-時の漂流者、21世紀に流される-

なにやら気の良さそうなアレクという人物は多忙らしく、すぐどこかに消えてしまった。

そして、私達の前にはアレクから紹介されたアイオンという人物が立っている。
彼は肌も髪も真っ白で、瞳だけが血のように赤い。

そういえば…母の髪も月の光を受けるたびに、銀色に輝いていたものだった。

ジュールは自分の髪を手に取り、母とは違う色に顔を曇らせた。
鈍い金色。
大嫌いな父親譲りだ。
それに彼の赤い瞳は、トトの母を思い起こさせる。
故人のため、絵姿でしか見た事はないが。
トトはこの部分は母に似ていなくて、茶色い瞳をしている。
私とは違う色。
運の悪い事に、私は瞳の色も父親譲りで薄い水色だった。

私達の父親は前イルミーネ国王。
しかし母が違う。

私達は父親繋がりで、兄弟と呼ばれる。
だが、そんな事はどうでもいい。
どんな形でも、そばで生きていられてよかったと思う。


…たとえばこんな時にでも。


実の事を言うと、一番先に上がってきた推理は営利目的の誘拐だった。
だが、現実は私の予想を大きく裏切った。
今回ばかりはオカルティストトトの勝ちだ。
相手は宇宙人ではなかったものの、未来人だったのだから。

ボイルの話を聞けば、普通は正気を疑うだろう。
ただ、こうもありえない光景ばかり見せ付けられると、認めざるを得ない。
第一、彼が目の前に現れたところで営利目的説は崩されていた。
こんなに慌てふためいた心理状態で、計算づくの誘拐などできるわけがない。
一応、「目的」と「今後の扱い」について尋ねたが、彼は「戻します!絶対、僕の身にかけてっ!」と、泣きそうになっていた。
まぁ、彼自身が時を行ったり来たりできるのだから、すぐにでも帰れると考えていたが、ここにはここの事情があるらしい。

「次に書く小説のタイトルは「時の漂流者」に決まりだね!」
そんな事を言っているトトは意外と逞しいのかもしれない。
相手が危険な宇宙人でなく、未来人だとわかった時点で、落ち着いたようだ。

さすがに見学等は許されていないらしく、ボイルの次に閉じられた部屋に入ってきたのがアレクだった。

「こっちのトラブルに巻き込んでおいてなんだけれど、ここにはここの事情があってな。
ちょっと遠回りになるが、必ず帰すから」

そう言って私達を「この時代よりは、だいぶ昔の時代」に転送する準備をはじめた。

アレクによると、勝手に過去のモノを持ち帰ってはいけない事になっているらしい。
それに、ボイルは私達二人を連れてきてしまった罪により、メスを使って八つ裂きにされる。
…かもしれないという。
それで、彼を救うためにちょっとした誤魔化しをするそうだ。
彼の前科が残らないようにするための措置は、21世紀にいるアイオンという人物の協力を仰ぐ事。
なにやら話がトトの好きそうなSF小説っぽくなってきた。

私達を過去に送る前に、アレクはそっと呟いた。
「実は、ボイルを切り裂くかもしれないのはオレの同僚なんだよ」
「え!あなたの同僚は拷問師なの?」
震え上がってトトが聞いた。
「我が国では、もう100年も前に廃止したのに。未来になったら復活するなんて…」
「いや、違う…けど…う~ん、この事を知ったら、止められそうにないからな。急がないと」
「ところで、私達が今から行く所は安全なのでしょうね?私はともかく兄上の身に何かあったら…」
小さいトトの肩を抱いた。
「大丈夫、ここにいるよりは絶対に安全だ」

どういうわけか、このアレクという人物の言葉は説得力があり、信用できた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



どうやら、こちらは早朝のようだ。
薄ぼらけの空が目に優しい。
まわりはまだ静かで、話に聞いているアイオンの同居人も就寝中のようだ。

「はじめまして。アイオン・クレイ・ファラディといいます。過去情報管理部で実習生をやっています。アレクの話によると、イルミーネという国からわざわざ来てくださったようで…」
アイオンは、ふんわりとした外見を裏切らない口調で話し始めた。

「ここは21世紀の日本という国です。ようこそいらっしゃいました!」

未来に飛ばされたばかりでなく、ボイルの慌てようや、拷問師やら八つ裂きの刑やら不気味な単語が飛び交って、この先どうなることかと思ったが。
こちらはツアーガイド並みの愛想のよさである。
トトは礼儀正しく対応した。
「はじめまして、アイオン・クレイ・ファラディさん。
私はイルミーネ国王トト。その他の肩書きは省略させていただきます。
しばらく、ここにお邪魔する事になり、ご迷惑をおかけするかもしれない。
いたらない点はどうかご容赦を。それからこの間だけでもよろしくお願いいたします」

やはり…兄上だ。
と、ジュールは思った。
先ほどまでモジモジしていたのに。
こういう時は、極めて低姿勢の丁寧な言葉を使う。
年上めいている。
ジュールは少しイラだった。
アイオンに、「この人は、やはりトトよりも年下だ」と思われたくない。
普段はトトより大人っぽく見られるジュールだが、実は少々年下コンプレックスがあった。

「私は…」
と、ジュールが言いかけた時、突然アイオンがトトをきつく抱きしめたではないか!
これには、ジュールも言葉を失った。

「??」
トトも呆然としている。

「イルミーネ国ではこうしてきつく抱き合うのが、挨拶だとデータに残っていたものですから…。ずいぶん情熱的な国民性なんですね!」

-我々のデータ?-

そんなものがあったのか?!
二人は顔を見合わせる。
それにしても、きつく抱き合うのが挨拶だなんて…。

「おや…まだ、ありますよ」
アイルブルーとブラウンの瞳が、アイオンを食い入るように見つめた。
「夜な夜なレスリングをするのが習慣だそうで。ここには、お二人が寝台の脚を壊してしまうほどのバトルを繰り返したと書かれてあります。これはいい!僕たちは趣味が合いそうですよ」
トトとジュールは、レスリングという単語にピンと来た。
ボイルも同じようなことを言っていた。
だとすればこのデータ、彼が記録したものであり、信憑性はゼロといってもいい。
ここで訂正するべきかどうか、二人は悩んだが。
実際に何があったのか告白して恥をかくよりは、勘違いさせたままのほうがいいような気もした。
しかし、それに対して“趣味が合いそうだ”とはどういうことなのか。
「最近では格闘技に興味を持っているんです。よろしかったら、対戦でもしませんか?」
「えっ?」
それにはさすがにトトも驚いたようだった。
「遠慮しておきます!ね、兄上」
ジュールはトトの返事を待たずに言った。
未来に飛ばされてレスリングなんて、たまったものじゃない。
それよりもなによりも、初対面でトトに抱きつれたのがジュールは気に食わない。
初対面でなければいいというわけでもないのだが…
基本的に、独占欲が強いのである。

「ところで、私の紹介がまだのようなので・・・」
そう言うと、ジュールは胸に手を当てて、猛烈な勢いで自己紹介しはじめた。
「お初にお目にかかります。私の名は、ジュール・アルキュード。
イルミーネ国での身分は公爵。その他、外交等も役目として仰せつかっております。
この御方、イルミーネ国王陛下は私の兄上にあたられます。
あ、趣味と特技ですか?さぁて、どこからお話していいものやら…どれも拙い腕前なのですが、一応医師の免許を持っているので医療行為は一通り。あとは楽器を弾くことと、外国語を学ぶのも好きです。こう見えても外交官として他国に赴いたりしているので。基本的に身体を動かすのよりも頭を使うほうが得意なタイプのようです。ああ、あと歌も歌います。料理も作りますね」
「あと・・限定品を見つけるのが好きなんだよ」
トトが横から口を挟んだ。
「そうそう、つい…珍しいものを見ると手を出さずにはいられないのです!
別に所有欲が強いわけじゃなくて…基本的に人を喜ばすのが好きなので、そういった物を人と話す時のネタなんかに使うわけです。…別に人目を引きたいとか、自慢したいとか、そんなやましい気持ちじゃないんですけど。そう、この前なんかメガネ型の万華鏡を手に入れて…宮廷中に見せびらかして…」
「その結果、仕組みを確かめようと分解して、壊しちゃったんだよね…」
はぁ~とトトが溜息をつく。
すると、ジュールは一瞬ムッとしてみせ、口を尖らせたまま
「すぐに直したもん!」
と言った。

「つまり…ジュールさんは、「非常にたくさんの趣味を持ち、手に入れたものをすぐに壊す方」なんですね」
そう言いながら、さらに嬉しそうにアイオンは言葉を続けた。
「それじゃ、ますますお二人とは趣味が合いそうな予感ですよ!
僕もたくさんの事柄に興味がありますし、すぐに破壊してしまう癖があって…」
「何を破壊されたんですか?!」
トトが聞いた。
見かけからすると、アイオンは“破壊”という言葉がまったく似合わない。
「この前も、キッチンでのこぎりの歯を折ってしまったものですから…」
照れくさそうな顔でアイオンは笑った。
その動作があまりに自然なものだったので、二人とも発言の不自然さには気づかなかった。

「あ、そうだ!」
とアイオンは二人に向きかえり、ジュールにも抱きつこうとした。
ボイルの残したデータによる挨拶のつもりだろう。
「あ、すいません…先ほど申し上げていなかったのですが」
ジュールが身を引いて、手を前に出しながら言った。
「先ほどのデータは少し間違っていまして…、それもしょうがない事なのですが。
先ほどのような挨拶は、我が国においては私から兄上にする事しか許されていないのです」
「そうなんですか」
「すみません。せっかく親愛を示していただいたのに。これは国の法律なのです!
破ればメスで八つ裂きにされてしまいます」

そばで、トトが何ともいえない顔をしている。
「そういう事で…。我々としても、ついしなくてもいい警戒をしてしまうので、挨拶は握手に留めていただきたい!」
思いのほか、ジュールの発言に力がこもっていたのは、無意識のいたすところであろうか…。
と、トトは考えた。
もちろん真っ赤な嘘である。それにメスで八つ裂きは未来の刑罰ではないか。
我が国にはそんな刑罰の方法はないのに~。

だが、アイオンは特別驚いた様子もなく
「そうですか、気をつけます。イルミーネ国もいろいろ法律があるんですね」
と、ジュールに握手を求めた。


「立ち話もなんですし、中に入りませんか」
アイオンはそういうと、二人をリビングに招き入れた。
小さくシンプルな造りだが、さりげないところに花が飾ってあり、なかなか居心地がよさそうだ。
この時代の家具や機械など、トトとジュールにとってみれば、はじめて見るものばかり。
アイオンは二階にあがって行ったかと思いきや、片手で持ち運びできる大きさの薄っぺらい金属性の箱を抱えて戻ってきた。
「僕のノートパソコンです。これで未来にいる教授と連絡を取って、いつ頃転送できるか訊いてみましょう」
電源をつけると、画面にオレンジ、白、黒のストライプ柄のヘビが現れて
『Password please?』
とキンキン声で言った。
「“真祐大好き愛してる”と…」
アイオンは上機嫌でそんなことを口ずさみながら、カタカタとキーを打つ。
このパソコンという機械がどういうものか分からないが、大声でばらしてしまってはパスワードの意味がないのではないか。
そんな二人の視線に気付いたのか、アイオンはキーを打つスピードを速めながらも
「真祐というのは僕の同居人です」
と、説明をはじめた。
その間、一度もキーボードを見ようとはしない。
「フルネーム蓮実真祐(はすみ まひろ)さん。
僕と違ってこの時代の人間です。4年ほど前に思考を読ませていただきまして…
あ、思考を読むのは僕の能力の一つなんですけど」
「あなたは超能力者なの?」
それを聞いて、トトが目を輝かせた。
「そう呼ばれることもあります。今では物を動かすことと、記憶を消すことくらいしかできませんが」
「すごい!私、超能力者に会ったのは初めてだよ!ね?」
トトが興奮した口調で話を振ってくるので、ジュールはしかたなく答えた。
「…私も初めてです」
しかし、ここでアッサリと感心するのは反オカルト派としてのプライドが許さない。
トトの宇宙人説よりは、未来の超能力者のほうが現実味はあるが。
「未来人は超能力が使えるんですか?」
ジュールがそう訊くと、アイオンはよどみなく答える。
「全員というわけではないです。僕は特殊な遺伝子を持って生まれたらしく、この力だけでもコントロールするのにだいぶ時間がかかりました」
タンッとリズムよく最後のキーを打つと、何を思い出したのか、アイオンはくすくす笑った。
「ジュールさんでしたっけ…真祐と同じことを言うんですね。
僕の時代は、SF映画のようなものではありません。宇宙からの侵略もなければ、核戦争もありません」
数時間前までは「誘拐されるなら金星人がいい!」と主張していたトトは、それを聞いてしゅんと肩を落とした。
ほら見なさい、宇宙人なんていないでしょう。
ジュールは落ち込んでしまったトトに対して悪く思いながらも、かすかに勝ち誇ったような気分になる。
しかし、これ以上トトの夢を砕いてはいけない。
兄思いであるジュールは、きりのいいところで話題を変えた。
「それで、真祐さんという方の思考を読んだあと、どうなったのですか?」
「一目惚れとでも言うんでしょうか。その場で恋に落ちてしまって、自分にはこの人しかいないと思ったので4年ほど過去情報管理部で勉強したあと、実習生としてこの時代にやってきたんです。真祐に言わせれば、押しかけ女房なんだとか」
「へえ…情熱的ですね」
後半あたりの問題発言はともかく、なかなか一途ではないか。
ジュールは感心した。
「いえいえ、君たちには負けますよ」
アイオンは社交辞令といったように手を振る。
レスリングVS押しかけ女房。
はっきりいって、どちらもいい勝負である。
「ただ、真祐の思考は行動と正反対なんですよ。慣れてくると、面と向って「お前なんか嫌いだ」と言われてもショックを受けなくなります。僕からすれば、そんなところも可愛いのですけれども」
本人がいないのをいいことに、言いたい放題である。
真祐がこの場にいたら、アイオンを殴るか、何も言わずに家出するかしていただろう。
「文句を言いながらも面倒見がいいんですよ。僕は真祐のそばにいるとこれ以上にないくらい安心するんです。精神安定剤みたいなもので…」

延々と続くであろう惚気話を中断したのは、『You’ve got mail!』という声だった。
スクリーンでは、先ほどのヘビが手紙のようなものを口にくわえている。
「レイ教授からの返信です」
ファイルを開くと、文章が1ページほどある。
アイオンはそれを一目見ただけでパソコンを閉じてしまった。
読むスピードが早いというよりは、一面の文章を画像のようにプロセスしているのだろう。
「転送の準備で一日ほどかかるそうです。その間は、僕がこの時代を案内しましょう」
アイオンはソファから立ち上がった。
「6時半に近くの公園でギターを演奏することになっているのですが、よかったら一緒に来ませんか?二階に楽器をいろいろと揃えてありますから、合奏できるかもしれませんね」
「リュートなら弾けますが」
ジュールがそう言うと、アイオンは目を見開いた。
「偶然ですね!このあいだ通販でリュートを買ったばかりなんですよ」
二人を二階にある自室へと案内する。
白と黒でデコレートされた部屋はリビング以上にシンプルだったが、ベッドの上には2メートルほどもあるヘビのぬいぐるみが寝そべっている。
オレンジ、白、黒のストライプ。
パソコンのスクリーンに現れたのと同じものだろうか。
「彼は“あいおん”といいます。名付け親は真祐なんですよ」
アイオンがすかさず説明を入れる。
クロゼットには、ギター、バイオリン、キーボード、フルート、マラカスなど、楽器が溢れんばかりに入っていた。
「何もないところですが、どうぞくつろいでいってください。僕は真祐を起こしてきます」
アイオンが部屋から出て行ってしまうと、トトは珍しそうに“あいおん”を観察しはじめた。
「ジュージュ、これ、なかなか愛嬌があると思わないかい?」
「そうですかね」
「うん、意外性があっていいよ。私も、寝室にぬいぐるみを置いてみようかな」
「それはいいですけど、名前はどうするんです?」
「それはもちろん…」
「私ですか。そんなことをして、側近たちに怪しまれないといいのですが」
そう言いながらも、内心は嬉しい。
ジュールは感心のないふりをしながら、ヘビから本棚へと視線を移した。


「ほう…」
本棚に目をやったジュールが一番最初に目をつけたのは…
―純愛物語☆彼と僕の放課後―
…彼と僕という事は、・・・そういう読み物か。
思わず手が伸びてしまったジュールに気づいたトトが目を光らせる。
「ジュージュ!こんなところで人のエロ本を覗くのはよくないよっ!」
「え・・エロ本じゃありませんよ!ろ、ロマン小説っ!」
「なんだ~」
残念そうにトトが溜息をつく。
密かに期待していたようだ。
あわてて、隣の本に視線を移動させたジュールだったが、動作を止めてしまった。
―恋愛感情を科学する―
面白そうだ…。
―キミも流行らせてみないかっ!―
まさしく私のための本ではないかっ!
―フェチな人と付き合う方法―
…無条件で必要な本だ。

トトもつられて本棚を見ている。
「これだけ蔵書があるんだから、「毛全集」もあってもよさそうだけれど…」
「なんですか?それ?!」
「知らないのジュージュ?古今東西の毛について書かれた伝説の研究書だよ。
彼なら持っていてもおかしくない」
「そんなの毛フェチしか読みませんよ…」
「私、毛フェチじゃないもん!」
その発言が大嘘である事をジュールは知っている。
最愛の兄に毛を求められて、どれだけ困り果てている事か…。
トトは、特に胸毛についてこだわりがあるらしい。
もちろんジュールには生えていない…。

「―これであなたも黒魔術をマスターできる!?147日で習う呪縛法―ねぇ、ねぇ、これ面白そう!アイオンさんもオカルティストなのかなぁ?」
トトは、続けて本棚を見ている。
「―ゲテモノを調理する!インセクト偏。タランチュラから白蟻まで、チャレンジャーなあなたへ挑戦!―これもすごく面白そう!あの人の作る料理を、ぜひともいただきたいよ!」
「私は…」
ジュールがそう言いかけた時。
隣の部屋から、悲鳴のような声が上がった。

「やめろアイオン!起きるからやめてくれ!」

「何してるんだろう?」
壁の向こうから、ベッドの軋む音が聞こえてくる。
「・・・・聞いたら失礼な内容かもしれないですよ」

なにしろ相手は、一目惚れの相手のために時をも越えてきた人なのだ。
あんなにも穏やかそうな顔をしていながら情熱的なのだ。
すると…あっちのほうも積極的なのかもしれない。
それにしても、隣室に初対面の人間がいて、なおかつこんな早朝からとは…。

「ひっ!やめろよ!」

どうやら、真祐という人物が下のようだ。
…いや、意外と普段は上で、今はサービスをされているのかもしれない・・・・・・・。

兄弟の頭の中でとんでもなく18禁の想像が駆け巡った。

「…ずいぶん情熱的ですね」
「う・・うん」
未来の人はもう少し醒めたイメージがあったが、そうじゃないのかもしれない。

「そういえば…私は1週間もあなたに触れていなかったのだけれど…」
「え・・うん・・そうだね」
ジュールがトトの肩を引き寄せた。
「お隣さんも燃えてるみたいだから、少しならいいでしょう?」
「え・・やだ!聞こえちゃうよっ!」
「お隣は聞こえるのが好きみたいですよ」

実際に、真祐という人物らしき声が「ちょ・・やめっ!」
という悲鳴を上げている。

「聞かせて燃える人もいるみたいですから」
「んん・・でも、ここ、人の部屋だよ」
「だから…少しだけ…」


「・・・・」


その頃。
隣の部屋では、文字通り、真祐がベッドでもがいていた。
ただし、ちゃんと服は着たまま…。

部屋に入ったきたアイオンは何を思ったか、突然寝ている真祐の脇腹を指で辿り始めた。
「ひ・・ひひひ・・やめろって!」
くすぐったくて身を捩るが、アイオンがやめる気配はない。

「じっとしていてください!ここからが大変重要なのです」
そう言うと、指を脇腹から上腕の裏に移動させた。
「やめろって!なに考えてんだ!」
はじめ襲われたのかと思ったが、どうやらそうではなさそうだ。
ひたすら、ピンポイントをついてくすぐってくる。

やっと真祐が目を開けると、アイオンは本を片手に大真面目な顔でふむふむと考え込んでいた。
「次は優しく肩を抱いて、愛しているよ…」
「?」
また、何か間違った知識を実践しようとしているのでは…と持っている本を取り上げてみると
「―スキンシップをしてみよう1―あなたも明日から愛妻家―…なんだこれは?!」
「書店で、愛する人とのコミュニケーションをうまくとる方法についての本を探していると言ったら、店員さんがこの本を」
真祐は思わず頭を抱えた。
たしかに、店員のすすめたものは間違ってはいない。
しかし、相手をよく見ることが必要だ。

大体、どっちが妻で夫なのだろう?

まともにもそんな疑問を持ってしまった思考を打ち消すように、真祐は首を振った。

「あ、そういえば、隣の部屋にお客様が来ているんですよ!」
こんな早朝から?
「アレク、アイス?」
「いいえ、未来から過去の人が」
「?…ちょっと待て、それはつまり現代人?未来から過去だって…??」
「いえ、現代よりもっと昔の人達です」
「…達?」
「正確には二名ほど…ともかく実際に会ってみたほうが」
「…ああ」

アイオンに変な起こされ方した上に、過去からの客人が早朝から隣室に詰めているらしい。
おかしな一日にならなければいいな。
と不安を感じる真祐に追い討ちをかけるように、アイオンは言った。

「お二人とも僕と実に気が合いそうな方々で、真祐もすぐに仲良くなれますよ」

アイオンと実に気が合いそうとは、どんな人々なのだろう。
災難が降りかかる前に逃げ出したい気分の真祐だった。

「失礼します~お二人ともお元気ですか?」
明るく言ってドアを開けたアイオンと真祐が見たものは…

金髪の大きな男が黒髪の小さな男をベッドに押し倒している図。

メドゥーサに睨まれたように固まっている真祐の前で、アイオンが珍しく興奮気味に叫んだ。
「さすが!お二人ともマットレスを見た途端に、格闘家の血が騒いだんですね!
さすがです。こんなところでも鍛錬とは!僕も見習わなければ!」

真祐はなんとかにまともに働いている理性で思った。
―おいおい、鍛錬とか…そんなのじゃないだろう!この図はっ!―
アイオンがらみの人々なのだ…少しでも、まともだと期待したのが間違いだった。

ところが、固まっている真祐はそのまま強い力に引っ張られ、気がつくと同じベッドの上に押し倒されていた。
「?!」
「と、いうことで僕もこれから鍛錬しようと思います!」

男四人がお互いの相手を一つのベッドに押し倒している図は、傍目から見るとものすごい光景だった。
しかし、ここで理性を取り戻しかけている一人がいて幸いだったと言える結果が待っていた。