-兎兎ちゃまのお部屋-

「はぁ、ひさしぶりだなぁ。ま、懐かしいわけでもないけど」

春人は、SSG本部に戻っていた。
年に何度か、会議や連絡事項などの関係で本部に呼び戻される。

今まで智恵には「風邪で学校を休んでいる」と言っていたが、正体がバレた後は、ちゃんと説明するようにしている。

「オレの替わりのガードを向かわせたから」と言ってあるが、果たしてあいつ大丈夫だろうか?
代役を選ぶのは、長官である。

よりによって“あんなの”を向かわせた意図がまったくわからない。
今、春人の心は智恵が敵性宇宙人に狙われる事よりも、ガード(とりあえず仲間)に狙われる事を心配していた。

「なんで、あいつを送り込んだんだ??」

ともかく一刻も早く日本に帰りたい。


・・・・・
これは、そんな時のお話。



SSG基地内は、仕事内容によってセクションが分かれている。

事務方と実働部隊の仕事場所は異なるが、まったく両者が顔を合わせないといった事はない。
実働部隊も届出書類等を事務方に持って行く用事もある。

事務方が、実働部隊の部屋割りを取り決める用もあるし、連絡を回覧させるのも事務の仕事だ。
会議の準備も事務方が引き受けている。

だが、そういった仕事についていないものもいる。

隊員たちの講義を担当している教授陣と、隊員たちの寮の生活を支えている用務係、機械部門の人間達…。

そして…



その部屋のドアには、可愛らしい木の看板がかけてある。

-お留守中-

まるっこいクマが2匹両端に座っている看板だ。
今日も、そのドアを叩く者がいる。

「なぁに?」

留守中と書いてあるのにも関わらず、中から声が聞こえる。

「こんにちは、少しいいかな…」
「ああ、あなただね」

わかったような顔で、客人を迎える小柄な男。切りそろえた黒髪、茶色い瞳。ゆったりとした服。


その名は“兎兎”


「今日は初めてマドレーヌを焼いてみたんだよ」
「あ、ああ…いただこう」

ここに来た客人は例外なく、まず座り心地のよいソファに座らされる。
そして、菓子をつまむ。


「ふぅ」
茶を飲んで一服ついたところで、兎兎が話を切り出す。

「それで、どうしたの?」

「眠い」

「うんうん」
兎兎は頷きながら、グレイタイプの宇宙人人形をひざの上に乗せる。

「眠れないの?」

「そういうわけではない…が、あいつを選択した自分に…正直どうかしてしまったのではないかと」

「自分の判断に戸惑っているんだね」

客人は、自分で自分の手を何度も握り締めながら、イラついた様子で話はじめた。

「元々難易度がAだが、急に事態が変わって難易度がC+になった仕事だ。通常ガードしている者が本日ここに戻ってきているから、代わりにあいつを行かせた。
しかし、私は、あいつにガードをまかせたのは間違いではないかと思い始めている。一時的にしても…。性格的にも常識的にも、世間に出すような男ではない!」

最後の言葉は、まるで自分に言い聞かせているような強い口調だった。
すると、兎兎はプッと笑いながら言った。

「世間に出せないなんて、まるで子供を過剰に心配している親みたいじゃない」
「そんな事はっ!私が親??…あいつが」
「とても信頼してる。でも心配なんでしょう…仕事よりも被保護者よりも、その子が」
「ち、違う!」

客人は、慌てふためいた。

兎兎は、そんな客人の様子をチラリと見てから、どこからともなくカードを取り出した。

「じゃあ、どんな結果になるか占ってみようか」

瞬間、客人の目がカードに釘付けになる。

兎兎はゆっくりと…一つところに集めたカードに両手を乗せて目を閉じた。

この客人が占いなど信じるタイプの人間でない事は知っている。
だが、占いは結果よりも導入部が大切なのだ。

大きく両手を回して、カードを掻き混ぜる。
そして一つにまとめて、三つに分けた。

「これを好きな順に重ねるんだよ。その人の事を想いながら…」

ごくり…と客人の喉が鳴った。
その瞳は真剣そのものだ。
兎兎の言葉に従って、ゆっくりとカードを重ねていく。
最後は少し迷いながらカードを乗せた。

-ずいぶん真剣なんだねぇ-

と、兎兎は思った。

-これじゃ、仕事の結果だけじゃなく違う結果もでちゃいそう-

ニタリとした笑みを、穏やかな微笑みに変えて、兎兎は顔をあげた。

無言のままカードを凝視している客人。
するりするりとカードを開けては、テーブルに置いていく兎兎。


「・・・・」

客人は、カードの意味を読み取ろうと必死の形相だ。
このカードの絵柄にどういう意味があるのか。
訴えかけるような瞳で、こちらをむいた客人に対して、兎兎は答えた。


「心配はいらないよ、いいカードが出てる」

ほっと一息つく客人に兎兎は、カードの意味を教えてあげた。

「これとこれはね、仰天の発想でこの人が勝利する事を暗示している」
「仰天の発想?!」

客人の表情が曇る。

「あいつ、また何かしでかすのでは…」

「未来のカードは、ほら幸せそうなカードでしょ。だから、安心なさい」

「う、うむ…」

客人はそのカードを訝しげな目で見て、何か感じたように、軍帽を深くかぶり直した。

「そういう結果なら、とりあえずよかった。それで…ここに来たのはこういう話をするためではない」
「あれの探索は続けている…とだけ言っておこう」
「そうか」

SSG内公認占い師、兎兎。

しかし、その真の任務は謎に包まれている。

客人は「礼を言う」とだけ言って、立ち去った。



だが、兎兎はカードをまとめながら、くすっと笑った。
手にしたカードは“恋人”のカード。

「誤魔化したってわかっちゃうんだよ」


カードは正直だ。

だが、カードでも探り出せないものもある。


「ふぅ…一体どこにあるのかねぇ。あの本は…」

兎兎は、机に乗っている分厚い本を手にして溜息をついた。

「この本だって結構苦労して手にいれたんだけど、あれは特別にめんどくさそう」

本を広げると、ヘアスタイルの歴史が綴られている。

「天使風髪型ね。20世紀初頭…金髪がよく映える」

ぶつぶつ呟きながら、兎兎はふと視線をあげた。



「天使の書いた本か…」




今日も、SSG内の兎兎の部屋には客人が訪れる。
隊員たちも悩みを抱えたものが多い。
兎兎の占いはよく当たると評判だが、それ以上に話を聞いて欲しい者がやってくる。

ここは、SSG隊員にとって唯一の心のオアシス。


“兎兎ちゃまのお部屋”



    END