心配の種

「ところでさ…きみは本当に違うところから来た人?」
翔は、しきりに彗に話しかけている。

どうやら、とても気に入ったらしい。

眼差しがピンク色だ。

彗は、珍しく愛想笑いを浮かべた。
「そうですが、何か?」


一見、綺麗なお姉さんと、ハンサムなお兄さんの組み合わせである二人だが…。

「なんか絶対的に交わらないものを感じるよ」

総一郎が呟いた。
彼から見ると、彗の微笑みは絶対的な拒絶の証らしい。

「案外、お似合いかもしれないぞ」
日向がのんびりと言う。
そして
「浮雪、危機一髪!」
とニヤリとした。

「なんでさ?」
どうして、翔と彗が微笑みあっているのが、僕の危機なのさ?
納得いかない。

と、いうか…。

僕は少し怒っているんだ。

やっと再会できたのに、「…うん」としか言わなかった彗に。
いかにも、僕が無事でこうしているって事を知っていたかのような顔をして。
僕は…正直、彗に再会できたら「よかった」の一言でも言おうと思っていた。
もし、二度と会う事ができなかったら…そんな予想をしたくなくて、先を考える事さえ恐れていたけれど。

僕も「…うん」と頷いただけで。

彗は、まだ僕のほうを見ない。
長い髪が背中で揺れてる。

手を伸ばしたら届きそうだけど、きっとヒラリと身軽によけられるのだろう。
3メートルくらいジャンプして…足音一つも立てずに。
猫のような足の運びで逃げていくんだろうな。
振り返り様、何か投げてみたりして。
それがこう額にサクッと刺さったりして…。

僕の想像が、切なさからおかしさに変換されつつある途中で、本当に彗は振り返った。

「バンド名メシアは歴史に刻まれるだろう」
「そう!よく言ってくれました!…まっーたくね、一応機転を利かせたつもりだったんだけどさ」
総一郎が軽く微笑んだ。


総一郎があの時ジタバタしながら、後で来るかもしれない二人にメッセージを残していた事など
僕は知らなかった。

「しっかし、アレがサインだとは、気づかなかったぜ」
日向が首を振って見せた。
「まぁ、あのおかげでおまえ達が二人でいて、しかも無事だとわかったんだけどな」

「ふーん、そうなんだ」
翔が首を突っ込んでくる。
彗にそっけなくされて寂しかったらしい。

「まぁまぁ、矢崎も嬉しそうだし、よかったよかった」
日向の言葉に、彗が眉を顰める。
えらく不都合そうな表情だ。

「心配の種だからね」
総一郎が僕の額を突いた。

すると、彗が物凄い迫力のある無表情でツカツカと総一郎に詰め寄った。
「そういえば、この世界に来る時に、髪を数本引きちぎられたのを感じたが、あれはおまえか」
「し、知らないです!そんなの」

ちょっと前、総一郎が言ってたっけ、この世界に落ちる前に彗の白髪を掴んだって。

「んんんん!!!」
総一郎が激しく首を振る。
「ここが安全地帯なら、おまえをモヒカンにしてやるところだ。昔のバンドマンらしく」
「僕が愛しているのは、メタルじゃないよ!」

それにしちゃ、総一郎の人工金髪はイギリスのメタルバンドみたいだったが…。


「浮雪」

彗が久々に僕の名前を呼んだ。
久々とは言っても、時間的感覚から言ったら、半日くらいのものだろう。
なのに、ドキリとした。

「無事で…よかった」

「あ」

僕が何か言う前に、突然彗は向こうを向き、翔の肩にもたれかかった。

「どしたの?」
「…」

しばらく黙った後、彗が口を開いた。

「見かけによらず…りっぱな肩」

「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」


結局、彗が何を言いたかったのか、伝えたかったのか、誰にも検討がつかない様子で…。
そして、なんとなく翔は苦笑いをしていた。