-鍵-
「やっぱり、私は弟攻だと思うんだよ」
「いや、王道はやっぱり兄攻だね」
SSGの食堂で、萌えあがっている腐男子二人。
今日のお題は、マンガ「鋼鉄公子」のカップリング論争らしい。
ちなみに、今は年末。
秘密組織SSGでも、この場所に残っているものは限られている。
「あんなにおとなしい口調の弟が兄を攻めるなんて想像がつかないよ。大体、弟は兄のいうことばかりきいているじゃないか」
とコッペリウス。
「だからね!ああいうおとなしそうなタイプの弟が突然ケモノになり、兄に襲いかかるってのがポイントだと思うんだよね。こうガバッとさぁ!」
兎兎は大袈裟なジェスチャーを交えて熱論を展開させる。
「きみねぇ、別にきみの実体験を語らなくてもいいんだよ!」
呆れたように、コッペリウスは溜息をついた。
たしかに兎兎は異母弟と充実したラブライフをおくっている…。
「ジュージュはケモノじゃないよ!華麗なるエロティストと言われたら、否定はしないけど」
勝手に“華麗なるエロティスト”呼ばわりをされている機械部長、潤一は今頃くしゃみをしているだろう。
「あ~!もうお惚気はたくさん!」
コッペリウスが両手をあげたところで、リヒャルト長官が現われた。
「あ、長官」
「あいかわらず元気そうだな。ところで、マックスを見なかったか?」
「甘いマスクの情報部長だね。彼なら低血圧だから、まだ部屋にいるんじゃないの?」
「そうか。邪魔をしたな」
そのまま、去っていこうとするリヒャルトにコッペリウスが声をかける。
「見かけたら長官が探してたって声をかけておくけれど」
「ああ、すまない」
足早に食堂から出て行くリヒャルトの背中を見ながら、兎兎は首をかしげた。
「放送で呼び出すほうが早いんじゃない?」
「呼び出すほど大した用じゃないんだよ。きっと」
「それじゃ、私的な用ってことだね。なにかしら?フフン♪」
兎兎は、どこからかタロットカードを取り出し、さっとテーブルに並べた。
「う~ん…」
「どうなんだい?」
「よくわからない…」
「きみでもわからないのか?!」
人間としてはともかく、占い師としての兎兎はかなり優秀なほうだった。
こう見えても、オカルト雑誌などに的中率は90%を超えると書かれている大占い師なのだ。
兎兎はロマンチックなカードをヒラリと掲げた。
「THE MOON」
「意味は?」
「秘密…隠れている事、不安、実体が見えない…など」
「秘密と長官を結びつけるものは、あいつしかいないんじゃ…」
コッペリウスはニヤリと口元を吊り上げた。
またまた腐った想像が膨らんできたらしい。
だが、兎兎は腕を組んだまま、考え込んでいる。
「月、死神、審判…??」
「まだ、わからないことがあるのかい?」
「繋がらないんだよ。矛盾だらけだ。ありえない!」
めずらしく兎兎がシリアスな表情を見せたところで、潤一が向こうからやってきた。
「おやおや、華麗なるエロティストの登場だ」
「?」
潤一は、ものすごく迷惑そうな顔でコッペリウスを一瞥した後、
「兄上、今日はちゃんと鉄分は飲んだのですか?」
と聞いた。
「あ、忘れてたよ」
どうりで…と兎兎はフラフラと立ち上がりかけたが、よろめいて潤一のほうへ倒れてしまった。
「ほらほら、あなたは貧血気味なのだから、早めに鉄分を摂取しないとね!」
そのまま、潤一に抱きかかえられるように食堂をあとにした兎兎だが、うわ言のように何度も
「ありえない…」
と呟いていた。
時間は遡り、
昨日の晩。
一日のすべてのスケジュールが終わった後、リヒャルトは私室に戻った。
例の如く、あの男が先回りして部屋にいるのを見て、露骨に嫌な顔をみせる。
「出て行け!」
「ちょっと用があったんだ」
RQがあっさりと出て行こうとするのを見て、リヒャルトはいぶかしんだ。
「キサマ…何を考えている」
「ん」
RQはリヒャルトに近づき、その手を取って棚の上に置き、 自分の手をリヒャルトの手に重ねた。
「なんのつもりだ」
手を引こうとするリヒャルトの耳元に口を近づけ
「明日の夜、待ってる」
と囁いたかと思うと、素早く部屋を出て行った。
「?」
リヒャルトが手をどけてみると、いつの間にか何かを握らせられていた事に気づいた。
「…なんだ?鍵…?」
鍵には「111号室」と書いてある。
どう考えても、SSG施設内の扉を開けるための鍵ではない。
しばらく、呆然としていたリヒャルトだったが、やがてRQの意図するところがわかって、鍵を床に投げ捨てた。
「ふ、ふざけるな…あいつ・・・・」
だが、そのまま鍵を捨てるわけにはいかない。
この鍵は、きっとどこかのホテルの鍵だ。
現在はカードキーが主流となっている。
こんな古ぼけた小さな鍵を使うホテルは限られているだろう。
「返却しなければならないだろうな…」
このままでは、鍵を盗んだような気分だ。
「そうだ、返却しなければ!」
強く自分に言い聞かせて、リヒャルトは明日の朝から調査を開始することにした。
そうして、今日の朝に繋がるのである。
「マックス、起きているか?」
「・・・・」
「情報部のPCを使わせてもらいたい」
「・・・は?」
よたよたと音がして、情報部長マックスがドアから顔を覗かせた。
「なーーんだ…長官じゃないか。ん?それでなんの用だっ…ふぁぁ~~、…て?」
あきらかに寝不足の上、低血そうな青白い顔で、マックスは部屋から出た。
「寝るときは、着替えた方がいいのではないか」
「あ?僕は寝てたんじゃなくて、気絶していたんだヨ!」
昨日の夜からそのままの、スカーフを首に巻きつけたままの気障なスーツ姿で、マックスは歩いていく。
「まさか、靴も…」
ブランド物の靴がいやに決まりすぎてて、リヒャルトは不安になった。
「靴は一応、脱いだ記憶がある」
「…そうか」
情報部の部屋の扉を開けると、ふんわりとオーデ・トワレの香りが漂った。
「ようこそ、情報部へ。ローズの香りがあなたをお迎えします」
マックスは、うやうやしく挨拶をした後、さっと椅子を引いてリヒャルトを座らせた。
「BGMは何がお好み?」
「なんでもいい」
「じゃあ、今日はクラシック。ショパンのノクターンなんかは?」
「ああ、それでいい」
そこで、やっとPWを解除。
「ところで、なんか調べものかな?」
「ああ、その…鍵を拾ったものでな」
「鍵?どれどれ?」
マックスが鍵を手に取る。
「ああ、これはホテル・ノクターンの鍵だよ。偶然だね、ノクターンを聴いている時に」
「そう、なのか?」
「クラシックでロマンチックなホテル。意外と知ってる人は少ないけどね。穴場だよ」
リヒャルトは、じっと鍵を見つめた。
「どうして、すぐにわかった?」
「情報部長としてのプライド。だと、思ってもらえるとありがたい」
「そう思うことにする」
「もし、よかったら返しにいくけれど」
マックスの提案を、リヒャルトは断った。
「これは私に責任がある」
「そうなんだ…」
神妙な表情をするマックスに背をむけて、リヒャルトは外出の許可証を提出しに行った。
カーナビを頼りに郊外へ。
ひさびさに外に出る。
特に、このようなごく普通の街に出たのは何ヶ月ぶりだろう。
たまに外に出ると行っても、ほとんどが仕事がらみでSPに周囲を固められ、仕事場へ赴くのが常だったので、新鮮味を覚えながらハンドルを切った。
街を離れ、段々と森の奥に入っていった。
車から降りた時、息を大きく吸ってみた。
目の前にホテルがある。
山間に沿うように作られている巨大な建物は城のような作りだ。
だが、入ってみると意外にも中は近代的な作りをしている。
大理石のカウンターで受付に声をかけて、鍵を差し出して、そのまま立ち去るつもりだった。
ところが。
「お待ち申し上げておりました」
受付の女性の声に、リヒャルトは固まった。
「…何かの間違いだ。私は鍵を返しに来た」
「それでは、あなたはリヒャルト・シュバルツ様ではないと?」
「え、あ?あ、ああ。私は鍵を拾っただけで」
「そうですか、少々お待ちください」
女性は、誰かに電話をかけているようだ。
そして受話器を置き、不思議そうに首をかしげてから、言った。
「111号室の方がお部屋にお出でくださいと、お客様をお呼びになっておられます」
「いや、だから間違えなんだ。私は、リヒャルト・シュバルツではない!」
「111号室に滞在されているお客様は、“鍵を持ってこられた方なら、どなたであっても部屋にお通しするように”と…」
「その男は狂っている!私はぜっーたいに部屋になど入らないぞ!と伝えてくれ!
では、邪魔をした」
つかつかと早足で出口に向かっていると、またも背後から声をかけられた。
「お客様、お待ちください!111号室のお客様が!…ええ、はい、でも…」
受付の女性は、またも111号室のクレイジーな主と話をしているようだ。
「だから、私はそいつとは無関係だ!」
「ミヒャエル・シュバルツ様がお待ちです。と、お伝えしろと」
「え?」
一瞬、聞き違えたのかと思った。
「ミヒャエル…だって」
受付の女性は、コクコクと頷いている。
顔色を変えたリヒャルトはカウンターに戻り、女性の手から鍵を奪い取った。
「あ!どうなさいましたか?」
「そんな事はありえない!」
エレベーターのスイッチを押したが、どれも1階から遠いところに止まっていた。
「Scheisse!」
手早く、横の非常階段を見つけるとドアを開けた。
「お客様、111号室は11階でございます!」
受付の女性の声。
「問題ない!」
風のように走り去っていった男を、受付の女性はFBIか何かの組織の人間かと思い、それ以上は考えない事にした。
ミヒャエル…!
ありえない…嘘だ。
だって、あの子は20年以上前に…。
息も乱さず、たどり着いた先には目当ての部屋の扉がある。
なぜか、警戒心が疼いた。
隠している鋼鉄の鞭の柄を握った。
ここにいるのは、あいつなのか?
それとも、私の過去を知っている敵か?
それとも…あいつが私の敵なのか?
だが、今、この鞭で一番切り裂きたいのは目の前の現実だ。
ふぅと一息ついてから、リヒャルトはドアに鍵を入れて回した。
慎重に部屋に侵入した。
壁に背をつけて、万が一の襲撃に備える。
すると、窓の前にこちらに背を向けた人物が立っているのが見えた。
あんな髪の色は、一人しかいない。
バスローブを纏った姿で、RQと思われる男は外を見つめていた。
「ずいぶん、早かったな」
「…」
「そんなに会いたかった?」
RQはあいかわらず、こちらを向かない。
リヒャルトは鞭を構えた。
「私の質問に答えろ」
「すごい殺気だってる。こっちまで痺れるぜ」
「黙れ。まず、なぜ、私をここに呼び出した」
「そんなのわかるだろ?」
「答えになっていない」
RQは参ったというふうに両手をあげた。
「あんたと過ごしたかった。今夜、せめて一晩」
「それだけか」
「駆け落ちまでしようってんだったら、断らない」
「ふざけるな。次に、なぜ私の苗字を名乗った?」
「あれ、あんたの苗字だったのか。フフ…」
RQの口調には明らかに認識済みといった雰囲気があった。
「答えろ!なぜだ、どうして、ミヒャエル・シュバルツの名を出した!」
「…」
「おまえは何者だ?私の…」
「テディベア」
「え?」
どこから取り出したのか、RQは片手にテディベアを掲げた。
「これと同じのが、あんたの部屋にもあるだろう」
「…」
「てっきり、リヒャルトと書いてあるかと思ったら、「ミヒャエル・シュバルツ」の名があった」
「ミヒャエルは…」
「テディベア好きなのかと思って、わざわざ調べて、もう一体同じところで作ってもらったんだぜ」
「え?」
「鞭、降ろしてくれないか。渡せないじゃないか」
ゆっくり肩の力が抜けていく。
「Happy Birthday」
RQは、キョトンとしているリヒャルトの手にテディベアを乗せた。
「ちゃんとリヒャルトって入れてもらった」
「あ…」
気がつくと、鞭をしまっていた。
「今更…誕生日なんて。そんな歳ではない」
リヒャルトは、ふぅと溜息をつきながら、テディベアを撫でた。
先ほどまでの緊張感が、なぜだか一気に消沈してしまった。
「そんなこと言うなよ。オレの好きな相手がこの世に生まれた素晴らしい日だろう」
「プッ…なんだそれは?」
「笑うなよ!本心なんだからさ」
ゆったりと、RQの手がリヒャルトの輪郭をなぞった。
「外泊許可、二人分出しといた」
「な!よくもそんな勝手に!」
「前に約束しただろう。そう、一年前に…」
リヒャルトの脳裏に一年前の光景が甦った。
あいつの上に・・それで…。
2回も…。
「離せ!私は帰る!」
「安心しろよ。前みたいに抓ったりしないからさ!」
「う…」
途端に、下部に熱さが走った。
忘れたいのに…。
意思よりも先に、身体が…。
「でも、どうしてもって言うんなら、たくさん抓ってやるから」
「い、いやだ!」
RQの手が後ろの方に回っている。
「軽くだったら…いい?」
臀部を軽く抓られて、リヒャルトは悲鳴をあげた。
「ダメだ!・・・はなし・・・」
「どうにも離したくない。テディベア持って赤くなってるリヒャルトを」
「う…」
テディベアを床に置くわけにもいかず、両手を塞がれたままリヒャルトはRQに抱きかかえられた。
「離せ!」
「い・や・だ。こんなに可愛いリヒャルトはめったに見られないぜ!」
「っ~~~!!」
キングサイズのベッドに投げ出され、テディベアが枕のほうへ飛んでいった。
そのまま、リヒャルトは自分の上に乗ってくる男から必死に逃れようとして、テディベアに手を
伸ばそうとする。
「おっと!」
回転し、身体を伸ばしたところで、ズルリとズボンと下着が一緒に剥ぎ取られた。
「わーー!!」
「匍匐前進は気をつけないとこうなるだろ?」
ニヤリと笑ったRQは自らもバスローブを脱ぎ捨て、リヒャルトの身体を自分のほうに向かせた。
さっとリヒャルトは目を反らす。
部屋は…いつものように薄暗くはない。
明かりはついていないが、時間的にまだ昼過ぎだ。
自然光が大きな窓から差し込んでくる。
何もかも包み隠さず見えてしまうのは…目に毒だ。
「こっちむいて」
「…」
リヒャルトは向こうをむいたまま。
「恥ずかしい?」
「…んっ」
瞳をキュッと閉じた。
「目の色、見たい」
「やだ・・」
するりと手を脇の下から入れて、RQはリヒャルトの上腕の後ろの部分を指で押した。
「あ!!」
リヒャルトが瞳を開く。
その瞳に、澄んだ水の色が入ってきた。
「ミヒャエル…」
つい声に出してしまったのはなぜなのだろうか…。
あの子も、同じ色の瞳だった。
だが、今自分を組み敷く男は、幼い子供ではなく成人した男性だった。
その証拠に熱を持つものが足に触れた。
「あつっ・・」
「今は…ミヒャエルじゃなくて、オレを見て」
こいつは、勘違いしているのかもしれない。
とリヒャルトは思った。
ミヒャエルは、昔の想い人の名前ではない。
「…リヒャルト」
「カーテンを閉じてくれ…」
「もっと見たい」
「私は…見たくない」
また、リヒャルトが視線を反らしたのを見て、RQはリヒャルトの手をとった。
「じゃあ、見なくてもいいから触って」
「あつい!」
手に握らされたものを反射的に見た。
たちまち、リヒャルトの顔が赤く変化する。
RQが握った手ごとゆっくりと動かすと、リヒャルトは「はぁ…」と吐息を漏らした。
「自分の触るのよりも感じる?」
「ちがう…」
「オレは、リヒャルトの気持ちいいとこ知ってる。でも、リヒャルトはオレの気持ちいいとこ、
まだ知らないだろ…」
指先をいいように操られ、筋をなぞるように動かされる。
「あ・・やだ・・」
まるで自分のモノを触られているような感覚さえ覚えて…。
「リヒャルト、気持ちいい?…起ってる」
「見るな…ばかっ!」
RQがもう片方の手でリヒャルト自身に刺激を与えた。
「ウ・・・、い・・い。や・・ぁだ」
「すごく熱くなってる。我慢するなよ」
リヒャルトは、唇を噛み締めて目を痛いほど閉じているが、やがて耐え切れずに身体を揺らし始めた。
シーツのこすれる音。
堪えきれない喘ぎと荒くなる息遣い。
リヒャルトの手の中に握っているモノが脈打ち、硬さを増していく。
「もう欲しい?」
「…やだ!」
「あいかわらず、上の口はツンデレのままだな」
すると、RQはみずからの指を湿らせ、リヒャルトのそこに当てた。
「やめっ!」
ビクリと身体が跳ねる。
「さっきから、ずっとずっと見てた」
あわてて足を閉じようとするものの、RQは身体を入り込ませて、ますますリヒャルトを
開かせようとする。
「オレの気持ちいいとこ触るたびに、ピクピクしているから、覚えててくれるんだって・・・」
「ばかっ!離せ!」
リヒャルトが手を弾く。
「今度は、手じゃなくて…中から気持ちよくしてくれよ」
「断る」
リヒャルトはRQの身体を押しのけようとするが、それでもRQはビクリとも動かずに、逆に、身体を倒してきた。
「約束しただろ、この前」
「してない!一体、いつ?・・・・っ!」
ゆっくりと外側から輪を描くようにして、太い指が侵入してくる。
「ダメっ・・・」
「ほら、外だけじゃない。中も…ピクピクしてる」
「んん・・」
「“欲しい”って言って、初めての時みたいに…その口で」
「いえな…」
指は容赦なく、内部を犯していく。
前に加えられた刺激よりも、深く強く・・。
「いえな・・・い。やだ…あ!」
リヒャルトの指先から、先ほど触ったものの感触が甦ってきた。
熱さ・・色…形…硬さ…。いつも、自らの中で蠢くモノが。
「あれ・・・が、っ…」
「足りない・・だろ?これじゃ」
わざとズブズブと音をたてて、内部をめちゃめちゃにかき回される。
「ひっ…!やめっ!もぅ!・・・・はやくっ」
「指だけでもイカせられるけどな」
「…早くっ!あ、はやく!」
身体を弓なりに反らせて、喘ぎ泣きながら、リヒャルトは懇願した。
RQが指を抜いた。
「ん、あっ・・」
そして、硬いものが当てられる。リヒャルトは腰を上げた。
「あ・・くっ・・」
だが、RQは動かない。
そこに押し付けて外側だけを刺激する。
「やめ…もう・・」
リヒャルトは悲鳴をあげた。
「欲しい、だろ?」
「は・・くっ・・・」
生理的な涙が頬を伝う。
欲求を抑えようとして足を閉じるのを、力強い腕が許さない。
また、指が侵入してきた。
次は本数を増やして…。
「やだっ!それはやだ!」
リヒャルトの耳元でクスクスと笑う声がする。
「小さい声でいいから、オレにだけ聞こえるように言ってくれよ」
「うっ…」
侵入した指は、好い部分をスレスレのところで引っ掻き回していく。
「ううっ・・・・・あれ、おまえの…が」
「聞こえない」
「おまえの・・欲しい…早くっ!」
言った途端に、リヒャルトの目から涙がポロポロと落ちた。
「うん」
するりと指が抜けて、かわりに熱いものが侵入してきた。
「待ちくたびれちゃった。だから…」
RQは入ってきた途端に、激しく突き上げる。
「あ!イクっ!」
「お預けをくらってたのは、オレも同じってわけさ。でも、もう少し、楽しませてくれよ」
RQは、リヒャルトの先端を指先で押さえた。
「やめてくれ…!離して…」
「感じすぎる恋人には、厳罰を…ってな」
そういうとRQはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべ、抱え上げたリヒャルトの尻をきつく抓り上げた。
「やっ!!おねが・・もうやめ…許し」
「許さない」
何度も抓りながら、白い臀部に赤い印を付けていく。
「お願・・・、イカせて…く!アー・・ク、・・もう」
完全に理性が飛んでしまったふうのリヒャルトが高い悲鳴をあげた。
「オレは別にあんたをいじめる趣味はないし…」
RQはリヒャルト自身を解放し、ゆっくりと、そして徐々に激しく突き上げていく。
「ぁ!ん、イイっ!イクっイクっ!!」
狂ったように、リヒャルトの口から喘ぎが漏れた。
「二人で一緒に…」
同時に達する瞬間。
「好きだ」
とRQは言った。
あいつは、いつも抱く時は「好きだ」と言っていた。
今日は、最後にその言葉を聞いた。
どうして…。
リヒャルトが目を覚ますと、陽はとっくに落ちていた。
隣に人の気配がし、振り向くとRQが瞳を閉じていた。
いつも、気がつくと隣にいないのに…。
今、閉じている瞳は透き通った水色。
昔知っていた懐かしい色。
ミヒャエル・・。
昔の記憶が甦る。
「リヒャルト兄ちゃんが選手になったら、僕が一番最初に、一番近くで写真を写すんだ」
「いつも一番近くにいるからね」
「大好き」
大好き…
口にのせた言葉を、リヒャルトは確認するように呟いた。
でも、あの子は…あの子が最後に見た私の姿は…。
醜い化物にされた私の姿を見て、顔を背けた。
あの時の顔、忘れられない。
おぞましいものを見たような目、恐怖で泣き出しそうな表情。
ミヒャエル、私が、あの時家に逃げ帰らなければ…。
あの子は…。
「どうした?」
気がつくと、RQの水色の瞳が開いていた。
「なんでもない、昔のことだ」
しばらく視線を反らそうとはしないRQから、リヒャルトは視線を反らす。
「綺麗だ」
そうして、リヒャルトの抉れたほうの右顔に唇を近づけた。
「やめろ」
「好きだ、リヒャルト。だから、昔のことは思い出さないでくれ」
「わからないことをいうな…っ」
急に抱きしめられた。
「何を」
「オレは、ここにいる。だから、オレを見てくれ」
「?」
わけのわからない台詞に呆然となりながらも、リヒャルトはその腕を解けずにいた。
鼻先を掠めるRQのピンク色の髪の中に、一筋だけ染まっていない金髪を見つけ
あの子も同じ髪の色だった、などと思い出す。
まさか・・。
でも・・ありえない。
あの子は20年以上前に死んだ。
軍によって家族と共に殺された。
あの家の中で生き残ったのは、私一人。
それに…おぼろげな記憶の中で、あの子はこんな髪の色でもなければ、こんな瞳の色でもなかったような気がする。似ているだけだ。
第一、あの子がこんな男になるわけがない。
生きていれば、年齢はそう変わらないはずだが…。
「ミヒャエルに嫉妬している」
RQは呟いた。
「オレのリヒャルトを独占した」
「ミヒャエルは、昔の…そういう関係ではない。あの子は私の弟代わりだった。」
すると、RQは捨てられた犬のような表情で
「それでも、リヒャルトはオレのこと好きだろう?」
と聞く。
「す・・・好きなものか。バカッ!」
拳骨で擦り寄ってくるRQを殴り、リヒャルトは「こんな馬鹿らしい男とはいられない」とベッドから出て、床にへたりこんだ。
「ほら、初めての時も言ったじゃないか。そんな急に立ったら…」
「私は、帰る!」
「なーに、丸見えのまま言ってんだ」
「うるさい!!///」
あわてて前を隠すリヒャルトを抱え、再びベッドに戻した後、RQはその四肢を押さえた。
あえて広げるように。
「綺麗だ、リヒャルト…」
そうして、また身体を沈めていった。
「兄上、大丈夫ですか?」
SSG内の兎兎の仕事場兼私室でもある「兎兎ちゃまのお部屋」で、兎兎は目を覚ました。
「頭がくらくらするんだよ」
「貧血でしょう。しばらく休んでいたほうがいい」
潤一は、兄に栄養剤を差し出しながら、そっとベッドの端に腰掛けた。
「コッペリウスから聞きました。おかしな結果が出たと」
そういう潤一は非科学的な占いを信じてはいない。
でも、兄の心身は心配だった。
「うん、ありえない結果が…」
兎兎は、タロットカードの英知が載っている本を広げて、難しい顔をしている。
「タロットカードの結果は、様々な意味に捉える事ができるんだけど・・・一番決め手になるのは
占い師自身の直感なんだ」
言いながら、やはり首をかしげる。
「出たカードは、どちらかといえば明るいイメージのカードではないね。秘密とか、死とか、終わり、復活とか…」
「ほうほう・・・」
潤一は、さして興味がなさそうな声をあげた。
「でも、これを誰かというカテゴリーで括るとだね、昔、秘密があって、それが今死んでいて、
近い将来復活する…とか・・」
話しながら、兎兎は混乱しているようだ。
もともと話すより、聞くほうが得意なほうなので、言葉が繋がっていない。
「つまり、現在はバレていない過去の隠し事が、将来的に明るみに出るという意味ですね」
潤一が、兎兎よりも遥かにわかりやすい言葉で解説した時、マックスが部屋に入ってきた。
「おや、話をすれば…だ」
「何がだよ」
潤一とマックスは微妙な仲で、なぜかマックスが潤一に気兼ねしているように見える。
「痛い秘密!」
潤一がマックスを指差す。
「な、なにもないぞ!一応…今現在は!」
マックスが潤一に逆らえない理由は、痛い秘密を握られているという噂だ。
漫才のような二人を外に、兎兎はまだ唸っていた。
「復活、死、終わり…秘密。秘密、終わり、死、復活・・、死、終わり、復活…秘密」
「おかしなパスワードだな」
マックスが顔を出す。
「パスワードじゃないよ。タロットの結果」
マックスは、ふーんと言いながら
「情報部部長としていうならば、「終わり、死、復活」=秘密なんじゃないか?」
「なるほど」
兎兎がコクコクと頷く。
「でも、ひっかかる」
とマックスは続けた。
「終わりと死は同じ意味だろ。愛は終わったが、死んではいなかった~♪という詩的な表現でいいのかな?」
「たしかに、おまえの人生は終わっているが、生きてはいるからな」
潤一の酷く冷たい視線を感じ、マックスは怯えながら引き下がった。
「まって!」
突然、兎兎が叫んだ。
「どうした?!」
潤一とマックスは同時に叫んだ。
兎兎は頭を抱えながら、ううっ・・と唸りながら
「二人の会話で何かが見えたんだよ、一瞬、私のビジョンに!」
二人は、恐る恐る、兎兎に近づく。
「兄上…」
「兎兎・・・」
「うほっーーー!!!」
突然、兎兎が奇声をあげた。
「!!」
「やっぱり、わからなくなってしまったんだよ…」
固まる二人を無視して、兎兎は再びタロットの本に視線を落とした。
「それ、大切にしてくれよ」
「フン!」
二人で仲むつまじくロビーを通り過ぎていく男たちを見て、受付の女性は視線を合わせないように努めた。
だが、いろいろな意味で好奇心をそそられる。
あの黒ずくめの男は何らかの組織の人間かもしれず、しっかり抱きしめているテディベアの
中には「何か」が入っているのかもしれない。
もしかしたら、考えたくはないが、猟奇殺人事件で被害者の腹から出てきた証拠品かもしれないのだ。
それにしても、ピンク色の髪の男はヘビーメタルバンドの一員のように見えて、強靭そうな身体
を見ると、元レスラーで売込み中の用心棒かもしれないし・・。
やっぱり好奇心に負けそうだ。
しかし、彼女が次に目にしたものは入り口付近で、車から蹴り出されている男の姿だった。
「あちゃー、あの人。用心棒試験に受からなかったのね」
それから。
リヒャルトの部屋のベッドには仲むつまじい2匹のテディベアが見られた。
-終わり-
追加…
その後、リヒャルトベアの尻に絆創膏が張られていたとか…。