彗は僕の隣を歩いている。
緊張がほぐれているようにも見える。
手には、物干し竿。
「それだけで戦ってきたんだ?」
「ああ」
”別に問題ない”とでも言いたげな表情で彗は頷いた。
「それにしても、君たちは何者さ?あのビースト相手にそんなもので立ち向かおうなんて」
翔が驚きの声をあげる。
「通りすがりの武道家です!」
日向が宣言した。
「僕も多少は嗜んでいるけれどね」
翔はクスッと笑った。
「ええ!何を?どんな流派??」
日向には興味深い話題だったようだ。
僕と総一郎にはまるでわからない世界だ。
「えっとね、軍隊で…流派っていうか、サバイバル武術みたいなもの」
「すごい!!武器を使ったり??」
「うん」
「気が合いそうじゃないか、あの二人」
彗がわかったような顔をして言う。
「僕と気が合いそうな上品でかつロックな人はいないのかな?」
総一郎がキョロキョロとまわりを見回す。
「安心しろ、もう少ししたらゴキブリ野郎が出てきてくれるだろうから」
「やだよ!安心できないよ!!そんなの!!」
笑う彗と、僕にしがみつく総一郎。
やれやれ…皆がいると怪物付き迷宮ゲームも、ハイキングのノリになってしまう。
不思議だな…。
そして、いつまでもここにいたいと思わせてしまう。
本当はこの迷宮から抜け出して…そして、もとの世界に帰らなきゃいけないのに。
「ほらほら、君たちがそんな話題をしているから、もう一匹来ちゃたよ!」
壁を突き破って、モンスターが現われた。
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彗と、日向と、翔と。
3人がタッグを組んでゴキブリと戦うさまは、アクション映画を見ているようだった。
「CGなしっ!?」
と総一郎も目を丸くしたくらいだ。
なんだかんだと言いながらも、総一郎は僕をガードしている。
「誰かさんの目が恐くてね」
ニヤリと笑う。
僕は、僕だけ何もしていない。
何にもできない。
いつもそうじゃないか。
歌のお兄さんになりたくても、特別に歌を練習しているわけじゃないし。
下手くそが出て行ったら迷惑になる。
守られて心配されるばかりで。
「おーい!ふゆ」
俯いていると、日向が物干し竿片手に走ってきた。
「怪我はなかったか?」
「大丈夫。大丈夫だけどさ…」
「どした?」
「僕だけ何もしていない。何もできない…どうしよう。何かしたいのに…」
「その気持ちだけで十分だ。おまえは動くな」
と彗。
「でも、でも…いつもそうなんだよ。なんか、なんかできるはずなのにっ!」
「浮雪くん」
翔が心配したような顔でこちらを向く。
僕は…こんな事言って、皆を困らせているだけだ。
「おまえ、燻り続けてるだけだろ?」
と、唐突に日向が言った。
「う、うん…たぶん」
「燻ってるってのはさ、”自分もできる”って実は思っている証拠じゃないか。
大丈夫、おまえはおまえが思っている以上に強くなれる!」
なんて…なんて格闘家らしい言葉なんだろう。
さすがムエタイの選手を目指すだけある。
なんか妙にすっきりとして、根拠のない自信が湧き上がってきた。
でも、今はこれでいいんだ。
「僕も逃げるのには自信がある。大丈夫さ、僕と一緒なら地の果てまでも逃げられるぞ!」
総一郎がウィンクをしながら、親指を立てた。
キラーンキラーン☆と瞳が光る。
セリフはなさけないが、輝きはアイドル並み。
意外とカリスマ性があるのかもしれない。
「いざというときは、こいつを囮にして皆で逃げよう」
彗が、いつもの通り冷静に言い放った。
「えー!」
「ひどーいぃ~!」
総一郎に同調して翔が甘く低い声をあげる。
ハハハハ…
自然と笑いがこぼれる。
やっぱり皆がいるだけで。
それだけでいい。
あとは、僕自身、何ができるかを発見すればいい。
迷宮は、まだまだ続いているのだから。