-あの二人はデキてるから…-
その場所には似つかわしくない噂をされている二人組がいた。
SSGの寮内。
彼ら、SSG(スペース・セイフティ・ガード)は地球内にやってくる宇宙生物のごたごたを、秘密裏に処理する組織である。
その任務は敵対宇宙人に狙われる友好的な宇宙人の保護から、凶悪宇宙人の撃退、未知なる力や知識を利己的に使おうとする地球人への牽制等、幅広い。
それらの任務を最前線で行うのが、実働部隊である。
実働部隊もその任務によって2つに分かれている。
1つは、地球内で敵対宇宙人に狙われている友好的な種族を守る任務についている
“ガード”
彼らは、単独、もしくは3人ほどで対象を守っている。
そして、もう一つは軍隊のように6つに分けられた戦闘部隊。
彼らは各部隊につき数十人で行動をしていて、主な任務は凶悪宇宙人の撃退、そして彼らと手を結んだ地球人への(生殺与奪権も与えられた上での)対処だ。
“ガード”が守りなら、“戦闘部隊員”は攻撃を担っている。
「あははははは~~!!!」
さっきから彩の笑いは止まらない。
文字通り、腹をよじらせて笑っている。
「リュー…きみは本当に面白いなぁ!」
「…だってさぁ!」
「リヒャルト長官の氷の美貌にヒビが入っていたぞ!」
「・・・・オレだって、言った後ビビッたさ」
あの後、リューの言葉に舞い上がったRQが、本当に舞い上がって食堂の天井に穴を開けなければ、懲罰房に入っていたのはリューの方だっただろう。
「それにしても、僕達がデキているとは、話が出来すぎだなぁ」
「よく言うぜ、物好きにもほどがある」
相当呆れ果てている様子のリューとは対象的に、彩は楽しそうにニヤリと笑った。
「面白い。この際、それで通してみるか」
「やだね!オレは。冗談じゃない」
「真面目に否定する事もないだろう。そういう関係ってのもロマンチックだ」
「RQみたいな事いうなよ。ともかくおまえがよくてもオレが嫌なんだ」
彩は「なんだつまらない」と呟き、「年下の男の子特集」という雑誌を開いた。
「なんだ、おまえ年下趣味か?」
「ついでにいえば、年下は男じゃなければ萌えない」
「物好きだな」
彩の不思議な性的嗜好は知っていたが、ここまで直接的に言われたのは初めてだった。
「じゃ何か、年上は女がいいと?」
「まぁな。これだけはどうしようもない。好みだ」
「へぇ」
彩がバイセクシャルでも、別にどうという感想はなかった…が。
「僕はほとんどの男に対して上のほうが好みだが、きみが相手なら下だな」
などと言い出したので、リューは慌てて
「オレは、おまえと上下の関係にはなりたくない!」
と叫んだ。
「なんだ、残念」
彩はまたそう言い、こたつにのっそりと横になって「年下の男の子特集」をほおり投げ、かわりに「毛全集」という分厚い本を開いた。「占い師の兎兎に借りたんだ」と呟きながら…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
時々、彩という人物がわからなくなる。
繊細なのか、図太いのか、神経質なのか。
でも、気が合うのも確かなのだ。
鏡に自分の顔を映しながら、リューは過去の出来事を思い出していた。
ここに来てしばらくしたある日、先輩たちに悪ふざけを強要されたオレは、デザートのメロンにマヨネーズをかけて食べる羽目になったのだが…。
「なんて素敵なんだ、きみは!」
寄ってくるなり、メロンに・・・よりによってマスタードを塗りつけていた彩が忘れられない。
まるで宝物を発見したような眼差しで。
メロンにマヨネーズは実験的な取り合わせだったが、なかなかいけた。
悪ふざけを強要されてはいたものの、実際に興味があったのも確かなわけで…。
(でなければ、どんな喧嘩を買ってでもやりはしなかった)
“もしかして気が合いそうかも!”
なんて、その時に感じた。
それにしても・・・・だ。
物静かで、繊細で神経質で不器用な日本美人は、同室になってお互いをさらけ出せるようになってから、急激に変人ぶりを増した。
だが、あいかわらずまわりの連中は、彩の見かけ以上の変人ぶりには気づいていない。
彼は「ちょっと個性的だけれど、おとなしくて、人付き合いがうまくなさそう…でも一匹狼ってほどの牙もない、孤独を愛する男」として一般的に評価されているようである。
そして、この鏡に映る男とデキていると思われている…。
「はぁ…」
リューは自身を見て溜息をついた。
「このオレとねぇ」
すると、共有スペースから「うわっお!」と彩の叫び声が聞こえた。
「どうした!」
「僕の足が気がつかないうちに、火傷を負っているんだ!」
彩の足の小指が赤く腫れている。
「さてはこたつでうとうとしてただろ。冷やしてやるから、あっと…薬も」
言った途端、リューははっとした。
彩も気がついたらしい。恐ろしく真剣な眼差しで、リューを捉える。
「見たのか…」
「い、いや…」
「もう一度聞く。見てないな!」
「み、見たところで…」
「見てないな!」
どうしてそこまで寝顔を見られることを嫌うのか。
そこまで変な寝顔なのか、それとも人間を信用していないのだろうか。
前者ならまだ救いようがある。しかし後者だとしたら…。
「見てないよ」
リューは答えた。
「…ならいい」
そう言いながらも彩の表情は不安と疑念に捕らわれている。
「オレはもう寝るから、すぐに寝ることもできるぞ」
「うん」
リューはベッドに入った。
しばらくして、彩がベッドに入る音が聞こえた。
-まだ、信じてもらえてないのかな…-
リューの心に一抹の不安が過ぎる。
-だが、こちらの姿が見えないとはいえ、オレが部屋にいる時、あいつは寝ていたのだ-
わずかなプラス思考が芽生えた。
-それに、あいつの本性を知っているのもきっとオレだけなんだろうな-
そう思うと、妙に心が弾んだ。
この感情が、どんなものかはリュー自身にもわからない。