「ひさびさに帰ってきたな…別に帰りたくもなかったけど」
「そう言わないで!今日は、きみのために“おかえりの飲み会”を組んでやったんだからさ!」
入り口でセキュリティチェックを受けた後、春人は凍牙に出向かえられた。
「ところで、おまえのその変わり身の早さが怖いんだけどさ」
「ええ?何が?」
凍牙が日本にいる春人(の仕事)を狙って、強襲を仕掛けてきたのが2ヶ月前。
今では何事もなかったような顔で、“歓迎会”を開いてくれる人物とは別人のようだ。
「オレは今でも横腹が痛てぇんだが」
「そんなのきみが悪いんじゃないか」
「なあ…反省って言葉知ってるか?」
「僕は、省みるより突き進むタイプみたい。誰かさんと違って素直だしね」
こいつのいうタイプって奴は、ますます悪い方向に進化しているらしい…。
げんなりしたようすで、春人は隣を歩く明るい色の頭を睨みつけた。
そして、その夜はかつての仲間の一時帰還を喜ぶ“おかえりの飲み会”が開かれたわけだが…。
「うわぁぁぁ!!!」
早朝、悲鳴があがった。
「なんだよ、もう~!!」
凍牙が目を擦りながら起き上がる。
飲み会の後、誰かの部屋で酔っ払った一同が雑魚寝をしていたのだが、そのうちの一人が青ざめた顔で震えている。
「なに?もしかして、おねしょでもしたの?」
「おふくろが死ぬ夢を見たんだ」
「は、はぁ??」
「悪い俺、部屋に帰る」
そういって彼は部屋から出て行った。
「ふーん、よっぽどリアルな夢だったんだね」
「嫌な夢って、一日中気分悪いよな」
春人が天井を見つめながら呟く。
「きみ、神経太そうなのに、そんなこともあるんだね」
「凍牙、おまえにだけは言われたくねぇ!」
ところで。
別の場所で酒を飲んでいたリューと彩だが、自室でリューが目覚めると珍しく彩が隣で寝ていた。
彩は、神経質で人前ではなかなか寝られないらしいが、ある時から、リューのベッドに忍び込んで寝たりするようにもなった。
だが、よほど落ち込んでいる時や心のコントロールができないような時だけだ。
普段は、一人で布団を顔までかぶって寝ている。
当人は寝顔にコンプレックスがあるらしく、まれにリューのベッドで寝る時もリューが目覚める前に必ず起きて、目を開けている。
それが…今日は寝ている。
「珍しいな…」
リューがひさびさに見る彩の寝顔は、前に一度見た時と変わっていなかった。
きめが細かい白い肌。
ほんのりと紅く色づく小さな唇。
よく見ると睫毛も長かった。
中身がああじゃなければ、本当に女みたいだ…。
一瞬そう考え、あわてて頭を振った。
まさかな…自分の考えに苦笑しながら、誤魔化すように彩の肩に手を伸ばした。
彩は、一見華奢に見えるが、意外としっかり筋肉がついた身体をしていた。
触れた指先はその硬さを認識するはずだった…。
「嘘だろ…」
指先は意外にも柔らかい感触に沈んだ。
続いて見開いた目に入ってきたのは、はだけた胸元にあるくっきりとした谷間。
「・・・・!!」
「おい!」
「彩…オレの彩がっ!!」
「まだ、僕はきみのものになったわけじゃないが、それはきみの空想か?妄想か?願望なのか?」
「はっ!」
目覚めたリューは、眼前に彩がいるのに気付き慌てて、その胸を掴んだ。
これには、さすがに彩も驚いて
「どう、どうしたんだ!そんなにも欲求不満なのか!」
と叫ぶ。
「おまえ、胸をどこにやったんだ!?」
「ここにある!」
しばらく頭を抱えるリューを見つめながら、彩はポツリと言った。
「悪夢でも見たのか?」
この朝から、心に変調をきたすものが急に増え始めた。
「最近、占い部屋に来る人が多くなったんだよ」
占い師兎兎は溜息をついた。
普段、恐ろしいほど暇なので、少し仕事が増えるとたちまち疲れてしまうのだ。
「そういえば、昨日も彩が来ていたようでしたね」
「同室のリューが変な夢を見た後、自分も嫌な夢を見たって…」
潤一の入れた紅茶を飲みながら、兎兎はううんと唸った。
「こういうのは、悪霊の仕業が多いんだ」
真面目な顔で話す兎兎に潤一は、訝しげな表情を見せる。
機械部長である彼は、オカルト話を信じていないのだ。
「でも、私の占いではその類ではないんだよ。もっと具体的な悪意…」
「それは…敵(宇宙生物)か!」
潤一が呟いたと同時に、コッペリウスがカクカクしながら現われた。
「恋人(コッペリア=骨格標本)に恨まれる夢を見たんだ」
見るからにショックを受けた様子で、コッペリウスは涙ぐみながらソファに沈み込んだ。
「そして、私は逆立ちをしながら走って逃げていた」
「あなたの言っていることが、時折、冗談のように聞こえてしまうのすが」
潤一の冷たい言葉も気にせずに、コッペリウスは兎兎の水晶玉を覗き込んだ。
「私も悪夢病に冒されてしまったのかもしれない。ところで、兎兎、きみはまだ?」
「う、うん…」
不安気な顔で、頷く兎兎。
「兄上は何者にも犯させません!」
「潤一…“おかす”の字が違うよ」
「それにしても…敵…とすれば、これはリヒャルト長官の耳に入れておくべきですね」
潤一は、さっそく長官室に連絡をとった。
「それで…、兎兎は敵の存在を感じるのだな」
「そうなんだよ」
長官室に出向いた兎兎と潤一は、リヒャルトに報告していた。
こっそりとコッペリウスも同席している。
「だが、ただの悪夢という可能性も」
「ただの悪夢にしては続きすぎなんだよ。悪霊の気配も感じないしね。牧師や僧侶の出番じゃなさそう」
「うむむ…」
リヒャルトは眉間に皺を寄せて、溜息をついた。
「我がSSGは悪夢如きに左右されるような組織ではない…しかし、それが仮に敵からの精神攻撃だとした場合は無視できんな」
「外部からの精神波の影響はありません。ならば、可能性としてはウイルスや微生物かと」
潤一がデータを元に手早く説明する。
「私が今ざっと調査したところ、悪夢に冒されたものからл型の微生物が検出されたんだ。
まだ、これが原因とは決まったわけじゃないけど、抗体は作れると…思う」
コッペリウスの眼鏡の奥がキラリと光った。
「それが原因でなかったとしても、できる限り、早く手を打っておくべきだ。頼んだぞ」
そして、その夜…。