「?」
こういう時には、誰でも似たような反応をすると思う。
瞬き一つの間に部屋の様相がまったく変わってしまったのだ。
「・・・」
「・・・」
しばらく無言の時が過ぎた後…ようやくトトはジュールに声をかけた。
「ねぇ、ジュージュ。私の部屋はこんなに殺風景だったかい?」
「…ここは・・?」
ジュールも思わず目を見張る。
彼らがいる場所は壮麗な国王の寝室ではなく、四方を金属で囲まれた何もない部屋だった。
「う、宇宙人に攫われてしまったんだよっ!!」
トトが叫んだ。
「まさか?!」
「だって、突然こんなUFOの内部みたいな所に飛ばされるなんて。絶対に宇宙人だよっ!」
「UFOの内部を見た事があるんですか?…と、まぁそれはいいとしても。誰かに攫われたのは確かなようですね」
ジュールは冷静な面持ちであたりを見回した。
やはり、何一つ物が見当たらない。
「火星人は戦闘的で残酷と聞くから、彼らに攫われたとしたなら、私達は人体実験に使われてしまう。ジュージュなんて体液を全部搾り取られてしまうかもしれないよ!」
トトの悲痛な叫びを無視して、ジュールは金属の壁に手を当てて考えこんでいる。
「ふーむ、これは・・・」
「金星人なら人間に近い容貌で友好的だって本に書いてあったよ。金星人でありますように!」
「兄上、金星の表面温度を知っていますか?400度以上ですよ。まさか生物が存在しているわけがない」
ちゃっかりこんな所までも、兄弟オカルト戦争は続いているようだ。
ジュールは壁に触れつつ冷徹に続けた。
「私達二人を攫ったという事は、犯人の目的はイルミーネ国にある。
営利目的の強請りか、もしくはもっと広い範囲での犯罪か…。どちらにせよ、計画的な犯行のようですね。犯人は、私達のいる部屋にガス発生装置か何かを前もって取り付け、私達が意識を失ったのを見計らい、ここに運んだ。推理小説などでよくある手ですよ。
…ただ、それ以外に非現実的な可能性が一つだけ…」
ジュールは意味ありげに人差し指を顔の前に立てた。
その様子は、まるで名探偵だ。
「宇宙犯罪者とかM××星雲がらみじゃないだろうね?宇宙警備隊への人質は嫌だよ…」
トトは真剣な眼差しをジュールに投げかけて震えている。
「いえ、宇宙人がらみではなく、あくまでこの星の人間がらみです。もっとも、私達の時代の人間ではないかもしれない…未来の」
そう言って、ジュールはふたたび壁に手をあて、呟いた。
「私の知識の中に、このような金属は存在しない。つまり、我々の文化では決してありえない物質なのです」
トトが「オーパーツかい?!」と言う前に扉が開き、男が一人駆け込んできた。
「人型だよ!やっぱり金星人だ!!」
トトの言葉を無視して、男は叫んだ。
「あなたの言うとおり、ここは未来の世界です!大した事はありません。ノープロブレム!!」
…気が動転しているボイルにはそう言うのが精一杯だった。
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「悪りい。俺、これから仕事なんだよ」
ボイルの話を聞いて、アレクは申し訳なさそうに言った。
「そんなこと言わないでくださいよー!イルミーネ国に二人を転送すれば、レコードに残ってしまいます。ばれたら僕、ケヴィンさんに殺されちゃいますっ」
とボイル。
「安心しろ。ケヴィンはそんな自分の手を汚すようなことはしねえから。
それよりも、あいつのことだから、このことをアイスに包み隠さず話すだろうな。
つまり、お前が殺されるとしたら、それは…」
「い、嫌ですよそんなの!あんなメスを持った快楽殺人者みたいな人!
怖いからできるだけ傍に寄らないようにしていたのに!」
「ほお…快楽殺人者か」
アレクの声のトーンが変わる。
アイスというのは、アレクの仕事のパートナーである。
ミッションの成功率は100%、そしてパートナーの死亡率も同じくらいに高い。
大半の人達からエクセルさんと呼ばれる、悪名高い人物だ。
わけあって本名を嫌っているため、親しい人からはイニシャルを取ってアイスと呼ばれている。
仲が悪そうに見えてあの二人、仕事仲間としてはこのうえなく息が合うらしい。
ボイルは自分がアレクのパートナーを侮辱したことに気付き、口が滑らてしまった…と後悔した。
ところが。
「面白いこと言うな!お前、気に入ったぜ」
どうしたわけか、アレクはゲラゲラと笑い出した。
「分かった、こうしよう。アイオンは知ってるか?」
「アイオンって…アイオン・クレイ・ファラディのほうですよね。
100年ほど前に、政府をひっくり返してしまった、あの有名人の」
「そう、アイスの“オリジナル”って呼ばれてる奴だ。俺の親友でもある」
未来政府に敵対していた地下組織。
その一員だったアレクは、政府に捕まってフリーズされてしまい、半年ほど前に解凍されたというわけだ。
100年後の世界で、アイオンのDNAをもとにして造られたクローンであるアイスに出会う。
わけあって、今ではアイオンの居場所は一部の人たちを除いては極秘である。
「そういうわけで、アイオンがらみの転送はレコードに残らないんだ」
「しかし…」
まだ何か言いたそうなボイルに向って、アレクはウィンクを投げてよこした。
「なんとかしてくれるさ。あいつになら、俺は命だって預けられるぜ」
そう言われては仕方がない。
というよりは、それ以外に道がなかった。