-夜会だって、国王の大切な仕事の一つだ。だから、他の仕事をおろそかにしたっていいじゃないか-
「バストール国王陛下がいらっしゃいました」
誰かが告げても、トトはベッドから出ようとしなかった。
やってきたサングは「別にいいけどさ」と言い、いつものとおり菓子をつまみ、ベッドで寝ているトトに「大丈夫か?」と声をかけた。
「私は元気だよ!」
トトは叫んだ。
「そして、思い切り幸せだ!」
もう一度、サングは聞いた。
「おまえ、大丈夫か・・・?」
トトはウトウトしながら。日々の楽しい話をした。
しかし、サングは頷くばかりで返事をしない。
「昨日は、10人もの人と知り合いになった。それぞれ別の国から来た人で・・」
「トト」
「なんだい?」
「おまえ、人と話したいのか?それとも、そんなにあいつがいないとダメなのか?」
「そんな事はない!」
サングの言葉が、心のどこかに触れた。
「ジュールの事は関係ない!」
噛み付くような勢いで、トトは反論をした。
「私は私で楽しんでいるんだ!おまえに余計な口出しなどされたくはない!」
「じゃあ、なんでイルミーネ貴族たちはあいつの話ばっかするんだよ。こういうのもなんだが
オレは、あいつの話を一度だって面白いと思ったことはなかった。おまえが考えていることが、まわりに伝染しているって気づかないのかよ。
まわりは知っている。
でも、おまえだけは知らない。
おまえがあいつのいる空気に頼っているって事実を!
今のおまえは、自分ひとりだけで陽気に振舞っている滑稽な馬鹿野郎だ!」
「!」
トトの瞳からとめどなく涙が流れた。
それを毛布で必死に隠した。
友の前で涙を見せてはいけない。
この人に言われた言葉よりも、心の中に寂しさと恐れが満ち溢れた。
こういう時に、ジュールならなんと言ってくれるだろう。
そう考えるたびに、自分が一層追い詰められるのを感じた。
「だから、言っただろう。ここはおまえの王宮だって」
「私の王宮…」
「それに、トト。いつから、そんなに夜会好きになったんだよ。たしか、オレが初めて会った頃のおまえは“二番柱の御仁”という変な渾名があったと思ったけどな」
そう言い残して、サングはソファを立ち、部屋から出て行った。
トトはベッドでしばらく寝ていた。
目覚めた時、ふと昔の事を思い出した。
-私は、夜会が嫌いだった。人と話すのも嫌いだった-
私は、いつしか夜会の度にカーテンの後ろにある小部屋“二番柱の部屋”に閉じこもり、そのせいで“二番柱の御仁”という渾名をつけられた。
その後、サングという友を得、二人でなら夜会に参加できるようになった。
さらにもっと後、ジュールが私を皆の中に解けこませた。
人と打ち解けるのが難しかった私に、人と話す楽しさを教えたのはジュールだ。
私は、ジュール不在の間、ジュールのようにうまく話そうとしていた。
ジュールのように人に解けこみたかった。
でも、私にはできない。
なぜなら私は私だから。
国王は、次の日から夜会を欠席した。
そのかわり、自分に任された政務を行い、空いた時間には趣味の絵画や小説などを書き綴った。
ジュール・アルキュード公が戻ってくる1週間前に、トトは再び夜会に参加した。
国王は、あいかわらずつまらない話をした。
しかし、しばらくぶりに姿を現した国王に、皆は少しばかり安堵した。
トトは、その中のある貴族の失礼な呟きを聞いた。
「陛下が御姿を現されない事を心配しておりましたが、いやいや、なんとなくここの景色の一つ
なんですよ。あの方も」
トトは、それでいいと思った。
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イルミーネの塔の城が遥か遠くの丘の上に見えた。
アルキュード公は、しっかりと両脇に抱えたかの地の名産品を見つめ、ニヤリと笑った。
「にんじんジュース」
それは、彼の野菜好きの恋人と、にんじんを生涯の宿敵と豪語して憚らない恋人の親友殿に、捧げるためだった。
「されはて、私がいない間に何かあっただろうか」
ジュールは呟いた。
「まぁ普段と少しも変わっていないだろう。あの方々も」
そうして、トトがおみやげを喜ぶ姿と、サングがとんでもなく不機嫌になる姿を同時に想像して、笑った。
今夜の夜会では、話す事がたくさんある。なにしろ三ヶ月ぶりの故郷だ。
でも、彼が一番最初にしたかったのは、あの二人におみやげを渡すことだった。
| END |
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