せてた。
タンカーから覗いてた小さな手、あれは人間の物じゃない!緑色の3本指…大きな爪!」
子供たちは沈黙した。
その様子を近くのベンチで聞いていた男は、黒いサングラスをかけて立ち上がった。
上背のある機敏そうな体つきだが、タートルネックの服から覗く白く細い首筋は、大人になる前の不安定さを感じさせる。
彼は長いコートの裾を翻し、彼は子供たちの間を通り過ぎた。
ふと、一人の子が振り返る。
今、通っていった男の身体から血の匂いがしたような気がした。
男は、そのまま広場から姿を消した。
SSG本部にて。
長官のリヒャルトは、先ほどから部屋中を行ったりきたりしている。
「落ち着かん…」
あの男が、意気揚々とこの部屋から出て行ってから半日がたつ。
そもそものきっかけは、一枚のレポートだった。
ここ数ヶ月、何者かによって地球外生命体連続殺害事件が起こっていた。
初めは事故のような小さな事件だったが、それが連続で起こってくると組織が動く必要性が出てくる。
今まで地球という星における宇宙人接触事件にて、被害を受けるのは地球側か、宇宙人同士か、
ともかく地球側からの地球外生命体への危害の報告は、ほとんどなかった。
そこへ、地球外生命体連続殺害事件だ。
種別は問わないやり方から見て、大きな計画性・組織が絡んでいるようには見えない。
武器は大型のナイフ。
間違いなく地球人が個人で犯行に及んでいるものと考えられた。
大きな組織が関わっていないとして、個人的な快楽殺人の系か、もしくは怨恨の筋…。
だが・・・
どこの人間が、地球外生命体を傷つけることに心地よさを覚えるというのだろう。
それ以上に、怨恨など抱きようもないことは明白だった。
地球の政府は、未だに地球外生命体の存在を公式には認めていないというのに。
今まで起こった地球人と地球外生命体との接触事件は、古くは政府の圧力で、現在では脳波に直接影響を与える機械の発明で、その間の記憶を消すという手段によってもみ消してきた。
それでも、なお人々の口にあがるのはいたしかたないとしても、わざわざそれらを探し当て、殺す必要がどこにあるのか?
リヒャルト自身も頭を悩ませていた問題に、あの男は「恨みだ」と断定づけた。
「どうしてそう言える?」
「殺し方。わざと見せつけるような殺し方をしている。悲鳴をあげられないようにしてだ
」
「それだけならば、ただ殺しが好きな男という線も」
「何言ってんだ、リヒャルト!」
RQは鼻を鳴らして、笑った。
「ただ殺しが好きな男なら、そこらへんに獲物はいくらでもいるだろう。
た・と・え・ば…人間」
「ムッ」
この男、人をバカにしている。
不機嫌なリヒャルトを見て、RQは真顔に戻ってレポートを投げた。
「わざわざ人間以外探し当てて、殺そうってんだぜ。ご苦労なこった」
その後、いやに楽しそうな面持ちで「これはオレが行く」と部屋を出て行ったRQだったが…。
「あのバカっ!」
-可愛ければ連れてくる。可愛くなければ仕留めるぜ-
ニヤリと微笑んで出て行ったあいつの顔が忘れられない。
半日たっても連絡がない。戻ってもこない。
あいつは…
上半身裸のままで出て行ってしまった。
「頼むから、警察にだけは捕まってくれるな…」
地球外生命体連続殺害事件の裏で、秘密組織SSGの隊員が恥ずかしい罪で逮捕されるなどという
第2の事件が発生しない事を、心の底から祈るリヒャルトだった。