「なんかここの気配…っていうか雰囲気っておかしくないか?」
「日向、おまえも気づいたか」
デパートの床に出来た謎の穴に飛び込んだ途端、周りの風景が変わったのだ。
見上げればオレンジ色の天井。
目には見えているのに、気配がない。
壁があって、ないような…。
それでも触ると、つるりとした感触を感じる。
「変だ」
「おそらく、三半規管をおかしくする電波か何かが出ているのだろう」
彗は真顔で壁を触った。
「もしくは、これ自体がバーチャルなのか…だとしたらかなり高度な技術だな」
「かなりSFっぽくね?」
「…それなら今までの全てに通じる答えだな」
それはそうだ。
当たり前のように納得して、日向は遠くを見た。
明らかに人為的に破壊された生物の遺体が転がっている。
「オレたちの前に、誰かがここを通ってあいつを破壊した…か」
「強い衝撃で破壊されているところを見ると、バズーカか爆弾のようなものを使用したと見ていいだろう」
「まさか、総が?!」
あのマヨネーズのような男がバズーカを発射しているところなど想像できない。
「案外、浮雪かもしれんぞ」
彗が笑いを堪えながら言った。
まさか、あのイチゴ大福のような浮雪が…?!
想像した事がわかったのか、彗はさらに笑みを含みながら
「ふゆがそんなキャラだったら、オレは出会った2日目くらいにはあいつに食われてたさ」
と言った。
「ともかく、二人が食われる心配はなくなったわけだ。誰かに付いていっているらしい」
「オレたちも急ごう!」
「ああ」
「あれれ??」
エアートランポリンの部屋を出た途端、その部屋は暗闇に消えうせた。
「だから、バーチャルなんだよ」
翔が言う。
「なんだ、じゃあエアートランポリンも壊れてないのか!」
勘定までしちゃったョ!と総一郎は溜息をつく。
「そんな事はないよ。バーチャルだけど、ある意味本物なんだ。システム上では故障に
なっているだろうね」
「ん~さっきから気になってたんだけれどさ」
どうもこの空間に慣れてきたせいか、考える余裕が出てきた。
「なんだい、浮雪君」
「このバーチャル迷路ってどこにでも普通にあるものなのか?」
「2200年ではこういう遊びが一般的ってやつ?」
続いて総一郎も質問した。
「そういうわけでもないよ」
翔が語るには…。
このバーチャル迷路はここにしかないらしい。
まだ実験段階なのだが、前評判が大きくなってしまい一般に解放したという。
バーチャル迷路は体感ゲームを基にして作られたそうだ。
現代で言うところの、画面を見ながらスポーツができるコンピュータゲームみたいなものだろう。
それが進化した形がこれらしいが、実際はワンフロアくらいの大きさの場所を何度も回らせる事によって一つの区を歩いているような大きさに体感させているのだという。
「なら、そのバズーカであたりかまわずぶっ放せばいいんじゃないの?」
総一郎の言葉に、翔は頭を抱えた。
「きみは見かけによらない意見を言うねぇ。総ちゃんとやら。もし、方向感覚がない場所で
あたりかまわずバズーカを打ったとしても、中央部に何度も打ち込んでいるかもしれないって
思わない?」
「ようするに、無駄玉になるって事か」
「なんにも出てこなきゃ、そうしてもいいんだけど…」
カシャリと翔がバズーカを構えた。
前に、また気持ちの悪いのが遠慮がちにこちらを見ている。
・・・・
轟音の後、翔はぼやくように言った。
「こんな迷路を白爪コンツェルンが作らなきゃよかったのにさ」
白爪コンツェルンって…。
「ちょっと待ってよ、それは弥生さんの…」
「総ちゃん白爪コンツェルンに知り合いでもいるのかい?だったら、こんなの実験的に作らないでって言っておいてよ!まったく、ハイテクはいいけれど空間移動装置なんてどこのお偉いさんが使うんだろうね?!」
「なにそれ?」
なんか引っかかる…翔の言葉。
「このバーチャル迷路に使う技術は、将来的に空間を移動するのに応用できるんだってさ。
詳しくは知らないけれどね。どうせ、偉い人しか使えないようなもんでしょ。昔、子供のゲームに宇宙船を飛ばすくらいの技術が使われたって聞いた事あるけれどさ。遊びばっかハイテクにして地に足が着いていないと、こういう事態になるんだよ」
と、翔は巨大なゴキブリを指差した。
「生き物殺してて気づくのは、自分も生き物だって事。皮肉だねぇ」
空間移動装置…。
もしかして、そこに今までの現象を引き起こしたヒントがあるんじゃないだろうか。
僕は総一郎の方を向いたが、彼は弥生の事で頭がいっぱいのようすだった。
しばらく歩いた後、翔は僕達二人に小型の銃を持たせた。
「はっきり言っとく。もうバズーカの弾数が少ない。いざという時、きみ達の身はきみ達で守るんだ」
なんだか、さっきから感じていた…翔の口調が重い。
声の低さはあいかわらずだったが、それ以上に緊迫感が加わっていた。
「もしかしたら、母体が近くにいるかも」
「さっきもマザーがって…」
「そう、親玉がいるとやっかいなの。これでもしくじった事はないけれどね」
総一郎が僕の後ろにさりげなく隠れた。
「おいおい…」
「化け物は苦手なんだよ~」
まだシロのほうが勇敢だ。
先ほどからご主人を守るように、ピタリと横に張り付いている。
ここに、彗がいたら…どうしただろう?
また、僕は彗にばかり頼ろうとしている。
こんなところに来てまで。
今は、自分がしっかりしないといけないんだ。
彗は、今ここにいないんだから。
小型の銃を硬く握り締めた。
進んでいくうちに、敵の姿がだんだんと奇怪なものに変貌していくのを確認した。
最初はザリガニやゴキブリみたいだったのが、さっき倒したのはまるでエイリアン。
甲羅をもった蛸だった。
それと同時に、生命力や硬度もUPしているらしい。
翔のバズーカの衝撃が大きくなっていくのを感じる。
何度目かのエイリアンを倒した後、翔は言った。
「あと、2発…」
「2発でもマザーは倒せる…よね」
総一郎がドキドキするような口調で聞いた。
「前代未聞だけど、まぁなんとかしなきゃなんないね」
「そんなー!!」
悲痛な悲鳴をあげて、膝をつく総一郎をシロが慰めるように覗き込んだ。
「シロに慰められてどうするんだよ~」
「だって浮ュ~」
「せめて、素手で戦えるような逞しい人がいればねぇ…なーんて」
翔が溜息をついて笑った。
すると、総一郎が「はーい!」と手をあげた。
「はい、総ちゃん!」
「先生、僕、知ってます」
「なにを?」
「素手で戦える人」
「まさかぁ?」
「それは・・・・・・・・・・この人たちデース!」
総一郎が指差した方向には…。
「きみたちは??」
そこには、物干し竿を持った日向と彗が立っていた。