-ピンク色の恋物語5-

それから数週間後。


「本日をもって、ジョン及びRQの謹慎を解く」
長官室に呼ばれた二人は、リヒャルトから謹慎解除を告げられた。

「身勝手な行動で長官及び組織にご迷惑をおかけしてしまった事をお詫びいたします」
「おまえだけのせいじゃないだろ」
RQが俯いたまま言う。
「今後、同じ過ちを繰り返さなければ、それでいい」
リヒャルトは静かにそう言った後、二人の肩に手を置いた。

「二人ともよく生きて帰ってきてくれた」
「長官・・・」

命令を受けたとき、リヒャルトは新人の自分に「信じている」と言ってくれたのだ。
それが迷惑をかける結果になってしまった。
この世界で「信頼」という言葉が、いかに難しいかを知っていたというのに・・・。

「すみませんでした」

人間としての言葉だ。
今後は、この組織のために生きてみせる。
ジョンは心に誓った。

RQは、そんなジョンを見ていたが、
「ジョン、さぁいこう」
背中を押してドアを開ける。
一瞬、部屋のほうへ振り返ったが、何も言わなかった。




「やっと謹慎も解けたことだし、走りにでも行こうか」
うーんと背伸びしながら、RQは高く昇った陽を見つめた。

思わず、ジョンは眩しさに目を細める。
見つめるのが難しいほど、その姿は輝いて見えた。

SSGの施設の近くにある公園。
森林の中を、風を受けながら走る。

ひさしぶりの外出だ。
施設内にも運動場があるが、外の世界は格別に自由度が違う。

隣を走るRQはサングラスもかけないで、風を全身で受け止めていた。
ピンク色の髪が自由に靡いている。

「おまえの噂、謹慎中に聞いたぞ」
そう言うと、RQはこちらを向いた。
「好きな相手に振り向かれるためにピンク色に髪を染めたって」
「へぇ、懐かしいな」
心の外嬉しそうにRQは言う。
「うまくいってんのか?その相手とは?」
「・・・」
RQは返事をしなかった。

まぁ、相手はわかっているが。

自分にも他人にも厳しい人。
そして、愛することが難しい立場の相手。
きつい恋だと思う。

こいつは・・・幸せなんだろうか?

「初めに組んだ時は、あまりいい気はしてなかった。でも、一緒に仕事してみてわかったんだが・・・おまえはかっこいいよ」
「けっこう、かっこわるい男だぜ・・・オレは」
RQが、それでも走り続けながら言う。

「でも、オレはおまえが好きだ」
「・・・そっか」
「好きだぞ」
「・・・え?」

ようやく、RQは足を止めた。

「オレは、おまえが好きになったらしい」

木漏れ日が二人の間を隔てていた。

「・・・ジョン」
「はっ!でも、おまえ好きな奴いるんだろ」
「ああ、ごめん」

思いがけず真っ直ぐに見つめられて、ジョンはRQから顔をそらした。

瞼を閉じても姿が消えない。
オレは、こいつに心底惚れたらしい。
相手が男だろうと関係はなかった。

「ジョン、おまえはいい奴だ」
唐突にRQはそう言って、手を差し出す。
好きな相手に「いい奴」と言われるのは死ぬほど嫌だった。
きっと、こいつはそこをわかっているに違いない。

「思いっきり玉砕か」

差し出された手を、思いっきり叩き落としてやった。
「っ!」
「どうなっても知らないぞ!オレは、おまえのこれからの心配なんかしないからな!
どんな困難が待ち受けていても!・・・それでもあの人を選ぶのか」

RQは、ふいに空を見つめた。

「だからこそ、燃えるのさ」

陽の中で鮮やかな髪が燃え立つように広がった。
その表情こそ、オレが惚れたあいつの姿。
困難が大きければ大きいほど、誰よりも輝く、眩しさ。



「わかったよ、よくわかった」

RQは、手を振り去っていくジョンの背中を見つめていた。
かけるべき言葉が見つからなかった。
だが、歩道を越えていくジョンが振り返りもせずに

「機会があったら、また組もう!」

と手を上げたのを見て、やっと笑みをこぼした。


謹慎中はもちろんのこと、その後もリヒャルトはRQを避けていた。

そして、ある夜。

私室に男の姿を見つけ「何のようだ」と声をかけた。
「顔を見に」
「私はおまえに・・・合わせる顔がない」
いつになく覇気のない返事に、RQは驚いた。

「なんでだよ?」
「恥ずかしい姿を見せてしまった。SSG長官としてあるまじき姿を。・・・個人的にも」
酒をあおり、暴言を吐き、嫉妬に狂った。
こんな自分の姿には、とても耐えられない。
その後、RQに抱きとめられて・・・それが一番耐えられなかった。

「珍しく本音をぶちまけただけじゃねーか」

「あんたは立場立場っていうけど、物事の本質を見失ったら、立場も何もないだろ」
「・・・ん」

今回の事件は、すべて自身が本質を見誤り、無駄な奔走をした結果。
ジョンとRQの行動は間違っていなかった。
それを過ちとして処理するしかなかった。

「情けない」
リヒャルトは、そうこぼした。
「上に立つ奴が正しいと思ったことをすれば、下の奴らもそれに従ってついてくる。組織ってそういうもんじゃないのか」
「・・・」
リヒャルトは黙ったまま俯いた。
「あんたの作り上げた組織は、そんな力がある。そうだろ」
「・・・ん」

リヒャルトの瞳に、RQの姿がくっきりと映った。
ジョンは・・・惹かれたんだ。
この表情に。
いや、表情だけではなく、おそらくはすべてに。

ジョンがRQに抱きしめられていた時、完全に身を任せているのを見てわかった。
ジョンは、この男に惹かれている。
その途端に、身体の中をどす黒い何かが流れた。
今まで知らなかった感情だ。
気が付いたら、RQの頭はグラスの中に突っ込んでいたのだが・・・。

「それより・・・あの時の傷は痛まないか?」
「え?次の日にはいつもみたいに消えてたけど」

「あんたがそんな事言うと、なんか変だな」
からかうようにRQは笑ったが、リヒャルトは消え入りそうな声で
「す・・・まない」
と言った。

「別にいつもの事だし、気にすんな!」

その言葉が、リヒャルトをますます気まずくさせるとは考えもしない様子で、RQは明るく笑っていた。


リヒャルトは、ため息をつきつつ言葉を止めた。
「?」
「なんでもない!」
「??」

リヒャルトは、戸棚を開けてビンを取り出した。

「あんまり強い酒ばかり飲むなよ。身体壊すぞ」
「これは酒ではない。あのウイスキーは捨てた」

黄金色の液体を二つグラスに注いで、一つをRQに手渡した。

「りんごのシロップだ。気持ちが落ち着くとコッペリウスが言っていた。」
「へぇ、あんたが作ったのか?」
「ん。おまえは強い酒が嫌いだし、甘い飲み物が好きだから・・・」

言った後で、リヒャルトは「なんでも・・・ない」とRQに背を向けてしまう。

「リヒャルトが・・」
りんごシロップを口に含んだRQは
「・・うまい。よくできてる」
と言ったが、リヒャルトは振り返らない。

そう言われて、やっと振り返ったが、視線をそらしたままだ。
仕方なさそうに、ソファに座るRQの隣に腰掛けた。

「毎晩これを飲むためにここに来ようかな」
「冗談ではない・・」
プイッとして見せるリヒャルトだが、言葉に棘はなかった。
そうして、酷く躊躇いがちにRQに身体を寄せる。
「悪い、そっち狭いか」
RQは身体をずらしてリヒャルトから離れていく。

だが、リヒャルトは黙ったままRQのほうへ近づいた。
「?」
「・・・ジョンにできることが私にはできないのか?」
「え?」
ムッとしたまま、顔を赤くしているリヒャルト。
RQは、リヒャルトの言わんとしていることがわかった。

「もちろん、それ以上もしたいさ」

グラスをテーブルに置くと、RQはリヒャルトを抱きしめた。
そのあと、ソファの上にゆっくりと押し倒した・・・。





「やぁ!こんばんはジョン。今ちょうど、きみに胸毛が生えているかどうかを、コッペリウスと賭けてたんだよ!」
いやに楽しそうな様子の兎兎は、酒の入ったグラスを片手にBarのカウンターで一人酒を煽っているジョンに話しかけた。

「ほっといてくれ、オレは今日失恋したんだ」
「なんと!」

これは大変だ!と兎兎は隣で怪しげな液体を飲んでいるコッペリウスに訴える。

「これは大変なことが起きたね!」
コッペリウスも顔色を変える。
「どうしよう、今日は無駄毛を処理してないんだよ!」

声が聞こえたらしいまわりの連中も、慌てふためいた様子だ。

「なんだ?オレが失恋したことがそんなにおかしいのか!」
苛立つジョンに兎兎は首を振って
「きみ、ここのBarのルール知ってる?」
「いいや」
「実は、このBarに失恋した人がやってきたら、今いる全員で裸踊りをしないといけないんだよ!!」
「な、なんだって~?!」
ついつい声が裏返ってしまったジョンだが、まわりでは肉体自慢の男たちがさっそく服を脱ぎ始めた。
さすが普段日々鍛え上げている連中だ。贅肉のついている者はいない。
加えて、体中傷のある者、タトゥーだらけの者も多い。

「う、うわーー!!」
兎兎もコッペリウスに服を引き剥がされていた。
「YA!ユーも裸になっちゃいなYO!」
裸のコッペリウスは、ジョンにも手をかけようとする。
「や、う、やめろ!!」
振り払おうとするが、コッペリウスはヒラリと身をかわして、(裸のまま)フフフ・・・と不敵な笑みを浮かべながら
「こう見えても、私は嫌がる人を脱がすのに関してはプロなのさ!なにしろ医者だからねぇ!さぁ、きみもおとなしくしたまえ!痛い目を見ないうちに、ね!」

「お、脅してんじゃねぇよ。変態医者がっ!」
これもまた、コッペリウスによって裸に剥かれた第3部隊のリュー・ウェンの声があがる。

そうこうしているうちに、ジョンは誰かに身体を押さえつけられて、服を脱がされた。
軽快な音楽が流れ、そこらじゅうで男たちが踊りだす。

「おおっ!いい感じのAタイプ!」
兎兎が目を輝かせる。
「ちっ!私は胸毛が生えてないほうに賭けたんだけど、どうして生えてんのさ」
男二人に、胸をジロジロ見られた上に
「採取させて・・・」
体毛に手をかけられて、ジョンは叫んだ。

「やめろーーーーーー!!!っていうか・・・やめてくれ・・・頼む、頼むから・・・」




「ああ、ここ」
バスルームの鏡の前で、RQは数時間前についたばかりの赤い印を指でなぞった。

一晩中・・・求め合った。
最初はソファで、次は床の上で、続いてベッドで。
リヒャルトはRQの身体に、何度も噛み付くほどの激しさで口を這わせた。
跡がしっかりと残るくらいに。
1ヶ月も開けていたのだ。以前3週間の禁欲を命じられた時よりも激しさが増すのは仕方ないとしても・・・。
リヒャルトは、跡を残すのも残されるのも嫌がっていたのに、どういう風の吹き回しだろう。

それを無視するように隣でシャワーを浴びているリヒャルト。
RQに悪戯心が芽生えた。

いきなり後ろから羽交い絞めにされて、リヒャルトは「ぎゃ!」と悲鳴をあげた。
「何をする!」
「おんなじところに跡つけたい」
「ダ・・・」
引き剥がそうとしたそばから、さっそくRQはリヒャルトの首筋を吸い上げた。
「やめっ!おまえはすぐに跡が消えるかもしれんが、私はっ!!」
「そう。だから、次にも同じようにリヒャルトが跡つけられるように、リヒャルトの身体に証拠を残しておくんだ」
次にRQの唇が襲ったのは、敏感な部分だった。
「あ・・・」
リヒャルトから力が抜ける。
「最後は・・・ここでしようか?」




その夜、リヒャルト長官がBarに現れなかったことは、SSG隊員たちにとって幸いだった。
すっかり酔いつぶれた裸の男たちが、踊り狂いながらお互いの身体に酒をかけあう様な乱稚気騒ぎになっていたなどと・・・長官が知ったら、懲罰房がいくらあっても足りなかった。


「ううっ・・・頭がガンガンする・・・」

ジョンは、昨日の馬鹿騒ぎに最後には参加してしまった自分を殴りたくなったが、おかげで失恋のショックが薄れたのもあって「まぁいいか」と一人納得した。

すると、前からRQが歩いてくる。
できれば、朝一番に見たくない相手だった。

「おいおい・・・朝から見せ付けてくれるなよ。オレは昨日おまえに振られたばかりだというのに」

RQの首筋にはうっすらとキスマークが残っている。

「あ・・・そういうつもりじゃ」
慌ててそれを隠し、RQはさっと顔を紅潮させた。

こいつもこういう顔をするんだ・・・。
意外だった。
普段は何事に関しても感じなさそうな顔をしているくせに。

「おまえ、本当にかっこ悪いぞ」
「・・・わかってる」

どこか悔しそうな表情のRQにクスリと笑いかけて、ジョンは去っていった。


幸せになれよ・・・


言葉には出さないまま。
  end