「…」
「…」
「…どうなっているんだ?」
目を覚ますと、知らない所にいた。
「私達は誘拐されたのです」
聞き覚えのある冷徹な声。
「はぁ~~~??」
カビ臭い地下室に閉じ込められているのは、
イルミーネ国王弟アルキュード公ジュールとバストール国王サング、その人であった。
「なんで誘拐されてるんだよ?」
サングは、ジュールの胸倉を掴んで今にも噛み付きそうな勢いで迫った。
まるで、ジュールが誘拐犯のようだ。
「全部あなたのせいですよ!」
吐き捨てるようにジュールは答えた。
「なんでだよ??」
解せないという顔のサングに、ジュールは説明し始めた。
「昨日の夜。ジュールは、運悪くバストール国の飲み屋で、サングに遭遇してしまった…」
「小説みたいに言うんじゃねぇよ!」
「だってしょうがないでしょう!しばらく黙っていてくださいヨ!」
…昨夜、二人は飲み屋で遭遇した。
サングは、特別に酒を呑むほうではなかったが、たまにふらりと夜の街に降りてくる。
そうそう酒が強いわけでもないのに、昨晩に限って呑みすぎてしまったのは、隣に座っていた
“イルミーネ国の酒豪”ジュールと競い合っていたためである。
その結果。
正体を失うほど酔いつぶれたサングは、ふらふらと店を出て裏通りへ消えていった。
会計も済ませないまま…。
ジュールも他人のふりをしていようと思ったが、さすがに知り合いが無銭飲食をするのを黙っているわけにもいかず、仕方なく二人分を払い、サングを追った。
「大丈夫ですか?」
「ハハハ…なんだ、デカブツじゃないか!」
口調も足取りも怪しい。
「ほら、帰りますよ」
「あーうー…」
サングの腕を引きながら
“どうして自分のまわりには、こう酒癖の悪い人ばかりがいるのだろう”
とジュールが考えていると、いつの間にか柄の悪そうな連中に囲まれた。
「オレのファンかい??」
サングが呑気な声を出す。
「逃げましょう!」
「う~、ファンには背を向けられない…」
さすがにジュールも苛立ち
「この馬鹿!逃げるといっているのが聞こえないのかっ!」
怒鳴ってみせても、サングは“馬の耳に念仏”、“酔っ払いに恫喝”の状態だ。
さらに男達は間合いを詰めてきて二人を追い詰め始めた。
後ろに引くジュール。
だが、運の悪い事に背後は壁だった。
「ちっ!」
すると、サングはジュールの予想を裏切り、自ら前に進み出たではないか!
「やぁやぁ、君たちゴキゲンだね!その黒マスクいかしてるぜ!」
「あの馬鹿…」
“おまえはイカれてるだろ…”そう言いたいのも山々。
ジュールは頭を抱えた。
こうしてサングは自ら人質になった。
「お友達を殺されたくなければ、おまえも付いて来い!」
ジュールに迫る覆面の男。
「その人はどうしてもいいので、私は逃がしてくれませんかねぇ」
「何?こいつはおまえの仲間だろうがっ!」
たじろぐ覆面。
しかし、ジュールは続けた。
「知り合いではあるが、それ以上ではない!今日も払わないで帰ったし!さぁ、さっさと連れて行ってくださいよ!おまえ達が連れて行かないのなら、警察に差し出すところだ!」
覆面たちはお互いに顔を見合わせた。
“どうにも、まずい人たちを狙ってしまったのではないだろうか…”
後ほどこの心配は現実のものとなるが、その時は、まだ誰一人そこまで考えが及ばなかった。
「こほん!だが、おまえもオレたちの事を知ってしまったからには、帰すわけにはいかねぇな」
ボスらしき人物はそう言って、ジュールの顔を一瞥した。
「おまえは男娼に売れそうだ」
続けてサングを見て
「身体は丈夫そうだな、奴隷商人に売りつけてやる」
途端に、ジュールは星降る夜空を仰ぎ叫んだ。
「ああ、私のこの美しさが災いするなんてっ!!」
そして、サングもヨヨっと力なく崩れた。
「オレはスプーンより重いものを持った事なんてないのにっ!」
ふざけている…その場にいた人々は皆そう思った。
「まぁ、そこのおまえ。着ている物からして貴族か富裕層だな。身代金を払えば解放してやらないでもない」
ボスがジュールを指差した。
「ダメだよ!こいつの兄はっ!」
サングが横から口を挟む。
「UFOに乗せてやるとか、厳つい胸毛男でも連れて行けば、国を買えるほどの金を支払ってくれるかもしれないが!」
「私は、UFOや胸毛男以下ですか!!」
反論しながら、ジュールは本気で落ち込んだ。
そうだ…愛しい兄は、UFOや胸毛のためなら何だってかけるだろう…。
「そういうおまえは何だ?見たところ大道芸人のようだが」
ボスは、意外そうな顔でサングを見る。
たしかに、今夜のサングは青いシャツに真紅のマントというヒーロー的ないでたちだ。
サーカスの一員のようでもある。
それを聞くとサングは“待ってました!”とばかりに、シャツを脱ぎ捨てた。
現れたのは…
“変”
の一文字。
シャツを2枚重ねて着ていたのだ。
「ああっ!この人はっ!!」
覆面の一人が叫んだ。
「そうとも!皆のヒーローマントマン、ここに参上!!」
「おやびん!こいつマントマンですよ!子供が絵本持ってます!そうか、この人が…」
「黙れ!アホ!」
子分はボスに殴られた。
「知らないんですか、おやびん!ほら、マントマンって!」
「…っていうストーリーなんですよ」
「…」
ボスも思わずサングに注目する。
「おまえらは、そうか!悪の組織だなっ!!」
マントマンがポーズを取りながら、かっこよく叫ぶ。
「そうだ!オレ達は最近この国にやってきた人身売買の組織だ!
いつかこの世界を支配する悪の組織だ。覚悟しろ、マントマンとやら!」
ボスも負けじと叫び返した。
そんな中、冷徹な声が…
「なるほど、今の発言でわかりました。たいした事のない組織ですね」
「なんだとぅ!」
ボスは声の方向に向きかえる。
ジュールは人差し指を顔の中央に持っていった。
まるで、探偵の謎解きのようだ。
「まず…、自らを悪と定義する組織は必ず滅びるのです。世界を支配しようと思うならば、正義を掲げるべきだ。人は所詮、善だと宣言されたものには流されやすいのです。
それを証拠に、狂信的な宗教組織や独裁者は自分達の正義を掲げている。これらの事実さえ考慮していないおまえたちは有望株とは言えない」
「どうするんす!おやびん。こいつの言ってる事は正論です。ああ、この人がスノーマンか!
どうりで、心が凍りそうな言い方をしますよねぇ!!」
「ええい!うるさい!」
子分をぶん殴り黙らせた後、ボスは言った。
「と、ともかくおまえたちは大切な商売道具だ!つべこべ言わずに付いて来い!」
「…そういうわけで、今我々はここにいるわけです」
「なるほどね、何にも覚えてねぇ…」
サングは呑気に鼻先をかいた。
「まったく誰のせいだと思っているんだ・・くされヒーローめ」
ジュールはブツブツと言いながら扉を見た。
「誰か来るな…」