-ツンデレ1-

「僕はツンデレ地帯に行ってきます」

突然、言われた言葉に俺は無視を決め込んだ。
どうせ、夕食にトナカイのステーキでも作るつもりなんだろう。

だが、次にアイオンの口から出た言葉には反応せざるをえなかった。

「ひさびさにSSGの皆さんにも会いたいですし~」




SSG・・・スペース・セイフティー・ガードという国際的秘密組織だ。
信じられない話だが、地球と宇宙人とのごたごたを秘密裏に処理する機関らしい。
それだけ聞くと、映画のようで好奇心が沸くが、実態は”変態の巣窟”だ。

真祐は先日、SSGのメンバーと関わってしまったことを後悔しつつ思い出していた。
ピンク髪の露出狂RQ、骨と解剖が大好きなDr.コッペリウス、度を越したブラコンの機械部長潤一、毛フェチの占い師兎兎・・・etc・・・。

そして、それらの頂点に立つ人物こそ、猫耳の似合う長官リヒャルト。

「目指せ、ツンデレ地帯!ツンデレの極意はやはりリヒャルトさんに聞くしかありません」

おみやげの黒猫のぬいぐるみをバッグに詰めながら、アイオンは歌うように言った。

「それって、ツンドラ地帯じゃないのか?」
「え?ツンデレがいる土地をそう呼ぶのかと・・・」

おかしいな?と首をかしげながらアイオンは赤い瞳をクリクリ動かした。
この未来から来た留学生は、変なところで変である。

「もちろん、一人で行くんだろうな」
「こればっかりは・・・」

ぐっと拳を作って、アイオンはうめくような声をあげつつ

「僕と真祐の甘い新婚生活を、より刺激のあるものにする必要があるんです」
「誰がそのアドバイスを与えたかなんて聞かないからな」

結婚してないとか・・・そういう前に、一人の不吉な人物の影を感じて俺はアイオンをほっておいてジョギングにでかける準備を始めた。すると、案の定、電話が鳴った。

「真祐!お兄さんだよ!」
「また、兄貴か!アイオンに変な知識を与えるなって言ってるだろ!」
「きみたちが甘い新婚生活を送っているのはいいことだ。兄としてもこれほど嬉しいことはない。しかし、日常というものは平気に音をたてて崩れてしまうこともあるんだよ!」
「これ以上俺の日常を崩されてたまるか!」

アメリカに住んでいる兄がなんの仕事をしているかも不明だが、昔から考えていることも不明だった。

「その試練にきみたちは耐えられるのか!これは新婚カップルに初めて襲い掛かる最初の試練・・・」

もう耐えられずに電話を切った。
顔を上げるとアイオンの姿が見えなかった。

その代わりに、置手紙があった。

「僕は、さらなる刺激のためにツンデレを学んできます!」


 

かくして、アイオンはSSGにたどり着いた。
あのグレーの大きな建物がSSG本部だ。
まわりには建物がない。

「さすが、ツンデレ地帯です」

一面平原のその場所で、アイオンは力強く頷いた。


・・・・・


「今日は、私の特別な友人が訪れる」

リヒャルトがそう通達しているおかげか、アイオンはSSGの門をすんなり通ることができた。
ところが、リヒャルトの親衛隊黒猫倶楽部が、黙ってみているわけもない。

「あいつは、長官殿の特別なご友人らしいが・・・」

親衛隊長の凍牙は可愛らしい顔を嫉妬で歪ませた。
それもそのはず、リヒャルト長官の盟友アイスに痛い目にあいそうになった記憶が新しいからだ。元はといえばアイスは、アイオンのクローンである。二人は姿かたちがそっくりだったのだ。

「僕が実力のほどを測ってやる!」



おもむろに、アイオンの前に現れた凍牙は、

「こんにちは!」

と愛想のいい笑みを浮かべた。
そうして、アイオンの手をぎゅっと握った。
・・・渾身の力を込めて。

メキッ。

いやな音がした。
ところが、アイオンは顔色一つ変えずに、にっこりと微笑んだ。

「こんにちは!」

そうして、残った手で凍牙の手を握り返した。

メキッ。

「っ!!」

思わず、身体をそらしてしまう凍牙。

「やるじゃないか!」
「さすが、ツンデレ地帯のSSG、挨拶もツンデレなんですね!」

敵意むき出しの凍牙と感動たっぷりのアイオン。
そんな真逆の態度の二人の間に、「うひゃーーー!!いい音きいちゃった!」と怪しい眼鏡の人物が走りこんできた。

「Dr!」
「も、も、も、お・・・もしかして骨なんかに異常があるのかい!!」

明らかに興奮した様子で、Dr.コッペリウスは二人の手をとる。
そして、途端にがっかりした顔を見せた。

「なんだ、ただの脱臼じゃないか・・・。豆板醤の入ってないマーボー豆腐みたいだよ」

そして、またメキッと音をさせて、二人の関節をはめてやる。

「もっと素敵な症状だったら、再び呼んでくれたまえ!!」

そう言って、風のように去っていったコッペリウスと入れ替わりに、黒い軍服を着た人物が現れた。

「二人とも、そんなところで何をしている」
「これは!長官殿!」
「リヒャルトさんですね!おひさしぶりです」

悔しそうな顔を見せながらも、凍牙は一礼して去っていった。

「アイオン、私に用があるとのことだったが、私で役にたつのか?」
「ええ、ぜひ”ツンデレ”について教えていただきたいのです」
「”ツンデレ”?」

「あんたを称える褒め言葉さ!」
リヒャルトが首をかしげていると、そこへピンク色の髪がススッと降りてきた。
否!大男が天井からぬるっと現れたのだ。

「や、アイオ・・・」
「なめくじのような奴め」

RQは挨拶をする前に、リヒャルトの鞭の犠牲になって床に叩き落とされた。

「ついに僕はツンデレを目の前で見てしまったのです!どこかで見ていますか、真祐?!」

アイオンは叫んだ。



アイオンがSSGに行って1週間がたつ。

その間に、一度だけリヒャルト長官からメールがあった。

「真祐、元気か。こちらにアイオンが来ているのは知っていると思うが、私が責任を持って
”強い子”に育てている。”ツンデレ”とは”強い子”の意味だそうだな。もうじき修行も終わり、SSGからそちらに帰ると思うが、成長ぶりを期待していてほしい。おまえたちには、いつまでも新婚気分でいてほしいというのが私の願いだ」

最初から最後まで突っ込みどころ満載の文章だったが、一応返事は返した。

「同居人がお世話になっています。ご迷惑をおかけしていると思いますが、滞在中はどうぞよろしくお願いします」


・・・・・・・・・・

「真祐!!」

いきなりドアが開いたと思うと、一陣の風がすべてをなぎ払った。
吹き飛んでいく椅子やテーブルを見ながら、真祐は動けずにいた。

ハリケーンはアイオンから発していた。

手には鞭。アイオンが鞭をものすごいスピードで振り回しているのだ。
まるでどこぞの長官のようだ。
ただ、どこぞの長官が怒りを押し殺したような顔で凶器を振り回しているのに対して、こちらは満面の笑みだった。

「僕は、僕はきみを愛しています!だから、僕の愛を受け止めてください!」

あっという間に、鞭は真祐を捕らえた。

「やめろーー!!」

鞭でぐるぐる巻きにされて、身動き一つ取れなくなっている真祐の目の前に来たアイオンは、ニコリと微笑んだ。

「ふふ、捕まえた☆これが僕の新たな愛情表現、”ツンデレ”です!」
「これは、”ツンデレ”じゃない”病んデレ”だ!!」

すると、アイオンはピタリと動きを止めた。

「え?僕はなにか間違えましたか?」

鞭が緩んだ隙を見て、真祐の鉄拳がアイオンに飛んだ。

「あ、痛いです」
「いいか、ツンデレってのは、好きな相手に本心とは真逆の態度を取る事をいうんだ。
大好きなのに、嫌いとか・・・」
「そ、そんな!僕は真祐を・・・嫌いだなんてとても言えない!だってこんなに愛しているのに!」
アイオンはガクガクとして倒れこんだ。

「おまえがリヒャルトみたいになる必要なんてないんだ」
「では、真祐は、ありのままの僕を受け入れてくれるんですか!?」

有名な映画の歌が流れてきそうな台詞を言って、抱きついてくるアイオンを真祐はかわして、ビシッと指差した。

「その前に、テーブルと椅子をどうにかしろ!!」





それからしばらくして、またリヒャルトからメールが届いた。

「真祐、アイオンから連絡をもらった。ツンデレになるのは無理そうだという話だが、彼は筋もいいし、私としても少し残念だ。しかし、結婚生活というものは人それぞれだと私は思う。なにも”ツンデレ”になる必要はないかもしれない。優しい関係というのも大切だ。二人の幸せを祈る」

これが、優しい関係といえるのだろうか??
壊れた椅子の修理をしながら、真祐がPCを閉じようとすると、またリヒャルトからメールが届いた。

「言い忘れていたが、今、アイスが私のところに来ている。彼もまた”ツンデレ”になりたいそうだ。私としても手を抜かず、彼のツンデレ化を手伝おうと思う」

・・・・

アイスは、もう十分すぎるほどツンデレだ。
あれ以上になったら、パートナーのアレクは・・・。

だからといって、もうどうすることもできないことを悟って、真祐はPCを閉じた。

「アレク、無事を祈る!!」