持ち帰った花鉢を窓のそばに置いて、しばらく眺めてみる。
「アポロ、この花をどう思う?」
リヒャルトは子猫に呼びかけるが、返事がない。
どうやら寝床に入ってしまっているようだ。
「私に似つかわしくない・・・か」
明日になれば、あいつが帰ってくるだろう。
この花を見て、なんと言うだろう。
あるいは、気づかないかもしれない。
そのほうが望ましい。
何も期待なんてしないから。
「いや、いいや!これはあいつに贈る花ではない!」
大事な大事な亡きミヒャエルのための花だ。
なのに、どうして・・・浮かぶのはあの顔ばかり。
「本当に明日には帰ってくるのだろうな・・・」
「ただいま!」
突然、背後から声をかけられて、リヒャルトの背中が跳ねた。
「帰っているのなら、帰っていると言え!」
「ああ、今帰ったんだ」
その証拠に、RQの履いている靴(さすがにいつものビーチサンダルではなかった)は泥だらけで、シャツも薄汚れていた。
「シャワーを浴びて来い!」
「その前に」
そう言うと、RQはリヒャルトを両手で抱えて執務机に座らせ、押し倒すと軍服のベルトをスルリと外してしまった。
「な・・・に・・・」
「だって1ヶ月も会えなかった」
リヒャルトの下半身を冷たい空気が襲った。
下着ごとズボンを引き下げられたとわかった。
そして、直に熱いものを押し当てられる。
「欲しい」
「ん」
伸ばされたリヒャルトの腕を背中に回させて、RQは一気に貫いた。
「んあっ!」
こんなの無理やりすぎる・・・犯罪だ!
だが、叫びそうな口から漏れるのは、相手を求めるものだった。
「もっ・・・と」
「ああ」
1ヶ月・・・何ともなかった。何とも思わなかった。
リヒャルトの毎日は多忙だった。
空いた時間にふとRQのことを思い出した。
今日のように。
しかし、戻ってきてみると、どうしてこの感触を忘れていたのかが不思議なくらい。
・・・止められない。
「アーク・・・もっと・・・・・もっと!」
「リヒャルトっ・・・!」
お互いにただひたすらに身体を動かして、貪る様に相手を求めた。
着衣もそのままに、繋がる部分だけを剥きだしにして、交じり合う。
「あうっ・・・ん、も、イクっ・・っ」
「ん、いいぜ。一緒に・・・」
動きを止めることなく二人で達した。
繋がったままで、RQの手がリヒャルトのネクタイに伸びた。
しかし、急に引っ張ったので「ぐっ~!」とリヒャルトの首が絞まってしまった。
「あ、これどうやって外したらいいんだよ!!」
大慌てのRQ。
「ふ、ふざけるなっ!!ぐ、ぐるしい・・・ちょっと待っていろ!」
リヒャルトの手が自らのネクタイに伸びて、それをゆっくりと外していく。
「やっぱり脱いでもらうほうがいいかも・・・」
感想を述べるRQから視線をそらし、リヒャルトは「今回だけだからな!」と念を押した。
そうして、シャツの前を肌蹴させると、大きな傷跡が現れた。
「綺麗だ」
そう言われると、リヒャルトは俯いてしまう。
さらに傷跡に手を這わされて口付けられると、痛いような表情に変わった。
机の上に身体を広げさせて、言葉と口付けで埋め尽くしていく。
一度、抜かれた塊が再び自分の中に戻ってきたのを感じて、リヒャルトはRQの肩口に歯を立てた。
「強くしていい?」
「・・・」
間違いなく、その合図だから。
激しく揺さぶるたびに、リヒャルトの爪がRQの背中を抉った。
肩口からは血が滲んでいる。
「リヒャルト。死ぬほど、いいっ!」
「死んだら許さない・・・っ!!」
「じゃあ、言い方変える。すごく気持ちいい!」
「・・・ばか・・・っ」
そう言いながらも、リヒャルトの息も上がっている。
両手で身体を引きつけながら、「ん・・んんっ!」と声を殺しているリヒャルトの口を無理やり舌で開けさせて、RQは「好きだ」と言った。
「あ、・・・また・・・んん・・・クッ」
目の前に広がる水色を見つめながら、かすかに開いた口が限界を訴える。
「ん・・・」
2度目は、それ以上の言葉は必要なかった。
・・・・
朝日がシルエットを映している。
あの花のそばにあいつが立っている。
「おはよう」
RQは振り返りざま、にっこりと笑った。
「この花・・・綺麗だ」
「そうか・・・その花は・・・」
RQにはミヒャエルのことを誤解されている。
この心を占める存在だと。
「特別な日なんだろうな。あんたにとって昨日は」
「・・・知り合いの命日なんだ」
「・・・そうか」
そう言って、RQは空を見上げた。
不思議なほど、決意がこめられた眼差しで。
「あんたの目に、オレはどう見えている?」
「え?」
「オレみたいに見えてればいいんだ」
「わけのわからないことを言うな」
「そうだな」
笑いながら、RQは再び花に向き直った。
太陽の光がピンク色の髪に降り注ぎ、金色の影を作る。
澄んだ水色の瞳と、輝く金色の髪はミヒャエルのものだった。
偶然、色が似ているだけだ。
あいつがこんなにあの花に合うのも。
「これ、この花にはかなわないけど…」
RQは、ポケットの中から何か石のようなものを取り出した。
「それは?」
「井戸掘ってたら見つけたんだ。水晶の原石。面白いから持ってきた」
「綺麗だな」
リヒャルトが手に取ると、その石は輝いたように見えた。
「土産ものがこれだけで悪い」
「いいや、ありがとう」
その石はずっしりと重くて、不思議と掌に心地いい。
「これは、このまま机に置いておこう」
その後、RQはふらりと姿を消した。
現地の写真を撮ったデジカメなどを部屋に置いてきたという。
それから数時間後、リヒャルトは朝食に出ようとドアを開けようとした。
「!?」
開かない。
しかたなく、愛用の鞭でドアを破壊すると…
部屋の前にはプレゼントが山積みにされていた。
「?」
まさか、隊員たちがミヒャエルの命日を知っているとは思えない。
ならば、これはなんだ??
たぶん、なんらかのプレゼントだろう。
ありがたいことだ。
そう思い、リヒャルトはプレゼントを一つ一つ手に取り、微笑んだ。
「渡すのが遅れてしまいましたが、あんな長官殿の表情は初めてですっ!
」
「声が大きいっ!」
「すみません」
鼻血を拭きながら、凍牙はリヒャルトの表情が入るアングルを探っている。
そこへ
「デジカメ持ってきた!これ見ながら、食堂で話すことがたくさんあるんだ!」
興奮した様子で現れたRQ。
「んだとっ!!あいつっ!!邪魔だ邪魔!」
「隊長!見つかってしまいますよっ!!」
あわてて親衛隊員に押さえつけられながらも、凍牙は殺気を漲らせた。
「いつもいつも、邪魔ばかりしやがって!あのピンク男!絶対コロス!」
バレンタインの次の日の朝。
嬉しそうな者、悲しんでいる者がいるのは、どこの世界も同じ。
このSSGでも例外ではない。
昨晩、潤一の作ったチョコレートロボ?にえらい目に合わされた兎兎は、口を尖らせたままだったし、潤一はどこがまずかったのかと朝から機械をいじっていた。
コッペリウスは、まむしの血入りケーキに当たってしまい、自らベッドの上の人になった。
「朝からそんなものを食べるのか」
RQのトレイを見たリヒャルトが顔を顰める。
トレイにはチョコレートケーキ。
「あんたと半分こにして食べるつもりだ」
「?!なぜ?」
「血糖値を補うためには、糖分も脂肪分も多すぎるし、半分ずつがちょうどいいと思う」
珍しく真顔で語るRQに、少し考えてからリヒャルトは頷いた。
「血糖値・・・そうかもしれない・・・」
「ところで、リヒャルト。恋人の日って知ってる?」
「いや。恋人の日・・・国連が定めているのか?」
「う・・・うーん。まぁそういうことにしておこう」
その後、チョコレートケーキを半分ずつ食べる二人の姿を見て、凍牙が嫉妬で超人化したとかなんとか・・・バレンタインには普段とは違う光景が見られるものなのだ。
~後日談~
「くすっ・・」
リヒャルトは執務室に置かれたPCでボランティア活動の映像を見ていた。
「ニャん!」
アポロはRQが写っている箇所でPCの画面に手を伸ばす。
「こらこら。ここを引っかいても、あいつには届かないぞ」
リヒャルトがそういうと、不思議そうな顔で渋々引き下がる。
しかし・・・いやに楽しそうだ。
現地の人々の中心に立って、泥まみれになっている姿。
この映像を見せながら、RQがふともらした言葉。
「ずいぶん懐かしい気がしてさ」
その後、過去にこのような活動をしたのかと聞いても、まともな答えは返ってこなかった。
「本人が知られたくないなら、知らなくてもいい・・か」
こちらとしても、それ以上踏み込むつもりはない。
だが、時折感じる。
確かな存在感の中の不確定要素。
私を強く抱くその腕は、本当に、おまえ自身に繋がっているのか。
シンビジウムの花が一輪落ちているのを拾い上げて
「どうして、ピンク色なんか買ってしまったのだろう」
一人心地呟いた後、リヒャルトは違和感に襲われた。
ー私は、初めどんな色を選ぼうとしていたんだー
店主は黄色を勧めてきた。ミヒャエルの色。
私はあいつの色を選んだ。ピンク色を。
あいつが髪をピンク色に染めたのは、私のためだということだったが・・・。
以前にも感じた違和感。
あいつを取り囲む色彩は、亡きミヒャエルに似ている。
あくまで似ているだけだ。
ああいう金髪と青い目の人間など、世界中には数え切れないほどいるはず。
ミヒャエルが生きていれば・・・・
想いが幻を見させているのか。
ばかばかしい空想だ。
それどころか、この空想には痛みが伴う。
私のミヒャエルが・・・あの子が私を・・・抱いている・・・?
これ以上、考えるのはよそう。
あいつはあいつだ。
知らず知らずのうちに頭を抱えて、机に突っ伏してしまったリヒャルトを、アポロが心配そうに見つめる。
「にゃ・・・」
アポロに手を伸ばして頭を撫でながら、リヒャルトは
「大丈夫だ」
と答えた。
あいつに会えば、こんな疑念吹き飛んでしまう。
目の前にある真実だけが、本物だと知っているから。
この時のイラストは
こちら