第一章 北極の出会い

 
 

「北極はさすがに寒いですねえ」

どこまでも広がる氷の大地に、雪と同じくらいに真っ白い青年が立っていた。
名前をアイオンという。白い肌と髪に赤い目。アルビノだった。
未来からの実習生で、今はわけあって日本で高校生をやっているが、春休みを利用して北極に来ている。
北極なのだから春といえど氷点下だ。それなのに彼はスラックスに長袖のシャツ一枚だった。
着いたときは分厚いジャケットを着ていたのだが、ヒョウアザラシと格闘して破かれてしまった。

「肝は新鮮なうちが美味しいんです。どうやって持ち帰ろうかな」

彼が北極に来た目的はヒョウアザラシではない。
全滅したマンモスの肉を収集するためだ。
そのためには何キロメートルもの氷を掘らなくてはならない。
普通なら研究チームを組み、先端技術が搭載された機材を持ち込んでくるものだが、そのようなものは一切なかった。
飛行機で近くの島まで飛んできて、あとは歩いて来たのである。
その途中で某ペンギン映画を連想させるような巨大なヒョウアザラシに遭遇し、ついでだからとお土産に持って帰ろうとさばいたのだ。
しかし、ジャケットを失うのは計算外だった。
アイオンは生まれつき体温が極端に低いので、特別に保温性の高いジャケットを用意していたのだが・・・

「まあ、運動すれば暖かくなりますよね」

ガタガタと震えだす手を無視して、アイオンは地面を掘りはじめた。
手が触れたところがひび割れ、ドリルのように突き進む。
姿形は人間だが、母親が得体の知れない存在だったため、正確にいえば人間と何かのハーフである。そのためかアイオンは超能力が使えた。
バリアーを張って寒さを遮断すればいいのだが、マンモスのことで頭がいっぱいで、そこまでは考えていなかった。

――待っていてください真祐、今夜はマンモス鍋です!

真祐(まひろ)というのはアイオンの同居人である。
ごく普通の高校生なのだが、アイオンに一目ぼれされて以来、執拗に付きまとわれている。
お人よしで面倒見がいいので、めげずにアタックしてくる相手を放っておくわけにもいかず、そろそろほだされてきた頃だ。

――思ったより長引いてしまいました。散歩に行ってくるとしか言っていないから、心配しているでしょうか。

その“散歩”の先が北極だとはもちろん言っていない。
その気になれば世界征服もできるほどの能力だが、残念ながら使い手がアイオンなので、どうしようもないことばかりに使用されている。
アイオンが3キロメートルまで掘り進めたときだった。
頭上から氷の塊がバラバラと落ちてきた。

「?なんでしょう」

掘った穴が不安定で、氷の壁が崩れはじめているのだ。
このままでは氷の壁に閉じ込められて、圧死する可能性も十分にある。
あと少しなので大丈夫でしょう、とアイオンは掘るスピードを早めたが。

「あれ・・・?」

寒すぎて手が動かない。
肌の色は、白を通り越して紫に近かった。

「このままだと、僕までマンモスみたいに氷づけになちゃいますね」

真祐に食べてもらえるのならいいけど、すぐには発見してくれないかも。
ここでようやく普通(?)に物事を考えはじめたアイオンは、すぐさま脱出しようとしたが。
落ちてきた氷にごつんと頭をぶつけて、意識が途切れた。




「まさか北極くんだりまで来るとはなぁ~」
「兄さん寒いの苦手だもんね!」
削岩機に似た車に乗っている彼らは、J&Mというその道では知らない者のいない双子のトレジャーハンターだ。
機械方面専門のミラーとその他を仕切っている兄のジャン。

「ねぇ、マンモスってどんなふうに鳴くんだろう?ニャんかなぁ?」
ミラーには常識は通じない。
「・・・凍ってるんじゃないのか」
静かにツッコミを入れる兄のジャンにも、弟が何を考えているかわからないことが多い。
「じゃあ、冷凍食品だね!」
「どうして、食品なんだよ!」

彼らが探しているものは氷づけのマンモスに隠されたある物。


早速、目星をつけた場所を削岩機についたドリルで掘り進めていく。
このへんはジャンの腕の見せ所だ。今までもお宝の場所を間違えたことはない。
やがて・・・

「うわっ!待て!止めろミラー!!」
ジャンの叫びに、ミラーはレバーを引いた。

「ねぇ、兄さん。この人何してるんだろう?曲芸かな?」
「こ・・・凍ってんだろ・・・」

氷づけマンモスの代わりに氷づけ人間を発見してしまった二人。




一方、こちらは某国の北極基地。

「J&M、応答をしろ」
先ほどから、通信機にむかって声を発しているのは黒髪の男だ。
「寒い・・・」
その後ろでピンク色の髪の大男が震えている。
「応答を・・・」
「寒い、寒い!こんなところに来るんじゃなかったー!!」
「うるさいっ!」
ピンク男に通信機を投げつけて、温度計を指差す。
23℃・・・適温だ。
「寒いのは身体じゃねぇ、心だ!OH!こんな何にもないところじゃ退屈すぎて、凍え死んじまう。リヒャルト、今すぐ服脱いで抱き合おう!」
「我々は遭難しているのではない!」
リヒャルトと呼ばれた黒髪の男は鞭を振り回しながら怒鳴った。


「あの・・・」
「なんだ?」
リヒャルトの背後に北極基地の隊員がいる。
「そういう物騒なものを振り回すのはやめてもらえませんか。壁が壊れたらそれこそ本当に遭難してしまいます」
「あ・・すみません」
素直に謝罪したリヒャルトだが、
「RQ!キサマが余計なことを言うからだ!」
とまたプリプリと怒り始めた。



そんな二人を遠くから見つめている北極基地の隊員たち。
「あれがSSGかぁ~意外と面白そうな人たちじゃないか!」
「秘密裏に宇宙人と取引したり、戦闘したりしている人たちだろ。まさか、こんなにあっさり会えるとはねぇ!」
「あのデカイのなんかは一緒に写真撮ってくれそうじゃねぇ?」
「隣の美中年は無理そうだけど。あ、あの人がSSG長官だったよな。たしか・・」

SSG=スペース・セイフティー・ガードの略である。

国際的秘密機関。その役目は宇宙関係者との取引・戦闘・保護、そういったものと非合法な理由で関わろうとする地球人への制裁である。
本部は某大国にあるが、今回は本部から動かないはずの長官のリヒャルトがここにいる理由はこの任務の重要さを物語っている。

そのため、今度の任務にはJ&Mという有名なトレジャーハンターに仕事を依頼した。
彼らならば、”あれ”を探し当てられるに違いない。



やがて、通信機から
「もし~もし~」
と呑気な声が聞こえてきた。

RQが手に取り「おっ、ミラーか?」と聞く。

「そうだよ。僕、ミラーだよ。今、得体の知れない人のせいで兄さんが頭を抱えてる。僕はこの人をアイスマンⅡ号と名づけたんだけど。あ、待って兄さんが猫長官にかわってほしいって」
プッと笑いながら、RQはリヒャルトに通信機を渡す。
こちらを睨みつけてくるグレーの大きな瞳は、たしかに猫に似ている。

「私だ」
リヒャルトが通信機に応答すると、出たのはジャンだった。
「大変なことが起きちまってさ。マンモス掘ってたら人間が出てきた」
「人間だ…と?遭難者のなれの果てか?」
「いいや、犬と散歩に出かけそうな格好だ。もしかして、宇宙人に攫われてきた…とか。いずれにしろ、まともな理由じゃないだろうな」
「画像を送れるか」
「ああ。今、送る」

RQがモニターを覗き込むと、隣にいるリヒャルトは画面に釘付けになっていた。