「明日にはSSGに戻るぞ」
リヒャルトはそう言った。
「もう、この世界ともお別れか」
「この世の終わりみたいな言い方をするな」
RQの火傷は完全に治っていた。
リヒャルトはちらりとRQのこめかみを見る。
やはり・・・、そこには傷跡が残ったままだった。
朝の光を全身に浴びながら、RQはコテージの窓辺に立ち、海を見ていた。
「もし、この先なにもなければ・・・私は」
隣にそっと寄り添いリヒャルトが口を開く。
「・・?」
「SSGは私の一部だ。私の生きる場所でもある。しかし、私は・・別のところにも生きる場所を見つけてしまった。我々の本分が戦うことであっても・・・」
「なにもなければ・・・か」
RQの脳裏には、日本で見た不気味な赤い石が浮かんでいた。
ーやつらが動き始めている。いや、あれにオレが関わったと知れたら、奴らは動き出すー
ふぅ・・・と一息ついて、RQは拳を握った。
「オレは、RQでいたい」
「RQ・・昨晩、私がアークと呼んだのが気に食わないのか?」
「え??」
リヒャルトの台詞はいつもRQの予想を超える。
たしかに、あれの時はそう呼ばれる事が多かったが。
「べ、べつにあんたがオレをなんと呼ぼうとかまわないさ!呼びにくいって知ってるし」
「自然とそう呼ぶようになっていた・・・おまえの名前が呼びにくいからだ」
まるで、こちらが悪いことをしたような顔で、爪をたててぎゅっと手を握ってくる。
いつも・・そんな動作とか表情とかが、愛しくてたまらなくて。
「オレが、リヒャルトをどんだけ好きか、わかる?」
「わからない・・・」
一層、気難しい顔で下をむいてしまう。
「本当は・・・ずっとそばにいたい」
「そばにいれない理由でもあるのか?」
くすぐるように、唇を重ねる。
「戦わなきゃならない」
「それは私も同じだ」
「オレって、了見が狭いから。ずっと、あんたにかっこいいと思われていたい」
「戦いでは格好などつけるものではない」
「生き様だけ見ていてほしい。でも何があっても死なない。あんたと約束したから」
「おまえは、私の部下だ。SSGの隊員でもある。おまえの好き勝手にはさせない」
リヒャルトは一層、爪を深く立てた。
RQの手の甲から赤い筋が流れる。
「一人で戦おうなどとするな」
見通された・・・。
わかってたんだ。
強いリヒャルトなら、何があっても平気だと思いたかった。
だが、自分のほうが平気ではなかった。
リヒャルト・・・リヒャルト。
あんたを守りたい。離れたくない。失いたくない。
しかし、このままではSSGを巻き込んでしまう。
そもそもは、奴らとの接触の確立が高い地球人の組織に探りを入れる計画だった。
そして、時がくれば、昔のように一人で立ち向かおうと・・・。
「おまえが何者なのかは知らない。しかし、おまえが一人で何もかも背負い込もうとしているのはわかっていた。だから、おまえに話そう。SSGの意味を」
「SSGの意味?」
「SSGとは、自らが自らの力をもって、自らを守るという意味だ。力の強い誰かに守ってもらうという意味ではない。だから、我々は地球を地球人の手で守るという使命を帯びているんだ。
ある強大な敵の存在からな。
私が長官に任命されたときに、ある使命をも受け継いだ。代々SSGの長官が受け継いできた遺言のような言葉だ」
”支配者の下から離れるために、知恵の書を探せ”
「これだけ、地球という星に異星からの者がやってきているのに、そのどれもが地球人を組織だって支配しようという行動に出ないのはなぜか。
彼らをすでに凌駕する奴らが組織だって行動しているからだと、我々は推測をつけてきた。
そして、今まで奴らが行動できない理由がなにかあるはず。
その鍵となるものが”知恵の書”だと目星をつけて、歴代の長官はそれを探してきた。
そして、私の代になってもそれは見つからない。だが、私なりの推測がある。
それは・・・スキュラ族に関係していると」
「・・・」
スキュラ族・・・知恵の一族。
彼らなら、地球人を支配することができるだろう。
しかし、彼らは戦闘的ではない。
彼らこそが、地球人を救う何かをもっているのではないだろうか。
「・・・あるいは、やつらこそが地球を支配しようとしているのかもしれないぜ。争いを嫌うが故に」
「どういうことだ?」
「・・・」
「おまえは、やはり何かを知っているのか」
「・・・結論から言わせてもらえれば、オレは、誰も巻き込みたくないんだ。でも、あんたのいう支配者がやってきたら・・・やつらが狙うのは・・・」
突然、リヒャルトの携帯が鳴った。
緊急用の音が部屋に鳴り響く。
「なんだ!」
電話に出たリヒャルトは顔色を失った。
「すぐにそちらに戻る・・・SSGはどれくらい持つ?」
二人は、すぐに用意されたチャーター機に乗った。
南国の海が遠ざかっていく。
二人で過ごしたコテージが。
笑いあった小島が。
二人で肩を寄せ合って眺めた風景が、消えていく。
リヒャルトは振り返らなかった。
RQは一度だけ振り返った。
「オレは、この上もなくリヒャルト・・・あんたを愛して・・・愛している」
窓を見つめたまま、RQは呟いた。
「私は、もう・・・SSGの長官だ。おまえは私の部下SSGの隊員。
おまえが、もう一度私を見た時、あの場所での私はもうどこにもいなくなっている」
たった二人のシート席で、リヒャルトはRQの唇にそっと自分の唇を重ねた。
「だから、もう・・・言うな」
RQが瞳を開けると、そこにはいつものように軍帽を深く被ったリヒャルトがいた。
SSG本部が、何者かの敵の襲撃を受けている。
連絡はそこで途切れていた。
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