-RED-

星の記憶

「回すぜぇ!」

四駆車がリムジンの前に現れた。

「なんだ、こいつ!」
リムジンはハンドルを切り、スリップして止まった。

運転をしていた男は、ハンドルに顔面を打ちつけて呻いている。
「ロラン!」
「おいっ!待て!」
すぐさまリムジンに駆け寄ろうとした春人をサムが制止する。
「なんだよ!」
春人の声と同時に、リムジンのドアが吹き飛んだ。

「うわっ!」

爆風から身を守りながら、春人はロランの名を呼んだ。

「ロラン!ロラン、無事か!」

赤い炎の中で何かが動いている。

「!?」

それは、人影ではなかった。
無数の触手のようなものが不気味に蠢いている。

「ありゃなんだ?」
サムが目を凝らすと、触手は彼の足に絡みついた。
「あ、この野郎!」
あわてて銃で撃ち抜くと、それはリムジンのほうへ引き下がった。

「何かいやがるぞ!春人聞いているのか!」


ーロランがあの中に!ー


煙をかいくぐっていくと、触手に捕らえられている小さな身体が見えた。
ぐったりとして、気を失っているようだ。

「ロラン、しっかりしろ!」

ロランを捕らえている触手は、五角形のヒトデのようなものから出ており、中央部に顔があった。人工的な無表情。

「とうとう捕らえたぞ。シリウス族」
「おまえ、何者だ!」
「これはこれは…」
脳に直接響いていくるような声…。
「地球の人類か。所詮は支配されるがままの一族ではないか」
「何者かは知らないが、ロランを返してもらおう」

すると、ククク…とそいつは笑った。

「シリウス族を手に入れ、支配者たちの知識を手に入れれば、我が一族も支配者たちに加われることもできよう。おまえたちは未来永劫、支配される運命」
「意味のわからねぇこと抜かしてんじゃねぇ!ロランを返せ!」
「できるかな?愚かな人類よ」

触手がロランの額に伸びると、ロランの身体がビクリと身震いしたように見えた。

「春人…」

そいつの目がロランの瞳を捕らえる。

「…ああ…」

ロランの瞳の色が禍々しい赤に変わっていく。

「正体を現せ、シリウス族」
「…」

ロランは意識を取り戻したようだ。
…が、その瞳は狂気を宿している。



「ロラン!」
「ギギギ…」

春人の叫ぶ声も届かない。
「おまえ、ロランに何をした!」

触手に囲まれている能面のような顔がぐにゃりと捩れた。
「こいつの心を半分食らった」
笑っている。
「何…?」

ロランの髪は逆立ち、獣のように伸びた爪が血で濡らしたように赤く輝いて、春人のほうを向いていた。

「これがシリウス族の本当の姿。かの高名なスキュラ族に使役されるために作られた、戦闘種族だ。
スキュラ族は自ら戦うことを好まない。そのために自らを守る奴隷を作り出した。
そして、もしもの場合を想定して、シリウス族にも彼らの知識の一部を受け継がせた。
こいつを手に入れられれば、かのスキュラ族の知識も…我らの手のうちに入るということだ」

スキュラ族…SSGの講義で聞いたことがある。
極めて高度な知識を受け継いでいる種族。

「そんなに知識を手に入れてどうするつもりなんだよ、タコ野郎がっ!」
「ククク…何も知らない人類には関係のないことだ」

触手が後ろに下がると同時に、ロランが獣のような叫び声をあげながら、春人に襲い掛かってきた。

「どうしたってんだ!オレがわからないのかっ!」
「ググ…ルル…」
避けきれず、腕に爪をつき立てられて、春人は呻いた。
「ロラン、オレだよ。春人だ。なんでわからない!」
尖った牙で春人の首筋を食いちぎろうとするロランは、もう以前の面影を留めてはいなかった。

「オレは、おまえを信じる。そう決めたから…おまえも、オレを…信じてくれよ。
こんな化け物に負けんじゃねぇ…」

その間にも、サムは触手を攻撃していた。
桁違いに巨大な相手。
彼の武器は短銃のみ。
しかし、サムは顔の部分に確実にヒットさせていった。
「くぅ!」
能面のような顔が苦痛に歪む。
「ただの銃だと思うなよ。オレ特製のスペシャルだぜ!」
「人類の分際でっ…!」
そいつは、顔や触手から緑色の液体を撒き散らしながら、後退した。
「だが、シリウス族だけは渡さんぞ!」

ロランの瞳がぐらりと揺れたかと思うと、春人から離れて、ふらりふらりと触手のほうへ歩いていく。

「行くな、ロラン!」
ピタリとロランの足が止まった。
「黙れ!」
触手がロランに伸ばされる。
「ロラン!」

その時。
一瞬、ロランが振り返ったように見えた。
口が微かに動いていた。

「…ごめん」

ガクリと、ロランは倒れた。
「!」
「なんだとっ!」
つんざくような声があたりにこだまする中、春人はロランに駆け寄る。
「ロラン!」

サムがすかさず触手とその中央にある顔に弾丸を食らわせた。
「ぐっ!!」
巨大な身体が地の底に沈んでいく。
「逃がすかよ!」
サムの攻撃は、地に沈んだそいつにはきかなかった。
「チッ」

サムが振り返ると、春人はロランの小さな身体を支えていた。
ロランの長く伸びた爪は、ロラン自身を貫いていた。
「今すぐ助けてやるからな!」
しかし、捻じ曲がった爪はロランの胸に深く突き刺さったまま、抜けそうにない。
刃物のようなそれを抜こうとして、春人の掌は血に汚れた。
「どうして、こんなちくしょー!」
「ごめん、春人。…痛いだろう」
ロランは冷たい手で、春人の胸にそっと触れた。
「僕の力では、あいつを追い払えなかった。だから…」
「だからって、おまえがこんな目に合う必要はねぇよ!ロラン、ロラン、抜けない!
どうすればいい!!」

ロランは首を振った。
「春人。僕は…きみの信頼を裏切ってしまったけど、きみは最後まで僕を信じてくれた…。
これで僕はやっと…」
ロランの優しい色の瞳の中に、遠くの星空が映った。
「ロラン、しっかりしろ!助けてやる!オレが、絶対助けてやるからっ!!!」


ロランが最後に残した言葉。

「きみたちには”希望”が残されている。あの方が答えを見出してくだされば…」

そして、もう一言。

「ありがとう。楽しかった」