ジュリエットが示した方向を方位磁石で探りながら、馬車の中のトトは考えていた。
とりあえず、バストール国の精鋭を数人連れてはいるが、もしもの時は、この私が…。
もしもの時。
それは、サングが大暴れして容疑者もろともジュールを再起不能にしてしまう事態だった。
頼む…サング。
ジュールを巻き込まないでくれ。
私の弟は、とてもデリケートでおとなしいんだ…。
もし、ジュールが頬でも押さえて泣いていたら、私は・・・私は・・・。
トンファーを握り締めるトトの手が、熱くなって武者震いしてきた。
私は、おまえの関節を2,3ヶ所外す事も厭わないぞ!
場合によっては顔面陥没もじさないやり方で止めるからな!
まぁ、その時はジュリエットさんには自ら失態を説明してもらおうか。
もちろん、サングがジュールを守って戦っていたなら、私もそこに加わり暴れまわりたいものだ。
誰か手ごたえのある奴はいないか。ザコはいらない。
そう…戦いの場には善も悪も関係なく、私はただ最強の奴と戦いたいだけなのだ。
ゆったりとした面持ちで、屋根なし簡易馬車に乗っているイルミーネ国王の姿を見て、バストール国の精鋭たちは、感嘆した。
「さすが、イルミーネ国王陛下だ。あんなにも落ち着いておられる」
「自らがご出陣なさると聞いただけでも驚いたが、あの沈着ぶりは真似できん」
トトが、武器を手に武者震いをし、片頬に狂戦士にも似た好戦的な笑みを浮かべ、その瞳は闘志に燃え上がっているなど…
この時点では、誰も気づかなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
かくして、捕らわれの二人。
「あー誰もこねぇなぁ」
「もう少ししたら、行動を開始しますか」
「そうだね。あれ以下のもの食いたくないし」
「よしよし…」
サングは手を縛っている縄の調子をみた。
「マントマン48の技の一つ、縄千切り!」
ブチッ!
荒縄を軽々と引き千切った。
「私はとても上品なので、あなたと同じ真似はできません。解いてくれますか」
「え~~~!!めんどくさい」
ジュールの申し出に苦虫を潰したような顔で答えるサング。
「ジュリエット様に言いつけますよ」
「ちっ、しょうがねぇなぁ」
ヒーローも奥さんには弱いのだ。
しばらくして…。
「ぐっぉ~~~~」
地下室から上がった悲鳴に子分Aが駆けつけてみると、上品なほうの人質が腹を押さえて呻いている。
「お、おい、どうした!!」
「あんなに酷いものの匂いを嗅いでしまったので、おなかの調子が…っ」
「なんだと?!」
あわててドアを開けて駆け寄ろうとする子分A。
そこへ、サングが横から現れ子分Aの頤を自分のほうに向かせた。
「?」
「Hey Hey!オレとキスしようか」
「!」
瞬間、頤に当てた指を軽くバウンドさせた。
「・・・」
子分Aは白目を向いて倒れた。
「何をしたんですか?」
「軽く脳震盪を起こさせた。これぞ、マントマン48の技の一つ“実はおまえの事嫌いだったんだ”攻撃!」
「私には、しないでくださいね。気持ち悪い」
「安心しろ、おまえには“実は…”も何もないから、ひたすら大嫌いだ」
「そうですか、安心しました」
そう言いながらも、ジュールは凍てつかせそうな瞳をしている。
「逃げましょうかね」
「そ、だね!」
案の定、階段を駆け上っていると目の前から男が現れた。
「こいつらーー!!」
「うるせえ!!」
階段を駆け上る勢いのまま、サングは前蹴りを食らわせる。
男は倒れたまま階段を落ちて行った。
「出口はこちらです。目隠しをされていても道くらいはわかりますから」
ジュールが右を指さす。
「たぶんな!」
二人は右に向かって進んだ。
突き当たりは広間になっていた。
「なんだ?!」
そこにいたのは20人ほどの男達。
ちょうど集まってカードに興じていたらしい。
ボスの姿も見える。
「キサマら!」
彼らの向こうに出入り口のドアが見える。
すかさず、手にしたナイフをサングに投げつけてくる者がいた。
「おおっと!」
サングは真っ赤なマントをさっと広げた。
ナイフは、マントに弾かれて全て床に落ちる。
驚愕の表情を浮かべる敵を見て、サングは大口を開けて笑い出した。
「ガハハハ!マントマンの新マントを侮るなよ!」
そして、ポツリと…
「いつだか、見た目とは違う“甘ったるくてお菓子みたいな、悔しいほど美味そうな”名前の奴に
破られて以来、改良を重ねたのだ」
「私の覚えでは、あの人はもっと冷たそうな名前の方だったような気が…」
と、ジュール。
「ええい!どうでもいいが、きさまらここから出られると思うな!いけ!野郎共!!」
「おぉっーーー!!」
サングと数名の男達がぶつかった。
その他の奴らは見るからに戦闘意識のなさそうなジュールを捕らえようとする。
「兄ちゃん、綺麗な顔を怪我したくなかったら、おとなしくしな!」
ジュールは嫌そうな顔をしながら、いかにもしぶしぶとした様子で、壁のそばにあったダーツの矢を手にした。
そして、それをふわりと投げた。
「っ・・・!」
首にダーツの矢を受けた男が一人白目を剥いて倒れた。
「なんだ…こいつっ!!」
ジュールは、あいかわらず涼やかな顔で、アイスブルーの瞳を数人の敵に向けながら言った。
「私は、武術とか野蛮な事は嫌いですが、ダーツのような遊びは好きなんですよ。それに、仮にも医者の免許も持っていますし…」
また、ふわりと優雅に矢を投げる。
もう一人男が倒れた。
「神経系の勉強などもしましたので…」
矢の先が人を凍てつかせるように、キラリと光った。
「どりゃーーー!!!」
サングは、数人の男を一撃で吹き飛ばした。
彼らは全員床に身体を強く叩きつけられて、身動きしなくなった。
「…なんだ・・・・こいつらは・・・」
ボスの顔色が変わった。
そして・・・・。
「うほーーーーーーーー!!!!」
突然出入り口がブチ破られ、奇声をあげながら小さな男がトンファーを手に転がり込んできた。
目を見張る敵たちに速攻をしかけるトト。
「やっはっーーー!!」
人質救出者なのかもしれないが、むしろ、戦いを楽しんでいるようなその姿勢に子分Aは震え上がった。
それと同時に、入り口付近にいたバストール国の精鋭たちも震え上がった。
「おやびんっ・・・・あいつは、闘争心の塊なんてもんじゃない。闘争心の爆弾っす!」
「・・・っ」
目の前で部下達が次々と倒されていく。
ボスは、思わず後ずさった。
そこへ、トンファーを持ったトトが飛び込んできた。
「おまえ、ボスだな!!!」
普段は、おとなしく穏やかだと評されるその顔に浮かぶのは、狂気さえ感じさせるほどの好戦的な笑み。
「ひっ!!」
ニヤリとした不気味な笑みに気圧されて、ボスは震え上がった。
「オレも参戦するぞ!」
ザコを全員倒したサングが駆けつける。
そしてトトの様子をちらりと確認した後、ボソリと言った。
「殺すなよ」
「フッ…」
その返事は否か是か・・。
ともかく、二人は同時に一歩後ろに飛びのいた。
勢いをつけて、
「どりゃーー!!」×2
拳を、ボスの背後の壁にぶちかます!
ガラガラと無残な音をたててコンクリートの壁は崩れた。
ボスは直撃を食らったわけでもないのに、バタリと倒れている。
失神しているようだ。
「おい、トト」
「・・・」
未だ、目を血の色に染めているトトにサングは声をかけた。
「おまえ、最後に気を当てただろう」
「…そうじゃなきゃ、つまらないじゃないか。展開的に」
硬い声のトト。
戦闘状態からなかなか戻って来れないらしい。
だが。
「兄上!」
その声に「ハッ」となるトト。
「ジュージュ!!!」
トトの瞳には、もはや敵など映っていなかった。
世界一優しい恋人が、安心したような顔で近づいてくる。
「ジュージュ!怪我は?酷い事されなかった?大丈夫なの??」
慌てた様子で、愛しい弟の顔やら身体やらを擦るトトの姿に、サングは溜息をついた。
「ブラコンが…」
外に出て見ると、バストールの精鋭たちと…王妃ジュリエットが立っている。
「おいおい…どうして」
「マントマンがいる所、レディースマントマンもいるのですv」
そういうジュリエットもちゃっかりヒーローのいでたちだ。
「では、行きますか!」
二人は、仲良く手を繋いで叫んだ!
「マントマンのいるところ悪はなし!今日も、変晴れだぜ!マントマン!!
ハーハハハハ!!!」
~後日談~
誘拐犯たちは、前歴もなくこれから悪の組織になろうと考えていた連中だった、
ということでそれほどの罪状には問われなくなった。
もっとも、両国の王族に害をなしたという事になれば別だが、そこのところは攫われた二人が何も言わなかった。(まさか、下町で呑んだくれていて攫われたなんて言えないだろう)
「マントマンは今日も世界を守るために、レディースマントマンと活躍をしている…か」
バストールでは今回の事件は、謎の戦士マントマンが解決した事になっているらしい。
新聞に目を通しながら、トトはちょっとつまらなそうな顔をした。
「オカルト仮面も大活躍って載せてもらえばよかったよ」
「…これ以上危ないことはしないでください」
スノーマンジュールは眉間に皺を寄せながら言った。
今回は自身の言う「危ない事」をトトにさせてしまったのは自分だという気負いもあってか、それ以上は言わなかったが。
「そういえば、私はしばらく酒をやめることにしました」
「え!なんで?」
ジュールが酒好きなのを知っているトトは悲鳴をあげる。
「最近、馴染みの店で会いたくない人に会ったものですから」
「ふーん」
トトは口を尖らせていたが、何を思ったかパッと顔を明るくして、ジュールの手を引いた。
「ジュージュ!ダーツをやろうよ!サングがジュールのダーツの腕は殺人的だって教えてくれたんだ!」
「あいつ…またつまらない事をっ!!」
やろう!やろう!とはしゃぐトトにジュールは溜息を一つついた。
-オワリ-
「かげふみさんからいただいた二人vvv☆」
かげふみさん、ありがとうございました~~!!
このイラストがなければ、この話は書けませんでした!
改良した素晴らしいマント!
(ちなみに、前に彼のマントを破いた人はかげふみさん宅のキャラのアイスさんです。(今ではサングのせいでチョコミントさん^^ι)今度また、もう一度彼らを対戦させてみたい!
ええ、今度は狂戦士トトも参戦で!