「そっち引っ込んでて!」
「はひっ!!」×2
また巨大なザリガニが出現した。
翔はバズーカを構える。
「消えろ―――!!」
その太い声とともに、轟音が壁ごとザリガニをぶっ飛ばした。
「ねぇ…あれはなんですか?」
今更ながらという口調で、総一郎が聞く。
「だから、ビーストだよ」
オレンジ色の長い髪をさっと靡かせながら、翔は答える。
この後姿だけ見れば、綺麗なお姉さんなのに…。
「きみたち、知らないの?観光客?」
この素敵な渋くて低い声がなければ…。
「ここ、日本ですよね?」
「…ずいぶん古風な言い方するんだね。見かけとは違う歳なのかい?」
「?」
「ここは、東アジア連合国だよ。昔は単一国家を名乗っていたんだけれどね。「日本」って言う」
「?!」
「ひょっとして冷凍睡眠から目覚めたばかり?ちゃんと教育は受けた?」
「冷凍睡眠??」
さすがに翔は頭を抱えた。
僕達を義務教育を受けていない少年達だと思ったらしい。
「まぁ、出るまで時間がかかるだろうしね、僕が教えてあげるよ」
この国:東アジア連合国
彼の身分:ビースト対策ソルジャー「B・B」の単独活動員
ビースト:放射能の影響で突然変異した害虫
「そもそも、50年ほど前に原子力を使った施設が2つほど故障してさ。それで、その周辺にいた生物が突然変異したわけ~。だからって、全部が全部じゃない。ほとんどはすぐに死んだ。
でも特別に耐久力が強い生物が生き残った。姿を変えて…」
「ゴキブリだ…」
僕の発言に翔は手を軽く叩いて「浮雪君、ご名答!」と言った。
「え、あれゴキブリなのか?!」
総一郎が嫌な顔をした。
「ゴキブリは、ご存知のとおり非常に生命力が強い生物だ。彼らは姿が変わっても、あの繁殖力が衰える事すらなかった。もともと、この島…きみたちの言う日本にはいなかったんだ。
ところが、どこからか入り込んできて以来、恐るべきスピードで増え続けている。
だから、僕達「B・B」が結成された。軍事機関の一部としてね」
「でもさ、あんなに大きいものがうじゃうじゃいるなんて、ここの人はどうやって暮らしているんだよ?」
「普通の住居には、いちおうビースト避けの超音波装置とか、大雑把なところでは地下に電波網とか付けてるから…でも、こういうちょっと古い建物は危ないんだよ。やつらがいるのは主に地下だから。
こういう大きい建物は地下に繋がっている箇所が複数ある。もし、そこの一つが破られたら食べ物も豊富なこういうところは狙われやすい」
「食べ物って…人間??」
「いや、めったに人は襲わないけれど、それでも死者は出ているからね」
そういえば、ここはデパートだった。
彼らの狙いはいわゆるデパ地下(食料品売り場)なのだろう。
でも、さっき出てきたのは婦人服売り場だった。
そして、この迷路?とやらにも。
「やつらの通ってきている道が、この階に向かっているみたいね」
排気孔か何かだろうか?
「それにしても、この迷路お子様向けなわけでしょ。ずいぶん大きいね」
だいぶ足が疲れてきた。
「そりゃね。ざっと一つの区が入るくらいかな?」
「へ?」
翔の言葉に耳を疑った。
「バーチャル迷路だからね。ここに落ちた途端、目に見えているものは全て嘘。ビースト以外はね。
ここに入る手続きなんて必要ない。そのままこのコンピューターの組み込まれた空間に入った瞬間に私達は迷路の一部と化すの」
「・・・・」
「はーい、質問があります」
やる気0%の調子で、総一郎が手をあげた。
「はい、そこの金髪の坊や」
翔が指差した。
「ところで今、西暦何年ですか?」
そうか、ここは僕達以外の人はいるけれど、僕達の知らない世界だ!
今頃そんな事に気づいた。
「…西暦は2200年だけれど、それが何か?」
「そうか、2200年か」
「すいぶん・・・・」
僕達はお互いに顔を見合わせた。
「…2200年????」
さっき強く頭を打ったから、耳がおかしくなったんだ。
僕は、そう思いたかった。