-HIRO-
ところで、ここはイルミーネ国。
国王のトトは、最愛の弟ジュールがバストール国から帰らないのに、気を揉んでいた。
まさか…浮気とか…。
変な方向に考えてしまいがちの頭を軽く叩いて、トトは理性を取り戻そうとした。
遅くなったり、別の場所で宿泊する時は、かならず連絡を入れる人なのに。
もしかしたら、犯罪に巻き込まれたのかもしれない。
弟は冷静沈着な人物だが、いきなり襲われ連れ去られた可能性もある…。
トトはいてもたってもいられなくなり、「バストール国へ行く」と言った。
しかし、バストール国でトトを待っていたのは、その国の国王も行方不明という知らせだった。
場所は移って、地下室に閉じ込められているサングとジュール。
「食事だ」
二人が逃げる可能性を考えているのか、皿を持つ男の他に数人待機している。
その中にはボスの姿もあった。
「まともに食える最後の食事だと思えよ!」
そう言うとボスは満足気に笑った。
逆に、二人はあからさまな不快感を示す。
派手なほうの人質は出された料理を見て「まずそうだ!食う気もおきやしねぇ!」と悪態をついた。
一方、上品なほうの人質はスープに顔を近づけて「ウッ!」と口元を覆った。
そして「これを作った者は誰か?」と問うた。
「はいっ!おいらです!」
子分Qが手を上げる。
が、すぐに彼は恐ろしいものに遭遇してしまった。
自分を見つめる氷のようなアイスブルーの瞳。
冷たく燃え上がるそれは、今にも他人を凍てつかせそうな怒りをたたえていた!
「きみは、マトンの臭み取りも知らないのか!!」
「は、はひっ!!すみません!!」
ジュールの恫喝に震え上がる子分A。
「この私に、下処理もしていない肉料理を出すとはっ!料理人の端くれとも呼べない愚かしさだ。今すぐこの皿を下げろ!出直して来い、下衆がっ!!」
「う、うわぁぁぁ!!!」
子分Qは号泣しながら走り去っていった。
「・・・・」
目の前で起きた光景に言葉を忘れているボス以下数名の悪人達。
「やりすぎじゃねぇの」
サングも、さすがに気の毒に思ったのかこそりと呟いた。
「彼のためだ」
そう言うジュールの口調に躊躇いは見られない。
「さすが、スノーマンっすね!マントマンのライバルだけあって、図太いっ!」
と子分A。
「ええい、うるさぃ!!」
「いてぇ!」
ボスは苛立ちを全て子分Aにぶつけた。
…というか、はっきり言って目の前の恐ろしい人質にはぶつけられなかっただけなのだが…。
ますます苛立った様子でボスは、二人を指差し言った。
「おまえらは本当に愚か者だ!最後の食事も自分達で蹴った。明日からはろくに食うものも食えない立場になるってのにな!」
「いや、最後の食事がこれじゃあ死んでも死に切れないんだが」
心底嫌そうな顔でサングは言う。
「同感」
ジュールも珍しくサングの意見に頷く。
「貴様らぁ!!!」
今にも二人に殴りかかりそうなボスを子分達が必死に止める。
「おやびん!せっかく憧れの悪の組織になれそうなのに、人質の価値がなくなっちまいますよ!」
「くぉ!!しかし、この…こいつら!!」
「明日になればこいつらは売り物。おいらたちは晴れて悪の組織です!だから、我慢我慢!」
「ぐぅ…」
どうにか収まったらしいボスは、子分達に言って二人をきつく縛り上げた。
「もう逃げられない。デカイ口をきけるのも、今日が最後だ」
そして、バタンと分厚い扉が閉じられた。
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「あの人とジュール様は一緒だと思いますわ」
落ち着かない様子で、さっきから部屋のあちらこちらをうろつき回るトト。
「大丈夫、だいたい場所はわかります」
「えっ?」
ジュリエットは、自らの左手薬指にはめた指輪を空にかざした。
すると、サファイア色をした指輪の石から一筋赤い線が伸びた。
「あちらの方向にあの人がいます」
「どういうこと?これは??」
「この指輪の石はあの人の持っているペンダントの石と同じもの。もともと一つだったものを二つに分けると、このように光を発して引き合う性質を持っています。
バストールの秘宝の一つだと聞いていますわ」
「え…私はそんなもの知らなかったよ」
瞬間、トトは悔しそうな表情をした。
ジュリエットよりもサングと長くいたのに、自分でも知らない事があったのだ。
しかも、サングが小さい頃からしていたペンダントもよく知っている。
もし二つに分けたのだとしたら、その片方を受け取るべきは、自分だとの思いもあった・・。
ジュリエットは、トトの様子に気づいたように付け加えた。
「トト様なら、あの方の場所を私よりもよくわかるはずです」
“あの方”とは、恋人ジュールの事をさすのか、それとも友人サングの事をさすのか…ふと
考えたトトだったが、ジュリットのしている指輪を確認して、いろいろなものを胸に閉じ込めた。
「その光を追って、私はあの二人がいる場所を必ず見つけ出すよ。
大丈夫…私なら見つけられる」
トトは、自らきつく手を握りしめた。
私の手にも目には見えないけど、誓いの指輪があるからね…。
そうして、ジュールを想った。
「サングは大丈夫だよ」
トトはジュリエットの肩に手を置いた。
ジュリットがふと顔を上げる。
「なにしろ、あれは私の友達だからね」
愛しい者が心配なのは彼女も一緒なのだ。
「では、行くよ」
トトは、武器を手に部屋を出た。