-トトちゃまのお部屋 ファーストぉ1-

空港に降り立った時は、とても不安だった。
私は、不法侵入者として扱われるのではないだろうか。
おぼつかない英語も、UFO同好会で覚えたものだ。
つまり、オカルトと本業の占いに関する言葉以外に自信がない。
もし、誰かが早口で何か言ってきても答えられない…。

おかっぱ頭を不安に震わせて、一人迎えを待っている小柄な男の前に、黒塗りの大きな車が止まった。
ドアの中から急に腕が伸びて…。

「あ、あれ~~~~助けて~~~ぇ!!」

叫ぶ口を塞がれ、一瞬のうちに車内に閉じ込められた。

「な、何者!!私の身分を知ってのことか!」
「誰でもいいだろ、お客さん」
「?」

そっけない返事にギョッとしながら、ガラの悪そうな誘拐犯は銃を突き付けた。

「おまえが誰だかなんて、俺たちには関係ない。重要機関の客人を連れてこいって言われてんだよ」
「???ごめん、言葉が早すぎてよくわからないんだけど、私は本来の目的とは違う人物だったんだよね?」

どうも理由がよくわかっていないらしい日本人は、運転している男の髪をむんずと掴むなり、

「車を止めてほしいんだよ。そう…STOPね!」
「ぎゃあ!」

予想外の行動に、運転手がハンドルを手放した。

「お、おまえ、前見ろ!!前!!」
「いてててっ!!」

ちょうど赤信号で、車が止まっている。
車列が見えた。慌ててブレーキを踏むも、車は急に止まれない!
最後尾の車両に向かって突っ込んでいく。

「ぎゃあ===ぶつかる!!」
「皆、頭を下げるんだ!!」
そう言いながら、小柄すぎる日本人はこともあろうに誘拐犯の足元に潜り込もうとした。

「何しやがる!!こいつ!!」
「ぶつかる!!」

耳をつんざくような轟音。
追突してひしゃげた車から、無傷の人間が出てきた時、人々は歓声を上げた。

「OH!MYGOD!!」
「奇跡だ!」

周りの人間が口々に叫ぶ中、おかっぱ頭を揺らしながら無傷の男は首を振った。

「アメリカの道路はマッドマックスみたいだって聞いてたけど、本当だね…。今度から気を付けないと」
「きみの占いでも、この事態は予測できなかったようだな」
「そうそう悪くなかったんだ。結果がね」
「ほぉ」

気配もなく、横に立った人物を見上げようとすると、その前にサングラスをはめられた。

「?」

次の瞬間、辺りは強い光に包まれて…。

後に残ったのは呆けたような顔のギャラリーだけ。

「犯人二人は救急車で施設に運べ。生命反応は残っていそうだ。聞きたいことがある。ここの記憶操作は任せる」
「はっ!」

いつの間にか、軍隊のような集団があたりを封鎖し始めていた。

「まさか、来日してすぐに”記憶ぺかっ!と消去”を見られるとは!!都市伝説じゃなかったんだね!!!」

興奮するおぱっぱ頭の日本人に向かって、シィーと口元に指をもっていって

「組織以外には秘密だ」

と囁く黒服の人物。

「おおっ、あなたが…」
「長官のリヒャルトだ。ようこそアメリカへ、占い師の…」
「入見兎兎…兎兎とよんでおくれ」

二人は握手をして、初めてお互いを見つめた。

兎兎は、じっとその柔らかい茶色の瞳で、リヒャルトを見る。
全身黒ずくめの軍服姿に隙はない。
青白い顔の半分は黒髪に隠れている。しかし、一つしか見えないツリ目がちのグレーの目は大きく、年齢以上に若々しく見えた。


「強気の受…」
「?私の顔相占いでもしてくれるのか?」
「いやはや…!それは後々…」

そうして二人は車に乗った。
SSG本部へ向かうために。

そう、これは占い師兎兎が初めてSSGにやって来た時のお話。




一通り、組織と施設の説明を受けたあと、兎兎は案内された自室へ向かった。
「専門職はそれぞれ自室と仕事場が与えられる。たしか、きみの希望は2スペースつながった場所でよかったな?」
「うん。仕事場に行くのはめんどくさいしね」

兎兎の占い部屋は、そういうわけで生活空間とつながっている。

「ここを心地のいい部屋にしたいんだよ」
「隊員たちのためにもよろしく頼む」
「OK♪」

私は仕事があるので。と去っていったリヒャルトに手を振って、トトはさっそく届いた荷物の梱包をはがし始めた。

着たばかりのよそいきは脱ぎ捨てて。
動きやすい恰好になったものの…ここを片付けたら確実に服が汚れる。

「どうしよう。私、洗濯機も動かしたことがないんだよ」

洗濯機は買ったのだが、使い方がわからず、どうにも不安だ。
説明書をちゃんと読むまで、使いたくない…というかできればすぐには使いたくない。
仕方なく、兎兎は服を脱ぎ捨てた。

「ちょっと原始的だけど、しょうがないよね」

洗濯機を使用しないために、兎兎はパンツまで脱ぎ捨てるはめになった。

全裸で箱をカッターで切り、段ボールを折り曲げる。
「これが終わったら心地のいい空間が私を待っている!」と自分を励ましながら、家具をセッティングしていく。
身体中が痛くなったところで、ピンポーンとチャイムが鳴った。

「ああ、どうしよう出られないんだよ!!」
「大丈夫だよ。もう入ってる」

誰かがドアを開けて入ってきてしまったのだ!

「おや」
「ぎゃあ!」

入ってきた人は、別段驚きもせずに「はじめまして」と挨拶をしてきた。

「こんにちは」
「今日はそんなに暑いかい?」
裸の兎兎を見て首をかしげる。

「服が汚れるのが嫌で」
「潔癖症なのかい?」
「洗濯機が使えないんだよ」
悲しそうな顔で言う兎兎を見て、侵入者は「私が洗濯機の使い方を教えてあげるよ」と言った。

「わぁ、ありがとう。親切だなぁ!あなたは何者?」
「私は、医学博士のDr.コッペリウス。それより…きみは服を着たまえ」

トトは一瞬深刻な顔をして、

「そこらへんに座っててくれる?身体中が屑だらけなんだ。シャワーを浴びないと」
「じゃあ、ここでお茶でもいただいているよ」

1時間くらいたった頃、シャワールームから出てきた兎兎は、ぎょっとした顔をドアから出した。

「そういえば、あなたは日本語を話しているね!」
「え、うん。そうだけど」

今まで気づいていなかったのか?Drもギョッとした。

「でも、アクセントがちょっとハワイ風な気がするけど」
「…ハワイでは暮らしたことないけど、アメリカが長いからかなぁ」
「あなたはお医者さんなんでしょ。頭がいいんだなぁ」

髪をふきながら、兎兎は感心したように頷く。

「うーん、職業の一つだからね。別にそうは思っていないけど」
「だって、H2O以外の化学記号が言えるんだよね?しかもそういうことが好きなんでしょ?私より頭がいいよ」
「う、ううん…たしかに、化学は好きだったから」

Drは学歴や職業で優秀かどうかを図るのが好きではなかったが、目の前の占い師はどうも”自分の苦手なことができる人”は”頭のいい人”認定するらしかった。


「私、数字って面白いと思うんだ。組み合わせると絵が描けるんだよ」

これでは、兎兎はまったく数理的な知識がないとひけらかしているようなものだ。
しかし、Drはそれを面白いと思って、二人で好きな数字の落書きをし始めた。
やがて、話題は食にむかった。そこで、会話は最高潮に!

「マンモスを食べたのかい?是非とも食べてみたいんだよ。あれ!!」
「今、肉を入手するのは難しいけど、友人のDNA研究者に問い合わせてみる!待っていたまえw」
「お願い!」

兎兎は、Drの手をぎゅっと握った。

ぴこーん、ぴこーん♪

その時、夕食時を知らせるチャイムがなった。

「おおっ!こんな時間になってしまった。恋人を迎えていかなくてはっ!」
「ええ?!誰かとお付き合いしているのかい?」

慌てた様子で、部屋を出ようとするDrに驚きの声をあげる兎兎。

「私が引き留めたと思われてるかもしれない。ごめんなさい」
「ああ、気にしないでくれたまえ。コッペリアはそんなこと気にしないよ」

「それと…」と、Drは続けた。

「私は、こんなに初対面の人とたくさん話したのは初めてだよ!私たちは親友になれるよ。きっと」

Drが部屋を出て行ったあと、兎兎はちょっと考えた。

あの人とはいい友達になれそうだけど、ここに恋人がいるのなら、私はちょっと遠慮すべきなのかもしれない…。
私にも恋人がいたら、皆でパーティでもしたいところだけど…。

ぶつぶつ考えながら、食堂へ向かった。

そこには、すでにDr.コッペリウスとその恋人コッペリアが兎兎を待っていた。

「やぁ、紹介するよ!彼女がコッペリア」
「…」

車椅子に乗って、ドレスを着ている骨格標本。
思わず、兎兎も目をしぱしぱさせる。

「彼女の美しさに言葉も出ないようだね!」

そう言われてみると、美しい気がしてくる。
それと、兎兎はコッペリアから声がしてくるような気がした。
「困った人だけど、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく。私もいい友人ができて嬉しいです」
いつの間にか、口を開かされている。

「きみにも、コッペリアの声が聞こえるんだね」
「そうみたい」

不思議な骨格標本だ。
強い思念を感じる。
コッペリウスはコッペリアの肩を抱いて、口を開いた。

「私たちは、今でも情熱的に愛し合っているけど、当初のようなドキマギした関係は卒業しているんだよ。だから、きみも遠慮しないでくれたまえ」
「わかったよ」

そう言われて、兎兎もホッと一息ついた。
その後の夕食は盛り上がった。