-ツンデレ2-

「SSGがおもしろいことになってるぞ」

いつもと変わらない朝。
朝食当番のアイスが片手で卵を握りつぶしていたら、アレクが笑いながらやってきた。
あのSSGのピンク男と今もこまめに連絡を取り合っているらしい。
あいつはいつか殺さなくては・・・ イライラとしながら、アイスは卵の殻ごとフライパンにぶちこんだ。

「アイオンがリヒャルトに弟子入りしたそうだ」
「!」

フライパンがバキン、と音を立てる。
手を開くと、取っ手が二つに割れていた。

「おい、それ今週で何回目だよ」
「貴様は時と場所を選べ!」

アイスは明らかに動揺している。
そこがまた可愛いと思うアレクなのだが、そんなことを言ったら朝食の材料になりそうだ。

「ツンデレを極めたいんだと。あいつには無理だろうけどなあ」
「無理に決まっている」

ツンデレが何なのか分からないが、おそらく技の名前だろう。
それにしても長い間リヒャルトに会っていない。 それなら会いに行けばいいのだが、律儀なアイスのことなので、口実の一つでもなければ連絡すらできなかった。

「お前ならいけるんじゃねえか?」
「当たり前だ」

それを格闘技だと判断したアイスは、きっぱりと言った。
殻の混ざったスクランブル・エッグを無造作に皿に叩きつけ、握りつぶしたフライパンを捨てる。

「そういうわけで、SSGに行ってくる」

黒いコート(メスが縫いこまれている)を羽織って颯爽と出て行く。
その間、30秒もない。 慌てたのはアレクだ。

「おい、今のは冗談だ!アイス!!」

止めようと外に出たときには、すでにアイスの姿は見えなくなっていた。
せっかくの休日なんだから一緒にいたかった・・・ 実はいろいろと予定していたのだが、すでに遅かった。




「アイスはもとから強い子だが、ツンデレを極めて、刺激のある新婚生活を送ってほしいものだな」
「それ違うんじゃねえ?」

床でだらだらしているRQを無視して、リヒャルトは朝から浮き立っていた。
何しろアイスに会うのは4ヶ月ぶりだ。 アイオンとはよきライバルらしいので(と少なくともリヒャルトは思っていた)、 互いが成長するためにも、競い合うのはいいことだ。
しかし、ツンデレというのは強い子だと聞いていたので、それなりにアイオンを鍛えたのだが、「すみませんリヒャルトさん、僕には無理だったようです」と涙目で報告してきたときには申し訳なく思った。
そこでリヒャルトは本格的に調査することにしたのだ。

―――ツンデレとは何か。

リヒャルトは散々頭を悩ませが、なかなか答えにたどり着けなかった。
このままではSSGのメンバーを全員揃えて緊急会議でも開きそうな勢いだ。
幸いなことに、そうなる前に兎兎が助っ人を連れてきてくれた。 助っ人というよりは、その辺にいた人たちを引っぱってきたとでもいうべきかもしれない。

コッペリウスは「ツンデレとは、ツンツンと骨と骨がぶつかる勢いでアタックし、デレデレと骨を愛でることを指す!ボーン!」と大腿骨を振り回しながらわけの分からない踊りを披露し、 兎兎は「ツンツンデレデレどころか、もじゃもじゃと胸が渦巻くような刺激的な関係だよ!」と自らの胸をかきむしって更にわけの分からないことを言い 唯一まともそうな潤一には「あなたのような人のことをツンデレと言うのです」と、真顔でトドメをさされた。

「私・・・?」

リヒャルトが自分を指差すと、三人ともうんうんと頷いている。
当たり前のことだが、それはリヒャルトをさらに混乱させるだけだった。
気難しい顔で考えこんでいるリヒャルトを見て、コッペリウスが懐から携帯を取り出す。
人間の尾てい骨の形をしたかわいらしい電話なのだが・・・この際、説明はいいだろう。

「私の友達にツンデレのスペシャリストがいるんだ」

スピーカーに設定すると、相手がすぐに電話に出た。

『はいはーい』

間の抜けた能天気そうな声だ。
コッペリウスがにんまりと笑った。

「やあアレン!」
『おや、コッペリウス!君が電話してくるなんて珍しいね~』

このアレンという人物がツンデレの専門家らしい。

「こっちにツンデレを極めたい人がいるのだがね、彼にツンデレの真髄というものを伝授してやってくれないか」
『当たり前さ。ツンデレは人類の宝だからね!だけど三日ほどかかっちゃうかもよ?』
「そこのところ、手短に頼むよ」  

コッペリウスがそう言って、ちらりとリヒャルトのほうを見る。

「まずは何をすればいい?」

リヒャルトはさっそく質問した。

『まずは相手に嫌いって言ってみることだね。これには適度な恥じらいが必要とされる』
「恥じらい・・・」
『頬を染めて、涙目で、「あんたなんか大嫌い」って小声で言ってごらん』

リヒャルトが大嫌いといえる相手は一人しかいない。
その人物の顔を思い浮かべていたら、そうとう嫌そうな顔をしていたのか、「恥じらいが足りない!はーじーらーいー!」とコッペリウスと兎兎に指摘されてしまった。
それに加えて頬を染めて涙目とは。これは思った以上に難題だ。
それでもリヒャルトはできる限りの努力をつくした。
彼は基本的に何事に対しても真剣なのだ。
こうでなければSSGの長官は務まらない・・・こともないのかもしれないが、リヒャルトはとにかくがんばった。
必死に記憶をたぐっていくうちに、屈辱なことなども思い出されて、自然と頬が熱くなる。

「お、お前なんか、大嫌いだ・・・っ」

言っているうちに本当に恥ずかしくなってきた。
別に好きだと言っていないのに、なぜ無理矢理に告白させられている気分になるのだろう。

『うはっ!ツンデレの神降臨!!』

声だけで十分だったのか、 アレンが電話の向こうで悶えている。
同時に天井から「うおおおお!」と獣のような声が聞こえて、ピンク色の何かが降りてきたが、鞭を振るったら静かになった。
最近ネズミが多くて困る。
リヒャルトは淡々と鞭を戻した。
血を流して倒れている物体は視野に入れないことにした。

「うんうん、たしかに才能あるね」
「というか、むしろツンデレが服を着ているだけだよね」
「だからそう言ったでしょう」

三人そうは言うが、リヒャルトにはいまいち理解できなかった。
さらに助言を求めようとすると、携帯からもう一人の声が聞こえた。

『アレンさん、会議中に何やってるんですか!』

のんびりなアレンに比べて、こちらは神経質そうだ。

『発表してる最中は携帯を切ってください!』
『えー、面倒くさいんだもん』

どうやら込み入っているらしい。
止めてくれ、とリヒャルトが合図を送ると、コッペリウスは間をおかずに言った。

「じゃあ最後の質問。ツンデレを一言で表すなら?」
『萌えっ!!』
『アレンさん!』

助手らしき人物に携帯を奪われたのか、電話はそこで切れた。

「・・・そういうことだけど」
「ああ・・・なんとなく分かった」

結局何も分からないまま、リヒャルトはアイスの到着を待った。
この際、二人で調査しようと考え直したのだった。





「つまりツンデレという技は人類の宝で、胸をもじゃもじゃと刺激的に燃やし、骨と骨をぶつけ合い、肉を切り骨を露出したのち、憎悪の言葉を伝えることか。お前のような人物のことを指す 、ということは、武器は鞭だろう」
「・・・そういうことになるのか?」

今までの説明を強制的にまとめてしまったアイスを見て、やはりできる子だ、とリヒャルトは感心していた。

「では今からツンデレの特訓する」
「私でよければいくらでも付き合おう」

まるで弟の相談に乗っているみたいでうれしい。
リヒャルトがふっと笑うと、アイスは小さく頷いた。

「とりあえずあの大男を倒す」
「許可する」

こうしてなぜかRQがターゲットになったわけだが、もうすでにツンデレを極めている二人に追われて、本人もまんざらではないようだった。 更にいえば、SSGで・・・いや恐らく地球上で、この二人の攻撃を受けて平気でいられるのは、この人くらいしかいなかったのだ。


・・・・・・


『アレク、今すぐ逃げてくれ!』

真祐から電話があったのは、あれから二日ほど経ったころだった。
アイスが出て行ったきり帰ってこないのでアレクはソワソワしていた。
アイスに限って家出はないと思うが、SSGは居心地がいいから、あちらに永住してしまうしれない。 RQからの連絡が途絶えたことも気になったが、彼のことだから今日も逞しく生きているだろう。

「アイスの訓練が終わったそうだ」

そういうわけで、真祐の言葉を聞いてアレクは安堵のため息をついた。
もうすぐアイスが帰ってくる。
それがただただ嬉しかった。

『笑ってる場合じゃないぞ!アイオンがああなったんだ。アイス相手だと命が危ない』
「大げさだな。俺はそう簡単には死なねえよ」
『でも、今回ばかりは・・・』

そこでドアが開いて、アイスが静かに入ってきた。
無表情だが、一目で戦闘状態に入っていることが分かる。
お前はそうこなくちゃな。ぞくぞくする。
活き活きとしたアイスを見て、 アレクは微笑んだ。

「悪い、真祐。あとでかけなおす」
『死ぬな、アレク!!』

鞭が両腕に巻きついて、アレクは電話を落とした。

「お前、鞭扱うの、上手くなったなあ」
「ピンク男で練習した」

どうりでRQと連絡が取れなかったわけだ。
でも、どうせなら俺でやってくれよ、とアレクは少し嫉妬した。
これだから自殺願望があるといわれるのだが、本人にそのつもりはない。
これも一種のコミュニケーションだ。

「まずは胸をもじゃもじゃと刺激的に、だ」

言っていることはメチャクチャだが、 アイスはいたって真剣だった。
メスを取り出し、 鞭に絡みとられて身動きできないアレクの服を、びりびりと切り裂く。
赤い目が露出した胸元にロックオンした。

「え?ちょっと待て・・・」

アレクの顔色が変わった。 背筋を嫌な感触がぞわりと駆け上がる。

「お前を心底憎んでいる。鞭で締め上げ、叩き潰して、骨を露出させたいくらいに」
「お、お前勘違いしてるぞ、それツンデレって言わねえ!」
「貴様なんか大嫌いだ!」
「うわあああ、やめてくれーーー!!」

拷問は始まったばかりだった。






~あとがき~

ーかげふみさんー

トトまるさんからの頂き物だったのですが、それを読んでわたしが
うおー!!となって続きを書いたところ、2話完結のリレー小説になりました。
いや、最後に真祐がアレクの無事を祈っていたから
とりあえず体は無事だけど精神的にはもう駄目かもしれない・・・ということを言いたかった。

かなり笑わせていただきました。
長官がツンデレの神なら、わたしにとってトトまるさんはコメディの神です。
真祐の突っ込みが素晴らしいというか、アイオンが通常運転というか。
SSGの個性的なみなさんと並んでも違和感がないですね。
今回いろいろあったけど、元凶は祐介だったような気がするなあ。

そして、久しぶりにトトまるさん宅の方々が書けて楽しかったです!
もうみんな家族の一員みたいなもので、自然に動いてくれて
人様のキャラだから・・・という遠慮とかはまったくなかったです(笑)
とくにコッペリウスとか兎兎とか。骨と毛はペアだと思ってます。

トトまるさん、続きを書かずにいられないほど楽しくて笑える小説をありがとうございました。
もっとリレー小説の世界を広げていきたいですね(^^)

・・・・・・・・・

ートトまるー

ずっと「アイオンがツンデレを目指す!」という話を書きたくて、かげふみさんに許可をいただいてから、早数ヶ月?すんごく遅れてしまったのですが、かげふみさんのBDに合わせて、いきなり送りつけてしまいました。
さらに、加筆してください!とお願いまでしてしまうという、この厚かましさ。。。
本当にかげふみさん、ごめんなさい&ありがとうございました!!
短編のつもりが、リレー小説に生まれ変わってしまったよっ!!

今回も、かげふみさん宅の方々が大暴れ。さらにSSGの人々も縦横無尽に活躍(っていうか、長官の猛烈な勘違い)。
あの一見人畜無害(?)そうに見えるアイオンが、ツンデレになってしまったらどうなるのか?!最初は単なる好奇心だったのですが、予想以上にヤンデレになってしまい、あれ?おかしいな?と思ったのはご当人だけではなく、私もなのです!

今回、私のパートには兎兎と潤一の兄妹は出てこないのですが、かげふみさんがばっちり登場させてくださいました!胸がもじゃもじゃと湧き上がるものなんだよ、ツンデレってのは!

そして、本物のツンデレなのに、ツンデレを極めようとしている二人が危険すぎます。
二人のパートナーの無事を祈りつつ・・。

また近いうちにリレー小説をかきたいですね!!
なんかもじゃもじゃ興奮してきちゃった!

  END