ところでここは占い部屋。
占い師の兎兎は今日、お昼寝に失敗してすこぶる不機嫌であった。
もう一度試してみよう。
そうして横になりかけた時、机においてある水晶玉がキラリと青く光った。
「おやおや、これはすごい。希少なエメラルドが近づいてくるね」
兎兎はその正体まで見通したが、めんどくさくなってやはり横になった。
「別にどうでもいいや。私にとってはお昼寝をすることのほうが大事なんだ」
もう一度布団を被った兎兎は、うっとりと瞳を閉じて動かなかった。
・・・・・
SSGに突如現れた謎の人物は、くいっと指でリヒャルトとイワンを呼びつけ、そっと二人を引き寄せる。
「な、なんだ。あの長官殿に耳打ちをしている奴はっ!!」
リヒャルト親衛隊長を自認している凍牙は敵意をむき出しにした。
「いや、なんか突然現れて・・・」
「どういうわけか、彼のペースに乗せられちゃって・・・」
隊員たちは口々に呟いた。
「なんて情けない!ここは僕がっ!」
見たところ北欧系の小柄な若い男だ。
サイドだけ伸ばしたプラチナブロンドの髪は柔らかそうで、顔もまるで少女のような透明感と無邪気さがあり、エメラルド色の大きな瞳を金色の長いまつげが飾っていた。
どことなく貴族風の顔に見合った華奢な体型は、戦闘員とも思えない。
いざとなれば、殺れる・・・。
僕を差し置いて、長官に耳打ちするなんて10万年早いのさっ!
こちらも、フランス人形風と称されている凍牙だったが、顔に似合わず恐ろしく戦闘的な性格をしていた。
「長官殿、そちらはどなたですか?」
あくまで、おとなしげに・・・凍牙は敵意を隠して相手を探ることにした。
「こちらは・・・う」
プラチナブロンドの青年は、リヒャルトの唇に自らの人差し指を当てて首を振る。
ダメだよ・・・内緒だよ。というサイン。
その光景を目の当たりにした凍牙は、あやうく正気を失いかけた。
このヤロウ!!!勝手に長官殿の唇に触れやがってぇぇぇ!!!
「凍牙、こちらは私の・・・・おおーー幼馴染のソラさん・・・なのだ」
「つまり、・・長官殿のお客様というわけだな、これが」
イワンまでが示し合わせたように、わざとらしい咳払いをしながら、答える。
「!?」
二人がだいぶ怪しいのは確かだが・・・。
いぶかしむ凍牙に、疑惑の当人がさっと手を出してきた。
「やぁ、凍牙くん!はじめまして。僕はSSGを見学に来たんだ。何もわからないから、いろいろと教えてくれると嬉しいな!」
「・・・う」
屈託のない笑顔はまるで天使のよう。
エメラルド色の瞳が輝いて、それは嬉しそうに微笑んでいる。
「まぁ、こちらこそ・・・」
「すげぇ、あの凍牙が毒気を抜かれてるぜ!」
「さすがだな、長官の幼馴染だって・・」
握手をかわす二人を見て、他の隊員たちは驚きを隠しきれなかった。
第6部隊の凍牙と言えば、リヒャルト長官のためならば何でもやる!という男である。
その陰湿でブラックな性格はSSGで知らないものはいなかったから、なおさらだ。
謎の男の噂は、あっという間にSSG中を駆け巡った。
だが、「長官の幼馴染」という以上の情報は浮かんでこなかった。
裏でこっそりと緘口令が引かれているようだ。
・・・・・
「わぁ、キミの猫?」
ソラは、例の屈託のない笑顔のまま、猫のアポロに手を差し出す。
アポロは、普段人見知りの激しい猫だったが、彼にだけは違うらしく、おおよそ初対面とは思えない懐きぶりを見せた。
「ところで、貴方がここにおでましになった理由を教えていただきたいのですが・・・」
アポロを膝に乗せたままで、ソラはきょとんとする。
「単に、遊びに来たじゃダメなのかな?リヒャルト長官・・・殿?プッ・・・」
「からかわないでください・・・。私とて遊んでいる暇があるわけではないのです」
「あいかわらずだね~」
アポロを高い高いしたりしながら、しばらく遊んでいたソラだったが、突然すくっと立ち上がった。
「それじゃ、本当にSSGの見学をさせてもらおうかな。キミもおいで、アポロ」
「ちょ、ちょっとまってください!」
勝手に出て行ってしまうソラを追いかけて、リヒャルトも部屋を飛び出した。
その頃、第3部隊のリューと彩は食堂にいた。
「あ、あれ。噂の」
「ああ、長官の幼馴染」
二人は、アポロをつれた青年をじっと見た。
青年は、食堂の絵に手を当てて、瞳を細めている。
「・・・変なの」
「なにが?」
彩の呟きに、リューが反応した。
「僕は、今までここであの人を見たことはないけど、あの人は・・・ここを知っているようだからさ」
「ふーん、そんなもんかな??」
そんな会話をしていたら、リヒャルトが飛び込んできた。
「いつも、あなたはっ」
「キミもいつも・・だね!」
「次は、トレーニング場に行ってみたいな。いいでしょう?リヒャルト」
「え・・・はぁ」
ソラとリヒャルトが出て行った後、リューと彩はお互い顔を見合わせた。
「噂どおりすげえな。幼馴染」
「あれが、幼馴染だって?僕はやだね、あんなの」
彩は、プイッと横を向く。
「あんな上下関係の激しそうな友達同士は嫌だ」
・・・・・
ひとしきりトレーニング場を見学したソラは、次に事務室に向かった。
「やぁ!ここが事務室だね!」
「・・・・あ」
事務総官のカロムは思わず息を飲んだ後、かろうじて
「はじめまして」
と言葉を発した。
他の事務室にいた隊員たちも、長官の幼馴染を見て、「はじめまして」と挨拶をかわす。
その光景を横目で見ながら、リヒャルトはカロムにそっと言った。
「すまない。礼を言う」
「・・・緘口令だからね」
肩をすくめながら、カロムはため息をついた。
続いて、情報部に行った二人は、事務室と真逆の反応にあった。
「う、うそーーー!!なんでいるんですか!!」
悲鳴をあげた情報部長のマックス。
「・・・あ、僕はキミとどこかで会った事あったっけ?おかしいな、デジャヴかな?」
「・・・っ・・・」
ソラは相変わらず屈託のない笑顔を浮かべているが、よく見ると目が笑っていない。
「情報部長って面白い人だなぁ。ね、リヒャルト!」
「・・・」
リヒャルトがあわてて口パクで「かんこうれい!」と伝えるも、マックスは思わず叫んだ。
「だって、あの命令だって冗談かと!そりゃ、あれを昔からの皆に流したのは僕だけど!
だってさー!4月だし、エイプリルフールかと思ったんだよ!」
「へぇ・・・」
マックスの発言を聞いていたソラから一瞬笑みが消えた。
「僕の訪問ってエイプリルフール扱いなんだ。本当に冗談がうまいね、情報部長さんって・・・」
なにかがゴゴゴゴと音を立ててやってくる予感がして、マックスは青ざめた顔で、生唾を飲んだ。
「彼は疲れているんだ。昨日あった人もわからなくなるほど・・・・」
さぁと促しながら、リヒャルトはソラを連れて情報部を出た。
・・・・・
「まったく何を考えているのです!」
長官室に戻ったリヒャルトは、ソラを頭ごなしに叱った。
「あはっ!ごめんごめん。キミに迷惑をかけるつもりはなかったんだ。ただ、皆が元気かどうか見に行きたかっただけさ」
アポロは、いつの間にか寝床に入っていた。
「なにより、キミが元気でよかったよ。もう独り身でもないみたいだし、健康には気をつけて」
「へ??」
ー私はまだ独り身だが・・・ーとリヒャルトは思った。
「ずっと、僕たちを見てた。気がつかなかった?」
ソラの行動に気をとられていて、気がつかなかった。誰が見ていたというのだ?
「あのピンクの人。人間じゃないだろ?」
「え、あいつが?」
RQは、謎の多い男だ。しかし・・・人間でないとは・・・。
リヒャルトは、数々のことを思い出して、首を振った。
しかし、あいつは・・・。
「ごめん、ごめん。キミにそんな顔をさせるつもりはなかったんだ。ただ・・・キミを押し倒せるなんて、人間とは思えなくてね!ハハハ・・・」
「そ、それはどういう意味ですかっ!!」
真っ青になったり、真っ赤になったりしているリヒャルトの手元に、ソラは小さなものを差し出した。
フラッシュメモリー。
「これは?」
「I-sim。世界中の軍事用衛星をハッキングしてこちらの思い通りに動かせるデータだよ」
「・・・!」
地球の上で、いくつもの兵器が狙いを定めているとどのくらいの人々が知っているのだろう。
ちっぽけな地上戦など、政治家の選挙活動の一つに過ぎない。
本当の脅威は、もはや地上を離れているのだ。
「いざという時には、世界中の兵器を無効化もできる。それに、これにはもう一つの使い方もあるんだ」
ソラの手の中に握られているのは、人類の未来としてもおかしくないものだった。
「貴方が、宇宙開発のほうへ行かれたのは知っていましたが、まさかこんな!」
なぜ、彼がこんなものを持っているのだ。しかもここで!
すると、ソラの表情がすっと変わった。無邪気な子供のようなものから、老獪さを感じさせるような狡猾なものへと。
それこそ、リヒャルトが知っている本当の彼の姿。
「僕がキミに教えたことを忘れたのかな?」
「あ、・・・う」
あまりのプレッシャーに息さえもできない。
SSGの長官たるリヒャルトにここまでの圧力を感じさせるのは、この地上にはただ一人だろう。
「すべては、SSGのために」
かろうじて、声を出せた。
「合格だ。・・・やっぱりキミは僕のパートナーだよ」
スゥーーーとプレッシャーが消えていく。
そして、リヒャルトの手にはメモリーが乗っていた。
「貴方は・・・まさか、このために」
「僕があっちに行ったのは、これの開発があったからなんだ。もちろん、ハッキングだけじゃなくて、新しい使い方は僕しか開発できなかったけどね!」
「それは?」
ソラは、またリヒャルトの耳元に囁いた。
そして、目を見開いたリヒャルトに
「すべては、地球のために。ね!」
と、再び天使のような笑みを浮かべたのだった。
次の日。
「あの、あんたの幼馴染。帰ったのか?」
「ああ。あーあー」
いつになく疲れた様子のリヒャルト。
長官室の机に突っ伏したままだ。
「おい、大丈夫かよ?」
「うーん。うーん。肩がこった」
「・・・ん~らしくないぜ」
しかたなく、RQはリヒャルトの肩をもんでやった。
「ところで、あいつって、あんたの幼馴染じゃねぇだろ??誰なんだ?」
「・・・」
リヒャルトは、急に顔をあげてきょろきょろとあたりを見回した。
「こういうのをなんというのだったか?」
「挙動不審じゃねぇ?」
すぐさま、RQはぶん殴られた。
そして、言い直した。
「壁に耳あり、障子に目ありとかっていう、日本の言葉がある」
「そうだ。まさにその通り!」
そう言って、リヒャルトはしばらく黙った。
「だから・・・彼は、私の幼馴染だ!」

ーENDEー
ーあとがきー
本当は、前長官はもっとお年を召した方にするつもりでした。
人間的に立派な人で、リヒャルトが反発しつつも従ってしまった・・・。
みたいなことを考えていたのですが、むしろ、振り回し型でも面白いかな?と。
大体、ビジュアル的におじいさんじゃ面白くないんだよね(^^;)
ふと、昔のアニメソングを聴いていたら、リヒャルトがSSGに入団した時の様子が浮かんで。
そこには、威厳のあるおじいさんじゃなくて、我が侭な王子がいた(笑)
ちなみに、彼が宇宙開発のほうに行った理由は、文中からもわかるようにSSGに情報を流すためと、自分が開発したものをSSGに横流しするためです。
そんなことをして、バレないのか?って。
もちろん、使うことがなければバレない。
しかし、使うことがあったら、おそらく地球はそれどころじゃない。
万が一それで、自分がどうなっても、
「すべては、SSGのために」
と理解している人物なのでしょう。。。。と思って書きました。
SSGを離れても、SSGのために戦っているという点ではリヒャルトと変わらないんだよね。
あと、前長官を知っているのは幹部クラスだとマックスまでで、Drとか兎兎とか潤一はリヒャルト長官の代に入っています。
マックス・・・先輩なのに、潤一にいじられてるんだ(TT)
ちなみに、ソラっていうのは彼の通り名で、本名はエミール・バールフェルトといいます。
| END |
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