深夜。
火照る身体を持て余しながら、RQはベッドで寝返りを打った。
頭に浮かぶのはグレーの大きな瞳。
いつもはきついくせに、両腕の中に入れると途端に潤んできて…。
吸い込まれる。
「はぁ~」
あと少しで2週間がたつ。
自分でもよく我慢できたと褒めてあげたいくらいだ。
「それにしても3週間はきつすぎる…」
独り言をつぶやいた後で、誰かの気配をドアの先に感じた。
コンコン…
起き上がると同時にノックの音。
「こんな時間に誰だ?」
ドアを開けてみると、リヒャルトがいつもの大変可愛らしいパジャマ姿で立っていた。
「夜分遅くに申し訳ないが…アポロを見なかったか?」
「いいや、知らないが。いないのか?」
「風呂から上がったらいなくなっていた。いつもならこの時間、自分の寝床に入っているのに。ひょっとしたら、おまえの部屋かと思って…いないなら別にいい」
そう言って、リヒャルトは懐中電灯を手にしたまま、歩いていこうとする。
「ちょっと待てよ」
その後をRQは追った。
「まさか寮の外まで探しに行く気じゃないだろうな」
「そうだが」
「オレも手伝うぜ。アポロはオレの家族だからな」
「ん。勝手にしろ」
さすがに獣スリッパではなく、普通の靴でリヒャルトは寮の外に出た。
「なるべく外には出ないように言い聞かせているのだが…おかしい」
リヒャルトは首をひねった。
日頃、真剣な面差しで子猫と会話をしているリヒャルト。
その様子はとても面白いが、本人はあくまで大真面目であり、話を聞かされているアポロのほうも頷いたりしているので、この発言はあながち間違ってはいない。
「庭の裏側も見てこよう」
RQが、リヒャルトから懐中電灯を受け取り、走っていった。
二人がここまでアポロを真剣に探しているのは、SSGという組織のセキュリティの厳しさにある。リヒャルトの部屋のセキュリティは、アポロ相手には作動しないように調整されている。
しかし、外部のセキュリティはそういうわけにはいかない。
なにしろ、宇宙生物を相手にしている組織なので小さな生物にでも反応してしまう恐れがある。
さすがに、高圧電流が流れているような場所は区切ってあるが、騒ぎが起きる可能性もあるので早く見つけるに越したことはない。
「いねぇな…そっちは?」
「こちらにもいない」
「あとはボイラー室の裏側だけだ」
「何か音がする」
よく耳を澄ましてみると、カサリカサリと音がしている。
RQとリヒャルトがそっと覗いてみると、子猫が植え込みにひっかかった風船に狙いを定めていた。
「ニャ」
何度か飛び掛ろうとするのだが、風船はあっちへこっちへ動いてなかなか定まらない。
「どうしてあんなところに風船が?」
リヒャルトが言った。
「そういえば、占い師が今朝、風船もって歩いていたの見たぜ。どうしてあんなところにあるのかは知らねぇけどさ」
「それはそれとしても、アポロを連れて帰るぞ」
飛び出していこうとするリヒャルトの肩をRQが掴んだ。
「ちょっと待てよ、あれはあれで面白いじゃないか」
「帰ったら、アポロに説教をしなければならない。夜遊びなど親を心配させる行動は慎むようにと」
「まぁ、それはちょっとあとでいいだろ」
そう言って、RQはボイラー室のドアを開けた。
「こんなところに用があるのか?」
「いいから」
「?」
リヒャルトが入ったのを見計らって、RQはドアを閉めた。
ガチャリという音にリヒャルトの瞳が大きく開かれる。
「何を…する」
「鍵をかけた」
と同時に、水色の地球が目の前に広がった。
深く口付けたまま、RQはリヒャルトの猫耳フードをそっと外した。
髪に手をいれて顔を近づけ、首筋に唇を這わせた。
「っ…やめ…」
リヒャルトは両手でRQをとどめようとするが、この場合、RQの力のほうが上だった。
それというのも…
「リヒャルト、本能が理性を上回る時って知ってる?」
リヒャルトは首を振る。
「今のオレがそうさ」
RQはリヒャルトの首筋に噛み付くほどの強さで、口付けを与えていった。
「この髪の匂いと…首筋の味だけで生きていける」
「場所を考えろっ!」
「どこだって同じだ。あんたを抱けりゃ」
「くっ…」
リヒャルトは精一杯抵抗している様子を見せた。
だが、RQはそんなリヒャルトの両腕を壁に押し付けて、動きをふさいだ。
「大体、おまえは病気ではないのか?!」
「オレが何の病気だって?」
「性的な…問題を抱えているとか…」
「は?」
誰だ?そんなことふざけたことを言った奴は?
だが、RQはすぐにニヤリとした笑みを浮かべて言った。
「なんなら確かめてみる?」
リヒャルトの腕を片方だけ開放して、無理やり自分の下肢に持っていく。
「や!」
それに触れた途端、怯えたようにリヒャルトの瞳が潤んだ。
「何か問題ある?」
「お、大ありだ…ば…か…」
最後のほうは聞き取れなかった。
「アポロは…?」
「しばらくあのままだろ?風船が気に入ったとみえる」
「おまえ、熱は?」
「それより、あんたのほうが熱があるんじゃないか」
RQは、リヒャルトのそれを弄ぶように掌の上で転がした。
「んん!」
「我慢できなかった?」
「何、言って」
「だって、今夜のリヒャルトはすごくしたそうだ」
「違う…」
言葉とは裏腹に、掌で転がされるものが熱くなっていく。
「あ…」
RQの硬い掌に押し付けるように…リヒャルトは腰を動かした。
「もっと、腰動かして…」
「んん…」
熱い声に突き動かされるままに身体を揺さぶる。
「2週間もあんたに触らなかった…」
「…どうして」
「理由はあとで話す」
手を素肌の腰にまわされて、リヒャルトは身体を震わせた。
「抓ったり…」
「うん、抓ってあげる」
ぎゅっと痺れるような痛みと同時に快感が背筋を駆け上がって、悲鳴を上げさせる。
「抓るな!やっ!だ…」
「もっと抓って欲しい?」
もがいても、腕をしっかりと押さえられていて逃れられない。
「やだ!抓らないで!」
指先が白い肌を摘むたびに、リヒャルトの身体が跳ねた。
全身で快感を感じながら、紅潮した頬を涙が濡らした。
その姿はいつも彼からは、あまりに別人のようで。
「次にどうしてほしいか言って」
「…ん、ぐ…」
口を噤もうとしても、RQが舌を入れてくる。
「言って」
「…は、早く…」
「もっと抓って欲しい?」
「違う…」
「入れて、中で擦ってほしい?」
「ん、ん、」
リヒャルトは、いやいやというふうに首を振る。
「じゃあ、どうして欲しい?」
両腕を開放すると、リヒャルトはへたりこんでしまった。
「ああ、そういうこと」
RQは俯くリヒャルトの顎に手をかけて、ぐいっと上を向かせて…
「咥えて」
「うあ…」
リヒャルトの口先にそれを当てると、自然に小さく口を開く。
そして、そろりそろりと両手で掴んで舌を這わせた。
「あんたも下脱げよ。ほら、しみができてるぜ」
ビクリと身体を震わせて、ゆっくりとリヒャルトはズボンを脱ぎ、再び熱い肉棒に顔を寄せた。
「すごくいい顔してる」
「ん…ん」
愛おしそうに、RQの指先がリヒャルトの頬をなぞる。
「ずっと欲しかった。あんたに触れない間、何度もこうしてるところ考えてた…」
「ん…」
リヒャルトはそれの先端に唇を当て、口を開く。
吸い付く音がジュルジュルと耳を塞ぐ。
んあ…とRQが喘いだ。
息もできないほど快感が駆け上がってくる。
「どうして、いきなり、こんなに上手くなったんだ?」
リヒャルトは答えない。
ただ、頬を赤く染めて細く目を開け、つい…と視線をそらした。
「あんたも考えてた?こういう事するの…」
「…」
黙ったまま、ひたすらにそれにしゃぶりつく。
貪欲なほど。
「リヒャルトも欲しかった?」
「…」
答えないまま、リヒャルトはRQのものに口内で舌を絡ませる。
「もう欲しい?」
リヒャルトの手が自らのものを刺激しているのを見て、RQは自分のものからリヒャルトの顔を離した。
「ん」
RQはリヒャルトを座らせ、足を大きく広げて、熟しきって濡れそぼっているものに舌を這わせた。
「にゃ…ん!ダ…めだ…」
「もう、イキそう?」
「ん」
「入れていい?」
「ん!」
抵抗らしい抵抗も見せずに、リヒャルトは身体を横たえた。
「まてよ、それじゃ背中冷たいだろ。こっち」
と言って、RQはリヒャルトの腕を自分の首にしがみつかせる。
そのまま抱きかかえた。
「?」
その抱きかかえたままの姿勢で、挿入を始めた。
「んあっ!」
リヒャルトの身体は、RQの腕と繋がっている部分だけで支えられている。
そのせいか、リヒャルト自身がより深くRQをねじ込むように身体を寄せた。
「そんなに深くいれたら、痛くないか?」
「…あっ!!」
身体を痙攣させながら、リヒャルトは身体を埋める圧迫感と快感に飲み込まれているようだ。
「…もっ…と」
「ああ、動かすから、しがみついてろ」
力強い腕が身体ごと揺さぶる。
「はぁ…いい。リヒャルト!」
「も…と、もっと…っ!」
熱い肉体が身体を抉るたびに、リヒャルトの理性が剥がれ落ちていった。
「もっと!あ、深くっ…アーク…もっと、ほし…ぃ」
甘い声で高く叫ぶその姿は、RQの中の何かを弾けさせた。
ぐいっと壁に押し付けて、足を限界まで開けさせる。
「すごいかっこ…めちゃくちゃやらしいぜ、リヒャルト」
「ひゃめて!恥ずかし…やめ…」
「ほら、こうやって叩きつけるたびに、それが揺れてる」
「…あ」
壁に押し付けられたせいで、リヒャルトは片手でRQの身体を引き寄せながら、雫を垂らすものに自ら指をからませ、一層高い声で鳴いた。
「気持ちいい?」
「ん、あ!ああっ…ん。い、い」
「そうやって、あんたが自分の触ってるの見ると興奮する」
「んん、見るな…」
きゅっと瞑った目から涙がこぼれ出る。
「いつもみたいに、気持ちいいの吐き出してオレにかけて。目の前で擦りながらイッてみせて」
「や…やだ!」
そう言いながらも、動かしている手は止められない。
「見ないで!」
羞恥に泣きながら、リヒャルトは快楽に身をゆだねていた。
段々と大きくなる揺さぶりに身体を振り回されながら、嬌声を上げる。
「あっあぁ!イイっ…!見ないで!」
「見せて、全部、見せて」
「やだ!イクっ…頼む…見ないで…あ、い、いっ…う!」
全身をガタガタと揺らしながら、リヒャルトの手から白い飛沫が飛んだ。
「み、…ないで…」
「ん!イク!リヒャルトあんたの中に」
RQは弾けるたびに、何度もリヒャルトの身体を突き動かした。
「っ!!」
そのたびに、鈍い音がして白い液が床を汚した。
「あ…」
コクリとリヒャルトの頭が傾く。
そのまま、ドサッと床に倒れこんでしまった。
「リヒャルト!」
RQはあわててリヒャルトの首筋に手をあてるものの、どうやら快楽のあまり気を失ってしまったらしい。
「どうしよう。禁欲が何にもなんないじゃないか!」
今更、RQは理性を取り戻したが、どうすることもできない。
しかたなく、リヒャルトに服を着せて腕に抱えて外に出ると、アポロが風船のそばで丸くなっていた。どうやら飽きてしまったらしい。
RQが手を伸ばすと、すっと乗ってきた。
そして、気を失っているリヒャルトの腕の中に入り、欠伸を一つして目を瞑った。
「ん?ここはどこだ?」
「あんたの部屋だ」
リヒャルトが目を覚ますと隣にRQが横たわっていた。
「アポロは?!」
「あそこにいる」
RQが指差す方向には、アポロの寝床。
オレンジ色の花柄で大変可愛らしい布地で覆われている。
「新しくしたんだ。あれ」
「ああ」
新しい寝床で丸くなっているアポロを見て、リヒャルトはほっと息をはき、安心したように布団に包まれた。
「気に食わないのかと思っていた」
「プッ…あんたでもそんなこと気にするんだ」
「親が子供のことを気にするのは当たり前だ…」
そう言いながら、もごもごと半分顔を布団に埋めた。
恥ずかしかったらしい。
「でも、起きたら説教をしなければ」
「オレと同じで自由な気風なのさ、ほっとけ」
「おまえみたいに悪い見本がそばにいるから、間違った行動をするようになるのだ!」
言った後、しばらくして居心地悪そうに身体を動かした。
「ところで、おまえはいつまでここにいるつもりだ?居心地が悪いなら早く出て行け」
「誰も居心地が悪いなんて言ってないだろ」
「熱もあるし…」
「熱なんてない。オレがその…あんたに触れなかったのは、その…この部屋が別に嫌いなわけじゃねぇんだ」
そこまで言って、RQは「はっ!」と何かに気づきリヒャルトを凝視した。
「なんだ?」
「オレは、リヒャルトを抱くつもりはなかった!」
「あんなことまでしておいて、今更何を言う!!」
リヒャルトでなくとも、そう言いたくなるだろう。
事実、RQも発言の後、自分でそう思ったのだ。
「い、いや、そうじゃなくて…ええと、なんだったけ…?」
気まずそうに宙を見つめるRQの横で、もっと気まずそうなリヒャルトが
「し、しかも…あんな場所で…あ、あんな…」
と小声で呟いていた。
ちょうど、今日は早朝トレーニングが休みだったので、RQはしばらくここにいることにした。
「もうすぐ朝食の時間だぞ」
「あ、うん…ところで、リヒャルト。オレと寝た後ってどう?」
「ど…ど…どう…とはどういう意味だ?!」
リヒャルトは可哀想なほど動揺し、手にした歯ブラシを落っことしてしまった。
「だからさ、身体がすごく疲れたり…一日仕事するのが辛かったり…」
「そんなこと聞くな!ばか!」
「真面目な話だぞ」
「…べつに」
プイッと向こうを向いたまま、歯ブラシを拾って、リヒャルトは洗面所に入っていった。
「リヒャルトー!」
「ふぁて!ひまはら…ぁ」
洗面所から、もごもごと声が聞こえてくる。
「わーたよ。出てくるまで待ってる」
「実は、あんたのことを心配してる。夏とか倒れたから…」
「あれは、私自身の不摂生の問題だ」
食堂に向かいながら、二人はそんな会話を重ねていた。
「今日だって、なんともないってことないだろ?」
「…私は、そこまで弱くない」
だが、現に何度か倒れているのだ。
渋々引き下がりながら、RQは「ん~」と唸った。
ところで、食堂に入ったリヒャルトは、いつもどおり胚芽パンと豆のスープを取った。
だが、まだ料理の並んだトレイのあたりをうろうろとしている。
「おや、珍しい。それは鶏レバーのワイン煮ですか?」
リヒャルトのトレイを覗いて、機械部長の潤一が声を上げた。
「鉄分を採ったほうがいいと言われてな」
「ふーん、そうでしょうね。あなたは普段節制をしすぎているんですよ」
「ところで、ジュージュも節制したほうがいいよ」
占い師兎兎が横から顔を突っ込む。
兎兎のトレイには、シリアルにグリークヨーグルトとフルーツ+蜂蜜がどっさりと乗っている。
兎兎は意外にも健康的なのだ。(というより、たまたまこうした食品が好きなのだった)
潤一のトレイには、朝からビールのグラスとハムステーキとマーガリンを縫ったトースト。
「ジュージュ、また、メタボに一歩一歩前進中じゃない!」
「メタボじゃない!」
愛し合う兄弟で、こうした会話が食堂でたびたび聞こえてくるようになったのは、いつの事からだったか…。
「長官殿、おはようございます!」
第6部隊の凍牙がやってきた。
「おはよう」
「あれ?長官殿、朝から顔色がいいですね!今日も朝からトレーニングでもなさっていたんですか?」
「え?」
「そういえば、肌がつるつるしているね!」
兎兎が意味ありげな視線でリヒャルトを見つめる。
「そ、そうか…気のせいだ。きっと」
急に、気まずそうな顔でその場を立ち去ろうとするリヒャルトの前に、RQが現れた。
「なんだ!逆に元気になるのか?」
「…」
バシャ…
リヒャルトは無言のまま、オレンジジュースを目の前の「デリカシーという言葉とは無縁の男」にぶちまけて去っていった。
「長官殿に対して失礼な態度をとるからだ」
凍牙がRQを軽蔑たっぷりの視線で見つめた。
「おまえ、そういう口はな、リヒャルトを片腕で抱えられるようになってから利けよ」
RQがバナナを片手に挑発する。
「食堂では…静かにしろ…」
先ほどとは比べ物にならないほどの怒りをたたえたリヒャルトが、こちらを向いている。
一同は、おとなしく席に着いた。
下手をしたら、朝食にありつけなくなるかもしれない。
食事の前では誰もが優先順位を考えるものだ。
「ほうほう、数値がだいぶ改善しているね」
医務室にて。
リヒャルトはコッペリウスに検査の結果を聞いていた。
「これを機に少し偏食と勤務状況を考えたほうがいいよ」
「ああ、反省している。今までは節制は大切だと思っていたが、偏食と言われてしまえば、そのとおりだ。それに、仕事も…調整できるように努力する」
「よしよし、何事も過ぎたるは及ばざるが如しというからね。夜の生活のほうもやり過ぎは禁物ですよ!プッ!」
コッペリウスからすれば、冗談だったのかもしれないが、リヒャルトは顔を真っ赤にして、
「ん」
とだけ返事をした。
こりゃ、節制が過ぎたのかもしれないねぇ。
リバウンドが激しかったらしい。
コッペリウスは「うん、とりあえず実験は成功だ」と小声で呟いた。
今度の学会では「性欲と節制」について発表する予定だ。
「二人の健康体のサンプルがいたとして、我慢できるのは2週間が限度…」
リヒャルトが去っていった後、コッペリウスはレポートにそう書き込んだ。
後日談:
占い部屋「兎兎ちゃまのお部屋」からふんわりと甘い香りが漂ってくる。
「まだかなぁ?」
ソファにゆったりと腰掛けた潤一は、それを待っていた。
「できたよ」
兎兎が皿にのせて持って来たのは、紅茶の香りのシフォンケーキ。
キャラメルクリームが添えてある。
「キャラメルクリームは大目にお願いします!」
「まったく…」
兎兎は弟がこのキャラメルクリームを好んでいるのを知っていた。
それで、自分のものより多少大目に添えた。
「うん、美味しい!」
幸せそうに頬を膨らませてシフォンケーキを口に運ぶ様子は、冷徹無比で有名な機械部長とは一致しない。
「まったく2週間も我慢できないのだから」
「だって、美味しいんだもん!」
そう言う潤一の口元についたクリームを兎兎は拭ってあげた。
「リヒャルトみたいに節制をしないと太ってしまうよ」
「大丈夫です。私はスリムだから」
弟はたしかに素敵だが、スリムというのはどこまでの基準をいうのだろう?
兎兎は少し考えた。どう考えても潤一はスリムではない…。
「何事も我慢しないほうがいいんですよ、リバウンドが怖いから。って、コッペリウスが言っていた」
潤一の言葉を聞いて、兎兎は自分も節制ができない体質だと思い直した。
そして、甘い甘いキャラメルクリームに手を伸ばしたのであった。
| END |
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