エアートランポリン

「2200年の世界か…」
さっきから総一郎は、その時代に自分が生きていたら、何代目の子孫に出会うかと計算していた。
「僕の子供の、子供の、子供、子供がいるくらいかなぁ?」
「きっと、弥生ちゃんに似てかわいいよ」
「そりゃ、そうだね!」
総一郎がニンマリ笑う。

「おや、君はもう結婚しているのかい?」
意外~!!と翔が手を叩く。
「い、いや。でも…なんで、そこで弥生さんが出て来るんだよ!浮雪っ!」
「ふふ…なんとなくね~」

そういえば、弥生はどうしているだろうか、彗は日向は…?
「皆、大丈夫かな…」
「弥生さんはシルバーがいるから、大丈夫。それに、彗と日向はたぶん近くにいると思う」
総一郎が、突然、僕の肩を抱えたので驚いた。
「どうしてさ?」
「落ちる時に、日向の「イテッ」って声も聞いたし……彗の白髪を掴んだ気がしたしっ!」

総一郎が手をワキワキとさせる。
たぶん、彼の言った事が本当なら…次に彗に会った時、総一郎は全力で髪を引っこ抜かれるかも。
僕は、哀れみをこめた視線で、総一郎の髪を見た。
この金髪を見納める時は近いかもしれない。

でも、彗がここにいるなら、近くにいるなら…。
そうやって、彗にばかり求めてはいられない、自分で何とかしてみないと。

彗に安心を求めようとした脳みそを、叱咤激励してみる。

「浮雪、大丈夫だ!僕がついている!」

何を思ったか、親指を立てて総一郎が爽やかに笑った。

だが、次の瞬間。

「う、うわーーーーー!!」

総一郎のお腹の辺りがモコモコと膨れ上がり…

「ぐわっ!!!」

まるで、その様子はエイリアンに寄生された人のようだ。
服が勝手に盛り上がって暴れまわる。

「きみ、下がってて!!」

翔が総一郎に照準を定める。

「た、たすけてくれーー!!身体の自由が利かないっ!!」

総一郎が手足をバタバタと動かし、尻餅をついた。

そして。

モコッ。

総一郎の襟元から顔を出したのは。

「シロっ!」

「・・・」
「・・・」

「ワンワン!」
「なんだ、こんなところに隠れてたのか~!」

そうだ、今まで忘れてた。
弥生のシルバーのイメージが強すぎて。
ごめん、シロ。

「はぁ、無事でよかったなぁ!」

翔が、溜息をつきつつ微妙な笑顔を作った。
「…お馬鹿な飼い主だね」



総一郎よりは、頼もしい仲間がもう一人(一匹)増えて、僕達はさらに進んだ。


「あ、部屋についたよ」
オレンジ色のトンネルは、真っ直ぐ部屋に通じていた。
翔が、まわりを見回す。
丸いオレンジ色の天井。
その部屋は、真ん中にステージがあった。
子供の好きそうなぬいぐるみが置いてあったり、おもちゃがあったり。

「あ、すごいぞ。これ!」
総一郎が、2,3歩進んで身体を弾ませる。
「トランポリンみたいだ!」

「ここの部屋自体が、エアートランポリンになっているんだね」

そんな翔の言葉も気にせず、僕達二人は馬鹿みたいにはしゃぎあった。

「楽しいってわかかっててもさ、大きくなると入れないよな。やっぱり」
「子供の頃、こういうのでよく遊ばなかった?」

僕が、これで初めて遊んだ頃。
お父さんはまだ生きていた。
達也兄ちゃんと二人で、はしゃいで。
お父さんとお母さんは写真を撮って。

「僕が、初めてこれで遊んでいたら、父さんが迎えに来ちゃってさ。それっきりだよ」
総一郎が、天井を見て笑った。
「小さい僕を一人にしておけないってわかるけど、会議の時まで同行させなくてもいいじゃない。子供には子供の世界があるんだからさ」

総一郎のお父さんは、銀行の総裁なんだっけ。

僕達がしばらく跳ね回っていると、翔が突然「しっ」と人差し指を立てた。
「遠くで音がする」
「?」×2

翔は、耳元のイヤホンみたいな機械を一層耳に押し当てながら言った。
「この集音機は、100m以内の音なら拾えるんだよ」
「また、あの変なのがくるの?」
「…わからない。でもなんか違うみたい」

「ね…」
総一郎が、翔のイヤホンに耳をすませる僕の肩をトントンと指先で叩く。
「ん?」
「あれ」

部屋の向こうから続いている廊下から、生き物がゴソゴソとやってくるのが見えた。
明らかに見たくなかった姿の化け物だった。

今までの、ザリガニみたいなゴキブリみたいな奴の身体に無数の目が付いている。
「気持ち悪いー!」

咄嗟に気づいた翔がバズーカを構えた。

奴は、ゴソリゴソリと鉄パイプのような足をバタつかせながら近づいてくる。
エアートランポリンに奴が乗った途端に、プシューと音がして、空気が抜けるのがわかった。
大人がが乗っても壊れないのに。
奴の足がそれだけ頑丈だという事だ。

「ち、ちくしょー!」
突然、総一郎が叫んだ。
「こんな面白いものを壊すなんて!ちょっとレンタルするのに¥250,000くらいかかるんだぞ!」

エアートランポリンの相場なんて知らなかった。さすが、銀行家の息子だ。

感心しているのもつかの間、翔がバズーカを発射した。
轟音と衝撃。

エアートランポリンの部屋は跡形もなく崩れ去った。

「ちょ、ちょっとやりすぎじゃないですか、おねー…おにーさん?」
戸惑いながら、総一郎が言う。
「いいや、奴はこれくらいしないとダメなタイプなんだ」
そう言う翔の横顔が少し強張っている。
だが、優しげな顔よりもやはり低い声のほうが説得力がある。

彼(?)はその声のトーンをさらに下げながら呟いた。
「まさか、近くにマザーが…」

思わず、あまりの渋さに恋してしまいそうだった。